アラガミになった訳だが……どうしよう
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派遣社員になった訳だが……どうしよう
21話
「そんな事はどうでもいいんです……結局、この人は誰なんですか?」
話の雰囲気的に割り込みのを我慢していたカノンだが、流石に我慢の限界が来たらしい。
だが、悲しいかな俺も分からん。そもそも、そんな事はこっちが聞きたい。
「わからん、取り敢えず五年前から延々追いかけてくるってことと、俺と同じアラガミだってことしか分からん」
「違うよ、マキナ」
「何が?」
「五年前じゃなくて十七年前だよ?」
は?
十七年前って……俺がこの世界に来てすぐじゃないか?
「お前、本当に何なんだ?」
「んー?分からない?多分、覚えてるとは思うんだけどな」
そう言ってイザナミは髪でずっと隠れていた、顔の右半分を俺たちに晒した。
そこには右眼のある部分なのだが、右眼の代わりに大きな傷跡がある。
アラガミであるイザナミならば、この程度の傷ならば簡単に治せるだろうに。正直、外見は俺の好みな分少し残念だな。
「えへへ……嬉しいな。でも、これはマキナが私にくれた初めてのプレゼントだからさ、ちょっと治すのは勿体無いんだよ」
プレゼント?
初めて?
「うん、その腕もくれたじゃない」
何を……ん?ちょっと待て、右眼の傷に腕、十七年前…だ…と?
いやいや、待て待てちょっと待て!!
「うん、正解。潰れてたけど美味しかったよ、マキナの左腕」
マジかよ……鶴の恩返しレベルの変身じゃねぇか!!
「それ以前に、何処をどう弄ればウロヴォロスがお前みたいな女になるんだよ!!」
「マキナー声に出てるよー……まぁ、あの時は私もただのアラガミだったけどね。でも、マキナの左腕を食べたら今みたいになったんだよ。それからマキナの記憶が流れてきて、マキナの事をずっとずーーーーっと考えてたら好きになっちゃった」
あー最後はむしするとして……要するにアラガミの捕食したものの性質を手に入れるという特性で、人型アラガミの性質を手に入れた。その上で俺の左腕から俺の知識、記憶を得たって事か?
「正解、その通りだよ」
「……じゃあ、この心を読むのは一体どうやってんだ?」
「何ですか……それ?」
カノン、内緒話のような事を隠していたのは謝るから、そんな冷たい視線を俺に送るな。
「こいつはどうやっているのかは知らないが、俺の考えていることがそっくりそのまま覗き見れるんだよ」
「へぇー……ふぅーん……そーなんですかー……」
カノンよ……それはもはや視線という名の暴力だぞ?そして、イザナミ。笑ってないで、さっさと俺の質問に答えろ!!
「はいはい、じゃあ説明するよ。私の体はマキナのオラクル細胞を模した私のオラクル細胞で構成されているんだけど、はっきり言って大きな差はないの。大雑把に言えば、私はマキナのコピーってところかな?
だから、私とマキナはほぼ同じ存在と言えるの、ここまではいい?」
ああ、まぁ言っていることはなんとくだが、ある程度理解はできるな。
「うん、それじゃあ続け「ちょっと待って下さい」……なに?」
急にイザナミの言葉を遮って、カノンがにっこりと笑顔を浮かべて、全く笑っていない目で俺を見る。
「マキナさん、今後心で話すの禁止です」
「……いや、話すも何も一方的に覗かれてるのであって、断じて俺の意思ではな「禁止です」……はい」
本当に何処でどう育て方を間違えたのやら……いや、親じゃないんだけど思わずそんな愚痴を零してしまう。昔はトリガーハッピーな片鱗こそあれ、もう少し落ち着いた子だったのに……
おじさん、悲しいな……もう、四十が見えてきた年なので、自分をおじさんと呼ぶことに抵抗も無くなってきた。
ただ、外見はピクリと変わらないので誰も信じてくれないがな。
「悪い、話が逸れたがイザナミ、続けてくれ」
「えっと、確かにコピーがどうのってところまで話したよね?そうなると後は簡単、私の偏食場パルスでマキナのオラクル細胞に私をマキナと誤認させてマキナの思考を同期させてるの。
逆に同期されているマキナは読んだとしても、読める記憶はマキナの思考を同期した私の記憶だけだから、結局自分の記憶を読んでいるだけになるというわけなんだよ」
「成る程、盗み見ているというよりは、思考そのものを同じにしているって事だな?」
で、最後のは嘘で中身が人間で偏食場パルスの使えない俺はお前の思考を認識できずに、お前が一方的に読んでいると錯覚した訳だな?
「その通りだよ」
イザナミは二つに問いに答えて、俺に微笑みかけた。どうにもこの辺りの事は察してくれる所は非常に有難い。
「精度は距離によって変わるんだ、1km以内なら問題無く読めて、それ以上は離れるにつれてボヤけてくる。そして、この距離なら……」
そう言ってイザナミは席を立ち、俺の手を握った。
「マキナも読めるようになる」
マキナも読めるようになる
…………一瞬、あらゆる思考がブラックアウトし、イザナミの言葉だけが頭を埋め尽くした。
それは何というか最悪の気分で、一瞬とは言え完全に自分が無になりイザナミに乗っ取られるような……なんというか死とはあんな感じじゃないだろうか?
とてもじゃないが自分からやりたい行動じゃないな。
「ま、マキナさん!?顔色が悪いですけど、大丈夫ですか!?顔が真っ白……なのはいつも通りですけど、いつも以上に血の気がない白ですよ!?」
「……ああ。大丈夫……悪い、大丈夫じゃない。水か何か貰えるか?」
カノンはコップに水を入れて、俺に渡してくれた。それを一気に飲み干して気付け代わりにする事で、なんとか思考をまともな状態に立ち直らせる。
「それにしてもイザナミ……お前、よくこんなの好き好んでやれるな?」
一瞬だけでこんな調子になるんだ、俺の記憶を全てと同期するなんて
「そうかな?私は頭の中がマキナだけになるから結構好きだけどな?」
ああ、こいつに聞いた俺がバカだった……
その後、イザナミが台場家に泊まるといいだして一悶着あった。具体的にはカノンの猛烈な反対だ。
しかし、結果としてカナメとコトハの許可を得たイザナミの勝利となった。
で、カノンの機嫌は最悪になり神機もないのに戦闘中のテンションになったり、イザナミはそれをニヤニヤと笑みを浮かべながら見て、コトハはそんな両者を微笑みを浮かべながら眺め、俺とカナメは隅っこで怯えるハメになった。
正直、カオスとはああいうのを言うんだろうと思いながら、俺はリビングの隅で目を閉じる。
目が覚めれば、平和になっていますように……
夢を見た
周りには誰もいない
それを辛いと思ったこともないし、思うような感情もなかった
ただ、それでも機械的に何かを求め続けた
理由は分からないけれど、ただ何かを求めていたという事だけは分かる
ある時、右眼の痛みと共に何かを見付けた
初めて痛みという物を知り、あの小さな体で私に傷を負わせた存在に興味を抱いた
その日から、私の中に感情というものが生まれた
最初は興味だった
私は有り余る時間で小さな存在について考え続けた
しかし、何故興味を持ったのかはいつまでも理解できなかった
何故か?情報が足りないからだ
私は小さな存在を真似た
山のような体を組換え、圧縮し小さな存在と同じ脚も腕も二本にし、体も小さくした
そして、この体が如何に不便であるかを知った
だが、まだ情報が足りない
私は小さな存在を追いかけた
何処にいるのかなど分からず、闇雲に追いかけた
ただひたすらに探し
長い長い時を過ごした
時々、思考が別のモノに変わる事があった
最初は意味が分からなかったが
新たな知識が私の中に蓄積された
小さな存在はマキナというらしい
私は新たな知識を得て知った
彼は体は私と同じだが中身は人間のようだ
あんな貧弱な生物が私に傷を負わせたのか
俄然彼に興味が湧いた
ある時、人間の男に出会った
男は彼とは違った
はっきり言って、失望した
死を受け入れた存在など、興味を抱く以前の問題だ
男は様々な情報を私に与え
私は男の指示に従うことにした
男は嫌いだったが、人間についての知識が得られたのは良かった
成る程、私は彼に好意を抱いているのか
私は彼に好かれるように努力した
人に好まれるであろう体を組換えた
人間の知識を多く蓄えた
そして、人間の愚かさを知った
彼は今ロシアにいるようだ
ああ、やっとだ
やっと会える
本当に長かった
見つけた
彼の邪魔をするアラガミを排除する
彼はあの時から何も変わっていない
やはり、彼は素晴らしい
何処かへ向かった彼を見つけた
どうやら彼は人間が死んだことに傷付いたらしい
彼が傷付くのは嫌だ、胸が痛くなる
彼が傷付かないようにするには……人間が消えればいいんだ
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