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I want BRAVERY

作者:清海深々
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9話 覚醒前夜


9話 覚醒前夜

 今日は4月8日。

 ついに原作が開始した。

 今のところ男主人公が出てくる様子はない。

 男子の部屋が一つ余っていることは疑問だが、3階と同じ構造なのだろうと、自分を無理矢理納得させておくことにする。

 そして、問題の女主人公だが、変な点は見当たらない。

 あえて挙げるとするならば、よくしゃべる、ということだ。
 ゲーム内で、主人公達は基本的に選択肢以外では日常で話すことがない。

 そのため、男はクールで女は活発な性格だとはわかっていても、どうにもあまり喋らないというイメージが勝手についてしまっていたため、彼女がよく話すということには違和感を感じた。

 まぁ、ゲーム内の調子で現実世界でもいられると、流石に日常生活に支障をきたすと思うので、こんなものなんだろうとは思う。

 俺というイレギュラーな存在がいるため、主人公が転生者の可能性もあるかもしれないと思っているが、今のところそれが確認できる場面はないし、面と向かって聞く気にはならない。

———コンコン

「はい?」

 扉をノックする音に思考がさえぎられる。

「俺だ。真田だ」

「・・・」

 俺は嫌な予感がしたため、音を立てずに扉へ向かい、鍵を閉めようとする、が、

———ガチャリ

「入るぞ」

「・・・誰も開けていいなんて言ってませんが?」

「?ノックなんて形だけさ。実際、お前に入室してもいいか聞く気なんてサラサラなかったさ」

「おい」

「そんなことより、行くぞ」

「・・・」

 真田先輩は既に戦闘用の格好だ。

「岳羽が全然やる気がないからな。あの新人が使えるようになるまでは、俺達の二人で鍛えるぞ」

 岳羽さんは原作とは違い、既にペルソナ召還をしている。
 しかし、真田先輩がタルタロスに入ると、基本先輩のレベルに合わせてシャドウを探しに行くので、彼女のレベルではかなり危ない。
 そのため、岳羽さんは真田先輩と一緒に行くのを嫌がる。

 俺と二人で行くことはほとんどないが、そのときは彼女のレベルに合わせてシャドウを狩る。
 しかし、俺を見ると低レベルのシャドウは逃げてしまい、これを追うのがなかなか面倒なため、あまり効率は良くない。

 結果的に彼女はほとんどレベルを上げることなく、今まで過ごしてきている。

 桐条先輩は今回入ってきた稲城さんのレベル上げに、岳羽さんを使おうと考えているらしい。

「はぁ・・・」

 仕方ないな、と言おうとしてふと気がつく。

 そういえば真田先輩は最初の大型シャドウの時に怪我をした。

 真田先輩はそれなりにレベルがあったはず。
 
 真田先輩が復帰した時は、確か12,3程度だったと思う。

 その真田先輩があれだけ引きずる怪我をした。
 しかし、それは『怪我だけですんだ』と考えることもできる。

 つまり最初の大型シャドウは12レベル程度の真田先輩が勝てない相手で、殺されない程度のレベル。

 2体目以降の大型シャドウは、主人公のレベルに沿って上がっていた。

 そう考えると、最初の大型シャドウはレベル5以下くらいになるだろう。
 そうだとするならば、当時の真田が勝てない理由がない。
 となると、その考えは間違っているのだろう。

 最初の大型シャドウの存在は、主人公のペルソナ覚醒のためだけにある。

 もし、そう考えるなら、最初の大型シャドウのレベルが高くても納得がいく。

 主人公が召還した、ないし勝手に出てきたタナトスは、レベル65程度のはず。
 そのタナトスが圧勝した、というのはあまり情報として役に立たない。

 となるとやはり、真田先輩が生きて帰ってきたことを考えて、レベル20程度が妥当なとこだと思われる。

 今の俺のレベルが29。 
 俺が確認することはできないが、たぶん真田先輩のレベルは30くらいだろう。

 となると、今の先輩ならその大型シャドウに勝てる。

 これはある意味、最大の原作崩壊へつながるのではないだろうか。
 もし、真田先輩が大型シャドウを倒して帰ってきてしまったら、主人公の覚醒はだいぶ遅くなるだろう。

 転校したてで、いきなり戦ってくれ、などと言われて納得する人間がいるとは思えない。

 しかし、寮が直接被害を受けるのはあれ以降ない。

 となると、最初の大型シャドウを真田先輩に倒されてしまっては困る。

 原作の世界は主人公の犠牲を以ってして救われたのだ。

 俺が高校生活、ないしその後のバラ色人生を歩むために、途中で世界が滅びてしまうのは困る。

「・・・い・・・おいっ!」

 はっ、として顔を上げる。

「なんです?」

「なんです、ってお前、何ぼぉっとしてるんだ」

 どうやら結構深く考え込んでしまったらしい。

「すいません。どうやったら脳みそまで筋肉のアホを止められるか考えていました」

「?誰だそれは。まぁ、よくわからんが、困ったら一発殴ってやれ。それで基本目がさめるだろう」

「殴っていいですか?」

「?ボクシングがしたいのか?」

「・・・いえ、なんでもないです。タルタロス行きましょうか」

「よくわからんが、やる気になってくれたなら問題ない!さぁ、行くぞ!」

「・・・はぁ」

 ゲームでは主人公が生きていれば、他のキャラは復活できたが、今は違うかもしれない。

 もし、仮に復活できるとしても、瀕死の怪我なんて負いたくもない。

 となると、とにかくレベルを上げるしかない。

 いや、どちらかというと、避けることに慣れるしかない。

 耐が全く上がらない俺にはその道しか残されていなかった。

(くそぅ・・・シャドウが飛び掛ってくるの、滅茶苦茶怖いんだぞ!)

 影時間でも勇気6が発動してくれと、切に願う俺だった。
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