夜這い
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第一章
第一章
夜這い
何度告白しても。それでも駄目だった。
「やれやれよね」
一人の女の子が学校帰りの喫茶店の中でぼやいていた。木造の壁に白い床、それと同じ色の白いテーブルに椅子が実に洒落ている。何処か大人の雰囲気を醸し出している店だった。
「仙一君全然気付いてくれないのよね」
「あら、今日も駄目だったの」
「今回も」
彼女と一緒にいる制服の女の子達が述べてきた。見れば彼女達は店の円卓に座ってそのうえで囲むようにして座ってそこで話をしていた。
「真魚も努力してるのに」
「相手は手強いってやつ?」
「手強くはないと思うのよ」
その女の子河合真魚は困った目をして彼女達に答えた。髪は黒く奇麗なその髪を長く伸ばしストレートにしている。顔は白くやや細長い。目は吊り目でも垂れ目でもなく普通の感じだが大きく目の光がかなり穏やかで優しい。背は結構高くまだ幼さの残る顔立ちとはかなり対称的になっている。そしてグレーのブレザーと青にくすんだ赤を基調としたタートンチェックのミニスカートの制服からのぞいている白い足がかなり眩しい。
「実際ね」
「けれど全敗してるじゃない」
「今までのところ」
「それはあれよ」
真魚は苦い顔になってまた皆に話してきた。
「仙一君が気付いてくれないのよ」
「そうなの」
「それで駄目なのね」
「そういうこと。今までそれで全部玉砕」
言ってさらに苦い顔を皆に見せるのだった。
「告白もラブレターもメールも電話も全部駄目だったわ」
「しかもそれ全部何回もやってるわよね」
「今日は体当たりの告白だったわよね」
「そうよ。それだったのよ」
また随分と身体を張っているのがわかる。それがいいか悪いかはまた別の次元に置いてとにかく真魚が真剣なのがよくわかる。
「いきなりぶつかってそれで好きですって大声で言ったけれど」
「で、いつも通りと」
「哀れ玉砕」
周りの女の子達は肩を竦めさせてあえて茶化して述べてきたのだった。
「これで何度目かしら、玉砕」
「もう横浜ベイスターズの負けた数より多いんじゃないの?」
「残念だけれどそうよ」
真魚自身もそれは否定できなかった。
「本当に。百回は失敗してるわ」
「やれやれ。仙一君が鈍いのもあれだけれど」
「真魚も随分と続くわね、本当に」
「好きとなったらもう一直線よ」
真魚はここで右手を力瘤にしてそのうえで断言するのだった。
「それが私の絶対のポリシーなんだから」
「つまり突撃一直線ね」
「それしかないってわけね」
「そうよ。しかも何度敗れてもその都度立ち上がって」
殆ど何かの漫画の主人公の乗りである。右手を力瘤にして力説しているのでそれが余計にそう見える。とにかく彼女が一途なのがわかる。
「最後には勝つのよ」
「勝つって。違うでしょ」
「彼氏ゲットでしょ、この場合は」
「ドラゴンボールじゃないんだから」
皆呆れてそうしたことにかけてはあまりにも有名なその漫画のことも話に出してきた。
「勝つって何に勝つのよ」
「苦難に勝つのよ」
やはり真魚は何か恋愛とは特別なものを見ていた。
「絶対にね」
「それはわかったわ」
「とりあえずね」
友人達もとりあえずその言葉は受けた。しかしそれでもだった。
「けれどよ。それでもよ」
「今日も失敗したじゃない」
「それでどうするの?」
あらためてそのことを真魚に対して話すのであった。皆で。
「今度は」
「また告白?それともメール?」
「どれで攻めるの?」
「もうね。あちらの御両親はわかってくれてるし」
普通百回も告白すれば相手の両親もそのことがわかる。従って真魚も仙一の両親によく知られているようになっているのである。そういうことだった。
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