ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第2章 滅殺姫の憂鬱と焼き鳥の末路
第25話 甲冑少女と赤龍帝
何だ、これ?
目が覚めて初めに思ったことはそれだった。待て、落ち着け、俺。まずは状況確認だ。
確か体育で炎天下の中でマラソンさせられて、悪魔の苦手な日差しに参っていた上に朝の特訓の疲労も手伝って、途中で気分が悪くなったんで保健室に行ったんだよ。でも保健室の先生が居なくって、そのままとりあえずベッドに横になったんだよな。んで、いつの間にか寝ちまって、何か薄ら寒いものを感じたから目が覚めちまって今に至ると。
よし、まずなんで俺がここにいるかはちゃんと理解できた。次に周りの状況だ。
まず左を向く。そこにはベッドに膝立ちになって両手を上げて降参のポーズを取りつつ冷や汗をだらだらかいている全r「ブフッ」い、いかんいかん、鼻血が……。と、とにかく左には全裸の部長g「ブフォッ」う、ダ、ダメだ、これ以上見てると鼻血が止まらなくなっちまう。と、とにかく左には部長がいた。
で、次に反対の右には体操服の龍巳が両手にどす黒いオーラを纏わせて今にも殺しそうな形相で部長を睨みつけてた。お、俺が感じた薄ら寒いものはこれか。
んで、最後に足元の方には同じく体操服のアーシアとレイナーレが。アーシアは泣きそうな目でオロオロと部長と龍巳を交互に見ていた。そしてレイナーレはそんなアーシアの肩を抱きつつ……おい、そこでなんで俺を睨みつけるんだよ?
まあそれはさておき、これで今の俺の知りうる状況確認は出来たわけだが……改めて言おう、何だこれ? 一体何があったらこんな状況になるんだ?
それになんだかさっきから目が霞んでるような……。せっかくの部長のおっぱいもよく見えな……あ、あれ? 何だか意識も……。やば、鼻血を流しすぎ……
☆
今私の目の前にはまたしても原作を知っている身としてはありえない光景が繰り広げられていた。時刻は放課後、今日は剣道部は無いのでオカ研に教室から直接来たんだけど、その部室の中には……正座した部長とそれを取り囲んで仁王立ちしつつものすっごいプレッシャーを放っている黒姉、龍巳、白音がいた。……これは一体どういう状況なんだろう?
そもそもなんで龍巳はここに? 龍巳は5時限目の体育でイッセーが気分が悪くなって保健室に行ったっていうのを聞いた後、体育が終わると同時にアーシアとレイナーレを連れて保健室に向かった。でも、そのあと6時限目までに帰ってきたのはアーシアとレイナーレだけで龍巳は結局帰りのホームルームが終わっても帰って来なかった。アーシアとレイナーレに聞いてもはぐらかされるし、一体どうしたんだろうと思いつつ部室に来たらこの状況。……うん、やっぱりよく分からない。ここは普通にスルーしt「火織……」……部長、そんな泣きそうな顔で助けを求められましても……。もう、しょうがないな~。
「ねえ、どうしたの?」
「……部長、イッセーと寝てた。全裸で」
……あ~、今ので大体状況が分かった。
「はぁ、取り敢えず話は私が聞いとくからあなた達は保健室にでも行きなさい。イッセーまだ目が覚めてないようだし、今アーシアとレイナーレの2人だけで看病してるわよ? もしかしたらこのまま2人にイッセー取られちゃうかもね?」
「「「!?」」」
そう言った瞬間3人は血相を変えて部室を出ていった。
「ありがとう火織、助かったわ」
そう言いつつふらふらしながら立ち上がった部長はそのままソファーに倒れこんだ。なんか精魂尽き果てたって感じね。
「で、一体何があったんですか?」
「5時間目の途中でちょっと気怠くなって保健室に仮眠を取りに行ったのよ。そしたらイッセーが寝ていたから彼を抱き枕にして寝ようと思って」
「それでなんでそこで全裸になるんですか……」
「私寝る時はいつもそうだから……。そうでないと眠れないのよ」
「だからって……。部長もあの娘たちのイッセーに向けられてる気持ちに気付いてるんでしょう? だったらもう少し考えましょうよ」
「ええ、今度からはそうするわ。……ねえ火織、アーシアとレイナーレなんだけど、ちゃんとあの3人と仲良くやってる? いじめられたりしていない?」
「そんなことありませんよ? ちゃんと仲良くやってます」
「……え? ど、どうして? 今もそうだけど2人の引越しの時だってあんなに怒ってたのに。イッセーに近付く女性に対してはいつもああいった対応ではないの?」
「あ~、そこからですか。そもそも引越しの時だって3人は嫉妬はしてましたけどアーシアとレイナーレに対して怒ってはいませんよ? 怒っていたのは主に部長に対してだけです」
「え!? わ、私だけ? ……ねえ火織、私って彼女たちに嫌われているのかしら?」
部長はさっき3人に取り囲まれていた時よりもさらに泣きそうになっていた。かわいいな~、このままもっと泣かせ……っていやいやいや、今はそういう状況じゃなかった。
「いえ、そういうわけではないんですよ。まず前回の引越しに関してで言えば、部長が余計な……言い方がちょっと悪いですけど横槍を入れてきたから怒っていたってところですかね?」
「横槍?」
「ええ、アーシアと……多分レイナーレもですけど、イッセーのことを好きになったことに関しては、まあいい気はしないでしょうし嫉妬もするでしょうけど怒ってはいないんですよ。人を好きになることに関しては本人たちにはどうしようもないってことは理解していますから。問題だったのはあそこで本来恋愛絡みでは無関係なはずの部長が介入してアーシアたちを後押しした点です。あそこは本人たちにおじさんたちを説得させるべきだったんですよ」
「そう、そういうことだったの。じゃあ今日のことも……」
「ええ、部長はイッセーのことを1人の男性として好きなわけではないですよね? なのにあんな誘惑まがいなことをしたら……そりゃ本気で恋してるあの娘たちは怒りますよ」
「……そうね、彼女たち本気でイッセーに恋してるものね。私の考えが足りなかったわ。それに……」
「? どうかしたんですか?」
「いえ、ね。打算もあったのよ。ほら、イッセーって女性の胸が大好きでしょ? だからああすれば触ろうとしてくると思って、そこで条件をのんだら触らせてあげるって言うつもりだったのよ」
「条件、ですか?」
「ええ、彼にはもうちょっと契約を取る時に努力してほしかったから」
「……あれ? イッセーって今のところ順調に契約取れてませんでしたっけ? 確か固定客も付いているって……」
「ええ、確かに契約は取ってくるのだけれど……その取り方が問題なのよ」
☆
「問題……ですか?」
「ええ、そうよ」
保健室で目が覚めた後、もう放課後になっていたので、そこにいて何やらもめていた黒姉やアーシアたちと一緒に部室に向かった。そこで保健室でのことを部長に聞こうとしたら俺の契約の取り方に問題があると言われたんだ。でも俺には心当たりが……まあ無いわけじゃない。っていうかあれしか考えられないんだけど……。
「ちなみに……どういった問題でしょうか」
そう言うと部長は紙束を取り出しめくり始めた。あれは……俺の依頼主から回収したアンケート用紙?
「例えばあなたのお得意さんの中から挙げると……まずこのミルたんさん? この人と何回か契約してるわね?」
「は、はい。俺の初めての依頼主で魔法少女にしてくれと頼まれました。その時は龍巳の出す蛇を与えて不思議パワーを与えたんですが、それ以降もその蛇を何回か要求されまして……」
「そう、では次にこの砂戸太郎さん」
「はい、その人は大のSMクラブ好きで、でもあまりの気持ち悪さゆえにどこも出入り禁止にされたらしいです。それでどんな代価も払うから美人に足蹴にされてムチで打たれたいと要求されました」
「……で、どう解決したのかしら?」
「レイナーレに踏ませてムチで打たせました。レイナーレもボンテージに着替えるほどノリノリで、依頼主にも好評でした。もう何回も呼び出されては同じ契約をしています」
実はレイナーレ、最初の一回以降はアーシアではなく俺の契約の方に龍巳と一緒に着いて来てるんだよ。理由はレイナーレがアーシアの使い魔ではなく俺の使い魔なのだから着いて行くならアーシアの方ではなく俺の方にしろと部長に言われたから。それからアーシアのためにもならないとも言われたな。まあ俺にも火織の使い魔の龍巳が着いて来てるんだけど、こちらには自転車移動の俺の護衛という理由があるからな。魔法陣で移動できるなら俺にも1人で行かせるつもりだったらしい。
「ではこの森沢さんという方は?」
「はい、アニメキャラのコスプレ撮影会を要求されました。龍巳がノリノリで請け負った上にレイナーレも巻き込んだ撮影会になりました」
「……イッセー」
「はい」
「分かってるわよね?」
「……はい。実質契約をしているのが俺じゃないからですよね?」
そう、今まで直接俺が願いを叶えたことは実は一度もない。全部龍巳かレイナーレが叶えていた。
「願いを見るにあなたでは難しい願いばかりだということは理解しているわ。でもそれならそれで自分でも叶えられる願いを引き出すのも悪魔の仕事よ。いつまでもその2人があなたに付いて契約を取りに行くわけではないのだから」
「はい」
そうだよな。龍巳は俺が上級悪魔になったら俺の下僕になりたいって言っているし、レイナーレだっていつか想いを遂げて堕天使側に帰ることになるかもしれない。その時俺が1人では契約を取れないなんてことになればあまりにも不甲斐ない。
「イッセー、今日は私も監督役として同行するわ。今日こそ自分の力で契約を取ってみなさい」
「はい! ……それであの、保健室でのことはどう関係してくるんですか?」
「……それは忘れてちょうだい」
うん、そうしよう。だって、背後の黒姉たちの殺気が怖いんだもの。俺はまだ死にたくない。
「部長、イッセーくんでもこなせそうな依頼が来ましたわ」
あれからしばらくして、悪魔の仕事の時間となった。
「分かったわ。イッセー、行くわよ」
「はい」
今回は部長も行くということで、魔法陣での移動となる。こうして魔法陣で契約を取りに行くのは初めてだな。俺と部長、龍巳、レイナーレが魔法陣に乗ると魔法陣がいっそう輝きだした。
「それでは転送いたします。イッセーくん、がんばってくださいね」
「はい。ありがとうございます」
そう朱乃さんに返事をした瞬間、俺達は転送され着いた場所は……これはワンルームマンションか? 部屋には所狭しと戦国グッズが並べられていた。目の前には立派な甲冑まで置いてある……んだけど、あれ? 依頼主は?
と、そんなことを思っていた時
「あの……」
という言葉とともに目の前の甲冑が立ち上がった! またか!? またなのか!? 今回は部長もいるというのにまたしてもこんな変態的な依頼主なのか!? 龍巳だってまたびっくりして俺の後ろに隠れちまったじゃねえか! これで何度目だよ!? 強力な龍を怖がらせる変態がこの世にこんなにいていいのか!? しかもレイナーレまで微妙に腰が引けちまってるし!
「あの、もしかしてあなた方が悪魔さん……ですか?」
……じょ、女性? 眼光もプレッシャーも半端無いのに声は意外と可愛らしい声じゃねえか。
「はい、あなたの呼びかけに答えて召喚されました。悪魔の兵藤一誠です」
「悪魔を呼び出せたんですね、私。てっきりこのチラシも眉唾ものかと」
「し、失礼ですが……女性の方ですか?」
「はい。……でも驚きました。悪魔って本当にいるんですね」
驚いたって、それはこっちのセリフだ! こっちは悪魔に龍、おまけに堕天使の組み合わせだっつーのにあんた1人の方がインパクト大じゃねえか!!
「私の名前はスーザン、ご覧の通り戦国グッズを集めるのが趣味の留学生です」
ああ、ついに俺の変態知り合いフォルダがグローバルになっちまった。っていうかこの格好で外国人かよ。
「こんな姿で申し訳ないです。深夜は物騒ですから、こうやっていつも鎧を纏ってしまうんです」
「(なあ龍巳、あんたの方が物騒だとツッコんだら負けかな?)」
「(多分負け。その前に、そんな事言ったら何されるか分からない)」
確かに。この人帯刀してるしな。
「あんたの方がよっぽど物騒よ」
「「言っちゃった!?」」
おいレイナーレ! お前もう少し考えてもの言おうよ! そんなんだから何やってもうまくいかないんだって!
「そこに痺れる憧れる!」
「龍巳も無理してノらんでいい!」
「その国の特色と触れ合うことこそ異文化交流の基本。素敵よスーザン」
「「「ええ!?」」」
部長! そこ感心して頷くところじゃないですよ!? この人もなんかズレてるな! これがお嬢様というものか!?
「でも出てきたのが優しそうな悪魔さんで良かったです。出てきたのが怖い悪魔さんだったら、この『鬼神丸国重』を抜かざるを、抜かざるを得ませんから!!」
「ってちょっと待てスーザン! 抜いてる抜いてる! 刀抜いちまってるから!」
頼むから落ち着いてくれ! 龍巳が更に怖がっちまう上にレイナーレまで俺の後ろに隠れちまってるじゃねーか! っていうか2人共俺を押し出すな! これ以上前に出たら危ないだろーが!
「と、ところで、願いがあったから呼んだんですよね!? 俺達悪魔を召喚した理由はなんですか!?」
俺の今までの経験上こういった手合は早々に依頼をこなしておさらばするに限る。
「……私が留学している大学までノートを一緒に取りに行って下さい。お願いします」
「え? ……それだけ?」
「深夜の大学ってとっても怖いんですよぅ!!」
「「「あんたの方がよっぽど怖いわ!!」」」
つい3人揃って声を大にして言っちまった。
ガシャンガシャン。
深夜の住宅街を徘徊する鎧武者。もはや完全にホラーだな。今俺達はスーザンの願いを聞き入れ彼女の大学まで一緒に護衛として向かっている。正直護衛いらないと思うんだけどさ。悪魔でも堕天使でもこんなのに深夜出くわしちまったら逃げ出すって。だってこっちの方が絶対怖いもん。
ワンワンワン!
あ、どっかで犬が鳴いてる、と思ったら
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
スーザンがいきなり刀を抜いて振り回し始めた!?
「スーザン落ち着いて! 何もないから! 何も怖いことないから!」
「す、すみません。驚くと恐怖のあまりつい抜いてしまうんです……」
き、危険すぎる。今まで会ってきた変態どもの中でもかなり危険だこの人。
「ねえ……」
「ん? どうしたレイナーレ?」
「最近思うんだけどね、なんで私こんな変態ひしめく街で計画が遂行できるなんて思ったのかしら?」
「……知らねーよそんなこと。……まあなんだ、ご愁傷様?」
あ、レイナーレが凹んだ。たまになるんだよな、鬱モード。
「スーザン、ビクビクしなくても大丈夫よ。私たちが付いているのだから、もっと堂々と歩きなさい」
「うぅ、ありがとうございますぅ」
部長は良かれと思って言ってるんでしょうけど……堂々と歩かれたらなおさら怖いです。
「でもスーザン、鎧なんて着込んで重くないのか?」
正直これで日常生活を送るなんて俺には考えられないんだが。体力的にも精神的にも。
「問題無いです。暇なときに室内でですけど鎧を着込んで運動してますから。昔の武将は鎧を着込んだ上で戦場を走り回ったりしてたんです。私にもそれくらい出来ないと」
一体あなたは何と戦ってるんですか……。
「……人間にしておくにはもったいないわね」
え!? もしかして彼女、下僕候補ですか!? 冗談ですよね部長!? 部長が駒使い切っててほんと良かったぜ。こんな変態の仲間は欲しくない。
「あ、ここが留学先の大学です」
あ、なんだかんだやってる内にもう着いちまったのか。
「うぅ……、ほらね? 雰囲気出てて怖いでしょう?」
だからあんたの方が怖いって。そう思うのは絶対俺だけじゃないはずだ。
ノートは無事に手に入れ俺達はスーザンの自室へ戻った。代価も頂き、帰るために部長が魔法陣を展開してる。
「じゃあ、これで俺達は帰るから。またのご利用お待ちしています」
俺は満面の笑みを浮かべてスーザンに告げる。やっと、やっと変態から開放される! あと今のは決まり文句だけど出来ればもう二度と呼ばないでくれ!
「あ、あの……」
ん? 何だ? なんかスーザンがもじもじしながら話しかけてきたんだが。鎧武者の姿でそんな事されても気持ち悪いだけだぞ?
「ぶしつけかもしれませんけど……もうひとつ叶えて欲しいお願いがあるんです……」
……もうひとつ契約したいってことか? 俺はあんたとさっさと離れたいんだが……。
「ええ、構わないわよ」
え!? お願い聞いちゃうんですか!? なんてこった……。
「じ、実は……今度同じ大学の人に思い切ってアタックしようと思ってるんです」
え!? まさかそれって……
「合戦?」
「辻斬り?」
「果し合い?」
上から俺、龍巳、レイナーレ。
「ち、違いますよ! その、す、好きな人がいるんです……。お、奥手な私ですけど、どうしてもこの思いを彼にぶつけたくて」
あ、アタックってそっちか。その格好じゃ戦しに行くようにしか聞こえねえよ。この人が惚れるくらいなんだから……どうせまた戦国武将みたいな漢なんだろうな。イメージとしては鎧着込んだミルたんか?
「素敵なお願いね。いいわ、その願い、私達で叶えてあげる」
「本当ですか!? よかった! 悪魔さんってとってもいい人なんですね!」
「それで、私達はどうすればいいのかしら? 告白のため最高の舞台を用意する? それとも相手の心を魔力であなたのものにしてしまいましょうか?」
「いえいえ! そ、その、出来ればこの想いは自分の力で……でもどうにもこういうことは初めてなので何から始めたらいいか……」
ふむ、自分の力で恋を成就させたいのか。立派な心がけだな。ってどうしたんだレイナーレ!? なんかさっきより凹んでないか!?
「……私ってこんな変態にも劣っていたのね」
……あ~、なるほどそういうことか。確かにスーザンは自分の恋に曲がらず正面から向き合ってるからな。……ってあれ? 龍巳たちの気持ちを知っていながら気付かないふりしてる俺も劣ってたりするのか? やべ、なんか泣けてきた。
そんな俺達の様子は露知らず、スーザンと部長の会話は進んでいく。
「直接想いを伝えればいいのでしょうけど」
「そ、それはさすがに無理です!」
「じゃあ、手紙?」
龍巳の意見に部長も頷く。
「そうね、ラブレターもいいと思うわ。文面で想いを伝えられたら素敵ね」
「わ、分かりました! 書いてみます!」
そうしてスーザンは準備をして手紙を書き始めたんだが……何故に書道セットで書くのかな?
「ス、スーザン……普通にペンと紙でいいじゃねーか。一体何書くつもりだよ」
「もちろん恋文です。えーと、『然したる儀にてこれ無きの条、御心安かるべく候』と」
ああ、また変態的行動が始まった。一体何語だよそれ?
その後そんな文章しか書けないというスーザンに俺と龍巳、レイナーレは必死に手紙の書き方を教えた。部長は大切なのは気持ちなのだから形式にとらわれる必要はないと主張したんだけど、その気持がこれでは伝わらないと俺たちが猛反発した。これが庶民とお嬢様の違い、いや恋をしている人としていない人の違いなのかね?
さらにその後も問題が発覚。なんとスーザン、矢文で手紙を届けようとしたのだ。日本で最もポピュラーな渡し方だと思っていたらしい。ほんともう勘弁してくれ。直接渡す勇気もないということでいろいろと激論を交わし、最終的に同じ大学に通う相手の男との共通の友人に渡してもらうということになった。なんでもその人にもこれまでよく恋愛事に関して相談していたらしい。
こうして一晩かけて何とかお膳立てをすることが出来たんだけど……俺も龍巳もレイナーレも終わった途端ゲッソリとしちまった。
数日後。
俺達はとある公園に来ていた。そこには本陣が設置され、中央には床几に座った鎧武者、スーザンが。仲介人を介してラブレターを渡し、今日この場所で返事を貰えるらしい。俺達は行末を見守ってほしいとスーザンに頼まれここを訪れた。
……とはいえ本陣を展開するってどうなんだ? せっかくラブレター自体はまともな物にしたっていうのにこれじゃ台無しじゃねえか。まあスーザンの格好が既に台無しではあるんだけど。隣を見れば龍巳にレイナーレも頭を抱えている。部長は……なんでこの状況でワクワク出来るんですか?
スーザンに目を向けると彼女は小刻みに震えていた。緊張してるんだろうけど……傍から見てると気味悪いぜ。怪奇現象にしか見えないぞ。
「来たみたいね」
部長の視線を追うと、離れたところから人影が近付いて来た。その男は学生服の上から漢服のようなものを纒った青年だった。格好はちょっと変わってるけどスーザンに比べりゃ普通の人、むしろイケメンのたぐいだな。レイナーレは青年が来た瞬間ハラハラしだした。俺も一緒だけどやっぱ自分たちが手伝った告白がうまくいくかどうかすっげー緊張する。龍巳だって……あれ、龍巳? なんでそんな驚いたような顔で男の方を凝視してるんだ?
「この手紙、読ませてもらったよ」
「はい」
もじもじする鎧武者。怖いからやめてくれ。
「こんな熱い気持ちを君が持っていたなんて知らなかった。こんなに気持ちが伝わってくる手紙をもらったのは初めてだよ」
「そ、そんな、私はただ夢中で書いただけです、曹操くん」
「……しかしすまない。君の気持ちに答えることは出来ない」
「……え、あ、そ、そう、ですか……」
「君のことが嫌いというわけじゃない。むしろ良い友人だと思ってる。でも俺は彼の気持ちも知っていたから……。なあ、そろそろ出てきたらどうだ?」
その曹操という人の言葉とともに向こうの木の影から……西洋の甲冑を着込んだ騎士が現れた。……え? なんだあれ? まだああいう手合がいたの!? スーザンだけじゃなかったのか!?
「ほ、堀井くん?」
堀井くん? じゃああの人がスーザンの言っていた仲介人で今までも相談に乗ってもらっていた人? でもどうしてここに?
「すまない。盗み聞きをするつもりじゃなかったんだ。でもどうしても放っておけなくて」
「どうして……」
「スーザン、僕は君のことが……好きなんだ」
「!? そ、そんな……。い、一体いつから」
「君が曹操の事で僕に相談してきた時より前からだよ。君が幸せになるためなら僕は身を引くつもりだった。だけど……君の告白を聞いたら僕も我慢できなくなってしまったんだ」
こ、これが世に言う三角関係か。メンバーの格好が異常だがやってることはまるで昼ドラだ。
「わ、私は一体どうしたら」
「スーザン、俺は君と堀井のほうがお似合いだと思うよ。君は俺と話していた時よりも堀井と話していた時の方が楽しそうだった。気付いていたかい? 俺と話していた時も話題の多くは堀井のことだということに。それが答えさ」
「……あ」
「堀井、後はお前の役目だ」
「ああ、ありがとう曹操。……スーザン、こんな形になってしまったけどもう僕は自分の気持ちに嘘はつきたくない。だから……好きだ、スーザン。僕と付き合ってくれ」
「……はい」
こうしてこの奇妙な告白劇は幕を閉じた。部長とレイナーレは一時はどうなることかとハラハラしてたけど最終的にはホッとしていた。龍巳は……何故だろう、曹操さんの方をずっと凝視していた。そんな姿に俺はなぜか少しイラッとした。
その後俺のもとに仲良く寄り添う鎧武者と甲冑騎士の写真が送られてきた。どうやらスーザンは堀井とやらとうまくやっているようだ。
「今回はちゃんとあなたも契約に貢献できたわね」
「はい、途中いろいろありましたけどちゃんと俺も契約を取れてよかったです」
「ふふ、そうね」
そう言うと部長は俺を抱きしめてきた。あ、柔らかい物が……
「これからも頑張りなさい。私の可愛いイッセー」
そう言いながら俺の頭を撫でてくれる部長。と、その時
「部長、自分の下僕が可愛いというのは分かりますけど……私ちゃんと前回注意しましたよね?」
という火織の言葉とともに背筋にゾクッと来るものがあった。恐る恐る振り返ると
「「「……」」」
無言の黒歌姉、龍巳、白音ちゃんが。部長に向き直ると部長も俺を抱きしめたまま冷や汗をだらだらかいていた。
「え、えっとね? これは……」
「「「これは?」」」
何か言い訳を考えている部長だけど諦めたのかバッとその場から逃げ出した。そして無言でそれを追いかける黒歌姉達。部長、ご愁傷さまです。
その日、悪魔の仕事の時間になっても部長たちは帰って来なかった。
☆
「なんだ曹操、結局断ってしまったのかい?」
「当然だ。鎧武者と付き合う趣味はないさゲオルク。まあ友人としては彼女のことは気に入ってるがな。それよりもその場に面白い奴らがいたぞ」
「面白い奴ら?」
「ああ、スーザンの後ろに4人組がいてな。話を聞くに彼女は手紙を書くのに協力してもらったらしい」
「へえ、で、どう面白かったんだい?」
「うち2人が悪魔だった。おそらく契約して手伝ってもらったんだろうな」
「そんな願いで契約するとは、随分とお人好しな悪魔だな」
「まあな、だが無いわけじゃない。それより面白いのは後の2人だ。片方は堕天使だった」
「何? 俺達の所以外にも悪魔と堕天使が堂々と一緒にいたのか?」
「ああ。そしてもう1人は……人間としか思えない気配だったがあれはバケモノだ。正直勝てる気がしなかった」
「!? 黄昏の聖槍を持つ君がかい?」
「ああ、彼女は俺のことをずっと凝視していた。もしかしたら俺の持つものに気付いていたのかもな。ゲオルク、奴が、いや奴らが何者なのか興味が出てきた。調べてくれるか?」
「分かった。と言うより一目でお前の持つものに気付く者を放置など出来ないさ」
「そうだな。だがまだ手は出すなよ? まだ表に出るには早すぎる」
「分かっているよ、曹操」
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