久遠の神話
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第百九話 戦いが終わりその六
「別にね」
「お父さんにそうしたいっていう相手が出来たらか」
「ええ、いい人ならね」
結婚すればいいというのだ。
「そう考えてるから」
「そうか、まあ再婚のことはな」
「相手いるの?」
「いや、実はな」
「いないのね」
「いい人探すか」
「本当にいい人を探してね」
このことは絶対にとだ、樹里は父に釘を刺した。
「さもないと大変なことになるから」
「悪い人と結婚したらな」
「それこそ人生の墓場よ」
「わかっている、だから樹里もな」
「悪い男には、っていうのね」
「浮気とか暴力とかギャンブルとかな」
そうしたことをする人間はというのだ。
「論外だからな」
「わかってるわよ、そんなことする人とは一緒にならないから」
「そうしろよ、そうだな」
ここでだ、父は娘に笑ってこう言った。
「上城君とかな」
「えっ、僕ですか」
「上城君ならいいな」
樹里の相手には、というのだ。
「お父さんも安心だ」
「ちょっと、何言ってるのよ」
樹里は鍋に入れたパスタを観ながらだ、父にむっとした顔で言った。
「私と上城君はね」
「お友達だっていうんだな」
「そうよ、あくまでね」
「ははは、しかしな」
「しかし、何よ」
「友達でもずっと一緒にいればいいだろう」
笑ってこう言うのだった。
「それでな」
「そこでそう言うのね」
「ああ、まあそうしたことはよく考えろ」
「一生のことだからね」
「何度も言うがいい人と結婚しろ」
また上城を見て言う父だった。
「わかったな」
「ええ、それはね」
「大学に行くよりも大事だからな」
「結婚はなの」
「大学は行かなくても何とでもなるからな」
「けれど結婚はなのね」
「結婚してこそだ」
それからだというのだ。
「人生の本当のはじまりだ」
「そこまで大事なのね、結婚って」
「父さんもな、母さんと結婚してな」
しみじみとした口調になってだ、父は娘に話した。
「変わったんだ」
「そんなに?」
「ああ、御前達の父親になってな」
そして、とだ。話を進めていくのだった。
「そして死に別れて。色々わかった」
「その色々って?」
「説明出来ない、母さんは今でも母さんだ」
「本当にお母さん大事なのね、今も」
「大事でない筈があるか、御前達にとっても母さんなんだぞ」
それ故に、というのだ。
「父さんにとっても大事な人だったんだ」
「お母さんと死に別れてやっぱり悲しいのね」
「悲しくない筈があるか、しかしだ」
「しかしって?」
「そこから多くのことを知った、死に別れたくはなかったが」
それでもと、父は娘に話していく。
「しかし結婚はすべきだ、父さんも後悔はしていない」
「結婚してそれで」
「それが人生の本当のはじまりともわかった」
「結婚して終わりじゃないのね」
「むしろはじまりだ、あと自分も浮気はするなよ」
「相手の浮気も許さなくて」
「後で大変なことになったりするからな」
不倫はその時はよくとも後で厄介なことになりやすい。その時にのろけていても数年後泣きを見ているなぞざらだ。
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