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魔法使いの知らないソラ

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第三章 兄弟の真実編
  第三話 兄妹・約束と絆

<PM22:00>

話しが終わり、紗智たちが家に帰った。

最終的に、護河奈々は翔の家に居候することになった。

奈々の通う中学校は現在、自由登校期間となっており、卒業式前には一旦戻るが、それまでの間は翔の家でお世話になることととなった。


――――――そしてその日の夜、翔とルチアは夜の森を歩いていた。

奈々には、ルチアの家が遠いから家まで送ると言うことにしておいた。

帰りが遅くなったら、寄り道してたと言い訳ならどうとでもなる。

嘘をつくことへの罪悪感があったが、守るためと言う言い訳で罪悪感を包んだ。

翔とルチアが向かうのは、灯火町の外れにある広く深い森の奥にある洋館‥‥‥魔法使い対策本部の基地である。

今日はそこで、この町に現れた三人の魔法使いのことについての話しがある。

今までの魔法使いでもっとも強力な力を持つとされ、準備は十二分に行わなければいけない。

他にも色々と聞くことがあるらしく、翔とルチアは胸騒ぎと不安を胸に洋館に向かった。

そして洋館の三階に辿りつき、翔はゆっくりと扉を開けた。


「失礼します。 相良翔とルチア=ダルクです」

「お二人共、待ってましたよ」


童話の世界に入ったかのような古き良き西洋の雰囲気漂う部屋の奥に、淡く金髪の入った首まで伸びた髪にエメラルド色の瞳をした女性――――――斑鳩 瞳がいた。

彼女以外にも、四人の男女がいた。

翔とルチアと同い年くらいの容姿の四人は翔を見るやいなや、こちらに向かって走ってきた。


「皆‥‥‥久しぶり」


懐かしさ、再会の嬉しさが翔の表情を柔らかく笑顔にする。

なぜなら彼らは、相良翔の古い友人だからだ。

一人は若干白が混ざった黒い髪。

茶色のライダースジャケットに青いジーパンを着た、藍色の瞳の翔と同じくらいの身長の少年。

相良翔と同じ孤児院で育った相良翔の親友――――――『|朝我 (ともがれい)』。

一人はラベンダー色のロング・三つ編みカチューシャサイドアップ。

白い絹とレースをふんだんにあしらった衣服を身に纏っている、蒼く澄んだ瞳の相良翔より少し低い身長の少女。

朝我と同じく孤児院で育った相良翔の親友――――――『|皇海(すかい) |涼香(りょうか)』。


「四年半ぶりくらいだな。 やっぱり翔も、魔法使いになってたんだな」

「ああ。 でもまさか、こんな形で再会するなんてな」


朝我の声は、四年半前‥‥‥孤児院にいた頃よりも大人びて、低い声になっていた。

学校で、静香が言っていた別の学校にいる魔法使いの一人だろう。

朝我は連れの少女を翔達に紹介する。


「こいつは俺のパートナーの『|喜多川(きたがわ) |結衣(ゆい)』。 俺たちと同じ一年生だ」


紅葉色の長いストレートの髪。

青いボタンなしの制服を羽織り、中の白いワイシャツからは赤いネクタイが見える。

白と青の縦ストライプの太ももの半分程度の丈しかない短いスカートの姿は恐らく朝我のいる学園の制服なのだろう。

鋭く真っ直ぐな薄緑の瞳は無表情だとまるでこちらを睨みつけているようだ。

そんな彼女――――――喜多川結衣は翔とルチアを見回すと警戒している様子で翔を睨みつける。


「え‥‥‥あ、えと‥‥‥相良翔です。 朝我とは同じ孤児院出身なんだ」

「‥‥‥それはよかった」


そう言うとふぅ‥‥‥と一息ついて警戒を解いた。

それに釣られたように翔とルチアも安堵の息を漏らすと朝我がバツが悪そうに頭を下げて謝罪する。


「悪いな。 こいつはちょっと事情持ちなんだ」

「構わないさ。 涼香姉さんもお久しぶり」


翔は話題を変え、次に翔は同じ孤児院で育った二つ年上の少女、皇海涼香に声をかけた。

彼女は孤児院で最年長の人で、翔や朝我は姉さんと呼んでいる。

彼女は翔とルチアを見てペコリと頭を下げてから挨拶をする。


「皇海涼香です。 弟君たちと同じように孤児院出身です。 弟君が元気そうで良かった」

「大丈夫だって‥‥‥全く、姉さんは相変わらずみたいだな」


心配そうな表情で翔の顔をペタペタと触って確認する涼香に翔と朝我はわかっていたように苦笑いしながら受け入れていた。

ルチアと結衣はどこかイライラしたような表情で翔と朝我をジト目で睨む。

その視線を感じ取った翔と朝我はビクッと反応すると涼香の手を離し、涼香のパートナーと思わしき少年に視線を移す。

どう見ても翔たちより歳下‥‥‥恐らく翔の義妹である護河奈々と同い年くらいの雰囲気の少年だった。

若草色の髪に白と緑のジャケットに、黒いジーパンを履いている。

瞳は外人のように細めで、肌も日本人よりも白っぽい‥‥‥フランス人と言うイメージが強い雰囲気。

だが、彼から発せられたのは完璧なまでの日本語だった。


「初めまして。 僕は涼香姉さんの義弟の『ヴァン=皇海』です。 よろしくお願いします」


後輩らしく、礼儀正しい立ち姿勢に会釈をすると翔は苦笑いしながら言う。


「そんな堅苦しくしなくていいさ。 俺たちは互いに同じ目的を持ってる仲間だ。 仲間に必要以上の礼儀はいらないさ」

「は‥‥‥はい」


ヴァンは翔を見るめると、小さく頷いた。

まだ慣れないだろうけれど、時間がたてば‥‥‥本当の意味で仲間になるだろう。

そう思いながら、翔もルチアを紹介する。


「彼女は“俺の学校の同級生”のルチア=ダルクだ」

「‥‥‥ふーん」


紹介すると、ルチアは勢いよく右足を上げ、そのまま翔のつま先にかかとを踏みつける。

更にグリグリと踏むと、翔は激痛のあまり声にならない悲鳴を上げる。


「ぐあぅう!? な、何するんだルチア!?」

「別に‥‥‥足にゴミがついてたのよ」

「ついてないだろ‥‥‥って、そろそろ足を離せよ!」

「‥‥‥ふんッ」


仕方ないように足を離すとルチアは頬を膨らませて腕を組み、いかにも怒っていると表現しながら翔に背を向けた。

訳のわからない翔は頭にはてなマークを浮かべながらルチアをなだめようとするが、ルチアはフンスカしながら翔に顔を向けようとしない。

それを微笑ましく眺める朝我や涼香達。

気づけば周囲には穏やかな空気が流れていたのだった――――――。



                  ***





しばらくして井上静香も到着し、縦に長いテーブルに全員が囲うように座ると、斑鳩瞳が全員に向けて会議を始める。


「今回の会議では、現在までに入ったこの事件の犯人の三名の情報を皆さんに報告します。 現在、この三名は二人と一人と、二手に別れて行動をしています。 なのでこちらも半分に戦力を分けて行動させてもらいます」


全員が同時に頷くと静香が立ち上がり、今回の作戦チームの発表をする。


「Aチームに、ルチア=ダルク、井上静香、喜多川結衣。 Bチームに、朝我零、ヴァン=皇海、相良翔でです。 皇海涼香さんは能力的に考えて、状況に応じて動いてもらいます」

「分かりました」


チーム分けが終わると静香は今までに入手っできた情報を話した。


「今回の敵の名前をまず説明します。黄色い髪の女性の名前は『|不知火(しらぬい) |都姫(みやび)』。黒い髪の女性は『|澄野(すみの) クロエ』。 そしてリーダーの男性が『|冷羅魏(つめらぎ) |氷華(ひょうか)』‥‥‥以上の三名です。 能力は不知火から話します」


この時、静香が人を初めて呼び捨てにしたところを翔とルチアは見た。

それは恐らく、さん付けで呼ぶ程の価値がないのだと判断したのだろう。

それほど彼女の心は冷静に見えて、荒れているのだろう。

そんなことを思いながら翔とルチアは静香の説明を聞く。


「不知火の能力は『炎』を使用した魔法能力です。 放火魔の犯人と考えて間違いないです。 その炎は水を使う魔法使いが応戦したのですが――――――消えなかったそうです」

「消えない炎‥‥‥ですか?」


朝我の質問に静香は頷く。

朝我が気になっているのは恐らく、その炎の性質についてだろう。

例え水で消えないにしても、もしかしたら炎の火力が高すぎて水が蒸発されただけなのではないだろうかと言う予想もあったからだろう。

だが、消えない炎と言うことは水を与えても消えることはないと言うことだ。

その確認を終えたところで、静香は再び説明をする。


「不知火と共に行動しているのが澄野です。 澄野の能力は『影』を使う魔法です。 影を具現化させて自分の好きなように操れる‥‥‥と言うものだそうです」


物体と光があれば必ず生まれる、影。

それを使いこなすのが澄野の能力。

ルチアの使う、闇に近い類似しているタイプだろう。

それを察したのだろう、ルチアの瞳がナイフのように鋭くなる。

既に、彼女との戦いをイメージしているのだろう。

そして最後に、リーダー格の男性である冷羅魏の説明をする。


「冷羅魏‥‥‥彼が一番の強敵です。 能力は『凍結』です。 氷と言う能力ではなく、凍結です」


つまり、氷を発生させる能力ではなく、氷のように凍結状態に変換させる能力になる。

どこまで凍結させられるのかは実戦してみないとわからないだろう。


「一番強力なこの相手には、Bチームの翔さん達に任せます」

「はい。 分かりました」


男女別れて戦うことになるのははっきりした。

恐らく今までより激しい戦いになるだろう。


「大丈夫です。 いざとなれば涼香さんも支援に周ります。 私達は一人ではありません」


静香の力強い言葉に、全員怯えることなく笑顔でいた。

それは、彼らが彼らを信じているからだ。

様々な過去を持つ魔法使い同士、互いに理解し合うのは難しい。

だけど、繋がりを持ち、お互いを信じることが出来る。

そして、相良翔、朝我零、皇海涼香、この三人には友情のほかに“約束”と言う大切な絆がある。

その約束こそ、どんなに離れていようと、時が経とうと忘れない絆となる。

四年以上会えなかった彼らだが、絆は確かにあった。

そしてそんな彼らを信じることが出来る少女達がついて来て、このメンバーは互いを信じることができた。


「では準備が整い次第、各自指定の位置に移動してください」


こうして会議は終わり、チームに分かれて会話が始まる。



                  ***




《AチームSide》


ルチア達は小さく丸いテーブルを囲うように集まると、作戦について話す。

主な会話の中心は静香がする。


「私達は女性二人を相手にします。 1VS2にして行けばいいと思いますが、相手は複数を相手にしている経験があります。 恐らく複数が相手でも臆せずに戦えるでしょう。 ですから人数は大きな問題にならないと考え、私達も全力で行きましょう」


静香の言葉に2人は大きく返事をしてルチアが話す。


「私は一人でクロエを相手します。 元々私の魔法は集団戦には向きませんから」


ルチアの武器は近接戦闘が主となっている。

もちろん中距離からの魔法攻撃も可能だが、詠唱に時間がかかるため、武器のことも考えると近接戦闘となってします。

動きを考えると、サポートも邪魔になるかもしれないため、結局は1VS1が一番いいのだ。

静香もそれを理解しているため、仕方なく頷いてしまう。


「本当はあなた一人で戦わせるのは厳しいですが、私達では邪魔になるでしょう」

「すみません。 ですが、必ず勝ちます」

「ええ。 この町のためにも‥‥‥必ず」


話が終わると、静香は結衣の方を向いて話をする。


「結衣さん。 あなたの力も必要です。 私一人では辛いですから、期待してますよ」

「は、はい‥‥‥こちらこそ」


そう言って二人は握手をする。

結衣が人見知りのタイプなのは、静香もルチアも理解した。

だからこそ、そんな彼女と確かな絆を生むためにこちらから距離を詰めた。

これで少しでも変化があればいいなと言う願いもあった。

誰も失わず、必ず勝つ。

その願いだけは、誰もが一つ同じ願いであるのだった――――――。



                  ***




《BチームSide》


「まさかこのメンバーになるとは‥‥‥」


翔はBチームの二人と涼香を含めた4人で会話をしていた。

主な作戦も、近接型ばかりの全員は特に考える必要はないのだ。

だから翔たちは、この場所で絆を深めようと考えた。


「ヴァン。 互いに助け合おう 。俺がお前を助けて、お前が俺たちを助けるんだ」

「はい‥‥‥頑張ります」

「ああ。 期待してる」


翔はそう言ってヴァンの右肩をポンと叩く。

緊張が、少しでも解れてくれればなと言う思いもあった。

そう考えていると、朝我が翔と涼香に向かってある話をした。


「翔、姉さん。 覚えてるよな? 約束」

「ああ。 当然だ」
 
「大切な約束だよね」


そう。翔、零、涼香の三人が絆を固く持っているのは、この約束があるからだ。

それは‥‥‥孤児院と言う世界しか知らなかった彼らの約束。

――――――いつか、世界の全てを見る。

つまり、世界旅行である。


「高校卒業したら、全員で行こうと思ってるんだけど、どうだ?」

「どうだろな‥‥‥俺はまず、義妹の家族と色々と話さないとだからさ」

「私は来年で卒業だから、先に準備しちゃうかな」


約束は叶えたい。

だが、互いに様々な事情があるため、叶えづらいものとなっている。

これが、大人になっていくと言うことなのだろうかと‥‥‥どこか寂しく感じる。

だが、翔はそれでも信じていた。


「大丈夫だ。 どんなことがあっても、俺たちは約束したんだ。 あの日‥‥‥ずっと夢を見て、約束してあと数年で叶うかもしれないんだ。 だったら、頑張れる‥‥‥違うか?」

「‥‥‥ああ」

「ええ、もちろん」


そして彼らは再び、絆を確かめ、約束を誓う。

いつか大人になった時、必ず世界を見る。

だからこそ、今回は負けるわけにはいかない。

守りたいもの、叶えたい夢、それらがあるからこそ、負けられない。

そう誓い、彼らは夜のソラを出る。




――――――全てが始まるのは、日付変更AM0:00――――――

 
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