リリカルなのは~優しき狂王~
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2ndA‘s編
第十話~闇の帳~
前書き
更新が途切れがちで申し訳ないです。
リアルの方でテストや実習などで中々時間が取れませんでした。
内容忘れている方がいるかもしれないので、簡単な説明としては――
1.過去にライが来る
2.事件に巻き込まれる
3.管理局と交渉する
4.ヴォルケンリッターと交渉する
5.夜天の書の管制人格と会話する、そして――
てな感じです。
では本編どうぞ
海鳴市・郊外の森
目を開ける前に、覚醒した意識が体の重さを認識する。次に感じるのは寒さと、冷えた所為で体の節々が発する痛み。そして最後に感じたのは、生身である顔に当たる草の感触と土の匂いと混ざった青臭さだった。
「ッ」
鈍さと重さを押し退けるように、ゆっくりとした動作でライは俯いた状態で倒れていた身体を動かした。
「マスター、お加減は?」
長時間、冬の寒さの中で気絶していたことから、凝り固まっていた身体を揉むようにして解し始めると、胸のペンダント――デバイスの蒼月から音声が発せられた。
「念話の使用を。ここは管理外せ――――」
高圧的な物言いをしそうになった時、ライはソレに気付く。
辺りが異様に静かで、そして海鳴市の市街の方から大きな魔力が猛っていることに。その魔力は、魔導師としては未熟なライにも感じられるレベルであり、その量は出鱈目であった。
「――何があった。手短に説明しろ」
夜天の書の彼女と夢で会っていた最後に起きた現象を思い出し、ライは身体を解すのを止め、魔力を感じる市街の方に足を向ける。そして移動を開始すると同時に、自分よりも状況を知っているであろう、相方に説明を求めた。
「マスターが倒れた後、ザフィーラ様はこの場をすぐに離れました」
(……加勢のためか)
蒼月の言葉で、自分が気絶する直前の問答を思い出す。彼の正直な反応を信じるのであれば、あの時別の場所で残りのヴォルケンリッターであるシグナムとヴィータは、未だ蒐集対象であるなのは達と戦闘をしていた筈だ。そして、ライを連れ去る、若しくは止めをさす事をしなかったのを考えると、自ずと答えは出る。
「その後、今向かっている方面からベルカ式隔絶型の結界を観測。そしてしばらく時間が経過し、今に至ります」
蒼月の報告を聞くまでもなく、嫌な感覚はライの中で大きくなっていく。報告が続かない事を確認すると、ライは足を動かす速度を上げた。
海鳴市・市街地
酷く濁った煙のような雲が空を覆っている。
その空は、大人に暗澹とした何かを連想させ、子供は雪が降るかもしれないという期待を抱かせる。
そして今、その場に存在する結界という名の空間には不安を更に大きくするように人の姿がなくなってしまっている。
魔法と言う非常識に弾き出された人々は知らない。ここで何が起きようとしているのか、そしてそれが何をもたらすのか。
「ハァ……ハァ………………クソ!」
そしてその騒動の中心に存在するのは、未だ年端もいかない子供達である。
市街の高層ビルの屋上。そこには、バリアジャケットを纏った四人の子供の姿がある。その内の三人は女の子と若い女性であり、その三人は気絶した状態で、屋上のコンクリートの床に転がっていた。最後の一人は男の子であり、自らの杖型のデバイスを支えに膝を付き肩で息をしている。
彼、クロノ・ハラオウンは気絶した二人の少女、なのはとフェイトとアルフを庇うような位置で、自分たちを見下ろす女性を見上げた。
「お前たちも、もう眠れ」
静かに、だが、よく響く声でそう告げる女性は、背に三対六翼の黒い翼を広げ飛んでいる。彼女こそ、先程までライが夢の中で会話していた相手であり、彼にとっての探し人であった夜天の書の管制融合騎である。
「……っ、今すぐ戦闘行動及び武装解除を行い投稿しろ!」
「それはできない。我が主はこの世界が悪い夢であってほしいと願った。私はそれを叶えるだけだ」
痛みに耐えながらの要求は、虚しい程簡単に拒否される。彼女からすれば、それはもう確定事項であり曲げることのできないものであるのだから。
その返答に歯噛みしながら、クロノはどうしてこうなったのかを思い出す。
彼は本当なら管理局所属の時空航行船アースラで、今回の事件に対処するための陣頭指揮を取るはずであった。しかし、その日の夜明けとほぼ同時に海鳴市の二箇所でヴォルケンリッターからの襲撃があったのだ。
一箇所は高町なのはの住む家であり、もう一箇所はクロノの身内である母親とフェイトが使い魔と共に住み込んでいるマンションである。
探していた対象からのいきなりの襲撃になのはとフェイト、そしてアルフは苦戦を強いられる。どうにか粘る三人であったのだが流石に部が悪く、何とか合流することはできたのだが、最終的に蒐集されることになってしまった。
そして、一旦戦闘が終了した頃、クロノが救援としてその場に現れる。
襲撃者側のシグナムとヴィータ、そして途中から参戦したザフィーラはこれ以上下手に時間をかけて戦闘を行うのは無駄と考え、逃走を開始しようとした時に“ソレ”は行動を開始した。
突然、ヴォルケンリッターとクロノとの中間地点に近い位置に夜天の書が姿を現したのだ。
姿を見せた夜天の書は、周囲に伝えるように脈動を始める。そのことに不快さを感じる間もなく、夜天の書の内側から這い出てくる蛇の群れで、その本は埋もれ一つの球形になる。
「待て!我らはまだ戦える!!」
急な出現に思考停止をしているクロノは、シグナムの必死な叫びに意識を引き戻される。
そこからの展開はまさに急転直下であった。
まず、その場にいる全ての魔導士を高度なバインドで捕縛、その後近くに潜んでいたシャマルが召喚され同じく捕縛される。
ヴォルケンリッターのメンバーはそのまま意識を落とされ、バインドではなく触手のような蔓に貼り付けにされる。
そして、舞台は整ったと言わんばかりに、その場に召喚されたのだ。
今代の夜天の書の主である八神はやてが。
状況について行けていないはやては、混乱するばかりであったがそれも彼女にとっての家族の姿を見るまでであった。その場を見ていたクロノはその時点で、彼女が夜天の書の主であることを察する。
結果だけ言えば、ヴォルケンリッターは蒐集され夜天の書は完成される。そしてその蒐集を目の前で見せられたはやては、絶望するように慟哭をあげる。それと共に溢れ出す彼女生来の魔力。それが暴風となり、世界も彼女も一変した。
元々貼られていた結界は拡張され、彼女の肉体は管制融合騎のものと同じ姿に変化する。
その非常識な魔力量と術式に、クロノは驚愕を隠せなかった。
彼の動揺が収まる前に、現れた管制融合騎はこの辺り一帯を押し流すように空間魔法を放つ。その攻撃から守るべき市民を守るために彼は魔力を全て使い込み、三人を守りきる。
そして、彼は彼女に対し、先ほどの投稿勧告を出したのであった。
「お前にも望む夢があるだろう。その夢を見せてやる」
感情を感じさせない声に背筋が寒くなる。しかし、自分の背後に守るべき三人がいることを意識して、自分の足に喝を入れた。
「夢は人が生きる目的であり願いだ。だけどそれは、自分自身で叶えるからこそ、叶える苦しみや困難を知るからこそ意味がある。一方的に与えられるだけの願いになんの意味がある!」
潔く啖呵を切ったが、それで自体が好転することはない。その証拠にクロノの足は身体をかろうじて支えているだけで、今もバリアジャケットの内側で震えている。
見た目通り満身創痍な彼にとって、しかしその言葉はどうしても口にしなければならないと、理屈ではなく感情が訴えてきた。
「……そうか」
ほんの少しだけ、本当に少しだけ悲しみの感情を滲ませた声が漏れる。生憎と今のクロノにそれを感じ取る余裕がなかったが。
どこかゆったりとした風に見える動作で、彼女は手のひらをクロノに向けてきた。
「穿て、ブラッディダガー」
静かに呟かれた言葉。それと共に名称通り、血のような色の苦無のような刃物が数十本出現し、一直線にクロノに向かって行く。
「クッ――ソ!!」
一瞬回避という選択肢が思い浮かぶが、下手に避けてしまうと後ろにいる三人に被害が及ぶと気付くと、次の行動は早かった。
先の空間攻撃魔法を防ぎ、ほぼ保有魔力の全てを消費したために、このままでは自分も含めこの場にいる人間は全員吹き飛ばされるだろう。
「なら!」
自分の内に無いのであれば、内以外から持ってこればいい。
一声吐き出すと同時にクロノはバリアジャケットを解除、そしてそれによって解けた魔力を再構成、捻り出すように魔力障壁を展開した。
(保ってくれ!)
内心で願いとも気合とも取れる言葉を呟きながら、彼は目前に迫る血染めの刃に目を向けた。
身体の芯は暑いのに、指先は酷く寒く、冷たく感じる。
(ああ、そうか)
集中力が増したせいか、ゆっくりと感じる時間の中でクロノの意識は納得した。自分は彼女たちを守りきったところでリタイアだ、と。
その考えに至ると、彼はこの事件で何かを咎めるのではなく、誰かを助けることを結果として事件を終えることに納得してしまっていた。
だから、この後の展開は彼にとって本当に埒外もいいところである。
「その覚悟と物事に対する姿勢は良いけど、もう少し視野を広く持ったほうがいい」
そんな言葉が聞こえると同時に、クロノは襟首を掴まれ引っ張られる感覚を覚える。
「え?」
間抜けな声が漏れる。そしてそれと同時に自分を支えていた足が呆気なく傾いていき、そのまま尻餅をついてしまった。その拍子になけなしの魔力で展開した障壁は霧散したが、それを認識できるほどクロノの思考はまともではない。
急に動いた視界にキョトンとする中、クロノの視界には灰銀の髪を持つ男性の後ろ姿が写りこんでくる。
「セットアップ」
「イエス マイ ロード」
短く呟かれる命令と応答の言葉。それと共に現れるのは、救いの声に応え、世界を超えた王。
その王、ライは両手でデバイスであるMVS状態の蒼月を掴むと、向かってくる血の刃に向け構えた。
「っ!」
踏み込むと同時に迫ってくる刃を切り散らす。否、正確には幾本かを切り散らすと、それによって生じた爆風で勢いが減衰した刃を逸らすように押し投げる。
そうして軌道が変化した刃は未だに向かってくる他の刃とぶつかり爆散する。そして新しく生み出された爆風を利用し、また同じことを繰り返していく。
傍から見れば曲芸どころか正気を疑われるような行動。
それをライはマルチタスクによる軌道計算と物体の位置把握、そして自前の反射神経を最大限活用することでやってみせた。
もう数えるのも億劫になるような回数の爆発が止むと、そこでは肩で息をしているライと、その光景を呆然と見上げる格好となっているクロノがいた。
(痛っ!………………負担が思ったよりも大きい)
この場所まで全力疾走をしてきた事と、今の迎撃で上がりきった呼吸を整えていると、ライの頭に痺れるような痛みと圧迫感が押し寄せてくる。
その痛みは、ライが先ほどの迎撃を行うことに使ったマルチタスクに原因があった。今回の迎撃はデバイスの補助なしでの使用だったのだが、その高速演算と情報処理が脳への負担が大き過ぎたのだ。
更に言えば、ライの肉体とリンカーコアは数時間前の蒐集により、少なくない負担を負っている。今現在はCの世界との繋がりを強固にし、魔力供給とそれによる損傷箇所の修復に当てている。もちろんその分の集合無意識の流入は増え、先程から誰とも知らない感情や思念が流れ込み始めているが。
走るような痛みを我慢するために臍をかみながら、ライは爆発によって生まれた煙の先に視線を向けた。
煙が晴れる。
暗澹たる色の空を背景に浮かぶのは、蛇に覆われた一冊の本とその担い手たる管制人格。その姿を見ると、何故かギアスに飲まれていた王の時代を思い出しライの胸中に少しだけ闇を落とし、眉を潜めた。
煙が晴れたことで向こうもこちらを視認したのか、管制人格の彼女もライの存在に気付く。正確には、自分の攻撃を迎撃したのがライであることに気付き、その顔に驚きの表情を溢す。
「あ、貴方は?」
ライの背後から呆然とした声が聞こえる。視線を向けることなく、ライは声の主であるクロノに向けて声を発した。
「退避を。後ろの四人を連れてここから離れて」
「待っ…………四人?」
静止の言葉を吐き出しきる前に、ライの言葉に違和感を持ったクロノは振り返る。するとそこには、屋上の出入り口付近に気絶したなのは、フェイト、アルフの手当てをしているリンディ・ハラオウンの姿があった。
「なんで……」
「グズグズする前に行動を起こせ。彼女たちは君が守るべき対象だろう」
クロノの疑問は自然と口から溢れるが、それがどの疑問に対してかはライも分からなかった。ここで疑問に答えてやれば、スムーズに事は運ぶのだろうがそんな暇はないとライは断じ発破をかける。
(リンディさん、後は頼みます)
視線を向けることなく、念話で語りかけるライ。確認したわけではないが、なんとなく彼女が頷きを返している姿を脳裏で幻視した。
クロノがリンディたちの元に移動し始めると同時に、ライは一歩を踏み出す。
その一歩は決意であり、ライにとっての覚悟でもあった。
「決着を着けよう。夜天の書が生み出す闇の歴史に」
その言葉は陳腐であった。
これまでの歴代の夜天の書の主と同じく、根拠のない確信と自身に満ちている言葉。
だが、それは諦める理由にはならない。なりえない。
「結末がなんであれ、確定した未来などない。そんな未来があるのであれば、人は今を生きなくなる。生きる意味がなくなる」
不確定であるが故に望んだ明日。そこには不安も恐怖も当然のように存在する。
しかし、そこから逃げることをライは選ばない。
「ならば、精一杯今を生きるために、存在しうる最良の結果を僕はたぐり寄せる」
そして新たな闇が生み出されるか、若しくはその闇を振り払う為の舞台の幕は上がる。
後書き
読了お疲れ様です。
次回から戦闘描写が始まるかもです。
最近、感想が全く書き込まれていないので、若干淋しいです。
以前、感想欄について書かせていただきましたが、さも自分の意見が当たり前のように反映されるような書き方をされた方がいたので注意として書いただけで、感想自体は作者にとってとてもありがたいものです。誤解された方、若しくは不快に感じた方は申し訳ありませんでした。
しかし図々しいかもしれませんが、感想は励みになるので書いてくれればありがたいです。
次回も更新頑張ります
ご意見・ご感想を心待ちにしております。
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