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美味しいオムライス

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第二章


第二章

「美味しいことは美味しいけれど最近心に残る美味しさがないような」
「グルメ漫画じゃないんだから」
 こう言って亜紀を宥める。
「それは無理よ」
「そうかしら」
「どっかの柄の悪いジャーナリストが営業妨害をしたり暴言吐きまくったりやりたい放題やって権力濫用して美味しいものばかりただで食べている漫画とは違うのよ」
 彼女はその漫画が大嫌いなのだ。だから言う。
「あんな野蛮人ばかり出ている漫画とはね」
「野蛮人って」
「だってそうじゃない」
 口を尖らせて言い返す。
「実際にやってることって。無茶苦茶じゃない」
「まあそれはそうだけれど」
 亜紀もそれに頷く。
「他にも偉そうなことばかり言う陶芸家も出てるわね」
「あいつに食べ物を食べる資格はないわ」
 こうまで断言する。
「食べ物を投げるなんてね」
「人間として許されることじゃないわ」
「そういうことよ。じゃあわかるわよね」
「そうね。あの漫画は最低ね」
 亜紀もその漫画は嫌いだから言えた。
「日本の悪口ばかりだし」
「あの上から目線で自分は一切非を認めない態度も」 
 何から何まで最悪なのだった。
「全部嫌い。そんなどうしようもない漫画とは違うのよ」
「違うのね」
「あれは文明がわかっていない野蛮人の舌」
 かなり罵倒めいてはいた。
「そういうのとは違うのよ。美味しいものはね」
「美味しいものは」
「素直に美味しいじゃない。その時の気持ちもあるし」
「成程」
「わかったら今はこのおうどんを食べましょう」
 話はうどんに向かった。
「今はね」
「そうね。それにしてもあの漫画の連中がこのお店に来たらどうなるかしら」
「速攻で携帯で警察とかどっかの他のマスコミに通報してやるわ」
 本気だった。漫画相手だが。
「新聞記者が権力乱用して警官まで抱き込んで営業妨害してるってね」」
「営業妨害ね」
「あいつのやってることってそのまま営業妨害じゃない」
 ジャーナリストだから何をしても許されるというわけではないのだ。これがわかっていない人間が非常に多いのだが。腐敗した権力の特徴でもある。
「だからよ。通報してやって」
「そうしたら」
「ある週刊誌にでかでかと載るわよ。『T新聞のジャーナリストYとTの素晴らしき取材』とかね。これであいつは首よ」
「首になるかしら」
「少なくともネットでは祭りね」
 これは確実だった。
「今はマスコミだけじゃないんだから」
「昔は違ったのね」
「美味しいものだってマスコミだけじゃここまでわからなかったわよ」
 こうも言う。
「ネットで調べないとね」
「そうね。それはね」
「このおうどんだってね」
「そうね」
 一応はそれに頷く。これでうどん屋での話は終わった。それから暫くして。亜紀が仕事で取引先の会社に行っていると。そこである男と出会ったのだった。
「はじめまして」
 背が低く髪の毛の薄い男だった。鼻は低く目元も緩い。しかも歳は喰っていてスーツに何か地味だ。所謂不細工と言ってもいい外見の男が出て来たのだった。
「泉水と申します」
「泉水さんですか」
「はい、今回からそちらの担当になりまして」
 にこにこと答える。その顔もまたあまりいいものではなかった。
「よろしく御願いします」
「はい。若槻と申します」
 亜紀も彼に応えて自分の名を名乗った。
「これから宜しく御願いします」
「はい、どうぞ宜しく」
 まずは静かな挨拶からだった。それから仕事の話になる。まずは当たり障りのない仕事の話ではじまってそれで終わった。仕事が終わると。亜紀は自分の会社に戻った。するとこの前うどん屋で話をしていたあの女友達が彼女に声をかけてきた。見れば亜紀と同じピンクのスカートにベストの制服を着ている。しかしそれを着るそれぞれの印象は全く違っていた。同じ服を着ているとは到底思えない程であった。
 
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