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第二章
第二章
「どうだ」
「有り難う」
兄からのそのサラミとビールを受け取る。それ等を飲み食いしながらまた話を続けるのだった。
「許可は出してはいないけれど。誰も何も反応しないんだ」
「大学と同じか」
「サイトも開設したよ」
そちらにも力を入れているのだった。
「けれどそちらもね。来るといえば」
「どんな人達だ?」
「軍事マニアばかりだよ」
また肩をすくめて首を横に振るのだった。
「掲示板置いてあるからわかるけれど。しかも見るのは兵器の性能とかばかりで」
「御前の言いたい兵器の値段や法整備はあんまりなんだよ」
「その通りだよ。本当に反応がないんだよ」
たまりかねたような言葉がまた出た。
「何もかも。本当に全然」
「それでも御前はやってるんだな」
「やってるよ。相手にされていないだけで」
言葉が自嘲気味になっているのを自分でも感じた。
「全くね」
「それでもやるならいい。俺は止めないからな」
「止めないの」
「誰の迷惑にもなっていないだろ」
極論すればそうだ。一人で言っているだけだからだ。
「じゃあいいんだよ、それでだ」
「そうなの」
「わかったら飲め」
目の前に置かれているビール缶を指し示して言う。
「折角出したんだからな」
「うん、それじゃあ」
「出港は三日後だ」
自分が出発する日のことだ。
「その時には頼むな」
「わかったよ。横須賀だね」
「ああ、そうだ」
そんな話をしながら兄と酒につまみを楽しむ。これは楽しめたが憂いは消えない。その三日後。両親と横須賀でのデートのついでについて来てくれた彼女神宮彩名と一緒に兄の見送りに横須賀の海上自衛隊の港に来た。彩名は背が高く黒い髪を後ろで束ねた女の子だ。構成の大学の同級生でもある。しっかりとした活発な女の子で彼の両親からも評判がいい。所謂公認の彼女というわけだ。この日彼女は青いジーンズに赤いパーカーで彼の側にいた。
「じゃあ。行って来るよ」
「うむ」
「気をつけてね」
両親がまず英雄に声をかける。
「務めを果たして来い」
「期待しているわ」
「わかっているよ。やって来る」
戦場に行くのではない。それはわかっている。しかしだった。それでも緊張がそこにあった。その緊張の中で家族は別れの挨拶を交わしていたのだ。
次は構成の番だった。彼は彩名と共に兄のところに来た。それで別れの挨拶をする。
「じゃあ頑張ってね」
「ああ」
弟に対しても挨拶をする。
「行って来るよ」
「ゴラン高原は大変だろうけれどね」
「大変って言葉はないからな」
笑って返した言葉は自衛官としては模範解答であった。それだけに表面的な意味合いも感じられるものである。だがこれは英雄の本音だった。
「そういうことだ。行って来る」
「そうなの」
「まあ安心しろ。生きて帰って来るさ」
こうも言ってきた。
「ええと。構成の彼女の」
「はい」
彩名が応えた。その笑顔で。
「彩名です」
「そう彩名さん、こいつを宜しくな」
にこりと笑って彼女に告げるのだった。
「楽しくやってくれ。悪い奴じゃないから」
「わかりました。
「それじゃあ。またな」
「帰った時は楽しみにしておいてよ」
構成が笑って兄に声をかける。
「その時はね」
「ビールか?」
「ああ、わかったんだ」
「御前が飲むのはいつもそれだからな」
笑っての言葉だった。
「だからな。わかるさ」
「そうか。わかったんだ」
「焼き鳥だな」
そこに察しをやった。
「今度は。違うか?」
「わかるんだ」
「御前はいつも飲む時は肉ばかりだからな。わかるよ」
笑ってまた言うのだった。ここでは緊張がなかった。
「それじゃあ。焼き鳥を二人でな」
「うん、二人で」
最後にこう言葉を交えさせ船に乗り込む。家族や自衛隊に好意的な人々や軍事マニアの送りの声と市民団体の批判の声に送られて船は出港する。とりあえずはこれで話は終わりだった。
「行ったわね、お兄さん」
「ああ」
出港し海に出て行く船を見ながら彩名の言葉に頷く。
「まあ自衛隊が行く場所は安全な場所ばかりだから大丈夫だとは思うけれど」
「そうなの」
「自衛官が死ぬのは政府も嫌なんだ」
これには確かに人道的な意味もある。しかしだ。
「死んだらそこで叩かれるからね」
「マスコミとか市民団体にね」
「あと野党から。だからあえて安全な場所に送ってるんだよ」
「政治的ね」
「そうだよ、政治的だよ」
船は次第に消えていくがそれを見ながらの言葉だった。
「軍隊、いや自衛隊ってそうなんだよ」
「そうなの」
「そうだよ。PKO自体が政治的な理由で決まったし」
話はそこに向かった。
「本音としては誰も送りたくないし行きたくないんだよ。あれこれ揉めるし人送るのに教育してからお金かけて送るんだよ。それが大変なんだよ」
「そうだったの」
「外国が色々言ったりするからね。湾岸戦争で感謝されなかったし」
九十億ドル出してそれで人を送らなかったからだ。このことがPKOを送ることの大きなはじまりになった。ところがここでまた政治的な話になるのだった。
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