ロックマンX~朱の戦士~
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第五十話 Shaved Ice Party
前書き
暑さでグダグダしているエックス達のお話。
ルイン「エックスー、暑いよー。」
生温い空気が漂う自室の真ん中で、彼女が真横で蕩けた声を上げた。
気だるげですっかりだらけた姿は珍しい。
エックス「仕方ないじゃないか。ハンターベースの空調が壊れてしまったんだし…」
エックスはルインを宥めるように言うが、それでもこの暑さは異常だ。
アイリス「確かに暑いわね…」
ハンカチで汗を拭い、ハンターベースの購買で買ったキンキンに冷えたフルーツジュースを全員に手渡すアイリス。
ルイン「ゼロは暑くないのー?」
平然としているゼロを恨めしげに見つめるルインにゼロは少しの間を置いた後…。
ゼロ「…暑いに決まってるだろう」
少しだけ苛立ったように言うゼロ。
どうやら彼もこの暑さに参っているようだ。
アーマーさえあれば、アーマーに内蔵されている体感温度調節機で耐えることが出来るのだが、生憎今日に限ってアーマーの点検日なのだ。
エックス達はジュースを一気に飲んだ。
冷たいジュースのおかげで少しだけ身体に活力が戻った気がする。
エックス「あれ?」
デスクの端末にメールが来て、それを見てみたらケイン博士からだった。
読んでみるとそれは今のエックス達にとって朗報以外の何物でもなかった。
エックス「皆!!ケイン博士がかき氷のシロップを大量に手に入ったからケイン博士の所でかき氷パーティーをするらしい!!」
ルイン「かき氷!!?」
アイリス「まあ!!」
ゼロ「かき氷…か」
全員が笑みを浮かべる。
あのゼロでさえ表情を綻ばせていることから相当嬉しいのだろう。
エックス達は嬉々としてケイン博士の元へ直行した。
ルイン「ケイン博士ーーーっ!!!!」
満面の笑顔でケイン博士に駆け寄るルインにケイン博士も笑みを浮かべていた。
ケイン「よく来たのう。流石のお前さん達もこの暑さには参ってるかと思っとったが、ドンピシャだったようじゃな。」
アイリス「助かりましたケイン博士。アーマーも点検に出していて、ハンターベースの空調も壊れていましたから…」
ケイン「それは災難じゃったのう。さあ、かき氷を食べて涼もうぞ!!」
ルイン「やったーーーっ!!エックス!!フロストタワー出して!!フロストタワー!!」
アイリス「え?」
ゼロ「氷を削るなら任せておけ…」
Zセイバーを抜き放ち、チェーンロッドを発現させると、それで低出力のフロストタワーの氷塊を削っていく。
もしこれをカーネルが見たら“武人の魂たる武器で何をしている!!”と怒声が飛んで来そうだ。
しばらくしてかき氷が出来上がり、それぞれが口にする。
エックス「ルイン、かき氷を一緒に食べないか?」
木陰でかき氷を食べていたルインにエックスが歩み寄る。
ルイン「ん?いいよ。一緒に食べよう」
エックスも木陰に入り、腰を下ろすとかき氷を口に含んだ。
ルイン「やっぱり夏はかき氷だね。ねえゼロ?」
近くの木陰でアイリスと共にかき氷を食べていたゼロに聞くルイン。
ゼロ「ああ、これがあるから毎年の暑さも我慢出来るようなもんだ。」
エックス「ところでゼロは、かき氷に何のシロップをかけて食べているんだ?」
ゼロ「俺はオレンジだ。シロップで1番さっぱりしてるからな。お前は?」
エックス「俺はメロンだよ。やっぱりかき氷は食べ慣れた味が1番だ。」
ルイン「私は抹茶!!あんこと一緒に食べるのが好き!!アイリスは?」
アイリス「私はスタンダードに苺シロップ♪」
冷たいかき氷に表情を綻ばせながら会話を弾ませていく。
ルイン「ねえ、エックス。氷メロンを一口頂戴?」
エックス「え?ああ、いいよ。」
かき氷の入った器をルインに手渡すが…。
ルイン「…何でエックスのかき氷、こんなに溶けてるの?」
エックス「俺が1番最初にかき氷を作ったからね。おかわりは出来るから俺は気にしてないよ」
ルイン「…うん、溶けかけのかき氷も美味しい」
エックス「溶けかけのかき氷も悪くないだろ?」
ルイン「うん。エックス、はい。あ~ん」
氷抹茶を一口掬い、エックスの口元に運ぶルインにエックスは思わず目を見開いた。
エックス「ル、ルイン!!?な、何を…」
ルイン「何って…エックスが一口くれたお礼に私の分一口あげようと…」
エックス「う、嬉しいけど…それは…」
ルイン「エックスは抹茶嫌い?私が好きなのエックスにも食べてもらおうと思ったのに………」
落ち込むルインに罪悪感が込み上げるエックス。
彼の背後に。
エイリア「エックス~?ルインを泣かせたりしたら…ただじゃおかないわよ」
エックス「うわっ!!?」
アイリス「エ、エイリアさん!!?」
ゼロ「(い、いつの間に…気付けんかった…)」
いつの間にかエックスの背後にいた氷レモンを食べているエイリアにエックスとアイリスは仰天し、ゼロは僅かに冷や汗をかいた。
ダグラス「そうだぜエックス。ルインみたいに可愛い女の子がそれをやってくれるなんて全ての男にとって羨ましいんだぜ?」
氷ぶどうを食べているダグラスがエックスに言う。
エックス「そ、そうなのか…じゃあ…ルイン。一口…貰えるかな?」
ルイン「うん。はいエックス♪」
氷抹茶を一口掬いながらエックスの口に運んだ。
エックス「(美味しいんだろうけど…味が分からない)」
緊張し過ぎて味が分からない。
ルイン「どう?」
エックス「お、美味しいよ…」
顔を赤くして言うエックスにルインも満面の笑顔を浮かべた。
アイリス「いいなあ…」
羨ましそうにルインを見つめるアイリスにゼロは何を思ったのか、自分のかき氷を一口掬うとアイリスに差し出した。
ゼロ「アイリス、食べろ」
アイリス「え?え!?」
ゼロ「他の味に興味があるんだろう?全部はやれないが一口やろう。」
スプーンをアイリスの口に含ませた。
そのスプーンはゼロが使っていた物だ。
当然それを洗ってはいない。
それが意味するのは間接キス。
アイリス「~~~~っ!!」
バタン。
そのまま動きが止まったかと思うとやがて後ろに倒れてしまった。
ゼロ「アイリス?お、おい、アイリス!!?」
ケイン「(うーむ……。この際だからゼロの鈍感ぶりを治してもいいかもしれんな……。このままではアイリスがもたんじゃろうな、色々と……)」
無自覚にアイリスの心を揺さぶり続ける友人に隠れて、ケイン博士は小さく溜め息をついた。
しばらくして騒動が収まった頃、ルインは偶然にもシグナスの姿を発見した。
ルイン「シグナス総監。総監もパーティーに来ていたんですね?」
シグナス「ああ、Dr.ケインからの誘いでな」
ルイン「何か総監がこういう場にいるのは何か新鮮です。前総監はこういうことには参加しなかったし」
シグナス「私はこういう付き合いも大事だと思っている。今までのように総監が部下となる者達としっかりとした接点を持たなければ今後は話にもならんだろうからな。」
ゼロ「(ほう…)」
シグナスの言葉に感心したゼロはシグナスの評価を変化させる。
マイナス方面ではなくプラス方面に。
エックス「シグナス総監………」
シグナスの言葉に笑みを浮かべるエックス。
ルインの言う通り、彼は前総監よりも優れた指導者になれるだろう。
ゼロ「成る程、あんたの評価を改める必要があるな」
シグナス「ふふ…やはり私はあまり歓迎されていなかったようだな…」
エイリア「それは仕方ありませんよ。いくら高性能なCPUを搭載していても、あなた自身の戦闘能力はB級の下位クラス。現場経験も碌にないため、ゼロ達のような最古参のイレギュラーハンターからすればあまりいい感情は持てないでしょう」
ルイン「ちょ、エイリア言い過ぎだよ…!!」
親友のあまりの言い方にルインは怒るが、シグナスがそれを止める。
シグナス「構わん。私が現場経験も碌にない素人なのは事実だからな。皆も頼りないと思っているだろうが、少しでもマシになれるよう精進しようと思っている」
エックス「総監…」
シグナスの言葉にエックスも笑みを浮かべながら頷いた。
ゼロ「それにしてもあまり悪くは言いたくはないが、前総監が辞任して良かったと思っている。あの上から目線の物言いが気に入らん。」
エイリア「私がレプリロイド工学員の時もあまりいい評判は聞かなかったものね。レプリフォースのことも大した調査もしないでイレギュラー認定だもの。前総監の辞任に関しては前総監の自業自得な部分が多すぎてとても同情する気にはなれないわね…本当に碌な調査もしないでイレギュラー認定なんて…馬鹿みたいだわ」
シグナス「お前達は辛辣だな。まあ、レプリフォース大戦では前総監が現場事情を知らなかった為に起きたことだ。これから私は出来るだけ現場を見て、現実を見据えていくつもりだ」
ルイン「はい」
エックス「さて…」
ルイン「エックス、どこに行くの?」
懐から数枚のデータファイルを手にして、この場を去ろうとするエックスに気付き、ルインが声をかける。
エックス「ああ、フォースアーマーのパーツプログラムを返しに行くんだよ。」
レプリフォース大戦でのシグマとの死闘の末に大破したフォースアーマーのパーツプログラムの入ったファイルをライト博士のカプセルに返しに行くのだ。
エイリア「フォースアーマー……あなたが大規模の戦いの度に纏う強化アーマーのことかしら?」
エックス「?ああ」
エイリア「エックス、悪いけどそのデータファイルを貸してくれない?」
エックス「分かった。しかし何を…?」
エイリアはエックスからフォースアーマーのデータファイルを借りると自身のノートパソコンのスリットに差し込む。
画面にはフォースアーマーのプログラムが浮かんだ。
エイリア「これは凄いわ…何てレベルの高いプログラムなの…エックスの持つ力をバランス良く引き出して発揮するということに関しては1つの到達点に至っていると言っても過言じゃないわね…」
ルイン「そんなに凄いの?確かにフォースアーマーの性能は凄いけど…」
エイリア「ええ、こんなプログラム…彼でも出来るかどうか…」
ゼロ「それで?エックスのフォースアーマーのプログラムを調べてどうするつもりだ?」
一番気になるのはそこだ。
エックスのフォースアーマーのプログラムを調べて何をしようと言うのか?
エイリア「エックスの強化アーマーよ。流石に1から作るのは時間が掛かりすぎるから、レプリカということになるんだけど…」
ルイン「エイリア…もしかしてフォースアーマーのレプリカを造るの?」
エイリア「ええ、今のところフォースアーマーはエックスの最強の強化アーマーでしょう?例えレプリカでも、あれば心強いと思うのだけれど?」
ゼロ「確かに…しかしお前に出来るのか?爺でさえまともな物を造れなかったんだぞ」
今まで数多くの技術者がエックスの強化アーマーを再現しようとしたが、解析出来ない部分がありすぎて、形だけを似せた物になるのが精々であった。
ケイン「心配は無用じゃ。エイリアはレプリロイド工学員として常にトップの成績を誇っておったし、プログラムの解析等は既に儂より上じゃよ」
エイリア「いえ…彼に比べたら私は…」
ルイン「エイリア?」
表情が曇ったエイリアに気付いたルインが首を傾げる。
エイリア「あ、何でもないのよルイン。とにかく任せといて。エックス、あなたを唸らせるような出来にしてみせるわ」
エックス「あ、ああ…頼もしいよ。ありがとうエイリア」
エイリアの研究者としてのプライドを見たエックスは頼もしさを感じつつ、苦笑しながら頷いた。
エイリアはデータファイルのフォースアーマーのプログラムをコピーするとエックスにデータファイルを返す。
エックス「それじゃあ、俺もここで失礼するよ。」
エックスはデータファイルを返しに、ライト博士のカプセルのあるエリアに向かう。
そして、パーティーを終え、全員が寝静まっている深夜。
エイリアはフォースアーマーのレプリカを造るためにプログラムの解析と修復を行っていた。
エイリア「ふう……」
解析と修復の作業も良いところまで来たエイリアは溜め息を吐いた。
ルイン「お疲れ様、エイリア。差し入れだよ」
紙コップに淹れたコーヒーを差し出すルインにエイリアも笑みを浮かべながら頂く。
エイリア「ありがとうルイン」
ルイン「ううん。で?フォースアーマーのレプリカはどう?」
エイリア「大体は終わったわ。とは言っても、解析出来ない部分と修復不能な部分があったからどうしてもオリジナルよりは劣るけれど、実戦での使用は殆ど問題ないはずよ」
ルイン「流石、エイリアだね。」
エイリア「ルイン、あなたの意見を聞きたいわ。」
ルイン「意見?」
エイリア「まずはレプリカフォースアーマーのヘッドパーツなんだけど……エネルギー消費を皆無にすることが出来なくて申し訳程度の軽減。でも悪足掻きをしてチャージのエネルギー消費も軽減することに成功したわ。」
ルイン「へえ、もしかしたらオリジナルより使い勝手がいいんじゃない?特殊武器のチャージはすぐにエネルギー切れになっちゃうし」
エイリア「そう、フットパーツは他に比べて損傷は酷くなかったから完全に解析、修復出来たわ。ボディパーツは、ノヴァストライクの為のダメージをエネルギーに回す機構のプログラムが修復出来ないくらいに損傷していて…プログラムを完全に外して代わりにボディパーツの防御力をオリジナルより向上することに成功したの。」
ルイン「う~ん。アルティメットアーマーじゃないとノヴァストライクはあまり多用しないから大丈夫じゃないかな?」
エイリア「そう…これが一番悩んでいるところなの」
エイリアがパソコンのキーを叩くとフォースアーマーのアームパーツが表示された。
フォースアーマーの最大の特徴と言えるプラズマチャージとストックチャージの2種類のアームパーツ。
エイリア「ルイン、あなたはプラズマチャージとストックチャージ…どっちのプログラムを修復すべきだと思う?」
ルイン「え?」
エイリア「プラズマチャージとストックチャージのプログラムも損傷は酷かったけど…どちらかのプログラムを繋ぎ合わせることで何とか片方だけ修復することが出来るの。ルイン、私はプラズマチャージショットとストックチャージショットの実物を見たことがないから、実物を見たことのあるあなたの意見を聞きたいわ」
ルイン「…因みにどちらかを修復するとどうなるの?」
まず聞かねばならないのは、どちらかのアームパーツを修復するとどうなるかだ。
フットパーツを除いたパーツが弱体化していたためにアームパーツもどこか弱体化しているだろう。
エイリア「そうね…プラズマチャージの場合はチャージショットの威力と着弾点に発生するプラズマの威力は変わらないけど、発生するプラズマが1つだけになるわ。ストックチャージの場合はチャージショットを4発撃てる点は変わらないけど、1発の威力は通常のエックスのフルチャージショットより低くなるわ」
ルイン「うーん。」
プラズマチャージショットもストックチャージショットも弱体化はしていても強力な物であることに変わりはない。
スパイラルクラッシュバスター級の破壊力を誇り、1つだけとは言えプラズマによる追加ダメージを与えるプラズマチャージ。
通常のエックスのフルチャージショットより威力は劣るとは言え、チャージショットを4発放てるようになるストックチャージ。
成る程、これはかなり悩む。
どちらも非常に強力な武器であるために尚更。
ルイン「う~ん…私はプラズマチャージのアームパーツの方がいいんじゃないかと思うんだよね」
エイリア「プラズマチャージのアームパーツ?」
ルイン「うん…ストックチャージは確かに使いようによってはプラズマチャージより強力だけど、チャージ時間がプラズマチャージより長い弱点があるの。だったらチャージ時間が通常と同程度で単発の威力と規模が大きいプラズマチャージのアームパーツの方がエックスにとって扱いやすいと思うんだ。」
実際、エックスがレプリフォース大戦で多用していたのはチャージ時間に時間が掛かるストックチャージよりも通常時と大して変わらない運用が出来るプラズマチャージの方だ。
ストックチャージは確かに使いようによってはプラズマチャージショットを上回る威力を発揮出来るが、チャージ時間が長く、敵に隙を曝すことになるためにエックスは基本的にプラズマチャージを使用していた。
エイリア「成る程ね…分かったわ。ならレプリカフォースアーマーのアームパーツはプラズマチャージの方を修復するわね。ありがとうルイン」
ルイン「ううん、どう致しまして」
しばらくしてようやくフォースアーマーのレプリカが完成するのであった。
このレプリカフォースアーマーは今から約数ヶ月後に起こる未曾有の事態で大きな活躍を果たすことになるとは修復したエイリアは勿論、ルイン達も知る由もなかった。
後書き
夏といえばかき氷
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