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Ball Driver

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第十五話 両立

第十五話


「夏公演がひとまず終わって、基礎トレーニングを今まで続けてきたけど、今日から文化祭公演に向けての練習を始めようと思う」
「「「はい!」」」

紗理奈の言葉に、演劇部員は大きな声で返事をする。部員全員に、紗理奈が書いた脚本の冊子が手渡されていく。部長の紗理奈は脚本から監督までを担当する、スーパー部長だ。

(これ……結構長いぞ?こんなのを、野球部の練習もこなしながら1人で書き上げたのかよ)

権城はパラパラと本をめくりながら目を丸くした。何故かフィジカルトレーニング多目の演劇部と野球部を掛け持ちしていると、毎日体を鍛えているようなもので、それなりに疲れる。
加えて、紗理奈は野球部でも新チームの主将として、練習メニューを考えていた。にも関わらずこんな脚本を書き上げるとは、紗理奈のキャパシティには恐れ入る。

「まずはこの本を黙読すること」
「「「はい!」」」

権城も皆にならって、紗理奈の書いた本を読む。だいたいのあらすじは……
故郷を離れた少年が、旅を経て帰ってきて、故郷の因習に対しての抵抗を開始する……

(……なーんかどっかで聞いた事あるような話……)

権城の首筋に汗が垂れた。
これはもしかして……

「みんな、読んで分かったかと思うけど、このホンは、島に帰ってきて甲子園を目指すなどという酔狂な男……権城君をイメージして書いたものだ」
「ブッ」

隠す事もせず言い切った紗理奈に、権城は吹き出した。何故か周囲は、パチパチと拍手を送る。

「という事は、この話は権城さんの為の話ですね」

ジャガーが言うと、紗理奈はニッコリ微笑んだ。

「まぁねぇ。モデルになった人がやるのが、一番イメージは出ると思うけど」
「権城さんの出世作にしないとですね」

姿までもがその気になっていて、権城は焦った。非常に焦った。

「いやいやいやいやちょっと待って下さいよ。主役?もしかして俺主役っすか?さすがにそれはまだまだ荷が重いですって」

紗理奈にシゴかれて、権城も一応演技の練習などはしているが、それでも中等科のホープ姿や、紗理奈やジャガーに比べるとまだまだ下手くそなのは確かである。いきなり主役などと言われて、焦らないはずがない。

「えー、でも権城さん、7月公演では出たそうにしてたじゃないですか」
「いや、でもな、その、順序ってものがあるだろ」

ジャガーの言う通り、7月公演で照明係を担当していた権城は、その会場の盛り上がりに、自分も役者として参加したかったとの思いを強くしていた。しかし、役が欲しいと言っても、せいぜい「印象に残る脇役」くらいで良いと思っていた。主役としてスポットライトを当てて欲しいなどとはとても思っていなかった。

「もちろん、まだ権城君に決めた訳じゃないよ。主役の座はキッチリ、競争で勝ち取ってもらわないと。私から与える事はないから。余計な心配は無用だよ」

紗理奈は紗理奈で、これは勝手に台本のモデルにしておきながらも、結構辛辣だった。こういう風に言われると、「は?俺が主役じゃないの?」と思ってしまうのが権城だった。

「とにかく、色んな役になる事を想定してホンを読んどくように!それじゃ発声練習行くよ!」
「「「ハイ!」」」

一同は屋上へと駆け出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



ブン!
ブン!

夜の中庭では、風を切る音が聞こえてくる。
毎日毎日この音は聞こえていて、南十字学園の寮生の中では少し話題になっている。
権城の毎日の素振りは、一時間以上に及ぶ。

「励んでるね」
「あ、キャプテン」

権城の所に紗理奈がやってきた。
紗理奈も都内出身の寮生である。

「明日から野球部の練習に復帰して良いよ。監督もそう言ったし」
「思ったより早かったっすね。雅の奴、結構重症だったんでしょ?」
「まぁ、君にも早く帰って来てもらわないと困るし、あの人も困った人だったのは確かだから。情状酌量って所かな」

話しながらでも、権城はバットを振り続ける。
紗理奈は近くのベンチに腰掛け、その様子を見つめる。

「よく頑張るんだな、君は」
「まぁ、好きな事ですからね」
「だとしても、中々できる事じゃないよ」
「キャプテンこそ、何で部長とキャプテン掛け持ちなんてしてられるんですか?」
「……両方好きだからかな」
「じゃ、俺と同じじゃないっすか」

2人は声を上げて笑った。

「野球部でも期待株、演劇部でも主役候補」
「後半には自信はありませんけど」
「いーや、君ならできる。両立期待してるよ。」
「キャプテンじゃあるまいし」
「私にできるから、君にだってできるんだよ」
「それは無茶苦茶な理屈ですよ」

権城のバットが空を切り裂き続ける。
夏の夜空がその上には広がっていた。







 
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