| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~

作者:enagon
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第2章 滅殺姫の憂鬱と焼き鳥の末路
  第32話 模擬戦




「じゃ、始めましょうか」

 そう言って私は氷輪丸を鞘から抜き放つ。ここは部長の別荘の前にある開けた場所。そこで私は朱乃さん、そして祐斗と対峙していた。横ではみんなが私達の模擬戦を観戦している。

「火織さん、刀を鞘から抜いてしまったけどいつもの抜刀術は使わないのかい?」

「え? あ~、まあ今回は氷輪丸の性能を見せないといけないしね。とりあえず七閃は使わないわ」

 っていうか実は七天七刀じゃないと七閃は使えないんだけどね。

「……あらあら、これは随分と舐められたものですわね」

 ……まずい、なんかさらに怒らせちゃった。いや、決して怒らせたいんじゃないからね? っていうか七閃よりも氷輪丸から放たれる攻撃のほうがよっぽど危険なんだからね? 言っても今は信じないかもしれないけど。

「え~と、じゃあ始めましょうか。龍巳、合図お願い」

「ん、分かった」

 そう言うと龍巳は懐からコインを一枚取り出し、空に向かって弾いた。

「火織さん、全力で行かせてもらうよ」

 そのコインは放物線を描き……

「あそこまで言われてはさすがに黙ってはいられませんわ」

 次第に下降し始め……

「うぅ……別に悪気はないんですって~」

 コインが地面についた瞬間

ドンッ!!

 という音と共に私と祐斗はお互いに向け一気にかけ出した。朱乃さんが動いてないところを見ると、前衛の祐斗が私の動きを剣で封じてる間に後衛の朱乃さんが魔力で一気に畳み掛ける作戦でしょうね。なら!

 私は正面から斬りかかってる祐斗の剣を紙一重で躱し、切り結ぶことなく素通りして一直線に朱乃さんの元へ駆け抜ける。まずは後衛から潰しましょうか!

 朱乃さんは私の動きに虚を突かれたのか一瞬動きを止めたけどすぐに立て直して一直線に向かってくる私に向けて

「近付けさせませんわ!」

 と言いつつ雷を放ってきた。私はそれを

「ハッ!!」

 という気合とともに刀を一閃、雷を縦に斬り裂いた。このくらいの雷も斬れなきゃ龍巳相手には生き残れないのよ!

「えっ!?」

 朱乃さんは私が雷を斬り裂いたことに驚き今度こそ硬直してしまった。この程度で驚いているようではこの先生き残れませんよ! そして私は振りかぶった刀を朱乃さんに向けて振り下ろし

ギィィィィィイイイン!

「なかなか速いじゃない。よく間に合ったわね?」

「雷を斬った時ほんの一瞬スピードが落ちたからね。ギリギリだったよ」

 私の刀は間に割り込んできた祐斗の剣に阻まれていた。そしてその間に朱乃さんは硬直から回復し急いで私から距離を開けた。

「そういえばこうして祐斗と本気で斬り結ぶのはこれが初めてだったっけ?」

「そうだね。剣道では負け続きだったけど今回は勝たせてもらうよ!」

ギギギギギギギギギギギギギン!!

 その言葉とともに高速で私と祐斗は刀と剣を斬り結ぶ。前から思ってたけど祐斗の剣はなかなか速くて変幻自在ね。私同様かなり努力した事が伺えるわ。そういえば剣はあの有名な新選組一番隊隊長の沖田総司に習ったんだっけ? それに本人の才能もあるかな? やっぱりいい剣士ね。…………でもまだまだ粗い!

「足元がお留守よ!」

ズパンッ!

「うわっ!?」

 私は一瞬の隙を突いて足払いを掛け、祐斗の体制を崩す。そして

ドゴンッ!!

「ぐはぁ!」

 渾身の回し蹴りが祐斗の腹に決まり、祐斗はそのまま吹き飛び地面に落ちて土埃をあげた。その瞬間

ドガガガガガガガガガガッ!!

 上空から多数の火球や氷の矢、雷に水流が降り注いできた。私はその場で思いっきり跳び、それを一気に回避する。そして離れた場所に着地しようとした瞬間

魔剣創造(ソード・バース)!!」

ザンッ!!

 って着地地点に大量の刀剣が! しかも表面がバチバチ言ってる! あれって触れたら絶対ヤバイよね!?

 私は腰に挿していた鞘を抜き放ち帯電している剣の腹を打ってなんとか体の軌道をずらして避け、翼を拡げて低空を滑空しギリギリ剣が生えていない場所に着地、そこからさらに跳んでなんとか安全地帯まで退避した。っていうか剣を避けてる間も朱乃さんの攻撃が降ってきてちょっと危なかったわ。長年一緒に悪魔やってるだけあってコンビネーションは抜群ね。今のはちょっと危なかったかも。それに随分距離が空いちゃったし完全に仕切り直しね。じゃあ……

「体も温まってきたことだしそろそろ本気で行きますか!」







   ☆







 僕は火織さんの言葉に戦慄した。僕も、そしておそらく朱乃さんも間違いなく本気で火織さんに勝ちに行っていた。にも関わらず火織さんはすべての攻撃をかいくぐり、しかもそれでもまだ彼女は本気でなかったという。信じられない、いや、信じたくない。けれどそう思うのとは裏腹に納得してしまっている自分もいる。彼女はまだ本気を出していないと。なぜなら彼女はまだあの刀の能力を使っていない。

 彼女はあの刀を自分の創る氷結系の魔剣の中で最強の魔剣だと言っていた。僕も氷結系の魔剣は作れるけど、僕のものは触れたものを凍らせる、もしくは剣の周囲の温度を低下させ、剣に近い部分をほんの少しだけ凍らせる程度。足元を凍らせて足止めするなど、不意打ちにしか使えずはっきり言ってフェニックス相手にはさほど役に立つとは思えない。にも関わらず彼女の創る魔剣はフェニックスに対抗しうるという。一体どれほどの力を持っていると言うんだ。

「祐斗くん、どう思います?」

「認めたくないですが勝つのは難しそうですね。攻撃が当たらない上さらにこれから魔剣の能力まで使われるとなると……」

「ですわね。それにどれほど強力な能力なのかも……」

 どうやら朱乃さんも気付いていたみたいだ。さて、一体どれほどのものが飛び出してくるか。ここから勝つ道を探すとすれば彼女の魔剣の能力を使って大きな一撃を放つ際、もしくは放った後の一瞬の隙を突ければあるいは……。

「それじゃあそろそろ行きますよ!」

 そう言って火織さんは遥か上空まで跳び上がった! 脚力だけであんなに高く!? でも一体それになんの意味が? あんなに高く跳んで刀を振り上げても、僕達まで刀が届くには時間が掛かるし、あれでは次の手がバレバレになってしまうのに……。

 僕はそう思いつつ迎撃体制に入る。でもその後僕は完全に動きが止まってしまった。目の前で起こった現象が理解できなかったから。

「霜天に坐せ! 氷輪丸!」

 その言葉とともに

グオオオオオオオオオオオオ!!

 火織さんを取り巻くように巨大な氷でできた龍が出現した! 形は東洋の龍に酷似していて、大きさは火織さんの身の丈のおおよそ5、6倍はある! あ、あれがあの刀の能力!? なんてでたらめなんだ!

「止まってると危ないですよ!」

 そう言って火織さんが刀を振り下ろすのと同時に、氷でできた龍が僕達に向かって突っ込んできた!

「朱乃さん!」

「ええ!」

 僕と朱乃さんは左右に大きく跳んで氷の龍を避ける。氷の龍はそのまま僕達が立っていた場所に突っ込んだ。すると突っ込んだ地点を中心にものすごい速さで地面が凍りだした! しかも凍った地面からかなり大きなつららも生えてきている!

「くっ!」

 僕と朱乃さんは急いで翼を広げ空中に逃げる。あのまま地面を逃げていたら間違い無く氷に追いつかれて足を凍らされたあげくつららに貫かれていたな。危なかった。

 そして氷の侵食が終わった後には半径10メートル近くが氷漬けにされた地面が現れ、表面はつららに覆われていた。これが氷結系最強の、氷輪丸の力。

「止まってると危ないって言ったわよ!」

 火織さんがそのまま突っ込んできた! さすがにまたあの攻撃を放たれると厄介だ! となれば近距離で戦うしか無い!

 僕はそう思い火織さんに突撃、彼女の刀を受け止めるけど

パキィィィィィィィン

 そんな!? 火織さんの刀に僕の剣が触れた瞬間僕の剣が一瞬で凍り、そのまま粉々に!? そんな力まで持っていたのか!?

「祐斗くん!」

 それを見た朱乃さんが火織さんに向けて特大の火炎に変えた魔力を放ってきた。確かに炎の弱点が氷であるのと同様に、氷の弱点もまた炎であるから普通ならいい手かもしれない。でも

「ふっ!」

 という掛け声とともに先ほどの雷と同様炎も真っ二つに切り裂かれ、さらにはその炎まで完全に凍ってしまった! 炎を凍らせるなんて、そんなこと出来るのか!?

「はっ!」

 そして火織さんが刀を振りぬくと同時に再び氷の龍が出現、朱乃さんに龍が突っ込んでいった。朱乃さんは突っ込んできた龍を避けるけど、あの龍にはホーミング機能まであるのか朱乃さんは追い続けてる。朱乃さんも炎を用いて応戦してるけど少しずつしか龍を削れていない。すぐに応援に行きたいんだけど

「行かせないわよ」

 火織さんが僕が朱乃さんの元に行けないよう立ちはだかった。

「悪いけど通してもらうよ!」

 そう言って僕は今度は両手に魔剣を創り出し斬りかかる。この魔剣は両方共氷結系の力を付与した魔剣、いくら火織さんの魔剣が強力でも同じ属性なら少しは耐性があるはず! 押し切れないまでも少しでも体制を崩して朱乃さんの所まで一気に飛んでいってまずはあの氷の龍に対処する!

「甘い!」

パキィィィィィィン!

 そんな!? 2本の魔剣が一瞬で!?

「驚くのは分かるけど敵の前で動きを止めるなんて自殺行為よ」

 そう言うと火織さんは刀を振りぬく。するとその動きに合わせて刀の柄頭から伸びていた鎖がまるで鞭のように迫ってきた。僕は避けようとするけど反応が遅れてしまったため左腕に巻き付く。すると

パキンッ!

 一瞬で鎖の巻かれた左腕が凍りついた! 氷の能力は刀身のみならず鎖でも有効なのか!

「そーれっ!」

 そして火織さんは鎖ごと僕を振り回すとそのまま地面に向けて投げつけられた。

ズドォォォォォォォォォォォン!!

「がはっ!」

 翼による制動も効かずそのまま地面に激突してしまう。一瞬とはいえ意識が飛んでしまった。そして閉じてしまっていた目を開け、飛び込んできた光景は

「朱乃さん!」

 氷の龍に対処している朱乃さんの背後からものすごい速さで近付き斬りかかろうとしている火織さんの姿。朱乃さんも僕の声で背後の火織さんに気が付きとっさに手を向け魔力を放とうとするけれど

「遅いです!」
 
 火織さんは刀を裏返し、刀の峰で朱乃さんの左肩に強力な打撃を浴びせた。

「きゃあああああああ!!」

 そして朱乃さんも僕同様僕の隣に落とされ、地面にたたきつけられた。見てみれば刀の峰で打たれた左肩も完全に凍ってしまっている。そして火織さんは朱乃さんを落とした後ものすごい速さで僕達の場所まで降り、そばの地面に刀を突き刺した。するとその場所から一気に地面が凍り、僕と朱乃さんも地面に接触していた背中や腕、足が氷によって貼り付けにされ、身動きが完全に取れなくなってしまった。そんな僕達の首筋に火織さんは右手に持った氷輪丸と、新たに左手に創り出した新たな刀を突きつけた。

「チェックメイト」







   ☆







 私は氷輪丸で2人の体を貼り付けにしていた氷を解除した。凍傷になるほどの威力は出さなかったつもりだけど……あっちこっちに打撲や切り傷があるわね。

「アーシア! 2人の治療をお願い!」

「は、はい!」

 アーシアが慌てたようにこちらに向かって駆け出す。そして転びそうになったところでレイナーレに支えられつつ向かってきた。そしてその後ろからは部長たちがゆっくりこちらに歩いてきた。

「だ、大丈夫ですか、朱乃さん、祐斗さん? すぐに治療しますからね?」

「ええ、お願いしますわ」

「悔しいけど完敗だね」

 アーシアが二人の治療を始めた。

「で、部長。どうでした?」

「……悔しいけど認めるわ。あなた達が私達よりはるかに強いと。黒歌や白音、それにあなた達を鍛えた龍巳も同等の強さなのでしょう?」

「まあそうですね」

 それを聞くと部長は空を振り仰いで悔しそうにしていた。こうして力の差をはっきりと見せられたからだろうね。でも少しして顔を私達の方に戻すと、その顔には決意したような表情が浮かんでいた。

「こうなったらもう恥も外聞も捨てるわ。お願い、私達を鍛えてちょうだい。ライザーと戦えるように」

「私からもお願いしますわ」

「僕もかな。負けっぱなしは悔しいからね」

 朱乃さんと祐斗も部長と同様決意した表情を浮かべていた。

「分かりました。私達で徹底的に鍛えてあげます。……でもまずはちょっと休憩しましょうか。その間にこの氷輪丸の使い方を教えますから」

 そうして皆で私の発案した修行を開始した。







 この時私は気付かなかった。イッセーがずっと暗い、難しい顔をしていたことを。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧