ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第2章 滅殺姫の憂鬱と焼き鳥の末路
第34話 依頼
「皆様、おはようございます」
それは修行を始めて4日目の朝のことだった。いつも通り私と黒姉、龍巳、白音が皆より少し早く起きて朝ごはんの準備のために台所に来ると何故かそこにグレイフィアさんがいた。……私、寝ぼけてるのかな? そう思い隣にいる黒姉たちに視線を向けると私同様驚いているのでどうやら目の錯覚ではないみたい。っていうか何でグレイフィアさんがここに?
「本日は火織様にお願いがあって参りました」
「お願い? 私に?」
何かまたしても波乱の予感が。
「ライザー様の教育を早めに始めて欲しい……ですか?」
「はい」
あの後取り敢えずグレイフィアさんも交えて朝食を準備し、皆を起こした後揃って朝食となった。ちなみに皆まだ昨日の疲れが抜けていないようで目がうつろだったりする。目の下にくまも出来てるし、昨日もお風呂入る元気がなくて髪もボサボサ。この3日間基本風呂は皆朝起きて朝食後に入ってる。そんな皆の様子にグレイフィアさんは若干引いてた。まあ無理もないと思うけど。
で、今は皆お風呂に入ってきた後リビングに集合している。そこでグレイフィアさんに私はお願いされたんだけど……その内容はライザーの教育を今日から始めて欲しいというものだった。
「待ちなさいグレイフィア。ライザーが火織の教育を受けるのは私がゲームで負けた時なのではなかったのかしら? そもそもゲームの準備期間に選手をそのような形で拘束するのはどうかと思うわ」
「お嬢様、私もその点においては重々承知しているのですが……」
あれ? なんかグレイフィアさんも困ってる?
「実は先日の話し合いの件をフェニックス卿にお伝えした所、たいそう驚くとともにお喜びになられまして……」
驚くのはいいとして、お喜び? どっかに喜ぶような点があったっけ? 結婚が間近に迫ったこと?
「なんでもライザー様には卿も手を焼いておられるようでして、そのような中ライザー様を諌めた火織様にたいそう驚かれていました。そして結婚前には火織様がライザー様の教育をするとお聞きになるやたいへん喜ばれまして……」
そこ、喜ぶようなことなのかな?
「グレイフィア、そこまでは分かるとしてなぜ教育を早めることになるのかしら?」
「フェニックス卿は先日の話をお聞きになり、ライザー様が負ける場合もあるとお考えのようです」
その言葉に皆は驚いた。っていうか私も驚いたよ。なんで会ったこともないのにそんな事考えたの?
「ライザー様が女性に対して苦手意識を持つのは火織様が初めてらしく、もしかしたらとお考えのようです。また卿も前々からライザー様には敗北を知って頂きたいと思っていたらしく、今回を絶好の機会とお考えのようです」
「つまり、フェニックス家の現当主は私達に勝ってもらって婚約を破棄させたいということ?」
「婚約を破棄させたいということはないでしょうがそれ以上にライザー様の将来を思い、敗北を教えたいようです。ですがここで問題がございまして、もし敗北してしまうと火織様の教育を受けさせることができなくなります。婚約破棄はやむなしとお考えのようですが教育はさせたいようでして、その結果今回の話が持ち上がりました。今日より3日ほどで構わないのでライザー様に教育を施して欲しいとのことです」
これは……どうすべきなのかな? お願いなのだから突っぱねてもいいとは思うけど。周りを見回しても皆判断に困っていた。一応今大事な時期だしね。ここで私が抜けたら修行に影響が…………あれ? あんまりないかな? 私は今更3日程度修行しなくても変わらないし、祐斗とイッセーの稽古も代わりに龍巳にやってもらえば……うん、私いなくても問題無さそうね。
「分かりました。そういうことでしたら行きます」
「火織!?」
部長が驚いた顔でこちらを見た。いえ、部長だけでなく皆声に出してないけど驚いてるわね。
「大丈夫ですよ。私の受け持ちは龍巳に変わってもらえますし、この際ライザー様にしっかり苦手意識持たれるようにしてきますよ。その方がゲームで有利になるかもしれませんし」
「それはそうだけど……でも本当にいいの?」
「ええ、構いません」
「分かったわ」
部長、それに皆も納得してくれたわね。ってあれ? イッセーだけなんか心配そう?
「火織、本当に大丈夫か? ただでさえあいつは女の子をコレクションするような奴なのに、そんなところに泊りがけなんて」
「あはは、流石にあんたが心配してるようなことはないわよ。ライザーの両親の目もあると思うし」
「ご安心ください。私も同行しますのでそのような事態が発生した場合私も動きます」
「だって。だから心配ないわよ。それにもし本当に襲ってきたら去勢しちゃうから安心しなさい」
それを聞いてイッセーはようやく納得してくれた。
「じゃあ龍巳、私がいない間祐斗とイッセーの修行もお願いね」
「ん、分かった」
「ではグレイフィアさん、着替えとか持ってくるんで準備できたら行きましょうか」
「かしこまりました。この度は無理なお願いを聞いていただきありがとうございます」
「いえいえ、このくらいどうってことないですよ」
というわけで私は急遽3日ほどフェニックス家の屋敷に行く事になった。
「お初にお目にかかります。リアス・グレモリー様の騎士、神裂火織です。本日より3日間、ライザー・フェニックス様の教育係を仰せつかりました。至らぬ点もございますでしょうがよろしくお願いいたします」
あの後私はグレイフィアさんに連れられて早速冥界のフェニックス家の屋敷にやってきた。っていうかここまで魔法陣でジャンプしてきたんだけど、冥界に初入国する際には正規なルートで入国して正式な入国手続きをしなくっちゃいけないんじゃなかったっけ? グレイフィアさんが連れてきたんだからそのへんのこともやってくれてるんだと思うけど……大丈夫かな。
で、今私は屋敷の玄関ホールで目の前の2人に挨拶してます。まだ向こうは名乗ってないけど多分フェニックス卿と奥方、つまりライザーのお父さんとお母さんだと思う。
「よく来てくれたね火織くん。私がフェニックス家現当主だ。大事な時期に呼び出してしまい済まないね」
「いえ、こちらは偵察も兼ねているので大丈夫です」
「ハッハッハ! 堂々と偵察しに来たと言うか! 君は面白いな! ゲーム当日が実に楽しみだ」
「あなた、笑い事ではないでしょう? まったく……。はじめまして、火織さん。私がライザーの母です。私達のわがままに付き合わせてしまってごめんなさいね」
「いえ、本当に大丈夫ですから。……で、そのライザー様はどちらに?」
私がライザーの居場所を聞くと何故か2人は苦虫を噛み潰したような表情をした。
「ふむ、少し歩きながら話そうか」
そう言うとフェニックス卿は家の奥に向かって歩き始めた。私たちは卿の後をついていく。しばらく歩くと卿はゆっくりと話し始めた。
「ライザーは私の息子たちの中で最もフェニックスの才、不死の能力を色濃く受け継いだ。その上その力も早い段階から使いこなしたこともあり、その才が認められ随分と早い内にグレモリー家の姫との縁談も決まった。私達も、そしてあやつの兄2人もそんなあやつを賞賛し、たいそう甘やかして育てた。……それがいけなかったのだろうな。あやつは自分の才の上に胡座をかき増長してしまった。今では私達親の言うことをまともに聞こうともせん。かと言ってゲームで負かしてその鼻を折ろうとしてもその力は本物だ。家の付き合いで負けることはあっても実力で負けることはなかった。一番上の兄のほうがゲームのランクは上だがそれも年齢を多く積み重ねているから当然だと思っておる」
そこで卿は1つため息をつくと続けた。
「その上あやつは成熟してもまともに働こうとせんのだ。1番上の兄は私のあとを継ぐために既に我が領地の経営に携わっているし2番目の兄も冥界のメディアで働いている。だがあやつはそのことを言っても自分はグレモリーの婿になるのだからそのようなことは必要ないと言うのだ。今のあやつはパーティーなどの行事に出る以外は家にいるか遊び歩くかのどちらかだ」
「え……あの、それって……」
正直ここから先の言葉は貴族の親に対して言うのはかなりはばかられる。
「はっきり言って構わん。このような状態を人間界ではニートと呼んでいるのだろう?」
「そう……ですね」
ライザーがニートだったことには驚きだけどさらに親御さん達がその言葉を知ってたことにも驚きよ。
「私はな、火織くん。今でも迷っているのだ。あやつをこのままグレモリー家に送り出していいものかと。だがあやつ自身はそのつもりであるし、魔王を排出したグレモリー家に対してこちらから破断を申し込むことなど出来るわけもない。頭を悩ませていた時に舞い込んできたのが君の話だ」
そこで言葉を切るとフェニックス卿はフェニックスの姿が彫り込まれた大きな扉の前で立ち止まった。
「ライザーはこの中におる。火織くん、ライザーがあのようになったのは私達親の不始末だ。頼める義理ではないことも承知している。それでもどうか、あやつの事をよろしく頼む」
そう言ってフェニックス卿と奥方は私の前で頭を下げった……ってえぇ!?
「ちょっ!? あ、頭を上げてください。わ、私は私のできることをするだけですからそんなにかしこまらないでください」
貴族のお偉いさんに頭下げられたらどうしていいか分かんなくて逆に困っちゃうよ。全くもう。にしてもあのライザーの親だからどんなのかと思ってたけどすっごいまともな人達だね。貴族の権力を振りかざすような人たちでもないし。その点はびっくりだ。
「と、とにかくまずは本人に会ってみて話してみます。いいですか?」
私はご両親が頷くのを確認すると大きな扉をノックした。
「は~い」
てっきりライザーが出てくるものかと思えば予想に反して可愛らしい間延びした声。そして扉を開けて顔をひょっこり出してきたのは
「げっ」
確かチェーンソーを振り回す双子の片割れだった。ニルとエル……だっけ? それにしても
「人の顔を見て『げっ』とは随分と失礼ですね」
「……で、なんでお姉さんがここにいるんですか?」
あれ、なんか私警戒されてる?
「私から話そう」
「旦那様?」
「彼女はライザーに会わせるために私が呼んだのだ。中に入れてくれるかね?」
「は、はい」
そう言うと彼女は扉を大きく開けて私達を中に入れてくれた。中は広い部屋でライザーの眷属達が思い思いにくつろいでいた。……でもよく見ると女王と妹のレイヴェルだけいないわね。……で、何故か肝心のライザーも見当たらない。
「ライザー様はどこにいらっしゃいますか?」
そう問いかけると顔半分を仮面で覆い隠した戦車のイザ……イザ……イザベル? さんが奥にある天蓋付きのベッドを指さした。そしてそのベッドを覗きこむと
「……」
ライザーと女王のユー……フェミア? さんが寝ていた。……っておいちょっと待て。一体何時まで寝てるのよ。今日は平日で、加えて言えばもうすぐお昼なのよ? しかもシーツで隠れてるけど2人共明らかに全裸よね。何? 昨日夜遅くまで頑張ったから昼間は寝ていたいとかそういうこと?
私は呆れ返り背後のフェニックス卿たちを見やると……卿はため息をついていて、奥方は目をそらしてくれやがりました。甘やかすにもほどがあるでしょう。グレイフィアさんは一見無表情だけど絶対に呆れてる。だって目だけは冷ややかなんだもん。
とにかくまずはこの寝坊助を起こしますか。
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