Ball Driver
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第四話 熱湯甲子園
第四話 熱湯甲子園
<え〜、1年C組、権城秀忠君、権城君、大至急浴場まで来て下さい〜>
自室のベッドに寝転んでいた権城は、寮の中に響いたこのアナウンスに飛び起きる。
アナウンスの声は微妙に、クククと嫌らしい笑いを含んでいた。不吉である。
そして、権城は風呂はもう既に済ませている。
しかし、この呼びかけに応えて、ため息をつきながらバスタオルを携えて浴場へと向かった。
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「熱湯こうしえ〜〜〜ん!は〜〜じまるよっ!」
シャワーヘッド片手に、2年生の哲也がはしゃぐ。譲二はその隣で湯船につかりながら、頬杖をついて微妙にニヤけた顔をしている。
そんな2人の反対側には、アナウンスを受けて浴場にやってきた、高等科の新入生達。その中には権城も含まれている。
「ほらほら、早く始めるぞ!1番、センター、権城くぅ〜ん」
「お、俺っすか!?」
哲也の指名によって、権城が一歩前に出る。
数歩ステップを踏んで、浴場のタイルにヘッドスライディングをかました。
もちろん、タイルはよく滑る。勢い良く、権城の身体が滑走する。
「ショートゴロ!ショートが捕って、一塁に送球ゥー!」
哲也が実況の真似をしながら、蛇口をひねった。
シャワーヘッドから勢い良く水が吹き出す。
その水は、設定値MAXの熱湯だった。
それが全裸で滑る権城に襲いかかる。
「うゎっちゃちゃちゃちゃ熱い熱い熱い!!」
権城は全裸で転げ回った。
その様子を見て、哲也と譲二は大笑い。
これが南十字学園の寮でたまに行われる、「熱湯甲子園」の中身である。(ほぼ、単なるイジメである)
「こらー!あんた達、またしょうもない事を!」
男の笑い声がこだまする中で、高い声が響いた。
紅緒が小さな体をバスタオルに包んで、風呂の入り口に立っていた。
「ええっ!?」
「品田さん!?」
「今男子の使用時間なのに!?」
哲也と譲二に呼び出された新入生達は紅緒の乱入に狼狽し、慌てて股間を隠し始める。
譲二は呆れたようにため息をついた。
「いつから見てたんだ、紅緒?」
「うん、権城がヘッスラかます、ちょっと前から。」
(いやいや、その時から居たなら早く助けろよ!俺だけが損したじゃないか!)
サラッと言ってのける紅緒に、タイルに這いつくばったままの権城は内心で悪態をついた。
「ごめんねー、一年生達。あたしの友達がまた下らない事してさ。そのお詫びと言っちゃァ何だけどォ……」
イタズラっぽい笑みを見せながら、紅緒はポカンとしている一年生達に向き合う。そして、自分の体を覆うバスタオルの端に指をかけた。
「サービスしちゃおっか!」
宙に舞うバスタオル。
初心な一年生達は慌てて目を逸らした。
「…………おーい、お前ら。こいつ、下にちゃんと服着てるぞー。」
しばらく目を伏せっぱなしにして、いつまでそうしていたら分からない様子だった一年生達に、哲也が言った。その言葉通り、紅緒はバスタオルの下に半袖シャツと短パンを着込んでいた。
紅緒は一年生男子のその反応に大いに満足したようで、実に得意げな顔をしていた。
「どう?裸じゃなくて残念?品田紅緒様の大人のお色気は、あんた達にはまだ早いかなぁ〜」
「何が大人のお色気だよ。胸が無くてケツだけプリッとした、文字通りロリ体形の癖に」
権城が実に呆れた声を出した。
ちなみに、まだ全裸で床のタイルに這いつくばったままである。実に滑稽な体勢である。
「お前、バカにする割には、たった一人だけ目を逸らそうとしなかったな。」
「いやだって、見せてくれるもんなら、見たいじゃないっすか裸。例えロリ体形だろうと。」
「…………」
譲二の問いに言いたい放題の権城。
紅緒の眉がピクピクと震え始める。
他の一年生達は、その怒りを感じ取って鳥肌を立てた。
「哲也」
「うい?」
「やっちゃいな」
「ほい」
頷いた哲也が再び蛇口を捻ると、勢い良く、シャワーヘッドから熱湯が吹き出す。
「あちちちちちち!ヤバい!これヤバいって!死ぬ死ぬ!!」
「ふん!」
タイルの上で転げ回り、ナニを振りかざす権城に背を向けて、紅緒は不機嫌そうに鼻を鳴らして行ってしまった。
この少女はロリだのチビだの言われるのが嫌いなのである。全くもって、それは事実なのだが。
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