ロックマンX~朱の戦士~
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第四十三話 決戦前
前書き
デスフラワーに向かう直前の出来事。
カーネルとディザイアとの連戦で凄まじいダメージを負ったゼロは直ぐさま医務室行きになった。
エックスも医務室行きとなったが、ゼロ程ではなく間もなくして医務室から出ていく。
エックスはルインを探して屋上に来ていた。
彼女は辛いことがあるといつも屋上で空を見上げていたからだ。
エックス「ルイン…」
ルイン「エックス…メンテナンス終わったんだね……」
痛々しい笑みを浮かべながらルインはエックスを見遣る。
エックス「ああ…ルイン、君は大丈夫か?」
ルイン「ん…大丈夫…だけどちょっと堪えてるかな……」
信頼していた部下の自分への今までの好意に気づけず、あそこまで彼を変えてしまった原因が自分なのだから。
エックス「ルイン…彼は自分の意志でああなったんだ。君だけのせいじゃない」
それに対してエックスは彼に対する激情を抑えられてはいなかった。
アイリスの目の前でカーネルを惨殺し、自分の目の前でルインを傷つけたディザイアにエックスは凄まじい怒りを感じていた。
ルイン「分かんないよそんなの…エックス、私は……。」
エックス「ディザイアに対してなら…個人的な感情を差し引いても彼に応えるべきじゃないと思う。」
ルイン「…どうして……?私のせいで彼は…」
エックス「君が本心から彼を1人の男として愛しているなら話は別だよ。だが君は彼への罪悪感からそれに応えようとしている。そんなのは俺が許さない…。君を2度も失うなんてごめんだ……」
ルイン「…………」
強い口調で紡がれるエックスの言葉にルインは俯いた。
エックスの言う通り、ルインはディザイアへの罪悪感から彼の気持ちに応えようとしていた。
しかしエックスはそれを許さない。
エックスも彼女を愛しているのだから、このままにしておけばルインの未来は暗いものになるのは分かっているから。
例え自分は彼女にとって友人に過ぎないとしても。
ルイン「うん…ごめんねエックス。エックスはデスフラワーでディザイアと戦うんだよね…?」
エックス「ああ…」
ルイン「お願いエックス。彼を…ディザイアを救ってあげて……」
エックス「…分かった」
正直に言うと救ってやれる自信がない。
自分の目の前で彼女を傷つけた彼に対して、自分の腸は煮え繰り返っているのを自覚しているからだ。
自分の目の前であんな光景を見せられた時の激情がまだ心を支配していたからだ。
しかしエックスはふと、自分がただの1人の男に過ぎないことに気づいた。
度重なるシグマとの戦いを制していても、周囲から英雄だ何だと言われているが愛した女性すら助けられない。
どうやら自分はどうしようもない臆病者のようだ。
彼女を失いたくない、奪われたくない一心で彼女を抱きしめた。
ルイン「エックス…?」
エックス「君は誰にも渡さない…」
どんな敵が来ようと負けるものか。
彼女は絶対に守る。
そのために今まで厳しい訓練に身を投じて来たのだ。
彼女を愛し、守りたいという気持ちに嘘はないから。
エックス「ルイン…俺は君が……」
その時、出撃命令が出された。
イレギュラーハンターは直ちにシャトルに乗り込んで、デスフラワーに迎えとのことだ。
エックスは上層部のタイミングの悪さに舌打ちしたくなったが、表情には出さなかった。
エックス「行こう」
ルイン「うん」
エックスとルインは格納庫に向かい、シャトルに乗り込んだ。
エックスとルインがシャトルに向かう途中、ゼロの治療も完了し、アイリスがいるであろう自分の部屋に向かう。
部屋に入ると、涙で目を腫らしながら何かのチップを見つめるアイリスの姿があった。
ゼロ「アイリス…」
アイリス「ゼロ…大丈夫?」
ゼロ「ああ…俺なら大丈夫だ。そんなヤワじゃない」
罪悪感に満ちた声で言うゼロにアイリスも悲しげに笑う。
ゼロ「すまないアイリス…」
アイリス「え…?」
突然の謝罪に目を見開くアイリスに構わず、言葉を紡ぐ。
ゼロ「俺があの時、何か行動を移していればカーネルは死ななかったかもしれない。」
ディザイアに向けてセイバーでもロッドでもバスターでもいい。
何か攻撃していたらカーネルは死なずに済んだかもしれない。
アイリス「ゼロのせいじゃないわ!!悪いのは…悪い…のは…」
カーネルを殺したディザイアの名前を言おうとしたが、今この時にもディザイアのことで悩んでいる親友が脳裏を過ぎる。
ゼロ「俺が…俺がカーネルを殺したようなもんだ…」
アイリス「違う!!」
ゼロ「俺があの時、カーネルに負けていれば…!!」
アイリス「止めて!!」
アイリスの悲痛な叫びにゼロはハッとなり、アイリスを見遣ると彼女の顔は再び涙で濡れていた。
アイリス「そんなこと言わないで…兄さんが死んで…あなたまでいなくなったら…私はどうすればいいの…?」
ゼロ「…すまない」
表情を暗くさせながらゼロは謝罪した。
アイリス「ゼロ…聞いてくれる?」
ゼロ「…?」
アイリス「私と兄さんのことを…」
ゼロ「…ああ」
アイリス「私達を造った科学者はかつて世界を救った1人の英雄…強さと優しさを持った究極のレプリロイドを造ろうと試みたの。でも…結局互いのデータが拒絶反応を起こし暴走した挙句誕生したのは、心を持たない破壊者だった…。結局その科学者はこのプロジェクトを断念し、2つのプログラムを2体のレプリロイドに分与したの…。悪を決して許さない強い正義の心と武人としての闘争心を兄に…、そして平和を愛する心を私に…」
ゼロ「っ!!」
その瞬間ゼロはアイリスの手にしたチップが何であるか悟っていた。
そしてアイリスが手にしているチップこそ本来1つのレプリロイドであった彼女の片割れ、カーネルのメインメモリーであろう。
ゼロ「アイリス…お前まさか……」
アイリス「…私は彼を許せない…。かと言って今の私では彼を憎む事も出来ない!!だから…だから私は!!」
そう叫ぶとアイリスは手にしたチップ…。
ディザイアに倒されたカーネルの残骸より拾い上げたデータチップを自らの体内に取り入れようとする。
1人の男を憎むために自らイレギュラーとなる事を決意したのだ。
しかし…。
ゼロ「止めろアイリス!!」
取り入れようとする寸前、アイリスの手からカーネルのチップを奪うゼロ。
アイリス「っ、返して…返してゼロ!!お願い…返して!!」
ゼロ「ここでお前をイレギュラーにして…あいつに殺されたりしたら俺はそれこそカーネルに顔向け出来なくなる!!」
ただでさえ、あの戦いでカーネルを侮辱しているゼロだ。
アイリスをイレギュラー化させ、彼女が殺されたりしたらそれこそカーネルに合わせる顔がなくなってしまう。
アイリス「でも…兄さんが…兄さんがいなくなった私にはもう……」
片割れを失ったアイリスにはもうこの喪失感をどうすることも出来ない。
レプリフォースでも自分は裏切り者に認定されている。
もう彼女の居場所はないのだ。
ゼロ「だったら此処にいろ」
アイリス「え…?」
ゼロ「居場所なら此処にあるだろう。お前は今回の事件でイレギュラーハンターに大きな貢献をした。それに過去のイレイズ事件もあって、殆どのハンターがお前に好意的だ。爺に頼めば、ハンターのオペレーターとして籍を置くことも出来るはずだ」
アイリス「ゼロ…」
ゼロ「俺に守らせてくれアイリス…カーネルの代わりに、お前を守らせてくれ」
懇願するように言うゼロ。
大事な物を失うのは絶対に嫌だからだ。
ゼロ「(もう大事な物を目の前で失うのはごめんだ…)」
脳裏を過ぎるのは過去の大戦で大破した後輩。
あの時の悲しみと苦しみをもう味わいたくなかった。
アイリス「…ありがとう……ゼロ………」
弱々しく言う彼女をゼロは優しく、出来るだけ優しく抱き留めた。
彼女の温もりは暖かく、そして悲しかった。
上層部からイレギュラーハンターにデスフラワーに向かうようにと命令が来た。
これは事実上レプリフォースとの最終決戦を意味している。
ゼロ「…行ってくる。すまないアイリス」
アイリス「ゼロ…」
部屋を後にするゼロ。
主がいなくなった部屋でアイリスは胸の位置で手を組み、祈った。
アイリス「…生きて…帰ってきて……」
アイリスの祈りが届いたのかそうでないのかは誰にも分からない。
後書き
アイリスが生存してます。
やっぱり大事な存在を失う経験があるのとないのとでは対応が違いますね
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