アラガミになった訳だが……どうしよう
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アラガミになった訳だが……どうしよう
7話
さて、あれから三日経ったわけだが……この三日で喰えたのがザイゴートとコクーンメイデンが各々4匹ずつ。正直、かなり腹が減って仕方が無い、カナメの妻が作ったらしい簡単な料理も口にしたのだが腹の足しにはならなかった。美味かったのだが、この体の欲している栄養はオラクル細胞らしく腹は膨れない。
どうにも普通の食事は取れないことはないが精々嗜好品位の扱いになってしまったらしく少々残念だ、これでも料理の腕にはそれなりに覚えがあったからな。
とはいえ、もう少しすればアラガミの比較的多い地域に入るらしく、この空腹もあと少々の我慢だ。
話は変わるのだが、非常に困ったことが起きた。
赤ん坊…台場カノンに懐かれた。
カナメが言うには彼女の偏食因子の適性に関係してオラクル細胞に比較的惹かれ易いらしく、全身オラクル細胞かつ敵意の無い俺が懐かれることはそれほどおかしくはないらしい。だが、そんな事をいいながら運転の休憩時間に自分の娘をアラガミに預けるのは如何なものかと思わずにはいられない、カナメとその妻…昨日知ったのだが台場コトハ曰く、
「襲おうと思えばとっくに喰らっているだろうし、自分達の側にいるよりも貴方の側にいる方がアラガミに襲われた時に遥かに安全」
だそうだ。
まぁ、それはそうなんだろうが何と無く納得がいかない。しかし、赤ん坊の扱いなど俺が分かる筈もなく、取り敢えず背中を上の空いたリュックサックのような形に変異させてそこに入れているだけだ。幸い、それに不満はないらしく彼女も別段泣いたりすることはなく、こちらとして特に慌てさせられるようなアクシデントも無く非常にありがたい。もっとも背後にいるので表情など分かる筈もないので、意外と後ろで不機嫌そうな顔をしているのかもしれないが俺に赤ん坊の機嫌を取れと言われても、正直困るばかりだ。
「少しいいですか?」
そんな事を考えながらいい加減マトモな服を着たいと思いながらも、服が見つからず延々と使い続けているマント代わりのタオルケットをちまちま直していると、休憩中のカナメに呼ばれた。
「なんだ?」
「いえ、大したことではないんですが貴方の名前を聞いていなかったと思い出したんですよ、差し支えなければ教えてもらえませんか?」
………名前か、あるにはあるがそれは人間の名前だしな。今の俺はアラガミなのだからその名前を名乗るのは問題があるだろうし、正直あまり好きな名前でもなかったんだ、いい機会だこの辺りで改名でもするとしよう。
「ないから適当に付けてくれ、そもそもアラガミに名前を付けるのはお前ら人間の仕事だろ?」
「そうですか……では、支部に着くまでには決めておきます」
その後、再びトラックは動きだし周囲の景色も自然から廃墟に変わり始めた。どうやら都市部に出てきたらしい、この辺りからアラガミはやたらと増えるお陰で、取り敢えず空腹とはおさらばできる。その証拠に廃墟の街に入ってから、一時間と経たない内にオウガテイルの群れに出くわしているのだから。
カナメ達にトラックから出ないように言いつけ、俺は久し振りの食事に向かうとしよう。数はざっと見える範囲で七匹か……本来ならば近づいて一匹ずつ斬っていくのが俺の趣味なのだが、流石にこの数トラックから離れすぎる訳にもいかない為トラックの上から射撃で行動不能にしてから、ゆっくりと喰わせて貰う事になるな。
両腕をコクーンメイデンに変化させてオウガテイルに狙いを付け、まずは右腕で一旦足を止めさせる。流石に即死させるのは威力としては少々足りないが、致命傷を負わせる位の威力はある。そして、動けなくなった奴からウロヴォロスの力を持つ左腕で撃つ、これで確実に死亡確定だ。使っていて分かったのだが左腕は威力はあるのだが、それ以外の部分の攻撃よりも若干だが溜めの動作がある。もっともアラガミの戦闘でもそこまで問題にならない程度の溜めだが、今回のように一匹でも近付かれる訳にはいかない場合は向こうの数も合わさって少しばかり問題になるのだ。
一発でも外した場合その間に距離を詰められ、非常に厄介な事になるのは目に見えている。しかし、右腕の火力では僅かだが足りない。
となると、必然的にこのような右で止めて左でトドメというような戦術になる訳だ。問題はこの戦術では少々オラクル細胞の消費量が増え、俺の腹が減るということと………車の中から聞こえる赤ん坊の楽しそうな笑い声に将来が心配になるという事が欠点ということか。原作での彼女の将来の性格を知る身としては、恐らくこの光景を見たことで一層悪化するのではないかと思わざるをえない。
残りは三匹となったオウガテイルだが少々距離が近い、両腕を剣に変える時間は流石にないな……仕方ない少々厄介だが片腕で一匹ずつ狙い撃つ。片方は即死、もう片方はその場で転倒……最後の一匹がトラックのフロントガラスに迫っているが、こちらの方が少々速かったな。左腕をコクーンメイデンの状態にしたまま車から飛び降りる勢いでオウガテイルの腹を貫き、ゼロ距離でレーザーを放たせてもらった。お陰でこのオウガテイルだけは爆散し喰えたものではなくなったが仕方ない、これはこちらの近付く前に倒せなかったという不手際だ。
カナメとコトハは若干顔が青くなっているので後で謝るとして、目を爛々と輝かせているカノンについては土下座でもしなければならないだろうか?教育上悪いとかそれ以前に、既に取り返しのつかんレベルで悪影響が出てるじゃないか。明らかに後々の彼女の性格がああなってしまうであろう責任の一端を担うハメになるとは思いもよらなかったし、どうにもあの戦闘時のテンションは生まれついての素養だったということも想像できなかった。
大丈夫、原作であれだったんだ、今更どう悪化しようが変わらんだろうし、あの誤射率やらには関係ないだろう。
………もっとも、悪化どころの騒ぎじゃなくなってしまったと理解したのは十数年先になるんだがな。
さて、取り敢えずオウガテイルを喰いながら周囲を見て回っているんだが、どうやらこの辺りには今のところアラガミはいないようだな。カナメに聞くともう二三日で目的地に着くらしく、今日はこの街を出てそこで一晩過ごすことになった。やはり、森の木々よりもアラガミにとっては人工物の多い街の方が喰えるものが多いらしく、野宿の方が安全と言えるようだな。
俺が近くの木を切り倒し、それを簡単な椅子代わりにして台場一家は缶詰や海沿いで蓄えていた魚の干物などで、簡単な食事を始める。別に必要ないんだがこの夫婦はいつも俺に食事を渡してくる、量も限られているだろうに必要ないと言っても、守ってくれている礼だから、と言って渡してくるのだからこの夫婦随分と人のいい人間なのだと実感した。この世界にそう長くいるわけではないし、人としてここで生きたことも無いから実感などないのだが、食料も限りがあり今日明日とも知れない命でありながらこういった人間らしさを保てているというのは、とても尊いものなのだろう。こんな世界でも人としての尊厳を保ち、他者を省みる、それが人間のみが行うヒトという種を人間としているのだ。
ただそれだけでこの世界には存在する価値がある、支部長の計画は他者を犠牲にしてヒトを残す計画だがその後の世界にきっと人間はいない。
だからこそ、俺は強くならねばならない。この世界の筋書きが幾ら本来の道から外れても、それを元に戻せるほどの力がいる。ご都合主義、結構じゃないか。物語としての楽しさなどいらない、下らない三文芝居でも構わない。
"色々あったが神が解決した(デウス・エクス・マキナ)"いいじゃないか、幸い俺はアラガミだ神には違いないのだから構わないだろう。
「カナメ」
「はい?なんでしょう?」
「前に俺の名前を決めろって言ったな、あれは撤回だ。今決めた、たった今な」
「どんな名前ですか、教えてくださいよ」
「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)、長いからマキナと呼べ」
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