夜這い
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第二章
第二章
しかもかなり好意的であった。真魚は確かに暴走しているがそれでも悪い娘ではない。そして自分の息子のことを何処までも一途に想ってくれている。だからいいとしているのだ。
「だからよ。もう思い切って」
「はい、思い切って」
「何をしでかすのよ、今度は」
「夜這いよ」
また右手を力瘤にしての言葉だった。
「もうね。それで行くわ」
「夜這いってあんた」
「また何言ってるのよ」
彼女の今の言葉を聞いてまた呆れる面々であった。
「あのね、夜這いって何時の時代の話よ」
「そもそも何よ、女の子が夜這い!?」
「女だって夜這いはするわよ」
だが真魚はこう言って引かない。
「昔からね。男の子だけじゃないわ」
「だからって言ってあんたがやっていいって訳はないでしょ」
「本当に何考えてるのよ」
「私は本気よ」
真魚は最早周りを見ていなかった。もっともそれは最初からだが。
「もう決めたから」
「少しは人の話聞いたら?」
「っていうかあんたの耳どういう構造してるのよ」
友人達はここでまた呆れた声で真魚に対して言うのだった。表情もそうしたものになっている。
「暴走ばかりして」
「思い込んだら一途なのもいいけれど」
「真実一路よ」
しかし真魚は変わらない。それも全くだった。
「あくまでね。やってやるわよ」
「やれやれ。わかってたけれど」
「やっぱりそうなるのね」
皆の声は呆れていたがそれでもそこには暖かい笑みがあった。
「じゃあいいわ。夜這いでも何でもしなさい」
「けれど。いいわね」
「わかってるわ。ゲットしなさいでしょ」
「そうよ」
「それしかないわ」
やはり皆の言いたいことはそれだった。それしかなかった。
「じゃあ。ゲットしなさい」
「何があってもね」
「ええ、今度こそ絶対に」
真魚が燃え上がる。確かにその背中に激しい紅く燃え上がるものを見せていた。
「仙一君。ゲットしてみせるわ」
目も燃え上がっていた。まさに彼女は今燃える女になっていた。そうしてその燃える心のまま。その夜のうちに彼の家にやって来たのであった。
「あっ、真魚ちゃん」
「はい、お母さん」
家に着くと仙一の母親が出迎えてきた。寝巻き姿で玄関に立っていた。そうしてそのうえで彼女を出迎えてきたのである。
「お邪魔します」
「仙一の部屋だけれどね」
「何処ですか?」
「案内してあげるわ」
何とここまで協力的な彼の母だった。彼女のことがそこまでわかっているということだがそれでもこれはかなりのものだった。まず有り得ないレベルだ。
「まずはあがって」
「すいません」
「いいのよ」
母親は真魚に優しい笑みを浮かべて返すのだった。見ればその顔は真魚に非常に似ている。顔立ちだけでなく表情まで実にそっくりだった。
「だってね。私もあれなのよ」
「お母さんも?」
「仙一のあの鈍感さには手を焼いているのよ」
言いながら今度は苦い顔になるのだった。表情もかなり豊かである。
「本当にね」
「そうなんですかって。そうですよね」
「それは真魚ちゃんが一番よくわかってることよね」
「はい」
母親の言葉に確かに、そして残念そうな顔で頷いて答えるのだった。
「本当に。今までかなりアタックしてますけれど」
「百回目だったわよね。この前で」
「確か。それ位です」
真魚は記憶を辿ったうえで返す。考えてみればそれ位は確かにある。しかしそれでももっと多いだろうとも思うのだった。実際の数はどれだけあるのか本人も把握しきれていないところがあった。
「けれど全然」
「そんな子にはね。徹底的にやるのよ」
「徹底的にですか」
「そうよ」
強い声で真魚に対して言い切ってきた。
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