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アラガミになった訳だが……どうしよう

作者:アルビス
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アラガミになった訳だが……どうしよう
  8話

やっと見覚えのあるデカい教会のある街に辿り着いた。
どうやらここから支部へはそれ程遠い訳ではなく、少々行き方が厄介なだけらしく俺は割と危険な場所に寝床を作っていたらしい。それは置いておくとして、この辺りで適当なアラガミを見繕って串刺しにした状態でトラックに押し込めばいいのだが、出来れば良さげなアラガミがいいのだが……
カナメが言うにはオウガテイルでも十分らしいが、どうせならもう少し大型でもいいだろう。
その方が彼らの安全やらなんやらに有利だろうし、ここ最近の戦闘は小型が殆どだったのもあって些か腕がなまっている可能性もあるので、中型位と戦っておきたいというのもある。
コンゴウ位がいればいいのだが……とはいえ、カナメ達からそう離れるわけにもいかんし、もう三十分程この教会の屋根の上で待ってこの周囲に来なければ小型で諦めるとしよう。
トラックと台場一家は俺が以前寝床に使っていたビルにいてもらっている、どうやらあの数日であそこは俺の寝床だと周囲のアラガミが理解したらしく、埃やらを被った程度で部屋自体には一切の変化はない。そもそも、ビル自体にアラガミが近づこうともしないのだから、彼らがしばらく過ごすには適していると言えるだろう。しかし、今日はこの街のアラガミの数が少ないようだな、今のところコクーンメイデン数匹しか見当たらない。
俺がいない間に何かあったのか、それとも今現在何かしらの理由があってここを離れているのか……後者の場合、周囲のアラガミが全く勝てないアラガミが現れたという事だ。この辺りでそういうアラガミは見掛けたことはないのだが、ここで現れる強力なアラガミとなると心当たりはあるし、今の時代を考えればさしておかしな話でもないな。
もし俺の考えるアラガミがいるとなると、それは非常に都合がいい。手土産として考えるには最高の物になるだろうし、現時点で俺の力がどの程度の物か確認するには丁度いい相手だ。小型、中型では話にならんし、ウロヴォロスのような規格外相手では逃げる以外の選択肢は基本あり得ない。
あの反撃は間違いなく奇跡的なものだということは理解しているし、あんな物はそうそう使える戦法ではない。流石にリスクとリターンが噛み合わないにも程がある、あの時は向こうが逃げてくれたから助かったようなものであって、あそこであれ以上攻撃されたら確実に死んでいた。
だが、今回は違う。今回のアラガミに勝てなければどの道この先で死ぬ、ここで勝てば俺の力はこの世界で通用するものであり、勝った時に得られる力も今まで喰らった物を遥かに上回る能力を得られる。
故に今回は一切の油断無しでいかせてもらう、左腕を刃に、右腕を銃に、背中に圧縮空気を放つためのパイプとダメ押しのザイゴートの毒をパイプ内部に混ぜる。
それに応えるかのように、この周囲で最も巨大なビルを突き破り目当てのアラガミ ヴァジュラが現れた。ゲーム通りの巨大なライオンのような体に目立つ色のマント、顔と爪の石像のような装飾、間違えようはないな。
向こうはこちらに気付いていないようだ……本来ならば不意打ちするべきだが、今回は力を試すべきだ。正面から正々堂々と打ち破らなければ意味がない、それにこうした方が後に退けなくなる。ここで俺が死ねば必然的に台場一家も終わりだ、そうなれば可能性の話ではあるものの本編通りの結末は訪れず世界が滅ぶかもしれない。つまり、ここで俺が死ねば世界が滅ぶかもしれない、これ以上の負けられない理由はないだろう。
ヴァジュラの正面に飛び降りる。
どうやら向こうはすぐにこちらを敵と認識したらしく、威嚇の咆哮を放ちこちらを睨む。その咆哮は人間ならば聴覚に異常をきたすような爆音だが、アラガミの体である俺には関係がない。
手始めにその凝った装飾の顔を破壊させてもらおう。
右腕のコクーンメイデンの銃からレーザーを三発顔面目掛けて放つ、一発は掠った程度だが残りは直撃したようで、顔からオラクル細胞が僅かに漏れ出して血を流しているように見える。それはヴァジュラにとって怒りに値するものらしく、凄まじい速度でいきなり飛びかかってきた。助走無しでこの速度は驚くべき速度だが、直線的な軌道のお陰で避けることは難しくない。地面を蹴って横に跳ぶことで簡単に回避でき、十分な余裕を持って体勢を整えられた。
どうやら直線では向こうの方が速いが小回りでは此方が有利か………今のところ十分すぎる程勝ち目があるのだが、ヴァジュラの一番の脅威は身体能力ではない。それに対応出来なければこの程度の勝ち目、簡単に消し飛ぶことになる。
そう考えた直後、ヴァジュラの背中のマントが風が吹いていないにも関わらずヒラヒラとはためき始めた、この意味は事前に知っておかなければかなり危険だった。ゲーム中ならばここで取るべき行動は回避なのだが、敢えて防御させてもらおう。
理由は簡単、あそこから放たれる攻撃である雷球が文字通りの雷の球であれば、どう足掻いても回避できるような速度ではないからだ。もしゲーム通りの雷を纏った球のような物が飛んでくるのであれば、他の電撃を使った攻撃にも対処できるが、もしそうでないのであれば放たれる前に全力で殺すという手段をとらなければならない。
左腕の刃を巨大化させ盾のような形状に変化させ、雷撃が来るのを待ち構える。そして、ついにマントから放電が始まりヴァジュラの正面に雷球が出来上がった。そこで事態が俺の想定外の方向に向かっていた事を理解した、どうやらゲーム中の速度は正しかったようだ。
だが、規模が違う。
ゲームでは人の頭より少々大きい程度だったのだが、今目の前にあるのは車一台分の位のサイズがあるではないか!!
これを受け止める自信は流石にない、背中のパイプを下に方向転換させジェットのように噴出する。雷球の速度はそれ程ないようで回避は出来たのだが、後にはまるでクレーターのような着弾の跡が残った。
受けていた場合を想像して内心冷や汗をかいたが、そればかり考えるわけにはいかない。あれだけの雷撃を放ったせいかヴァジュラは若干隙を見せている、パイプから空気を解放して一気に距離を詰める。
左腕でヴァジュラの顔に突き破る、いつぞやのウロヴォロスと同じ目にあってもらおうか?
左腕を刃からコクーンメイデンの棘に変え、パイプからの空気の噴出と同時に引き抜く。ウロヴォロスの時とは違い顔の上半分が無くなったのだが、ヴァジュラは逃げることなく寧ろ怒りに任せて襲いかかってくる。だが、目にあたる部分のオラクル細胞が全滅したことで視力は完全に失われ、その鋭い前脚の爪は見当違いの方向に振るわれた。
しばらくはこのまま押し切れるだろうが、アラガミの再生力を侮ってはいけない。その証拠に不細工な赤いモザイク状態だったヴァジュラの顔は、既に粘土細工のライオンとでも言うべき不恰好ではあるものの形を取り戻しつつあるのだ。恐らく、もう2、3分もすれば元通りになるだろう。
先程の一撃は奇襲のような物で、向こうが油断していたという要素が大きい。となると、今の内にある程度ダメージを与えさせてもらおうか、左腕を刃から銃に変えてウロヴォロスの力を込めたレーザーをヴァジュラに雨霰の如く発射する……が、背中のマントが邪魔をして胴体に中々当たらない。仕方が無い、手足には十分なダメージが与えられたのだ、残りは自分の手で削り切るとしよう。
はっきり言って、この判断は大失敗だったというべきものだった。アラガミの再生力を侮っていた訳ではないが、ヴァジュラが何を模しているのかをもう少し理解していれば、奴の五感で最も気にしなければならないのは聴覚だったと気付いただろう。
奴は俺の正確な位置は特定出来ないが、どの程度の距離にいるのかを把握する位は容易い。つまり、俺が奴の攻撃範囲に入るまで耐えていたのだ。
それに気付かず飛び込んだ俺を襲ったのは周囲への無差別放電の嵐、おかげで一時的に視力と聴覚が機能しなくなり、体のオラクル細胞が麻痺し圧縮空気を放っての移動も出来なくなった。地を伝う振動から考えてヴァジュラは既に視力をある程度回復したようで、足取りこそ重いものの此方に真っ直ぐ向かってきている。一方此方は目も耳も機能せず、体の動きも鈍くなっておりマトモに動けない。
風を切る音が間近で耳に響く、全体重を込めて爪を振り下ろそうとしている。当たれば即死だな、避けようにも両目も両耳も死んでいるのだから
………………………もう一つの目で見ればいい。
俺は左腕の"目"でヴァジュラの無防備腹を確認し辛うじて一歩前に踏み出し右腕の刃を突き出す、突き刺せるほどは体が動かないがヴァジュラは自ら全体重で此方に向かってくれているのだ、自ら力を込めずとも問題はない。ただ、ヴァジュラの体重に俺の体が耐えてくれるか、その一点だけが重要なんだが。


結果、なんとか助かった。
身体中が痛くて仕方が無いが、ヴァジュラを貫いた状態でオラクル細胞を喰らった事もあり再生するのにそう時間は掛からず、なんとかコアも多少の傷はあるものの機能に問題はないだろう。
残りのヴァジュラの残骸を喰ってからまだ痺れの残る体を引き摺って、カナメ達を待たせているビルに入ると彼らは極東支部にトラックに積んでいた無線で連絡が取れたことを教えてくれた。どうやら俺はここで休んで、その間にフェンリルの奴らにヴァジュラのコアを引き渡しておいてくれるらしい。
「マキナさん、私達を助けて下さって本当にありがとうございます。娘のカノンだけでも、と考えていたのに私達まで…」
なんぞ話が長くなりそうだから、早く行くように手で追い払う仕草をすると、無線機と連絡先を書いた紙を俺の側に置いた。どうやらこれでアラガミの居場所を教えてくれるらしい、それとこの無線機が機能するのはこの辺りの距離が限界らしく連絡の必要な時はここに戻らなければならんらしい。
まぁ、その他細々した事を言っていたのだが此方としては早く休みたくて堪らない、大まかに治したとはいえ身体中電撃でボロボロなのだ。カナメもそれを察したらしく、話をすぐに切り上げもう一度礼を言って部屋を出た。
さて、眠らせてもらうと…
「マキナさん」
今度はコトハか………
「何だ?」
「カナメも言っていましたが、本当にありがとうございました。もし貴方のようなアラガミが他にもいるのでしたら、世界も変わるんでしょうね」
「そうだといいんだが、生憎同じアラガミを見たことはないな」
「そうですか、それは残念ですね。ですが、何か機会があって極東支部に立ち寄ることがあれば私達の家に来てくださいね?」
アラガミがフェンリルの支部に立ち寄るなど大問題だが………機会があればな。
「カノン、マキナさんにお礼を言いなさい」
「あーいいから早く行け、俺は寝たいんだ」
「マキナおじさん、ありがとう」
…………おい、俺はまだ20だぞ。


 
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