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一歩ずつ

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8部分:第八章


第八章

「それはね」
「そうなの」
「ええ。それじゃあね」
「行こう」
 こうして二人は動物園に向かった。動物園には家族連れが多かった。皆明るい顔でピクニックを楽しむ顔で皆動物達を見ている。その中で、であった。
 雪はレイラニと共に動物達を見て回っていた。今はアシカ達を見ている。アシカ達は設けられた海と岩場のその場所で岩の上にあがったりその海の中を泳いだりして遊んでいる。雪は無表情のままアシカ達を見ている。ただ見ているだけで実に静かなものだった。
 その彼女にだ。レイラニが微笑んで言ってきた。アシカ達の周りは日差しで照らされており海面もきらきらと光っている。その中で言ってきたのだ。
「そういえばね」
「どうしたの?」
「雪ちゃんってアシカ好きだったよね」
 このことを言ってきたのである。
「子供の頃いつも真っ先にここに来ていたわよね」
「そうよね。そういえば」
 彼女に言われてだった。そのことを思い出した雪だった。自分でも忘れてしまっていたのである。
「アシカって何か」
「何か?」
「可愛いから」
 岩の上で鳴いているそのアシカを見ての言葉である。
「だから好きなのよ」
「それでなのね」
「そうなのよ。それにね」
「それに?」
「泳ぐのがとても速いし」
 今度はその泳いでいるアシカ達を見て話してきた。アシカ達はまるで空を飛ぶ様に自由自在に海の中を舞っている。それを見ているのだった。
「だからそれもあってね」
「好きなのね」
「そうなのよ」
「そうなのよってことは」
 レイラニは今の彼女の言葉を受けてまた言ってきた。
「今もなのね」
「そうね」
 言われてみればだった。今度は気付いたのだった。
「それは」
「アシカっていいわよね」
 彼女には顔を向けていない。しかし声だけで微笑んでいるのがわかった。
「可愛くて気さくな感じでね」
「そうよね。とてもね」
「ええ。ここで二人で見たの覚えてる?」
「覚えてるわよ」
 レイラニは言いながら前に出て来た。そうして彼女の横に来たのだった。そのうえでまた彼女に対して声をかけてきたのであった。
「よくね」
「そう。覚えてくれてたの」
「いつも最初はまずここで」
 アシカを見てということである。
「それにね」
「そうよね。それからね」
「他の動物達も見て回って」
 いつもその流れだった。そのこともよく覚えていることだった。もっと正確に言えば思い出したのである。昔のことを思い出しての言葉であった。
「そうしてたわね」
「子供の頃はいつもそうだったわね」
 アシカ達を見ながらだった。不意に目が緩んできた。そうして。
 
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