少年と女神の物語
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第百一話
前書き
注意
今回の話にも、作者による神話の独自解釈が多大に含まれています。
では、本編へどうぞ!
俺がブリューナクをつきだすと、ヒルコは体の向きを変えてよけながら、草薙の剣を突き出してくる。
それをゲイ・ボルグで防ぎ、横に弾くことでヒルコの懐をあけ、
「契約によりし槍よ!我がもとに現れ、我が敵を貫け!」
足下に出したグングニルを蹴りあげ、直接攻撃を狙う。
だが、ヒルコはそれを自らの腕で弾き、お互いに後ろに跳んで元の距離に戻る。
「ったく、全然隙が出来ねえ。さすがは、国を治める王様だな」
「これは王の力ではない!オレの武神としての力だ!嵐よ、吹き荒れよ!」
そう言って草薙の剣を振るった瞬間に、暴風が吹き荒れ俺を襲う!
「あ、ぐ・・・っ!?」
踏ん張って耐えようとするも、それは望む通りにはいかずに流動体の壁に叩きつけられる。
そこでそのまま休むわけにもいかず、流動体につかまる前に跳躍の術で下りて、さらに跳躍することでヒルコの元まで飛ぶ。
その勢いのままで連撃を加え、槍を腕に戻したりという動作を加えてみても、ヒルコは一切危なげなく防ぎ、さらに俺の腹に蹴りを加えてくる。
「イッテエ・・・民よ、甘美なる酒に酔いしでろ!我は酒を持って薬を為し、薬を持って酒とする!今一度命ず。民よ、甘美なる酒に酔いしでろ!」
蹴りの勢いで後ろに跳ばされながら、俺は医薬の酒を使って酒を背後に出してそれを突き破る。
それによって、中の酒を浴びる&飲むことで怪我を治しつつ、蹴りの勢いを殺した。
「今のは・・・そういや、鋼の神ってのはそれ自体が剣である神、だったな」
「ああ!オレは最源流の鋼!体術も鋼鉄で殴られるものと心得ろ!」
そう言いながら草薙の剣を納刀して迫ってきたヒルコの拳を、俺は心眼を頼りに避けつつ、医薬の酒を追加で出して腰の水筒の中に入れる。
当然ながらその過程でおもくそ殴られたんだけど、それを作業を終えたところで酒を飲むことで治してから跳躍で一気に距離をとる。
うん、よく分かった。最源流の鋼を相手にするには、常に使える権能は全部使わないと、絶対に勝てねえ!一気に言霊を唱える!
「この世の全ては我が玩具。現世の全ては我が意の中にある。その姿、その存在を我が意に従い、変幻せよ!」
舞台袖の大役者の片方を発動し、ヒルコの支配下にない物の支配権を勝ち取る。
「我が姿は変幻自在。我が存在は千変万化!常に我が意思のみに従いて、自由自在に変幻する!」
舞台袖の大役者のもう片方を発動して、自分の姿をいつでも変化できるようにする。
「我は緑の守護者。緑の監視者である。我が意に従い、その命に変化をもたらせ!」
さらに、豊饒王で色々と切られたりした拍子にばらまかれることになった種へとパスをつなげて、そこも確保。
「我は音に合わせて術を使い、音の数で狸を使い分ける」
堅牢なる大親分を使い、いつでもどの狸でも使えるように準備をしてから、
「五の音は布。汝を異界へと導く、布の狸!」
蚊帳吊り狸を発動して、現れた布をマントのように肩にかける。
と、そこでもうヒルコが回避不可能なところまで来ていたので、
「落とせ、蚊帳吊り狸!」
一度、自分が異世界に落ちることでその攻撃を回避し、再び距離を置いたところに出てくる。
「神代武双、どこに、」
「我は永続する太陽である。我が御霊は常に消え常に再臨する。わが身天に光臨せし時、我はこの地に息を吹き返さん!」
沈まぬ太陽で不死の体を手に入れ、これまでよりも思い切りよく攻撃ができるようにした。
後三つ。これだけの距離があれば!
「我は水を司る!我が戦闘へ一役立てよ!」
万水千海で空気中の水分や下からしみだしてきている海水にもパスをつなぐ。
「我は揺らす。我は全てを揺らす。地よ揺れろ。海よ揺れろ。天よ揺れろ。我が眼前に在りし全てよ、我がために揺れつくせ!」
そして、髭大将で相手の足場を崩す算段を付ける。
これでラス一!ヒルコがこっちに来る前に!
「今ここに我は力を現す。人ならざる力をもちて相撲を取り、」
「それ以上は唱えさせんぞ!」
そして、ヒルコが目の前まで迫ってきたところで、
「未来あるものを守り抜こう!」
ヒルコの右ストレートが当たるギリギリのところで言霊を唱えきり、ヘッドバットで迎え撃って相殺した。
濡れ皿の怪力の今回の対象はヒルコ。この上なく、怪力のレベルが上がってる!
「ふん!」
「おりゃ!」
ヒルコの左ストレートに俺の右ストレートがまっすぐ当たり、たがいにその衝撃を受けながら後ろへと跳ぶ。が、俺は即席工場で作り出したバネでベクトルを逆向きに変更し、その勢いと怪力の力をフルに拳に乗せてヒルコを殴り飛ばす。
かなり手が痛くなったけど、何回もぶっ飛ばされた分はやり返すことができた。
さて、これで今発動状態なのは・・・『全なる終王』、『即席工場』、『誓いの槍』、『沈まぬ太陽』、『豊饒王』、『医薬の酒』、『舞台袖の大役者』、『堅牢なる大親分』、『髭大将』、『濡れ皿の怪力』、『万水千海』。
俺が使うわけにはいかないのは、ザババの双剣に『忘れ去られた雷神の雷鎚』。
残りは、『知に富む偉大なる者』、『火の知恵者の仕掛け』、『破壊者』。
残りは、使うタイミングを考えて使わないとな。切り札級だし。
「どうだ、ヒルコ?」
「数に富んでいる分、様々なことができるのだな!面白いぞ!」
「そいつはどうも!緑よ、芽生えよ!」
高笑いしているところに向けて、植物で拘束しにかかる。
「これでどうにかなると思っているのか!」
「一切思っちゃいねえよ!変幻せよ!」
そして、ヒルコがよけて回っている植物を鎖へ変幻させ、そのまま追わせる。
舞台袖の大役者は、その姿を変えさせ、存在へと新たな属性を加えることができる権能。そこに鋼の鎖という属性が加わるだけで、植物ではなくなるというわけではない。
さらに動くスピードを上げてヒルコを一瞬拘束し、
「全ての水よ、我が敵を貫け!」
海水でヒルコを攻撃する。
とはいえ、相手が鋼の神だからそこまでのダメージは期待できない。事実、海水はほとんどダメージを与えずに弾かれた。
そして、先ほどの鎖が砕け散ったので、念のために鎖をまた作り出して待機させる。
「・・・鋼の弱点は超高温の熱、なんだけど・・・」
該当するであろう権能は、全なる終王くらい。これで何とかするのも手だけど、それだけの隙を作り出せる相手でもない。
「嵐よ、吹き荒れろ!」
と、考え事をしていたら再び暴風が振るわれたので、
「我は今ここに、全ての条件を満たした。技の知を知り、業の源に触れ、その技をこの身で受けた。故に、今ここにこの力を振るわん!」
濡れ皿の怪力で得た怪力で踏ん張りを利かせながら、言霊を唱える。
「嵐よ・・・吹き荒れろ!」
そのまま俺も暴風を振るい、ぶつけあわせることでさらに被害を拡大させる。でも、俺への被害は減った!
「ほう、面白い力を持っているのだな、神殺しよ!」
「切り札の一つだよ!この暴風、スサノオの神格によるものだな!」
最後の語り。この神・・・ヒルコがなぜ、最源流の鋼たるのか。それを語るとしようか。
とはいえ、これも大して長くなる話ではない。ただ一番最初のヒルコの形により近い、最も古いヒルコについて語るだけの話だ。
「お前という神が棄てられた物語。これが出来上がるには、お前という神が海へと流される物語が元から存在していなければならない」
神話を書き換えるにしても不自然すぎては民の間で定着することはない。たとえどれだけゆっくりと、時間をかけて神話が書き換えられたとしても、違和感がありすぎては意味ないのだ。
だからこそ、棄てられた物語において最も重要な要素。海に流れていくというのは、元から何かしらの形で存在したに違いない。
「では、それはどういった形で流されていったのか。旅へと出たのか、追いやられたのか。それは、今のスサノオの物語からヒントを得ることができる」
スサノオの持つ物語。それは、様々な形で存在している。
たとえば、ヤマタノオロチを退治する物語。ここから彼は、英雄としての存在を確立していく。だが、ここではこれは関係ない。強いて言うならば、スサノオは立派な鋼である、というレベルのものだ。
そして、スサノオについてもう一つ存在する有名な物語。それは・・・
「スサノオが姉であるアマテラスのもとで犯した天ツ罪。この結果としてスサノオは追放され、川で禊をした結果アマノザコという神が生まれる。ヒルコにおいて、この禊こそが海へと流された物語だ」
ヒルコがどんな罪を犯したのか、それは知らない。
だがしかし、彼は禊として海へと流された。それが今の海へと流し、棄てられる物語へとつながるのだ。
「お前は犯した罪の禊として海に流され、禊を終えて帰還する。その際に須賀の国に降臨し、その地を治める王となった!」
そこで、ヒルコの持つ草薙の剣と俺のもつゲイ・ボルグ、ブリューナクの二振りがぶつかる。
怪力を得たことで真正面から愚直にぶつかっても拮抗できるまでになった。
「そうして、オレを呼ぶ名は新たなものとなった!」
「そう、お前のことを呼ぶ名は、お前が収める民が呼ぶ名へと変化していった!お前が収める国の名にちなんだ名へと!」
そして、その名は。
「その呼び名は須賀の王!そして、その与えられた名はさらなる変化を加え、スサノオとなる!スサノオとは、元々ヒルコが禊を終え、再臨した姿!海水を浴びることで肉体を完全なものとしたのは、その物語によるものだ!」
そこで再び暴風が荒れ狂い、お互いに距離を取らされる。
「時代を重ねることでヒルコという神は貶められ、スサノオは独立した神格となる。元は同一の神であったにもかかわらず、片方は貶められ、海へと流されるまでに。もう片方は国を治める英雄へと!」
「いかにも!だが、それを知ってどうなる!この場で行われる戦に関わりがあるのか!」
「ああ、あるね!この権能をコピーする権能も、俺がお前の知識を持つがゆえに使うことができる権能だ!それに、もう一つの切り札にもお前に知識は必要だし、何より」
その瞬間、流動体のドームの天辺が多大な力によって叩き壊され・・・
「武双、手伝いに来ましたよ」
「何だ、まだお互いにほぼ無傷ではないか」
「うっせ。むしろ、俺は何度も攻撃を喰らって傷を治してるよ」
「圧倒的不利、というわけだな」
そこから、頼りになる俺の家族二人が現れた。
「外の様子はどう?アテ、ナーシャ」
「大丈夫、皆どんどん神獣を狩っていますよ」
「加護の力も使いこなしている。心配する必要はないだろう」
「それはよかった」
そう言いながら、俺達はヒルコへと向き直る。
俺は、両手にゲイ・ボルグにブリューナクの二振りを構えて。
アテは、自分の狂気が宿った聖槍を構えて。
ナーシャは、俺の権能である忘れ去られた雷神の雷鎚を構えて。
「俺一人でお前を・・・太陽、海、蛇、幸運、鋼。このほかにも様々な属性を持つ超高位ハイブリットを倒すのは、少しばかり難しい。だから、こっちは三人で行かせてもらうぞ」
「はっはっは!良い、良いぞ神代武双!神殺しにまつろわぬ神、神祖が絆を持って共闘するとは!心躍るではないか!」
そう言いながら、ヒルコは草薙の剣を頭上に掲げる。
「お誂え向きにも、この地には今神殺しが三人もおる!オレも切り札を切らせてもらおう!」
そして、ヒルコは真言を唱える。
孫悟空の事件の後、護堂から聞いた話・・・最源流の鋼が使うことができる技。あれを、使うつもりなのだろう。
「貪狼、巨門、録存、文曲、廉貞、武曲、破軍!北天の七星よ、霊験かくあれかし!」
天地から、星々から俺達神殺しを滅するための秘奥を。
「蛇よ、竜よ、血と骸を我に捧げよ。焔よ、鉄を灼いて鋼と成せ。鎚よ、鋼を打ち、刃と成さしめよ。清冽なる水よ、刃を冷やせ!全ては我が剣神の性を高めるために!」
蛇、竜の死骸は、俺がこの地で殺した二柱の神、オオナマズと玉龍が死に、砂となったものが集まってきた。たぶん、あれは漂っていた神気が集まり、俺達の目にも見えるようになったものだろう。さらには、ヒルコ自身が持つ蛇の属性も含まれていると考えていいだろう。
焔は、ヒルコ自身が持つ太陽神の属性を持って、あいつ自身の体から出てきて焼いて行った。
水は、ヒルコの持つ海の神の属性が海の水を集め、あいつ自身を冷やしていく。
刀を、剣を鍛える課程を、自分自身の属性ですべて賄う。あいつは、自分の属性だけで一つの蛇の属性を作り出したのだ!
最後の真言は、直接は俺の耳には聞こえてこなかった。だがしかし、確かにこう言ったというのがなぜか分かった。
――――オレが討つのは魔王ども。オレが切り裂くのは羅刹ども。須賀の王・ヒルコはこれより修羅に入り、破邪顕聖の御劍とならん!
ヒルコは、剣神としての使命を再確認し、古き盟約への批准を表明した。
そして、大いなる力があいつの心身を満たす!
『ゆくぞ、神代武双とその親族よ!』
「オウ、来いよヒルコ!俺達三人で、お前を葬る!」
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