リリカルなのは~優しき狂王~
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2ndA‘s編
第九話~見え始めた全容~
前書き
更新遅れて本当にすいませんでした!
リアルが忙しいとは言え、構成内容に迷走しまくってこんなにも時間が空いてしまいました。
そんな中、作品の評価を確認するといつの間にか総合評価が三千を、そしてお気に入り登録が六百を超えていて本当に感激しましました!
これからもこの作品をよろしくお願いしますm(_ _)m
では本編どうぞ
海鳴市・郊外
どんなに悩み、どんなに葛藤を抱き立ち止まりそうになっても時間は進む。
それを実感するように、ライは登ってきた太陽の日差しに目を細めた。
(…………忘れてしまえれば、楽なのに)
脳裏に映るのは、やはり女性の泣き顔。自分がこの世界で初めて心の内に踏み込んだ女性。
何故、あそこまで彼女に対して踏み込んだのか自問する。
今じゃなくて、昨日を見ていると感じた。
引き返せる場所に立っていると感じた。
自分の前で、同じ悲劇を見たくないと感じた。
そして、何よりも自分に似ていると感じた。
「…………なんて……身勝手……」
今度は考えが言葉として漏れる。
どこか自嘲気味に唇を引き結び、彼は歩き始めた。
冬の日の出が遅いといっても人が活動を開始するにはまだ早い時間帯なのか、彼の周りには人の姿が見えない。
冷たく澄んだ空気が、痛みとして寒さをライの頬や耳に伝えてくる。その寒さを振り払うように、肩で風を切るようにして歩調を早めるライ。
そして、郊外の海沿いにある海に面した道路にまで来ると、突然その足を止めた。
「……」
ゆっくり振り返ると、そこには一匹の四足獣が朝の日差しを受けながらそこにいた。
(ザフィーラか)
いくら早朝といえども、その場所は人目につきやすいと感じたライはその足を近場にある海に面した林に向かう。
あっさりと背中を見せたことに、ザフィーラは一瞬躊躇うような仕草を見せるが、そんな反応を視界に収めているわけでもないライは、歩調が乱れることなく進んでいく。
これ以上は見失うと思ったのか、ザフィーラもライの向かった方に素直についていった。
そして林の中に都合よく開けた空間があった為に、そこでライは足を止め、再び自分の後ろをついてきた狼に相対しなおす。
「闇の書の守護騎士か?」
まず口火を切ったのはライであった。
その内容は質問というよりは確認であったが。
「正確には守護獣だ」
簡素な質問に簡素な応答。実にシンプルなやり取りであるが、それがお互いの思考の無駄を削ぎ落としていった。
「貴様は管理局の魔導師か?」
「魔導師であることは否定しないが、闇の書に関わっていると思われるある人物を探しているだけで、管理局は関係ない」
この回答は少々意外だったのか、ザフィーラの目が少しだけ細まった。
「こちらとしては、そちらに干渉する気はない。そちらもイレギュラーな存在にかまけている暇はないだろう?」
「……」
「こちらからの質問だ。白銀の長髪で赤い瞳の女性を知らないか?」
「!」
今度の反応はより顕著であった。その反応を見ただけで、ライは自分が探している女性がヴォルケンリッターの関係する人物であることを確定情報として認識する。
「……貴様の狙いはやはり闇の書か?」
「彼女と会えるのであれば、そうなるかもしれない」
ザフィーラは武人である。そしてヴォルケンリッターの中では精神的に冷静なものを持っている。しかし、交渉事になると話は別になってくる。
これまで道具として使ってこられた彼は、自己防衛として考えることを放棄していた時期がある。その為、戦闘中の駆け引きはともかく、会話での腹の探り合いは得意ではない彼は、ライの真意を読み取れずにいた。
「…………我らが主のことを知っていたのは何故だ?」
「……その女性から教えてもらった」
「嘘だな。奴がそんなに簡単に主の情報を渡すはずがない」
腹の探り合いができない自分を十分に理解したザフィーラは正面から、自分の考えをぶつける。事ここに至って、彼は下手に言葉を選ぶよりも堂々と疑問をぶつけることを選んだのだ。
「……僕にとっては、彼女に会うことが今の目的であって、君たちの主に危害を加える気は毛頭ない」
「それを信じろというのか?」
「そちらが察している通り、管理局にその事については一切喋っていない」
「……」
「ああ、自分は本当に交渉事には向いていない」とザフィーラが考え始めている中、ライの方も思考が行き詰まっていた。
(まいった。ザフィーラはあらゆる意味で交渉事に向いていない)
ザフィーラは良くも悪くも潔癖な性格だ。その為、どこまで喋ることが自分たちにとって損をしないか、どこまでを取引材料に使っていいのか分からなければ、貝のように口を噤んでしまうのだ。
例え、ライがどんなメリット、デメリットがあるのか一から説明したところで、自分たちにとって要注意人物からの言葉など、判断の要因になっても決定打にはならない。
要するに、ザフィーラは自分にとって有利な情報を相手から引き出すことは得意ではないが、相手に情報を渡すこともしないのである。
(厄介な)
「先ほどの返答がまだだったな。もう一度問う、何故貴様が我らの主を知っている?」
「…………夢で出会った彼女は言っていた、主を救って欲しいと」
愚直なまでのザフィーラの態度に珍しくライの方が先に折れた。
「名前を教えてもらわなければ、助けようもないだろう」
「……助けるとは?」
「それを確認するために彼女に会いたいんだ」
未だにライにとっては、今回の件は不透明な部分が多い。彼女は主を救って欲しいと言っていたが、事件を起こしているのは寧ろ彼女たちの方なのだ。
なので、ライにとって主を何から救うのか、そして彼女がCの世界に干渉してくるほどの問題とは何なのかをハッキリとさせたかった。
「そうか……いや、まて、ならば奴は自分の場所を教えることをして、主の情報など与えない」
「……っ」
言いくるめられると甘く見ていたが、彼らの仲間内の信頼は高くライの舌先三寸の嘘は通じなかった。その事に歯噛みすると、ライの視界が一瞬青白い光に染まる。
何事かと思いながらも、光の元に視線を向けると、そこには青いバリアジャケットを纏い、鍛えられた肉体と白銀の髪と耳を持つ男が立っていた。
「本当のことを喋る気がないのであれば、貴様はここで退場してもらう!」
腕に嵌められた手甲が彼の戦闘スタイルを如実に表し、それに相応しい構えを見せる。
ライはザフィーラが人型になれることは、内心で驚きはしても顔に出すようなことはしなかった。
(話がこんな形で拗れるなんて。シグナムさん達と敵対する気はないのに……)
正直な気持ちを内心で吐露しながら、ライは辺りを見回しながら逃走ルートを定めていこうとする。
「最後に質問がある」
「……」
時間稼ぎの為に少しでも会話を続けようと話しかけるが、帰ってくるのは無言。
構うものかと自分を鼓舞しながら、口を動かす。
「『夜天の書』……この言葉に聞き覚えは?」
「?…………っ」
構えを解くことはなかったが、性格が律儀なのであろう。ザフィーラは怪訝な表情を見せ、思案した後にどこか引っかかるような表情を見せた。
(忘れている?それとも認識できていないのか?)
内心で疑問が一つ増えたが、取り敢えず自分が逃走の為に身構えることはできたと割り切る。しかし、そこでライはその違和感に気付いた。
(…………排除すると言いながら、どうして彼はすぐにこちらに向かってこなかった?いや、そもそもどうして彼は最初から自分を拘束すると言う手段を選ばなかった?)
思考は一瞬、即座に答えは出た。
自分の胸、正確にはリンカーコアが存在する箇所への痛みという形で。
「な、に?」
胸に走る痛みと、襲ってくる虚脱感に膝を付きながらもライは“ソレ”に目を向けた。
「――腕?」
キチンと自分がその言葉を発音できているのかどうかも、今の彼には判断がつかなかったが自分の胸から伸びる腕を視認することは出来ていた。
その腕の手の先には銀色に輝く球体がある。感覚的なことではあるが、それをライは自分のリンカーコアであることに気付く。
「ま、ずっ!」
ライの呟きも虚しく、リンカーコアから夥しい量の魔力を持っていかれる。
その際のえも言われぬ喪失感に叫び声を上げそうになるが、その衝動すら活力にしライはその腕に自分の手を伸ばした。
「ギッ」
『「!」』
微細に震える手でその腕の手首を握り締めると、どこか驚いている気配が伝わってくるがそんなものを気にしている余裕すら今のライにはない。
無我夢中で手の握る力を上げる。今の状態でどれだけ力を出せることができたのかは分からなかったが、何かが外れるような手応えを感じた瞬間、胸から生える腕と身体に掛かる虚脱感は引いていった。
急に戻った感覚の安堵感から、ライはその場に倒れる。だが、意識を手放すことは唇を噛み締めることで何とか防いでいたが。
倒れ付した身体が休息を求めてくるが、その前に聴覚が草を踏みしめる音を脳に伝えてきた。
「……まさか、抵抗してくるとは」
驚きか、それとも感嘆かはわからなかったが、そんな言葉が聞こえてくる。
体調がもう少しマシであれば、悪態の一つでも返すところであったが確認すべき事項の方が先であった。
「………にげ……る、まえに……こたえ…ろ……」
「……」
ライのリンカーコアに干渉してきた方法は十中八九魔法である。その為、ここ最近は警戒を厳しくしている管理局は今回の魔力反応も観測しているはずだ。
なので、ザフィーラがここを迅速に離れる必要がある事を理解しているライは最後に言葉を吐き出す。
「……今回、接触したのは僕だけか?」
流暢に喋れたのは、自分にとってそれだけ重要なことであったからかどうかは、当人も分からなかったが、その質問は確かに目の前の武人の耳に届いた。
「……」
沈黙と細めた目からの視線しか帰ってくることはなかったが、それだけでライにとっては十分な回答となった。
そのザフィーラの反応を見届け、今度こそライは全身が訴えてくる疲労感に身をゆだねた。
???
重く感じる目蓋を開ける前から感じる既視感。その事に違和感を持たない自分にゾッとするが、その空間を視認するとそれも『そういうものである』と納得してしまう。
そこに広がるのは、以前来た湖を連想させる暗いどこか。その場所にライは浮くように立っていた。
「……」
以前来た時よりもハッキリとした感覚があることに疑問を持ちながらも、辺りを見回す。すると、今回はすぐそばに彼の探し人がいた。
「お前は……」
「……来たよ」
ライが現れたことに驚いたのか、それとも約束を守ったことに驚いたのかは定かではないが、彼の探し人である女性はその赤い目を見開く。
しかし、その驚きの表情に対してライの表情はどこか険しいものであった。
「……ハッキリさせたいことがある」
「……聞こう」
差し迫っていることに焦っているようなライの表情に、何か感じることがあったのか疑問を挟まずに彼女は先を促した。
ライは語る。この世界に来た経緯を、元の世界で彼女の声を聞いた事を。そしてこの世界に来てから何を経験したのかを。
冗談にも聞こえる話を黙って聴き続ける彼女は、話が進むに連れてその瞳に悲しみを浮かべる。その事に気付きながらもライは口を動かすのをやめなかった。
どのくらいたったのかは相変わらず分からない空間であったが、少なくない時間が流れライはここに至るまでの経緯を話し終える。
「……」
物事の進展が遅々として進んでいなかったことに対しての鬱憤も溜まっていたのか、全てを語り終えると気持ちが少し軽くなり、ちょっとした放心状態になる。
しかし、呆けていてはどうにもならないため、ライは自分の中の一番の疑問を解くところから開始した。
「貴女がヴォルケンリッターに関係のある存在であることは予測できる。その上で聞きたい。貴女は自らの主を“何”から救いたいのかを」
「……その問いの答えは簡単だ。主を“私”という存在から救って欲しい」
その言葉を理解するのに数秒を使った。
そして意味を理解し、いくつもの予測が湧き出てくるとそれに合わせる様にライの表情が歪んでいく。
「察しがいいのだな、お前は」
「っ!」
どこか儚げな笑みを浮かべながら、彼女はライを真っ直ぐに見据えながらそう言う。呑気に感じる彼女の言葉に噛み付きそうになるが、必死に押さえ込むようにして口から出そうになった言葉を飲み込んだ。
思い当たった。
理解が及んだ。
辻褄があった。
言葉などなんでもいい。ライにとっては今目の前にいる彼女とその主との関係が最悪の状態であり、そして彼女がそれを肯定してしまった事が重要なのである。
「貴女という存在……『夜天の書』そのものが主であるはやてを蝕んでいる?」
否定して欲しい予測はしかし、首肯という簡単な仕草を持って返される。
リンディから聞いたこの次元世界の管理局側が記録している闇の書に関する事件の概要、そして守護騎士であり本体のプログラムでありながら夜天の書と言う本当の名を失ってしまっているヴォルケンリッター、そしてその夜天の書に深く関わっているであろう彼女自身が望む主の救済。
ここまでの要素が揃ったが故にライがその考えに行き着くのは難しいことではなかった。
「……元来、夜天の書とはどんな存在なんですか?まさか、始めから世界を滅ぼすために造られた物ではないはずです」
「当たり前だ。元々あれは次元世界に存在する様々な魔法を記録するために生まれてきた。そして歴代の主の誰かが膨れ上がったその魔法の知識の漏洩を恐れ、セイフティーを組み込んだ。それが防衛プログラム」
その主も元々は完全な善意からそれを施したのだろう。
そのプログラムも最初は『防衛プログラム』という名称すらなく、主以外のアクセスを受け付けなくするというものでしかなかった。
自分の持つ知識の大きさと重みを十分に理解していたであろう、その主の行動は褒められる行為である。ある意味で間違っていなかったその主の間違いは、人の欲の深さを知らなかったことだ。
「夜天の書を生み出した主が亡くなり、長き時が流れた。その間に様々な人間が新たな主となり、多くの者の手から手へと渡っていくうちにそれは元来の目的から大きく逸れた」
悪意ある改変、更には記録した魔法の中に『無限転生』についての情報も含まれていたことにより、夜天の書の存在意義は大きく変わってしまった。
溜め込んだ魔法の術式と魔力は、夜天の書のページが全て埋まると世界を滅ぼすために破壊という結果を生み出し、そして次の主のいる世界へ渡る。それを幾度も繰り返すうちに、『夜天の書』という名前はいつの間にか『闇の書』という悪名にすり替えられてしまう存在にまでになる。
「それでも人は力を求めた。多くの者が自分なら大丈夫という根拠のない確信を抱き、そして死んでいった。幾度もそれを繰り返し、私や守護騎士達も心をすり減らしていった。そんな中、私たちは出会ったのだ」
ここまで淀みなく動いていた口が止まる。
それは自分がその事を語れば、それが汚れてしまうのではないかと言う彼女の恐れと躊躇。そんな彼女の気持ちを察したわけではないが、ライが彼女の言葉を引き継ぐ。
「今の主、八神はやてに出会った」
瞳に貯めた涙で頬を濡らす彼女には、その言葉に頷きで返すことしか出来なかった。
ここまでの話でライは今回の事件についての全体像をようやく掴むことができた。しかしその事に達成感はなく、寧ろ解決しなければならないハードルは上がる一方で頭を抱えそうになる。
(現状ではやてを救う方法は、彼女から夜天の書を破棄させること。だが、ネックとなるのは防衛プログラムの存在による外部からのアクセスの遮断と、ヴォルケンリッターの存在……それに……)
そこまで考えると、ライは目の前に居る彼女を覗い見た。
(知ってしまった以上は、彼女を切り捨てたくない)
それはライの本心であった。
誰かの為に必死になりつつも、自分という存在をどこか蔑ろにしようとする彼女の姿が黒髪でアメジスト色の瞳を持つ友達を連想させた。
(僕がいたこの時間軸からして未来の世界に彼女という存在はいなかった。でも、ヴォルケンリッターやはやてはいる。なら助ける方法は何がしか存在したはずだ)
自分が知り得るこれまでの情報と未来の情報から、必要となる要素を汲み取ろうとしているとふとした疑問が湧いてきた。
(ヴォルケンリッターのあの人たちが蒐集を行っているのは、過去の夜天の書が完成された時の記憶がないから…………なら、夜天の書の完成時にその場にいなかった?)
そのことについて、一瞬その部分の記憶が消去されているとも考えたが、それは自分自身の思考によって即座に否定される。
(あくまで守護騎士は夜天の書とその主を守る存在であり、何かを滅ぼす存在ではない。もし夜天の書の完成時にその場にいたのなら、あの人たちはどんな主であろうと助けようとするはずだ)
たかだか数ヶ月の付き合いで彼女たちを理解していると言うつもりのないライではあるが、少なくとも彼女たちがどの様な人柄であるのかぐらいは知っていると思いたかった。
ある意味でそれは一方的な信頼であるが、〈ライ/王〉が信じるに足ると認めた騎士であるからこその評価でもあった。
とにかく夜天の書完成時の状況も聞くために、目の前の彼女に再び視線を向ける。
しかし、ライが質問を口にすることはなかった。
口を開こうとする前に、どろりとしたような熱と蠢くような脈動がその空間全てに走ったのだ。
その生々しい感触に不快感がこみ上げてくるが、それをねじ伏せライは彼女に問いただす。
「これは――」
――なんだ、と続けようとしたがその言葉を飲み込んでしまう。
目の前の彼女は夜空を見上げるように顎を上げ、そして先ほどとは違い諦め切った表情をしていたのだから。
「……そうか、ここまでなのだな」
その言葉と共にライの視界は白く塗りつぶされた。
後書き
はい、中途半端かつ、急転直下の最新話でした。
実は、プロット段階ではもう一度リンディと接触すると言う展開もあったのですが、それは泣く泣く削りました。
この辺りの展開は本当に悩みました。今回ライはあくまで中庸を貫きたかったので、各陣営とのやりとりを考えるのは本当に大変です。
では、話も終盤に向けて頑張っていこうと思います。
ご意見・ご感想を心よりお待ちしております。
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