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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第八十八話 覚悟と選択する道 後編

 リンディとレティ、そしてクロノの三人は部屋で向かいあっていた。

「はぁ」

 その中で誰の口からでもなく、ため息が漏れる。

 向かい合い話すべきことは当然のように士郎のことであるのだが、先ほどから議論にすらなっていない。

 三人とも、特にリンディは士郎の瞳の奥にある闇を垣間見たこともある。

 故に士郎の過去についてはそれなりに覚悟はしていた。
 否、しているつもりであった。

 だが実際には士郎の予想を超えた血に濡れた過去、そして夢のような理想の為に剣を取ってきた信念に言葉を発することを躊躇っていた。

 あり得ない理想を語る愚か者だと切り捨てる?

 確かに『全ての人を守る事のできる正義の味方』など夢物語であり、本の中に出てくるような幻想でしかない。
 それを理解して、なお目指し続け多くの人を守る為に少数を切り捨てる。

 言葉にするだけならば簡単だろう。
 だがそれを冷徹な理性を持って実行することがどれだけの苦悩なのかわかるはずがない。

 特になのはたちと違い管理局という組織にいる三人は善も悪も含めて色々な人間を見てきている。

 だが士郎はあまりに理解を超えた存在であった。

 冷徹な理性を持ち、誰かを救う為に、誰かを殺す。
 あまりに大きな矛盾であり、狂気に近い信念である。

 そして、士郎という人を知っている三人からすれば、士郎がどれだけ心の中で、誰かに見せることなく慟哭していたか想像できる。

 だからといってこのまま無為に時が過ぎても答えは出てこない。

 それでも選択をして、決めなければないらない。 

「私は彼を拒絶することも危険と判断することもない。
 例え彼に殺されてもだ。
 管理局の立場は君達が決めなさい」

 グレアムより一任された管理局と衛宮士郎がこれからも協力していくことが出来るのか、危険分子として敵対するのか、その答えを出さねばならない。

「……このまま向かい合っていても答えは出ないわ。
 私は士郎君とこのまま協力していく関係を続けていきたいと思う。
 二人の意見を聞かせて頂戴」

 大きく息を吐いて、リンディが重い口を開いた。

「……そうね。
 闇の書事件での戦いを見せてもらったけどアレだけの実力を持った人材は魔術を抜きにしてもほしいのが本音よ。
 彼の在り方はあまりに危ういものだけど、決して間違ったものではない。
 だけどリスクが桁違いに大きいのも事実よね」

 レティの言葉に頷くようにクロノが同意する。

「僕もレティ提督に賛成です。
 士郎の実力、人柄を見ても協力をしていくことは管理局にとってプラスになることだと思います。
 ですが……」

 クロノが言いにくそうに言葉を切る。

 それに頷き、遠慮はいらないと先を促すリンディとレティ。

「ですが管理局も一枚岩ではありません。
 犯罪や汚職など黒い噂がある者もいます。
 何かの拍子に士郎の信念とぶつかり合い戦闘になることは避けたいところです。
 仮にですが……本局での戦闘となればどれだけの被害が出るのか見当もつきませんが、軽微で済む筈がないのは確実です」

 クロノの言葉に否定することなく受け入れるリンディとレティ。

 三人が一番危惧しているのが士郎と敵対し戦闘になった場合である。
 味方であれば頼もしいが、もし敵になればこれ以上ない脅威となる。
 特に士郎の持つ手札には確認できているだけで魔法無力化の槍に、魔法破壊の短剣という魔導師の天敵ともいえる武器がある。
 さらに未だ見せていないというだけで他にも同様の武器がないとも限らない。

 そして、確固たる信念を持っているということは、一歩間違えば組織の在り方と信念がぶつかった時に躊躇無く信念を選択する。
 そうなったら戦いは回避できない。

「確かに二人の意見は最もだと思うわ。
 だけど彼を一人にしてしまえば、彼は元いた世界と同じ事を繰り返してしまう可能性が高いわ。
 いえ、既にそれだけの実力を持ってしまっている。
 そうなったら私達と士郎君は戦わなければならない」

 だからといって協力せずに不可侵を維持できるかといえば、そうではない。

 特にリインフォースという魔導を知るパートナーを得た以上は士郎自身が地球以外の世界に踏み出てくる可能性も高い。

 仮に地球以外の世界に出てこなくても宝具の類などロストロギアクラスなのだから共に歩むことをやめた時点で管理局が士郎を追う可能性は高い。

 さらにその中でも最悪の想定をするなら

「そして、絶対に士郎君とゲリラ戦になることだけは避けないといけないわ」

 衛宮士郎とのゲリラ戦である。

 管理局内での衛宮士郎対管理局の決戦となればかなりの被害は出るが物量で押し勝てる。
 無論、士郎の全ての手札を知らないため推測でしかない。

 それでも物量差というのは単純かつ明確な戦力の差でもある。

 だがゲリラ戦となれば話はそんなに簡単なものではない。

 次元世界という広大な土地に魔術という魔導よりも秘匿性の高い技術。
 士郎が使っていた銃を使用すれば魔術すら使う必要がない。

 次元世界には管理局の手の届かない管理外世界や文明がなく局員を配置していない隠れ家となる無人世界などいくらでも存在する。

 そんな中で一人の人間を探し出すのは難しい。
 反管理局勢力と協力されたらもはや手に負えない。

 戦いは長期化し、一度の被害は少ないかもしれないが、確実に被害は増えていき疲弊するのは管理局の方になる。

「確かに士郎相手のゲリラ戦は遠慮したいですね。
 今後戦いになることを想定し、反管理局勢力と手を組むことを防止する意味でも協力体制を築いて近くで監視できたほうがやはり安全だとは思いますが。
 それで母さんの本音としてはどうなんですか?」

 クロノが管理局の立場ではなく、家族として共に戦った友人をどうしたいのか問いかけた。

「そうね。局員としては一旦置いておいて意見が聞きたいわね」

 クロノ言葉に同意するようにレティもリンディに視線を向ける。

 二人の探るような視線にリンディが一瞬怯むも

「そういう二人はどうなのよ」

 誤魔化すように二人に質問で返す。

「そうね。
 彼は色々と複雑みたいだけど、あれほど優秀な人材が入ってくれるなら賛成よ。
 まあ、心配だからというのもあるけどね」
「僕も似たようなものです。
 魔術を別にしても戦闘での判断能力や経験はもちろん、教官としても優秀のようですから。
 友人としては自分の命を勘定に入れていないのが危なっかしいですが」

 あっさりと、さも当然のように返された言葉にリンディがわずかに固まる。

(なんで個人としての意見を聞かれて戸惑ったのかしら……
 レティやクロノのようにただ自然に返せばいいのよ)

 自分の感情に首をかしげながら納得する。
 いや、この場合は感情を誤魔化して納得させた、の方が正しいのだろうが。

「それでどうなの?」
「どうって、私も二人とそんなに変わらないわよ。
 魔術という規格外の能力、高い戦闘経験と能力、執事の経験の家事能力も高いし、正直来てくれるいうなら助かるわ。
 でも自己犠牲というか、一番最初に自分の命を差し出すようなところがあるし、誰かが傍にいて支えてあげる必要があると思うの。
 それなのに他の人、特に女性には優しくて気が利くのに、鈍感だし……」

 ここにきてリンディ自身、自分が何を言っているのか理解したらしく、ゆっくりと声が小さくなっていく。

 レティはそんなリンディをとても楽しそうに見ており、クロノはというとため息を吐きつつ、どこか遠い目をしている。

 先ほどとは違う意味で沈黙が支配する。

「……えっと」
「母さんの意見はわかりました。
 色々と複雑ですが、それは一旦置いておいてやはり妙です」

 クロノの言葉にレティの顔が仕事の顔に戻り、リンディも大きく息を吐き出して表情を引き締める。

「クロノ君、妙ってどういうこと?」
「士郎の経験の量です。
 魔術は鍛錬にどれぐらいかかるか基準がわからないのでなんともいえません。
 ですが、戦闘経験、銃器の取り扱い、近接戦闘術、交渉術、執事の家事能力。
 どれをとっても数年の経験で到達できないレベルです」

 確かに九歳の子供が積む事が出来る全ての時間を用いても足りないだろうとリンディとレティが頷く。

「明らかに年齢と経験量が一致しないわね。
 考えられるとするなら、身体的成長が止まっているか、若返ったといったところかしら」
「恐らくはですが。
 士郎の過去の話で年齢のことまで意識がいきませんでしたが、明日の朝にでも確認したほうがいいと思います」

 クロノの言葉に頷き

「では士郎君の年齢については明朝確認するとして、今後の管理局の方針としては協力体制を続けていくということでいきましょう」

 リンディのまとめで管理局の方針も決まった。

「でもよかったじゃない。
 実年齢が九歳じゃないなら犯罪じゃないから友人としても安心だわ」
「レティ!?」

 もっともこれでお開きではなく、しばしの間今までの重い空気を吹き飛ばすような話が続いて、三人の睡眠不足に繋がるのだがそれは別の話である。



 そして、とある一室。
 夜という闇に包まれた部屋の中で明かりも点けずに窓から外を眺める者がいた。

 その者の瞳が見つめるのは士郎が篭っている鍛冶場。
 ただ静かにどこか悲しげに見つめ続ける。

 その者の傍に静かに歩み寄る影が一つ。

「フェイト、そろそろ休みなよ。
 明日がきつくなるよ」
「……うん、もう少しだけ」

 もう何度か繰り返されたやり取り。
 何度目かの同じ返答にアルフはため息を吐き、覚悟を決めて主であるフェイトに本当の問いを投げかけた。

「フェイトは……これから士郎とどうするつもりなんだい?
 士郎が皆の意思を決めるために話したのはわかってるんだろ」

 今夜の話は士郎とこれから共に歩むためにこれまで隠していたことを打ち明ける。
 これが表向きではあるが、もう一つ役割がある。

 士郎の過去、死徒という人から外れたという真実を知った上で今までと同じ関係を維持するのかそれぞれの意思を確認する場である。

 そのために話が終わった後、早々の解散し、考える時間を持てるように部屋も用意している。

 アルフの問いかけにゆっくりとフェイトが振り返る。
 その瞳は迷いに揺れていた。

「正直に言うとね。
 すごく迷ってるんだ」

 プレシアから拒絶されていたときよりも弱々しいフェイトの様子にアルフは息を呑むと共に首を傾げる。

 フェイトが士郎に向ける好意は当然のことだがアルフは知っている。

「迷ってるって士郎が人を殺したことかい?
 それとも吸血鬼だってこと?」

 さらにフェイトの好意は強く真っ直ぐで揺らぐどころか、海鳴に引っ越して学校に通い始めてより強くなっている。
 確かに士郎が人を殺していることや吸血鬼というのはショックだったかもしれないが、ここまで迷っていることがアルフにはあまりに意外であった。

 だがフェイトは静かに首を横に振る。

「士郎のこと、驚かなかったって言ったら嘘になるけど納得も出来るんだ。
 ジュエルシードを壊した時苦しんでいたのも、母さんがアリシアのためにしようとした事を止めたのも、今ならこれが理由なんだってわかる」

 フェイトは士郎の過去をどこかで納得していた。

 多くはないが目にしてきた士郎の戦闘。
 その中で見せた動き、判断力、技術。
 どれも洗練されたものであった。

 そして、なにより魔導と違い非殺傷設定がない殺し合いという中において躊躇いや迷いがなかった。

 士郎が戦いや殺し合いに快楽を感じるような性格ではない事は理解している。
 それでなお躊躇いや迷いがないということは自然と答えが出てくる。
 自身の中に相応の覚悟を持っているか、命のやり取りの経験を積み抑制できているか、どちらか両方だ。

「もし私が見知らぬ人をなのはや母さんを守るために殺せと言われても私は、躊躇ってしまう。
 でも士郎はきっとそれが出来る」

 事実、士郎はそれが出来るだろう。
 仮に百人の命のために自身の命を捨てるとしても躊躇なく自身の心臓に剣をつきたてる。

 だからこそ

「私は迷ってしまうんだ。
 士郎はきっと私達が一緒にいられないと拒絶しても静かに受け入れると思う。
 逆に一緒にいたいといえば受け入れてくると思う」
「うん、士郎は一緒にいたいって言えば受け入れてくれるよ。
 何を迷うんだよ」
「受け入れてくれた後、士郎はきっと士郎より弱い私達を守ってくれると思う。
 でもそのせいで士郎の足を引っ張ってしまう。
 もしかしたら庇って傷ついて命を落とすかもしれない。
 そうなったら私は……」

 共にいたいという気持ちを伝えるのを躊躇ってしまう。

 士郎の傍に自身がいることで足手まといになることを考えてしまう。

 あの遠い背中を見つめて守られるだけで、隣に並んで歩むことが出来ないのではないかという不安がフェイトの決意を鈍らせていた。

 アルフはようやくフェイトの迷いと不安を理解した。
 それと同時にフェイトの思いはよくわかっていた。

(確かに士郎の強さは底が知れない。
 だけどここで諦めて下がったらフェイトはずっと後悔する。
 でもどうしたらフェイトを説得できるかな……あ~、私はこういう頭を使うことは苦手なんだけどな。
 もっとフェイトもわがままでいいのに、なのはやはやてだって士郎と対等に横に並んで戦えないと思うし……)

 そんな中でどうやってフェイトを説得したものかと内心で頭を抱えていたアルフにいい案が浮かんだ。

「フェイト、諦めたら駄目だよ」
「私も諦めたくはないよ。だけど」
「フェイト、確かに士郎は強いよ。
 私とフェイトでも対等にはなれないかもしれない。
 だから皆でやろうよ」

 アルフの言葉にフェイトが目を丸くする。

「なのはやはやて、プレシア、それでも足りないならシグナム達やリンディ提督達も皆でさ。
 あんな危なっかしい奴を皆だって一人にしたら危ないことはわかってるよ。
 だから皆で士郎と並んで行けばいいじゃないか」

 アルフの言葉に目を丸くして固まっていたフェイトだが、納得したように笑顔で頷く。

「そうだね。
 皆で士郎の傍にいればいいよね。
 守られるだけでじゃなくて、守れるように」

(きっとなのは達も士郎を拒絶したりしない。
 もしかしたら母さん達は士郎の傍にいるのが危ないというかもしれないけど、わがままを言わせてもらおう)

 覚悟が決まったフェイトの表情から迷いや怯えは消え、静かだが明確な意思と

「今はまだ一人じゃ無理だけど、きっと横に並んでみせるから」

 未来を見据えた覚悟が瞳に輝いていた。



 ある部屋をノックする音がする。

「はい、どうぞ」
「ユーノ君、夜遅くにごめんね」
「ううん、僕も眠れなかったから」

 なのはを部屋に通すユーノ。

「適当に座って」

 なのはを部屋にある椅子に座らせて、向かい合うようにユーノ自身もベットに腰掛ける。

「えっと、ちょっと相談にのってほしくて」
「うん、士郎のことだよね」

 ユーノの言葉に頷きを返すなのは。

 ユーノ個人の胸の内で言えば、士郎のことを相談されるのは心苦しいものがある。
 だが、同時になのはの思いを知っている故に、感情をコントロールしてみせる。

 しかし、なのはは何も口にしない。
 正しくはうまく言葉に出来ていないだけかと考えて、なのはの迷いがどこにあるか見極めるためにユーノから問いかける。

「なのはが迷っているのは士郎の吸血鬼ということ?
 それとも人を……元いた世界で行ってきたこと?」
「ううん、驚いたけど士郎君は士郎君だもん
 元いた世界の事だって正しいのか間違ってるのかなんて、私が言う権利は無いと思うから」

 ユーノはなのはの言葉を聞きながら思考を奔らせる。

(吸血鬼だとしても士郎の個人として受け入れているから気にしていない。
 元いた世界の事も簡単に答えが出せるような問いじゃないということも説明が出来なくても理解してる)

 ユーノ自身もそうだが、より多く救うために少数を切り捨てる。

 つまりは人を数だけで考えるということ。

 正直、破綻した思考だとは思っている。
 だが一人を犠牲にして一つの街を、世界を救うという行為を闇の書事件という形で目にし、知ってしまった。

 あのメンバーが揃い、奇跡にも近い確率で成功したが、もし一人でも欠けていたら
 そう考えると即座に否定できない。

 なのはもそれをわかっているからこそ、答えは出せていない。

 だがこれは士郎を受け入れるという問題である。
 言う権利がないと答えが出ている時点で、迷いではない。

「なのはは士郎と一緒にいたい?」
「うん」

 一切の迷い無くユーノの問いに頷くなのは。
 これに首を傾げるのはユーノである。

 なのはは士郎のことで答えが出てしまっている。
 吸血鬼のことも、元の世界で人を殺めたことも受け入れて、士郎の傍にいたいとはっきりとしており、話を聞く前から思いが揺らいでいるわけではない。

「士郎が元いた世界と同じことをこちらでもしてしまうと危惧はしてる?」
「うん、正直に言えば。
 だけど、今は守ってもらってばかりだけど、もっと強くなって士郎君が一人で悩んで突き進んで同じことを繰り返すことはさせないよ。
 絶対に」

 そこまでなのはが士郎の傍にいることを選んでいるとは思わず目を丸くするユーノだが、真っ直ぐでなのはらしいとすぐに納得する。

(士郎の過去のことも、これからのことも明確に答えが出てる
 他の皆も士郎を拒絶するとは正直思えない。
 一番の不安は管理局、クロノ達だけど士郎と手を切って自由に動くほうがリスクがあるのはわかるはず。
 今の形でそのまま落ち着くはずだけど……)

 ここに来て、なのはの迷い、いや正しくは不安をユーノは思い当たった。

 もし誰かが士郎の事を拒絶したら、士郎はどうするのだろう?
 拒絶した事を受けいれて今まで通り過ごす?

 士郎がそんな性格ではないことは、なのはもユーノも知っている。
 つまり

「誰かが士郎を拒絶したとき、誰にも告げずに消える心配をしてる?」

 静かに頷くなのは。

 ようやくユーノはなのはの不安を理解した。
 初めに不安を口にしなかったのはうまく言葉にできなかったわけではない。

 単純に相談に来たものの、ユーノが士郎を拒絶するつもりだったらと考えてしまい、言葉に詰まっていただけだったのだ。

「僕は士郎を拒絶するつもりは無いよ。
 確かに士郎が元の世界でやってきたことも、少数を切り捨てるというやり方も理解できない。
 でも士郎の強さも優しさも知ってるから、友人としてこのまま付き合っていければと思ってる」

 それを理解し、ユーノはなのはに士郎を拒絶する意思がないことを静かに告げる。
 その言葉を受け入れて

「士郎君がいなくなっちゃうと思うと、とても苦しいの」

 静かにその胸の内を零した。

「フェイトちゃんも、はやてちゃんも、ヴィータちゃん達も、リンディさん達も士郎君を受け入れてくれると思う。
 だけど士郎君の秘密に気づく人が出てくると思うの。
 士郎君は優しいから迷惑をかけまいといなくなっちゃう。
 たった一人で、止めてもそれを振り切って」

 言葉の最後には嗚咽が混じり、なのはの瞳から静かに涙が溢れる。

 なのはは信じていた。
 友人であるフェイトやはやて、ヴィータ達の事を。
 色々と手を回してくれたリンディやクロノ達の事を。

 だが魔術という異端の力を持つが故に利用するものが現れる。
 敵は当然として、管理局内にも

 その時、士郎はなのは達を危険に巻き込むことを嫌い姿を消すだろう。

 元の世界で遠坂やアルト達の前から姿を消したのと同じように
 そして、一人で行き着く先は破綻者の末路である。

 漠然とした不安ではあるが、そう遠くない未来起こりうる可能性が高い。

「なのは、確かになのはの不安は起こる可能性が高い。
 だけど今すぐじゃない。
 リンディさん達や本局でも士郎を受け入れることに積極的な人たちがいる。
 なのはやフェイト、はやても管理局に入るから士郎の味方は増える。
 その時までに強くなろう。
 士郎が去ることが無いように、止められるように
 そして、士郎に悪意を持つ相手がいても守れるように」

 なのはの手をとり、真っ直ぐ見つめるユーノ。

「うん、強くなる。
 守られるばかりじゃない。
 士郎君の隣に立てるように、背中を守れるように」

 涙でぐちゃぐちゃの顔で笑いながら、しっかりとユーノの手を握り返す。


 それぞれの覚悟、思いを胸に静かに朝を迎えようとしていた。 
 

 
後書き
ご無沙汰しております。セリカでございます。

前回の更新から2ヶ月と少々。
お待たせしました。

それにしてもそれぞれの個性がちゃんと出せているか内心不安です。
難しいものですね。思いというのは……

そして、何気に登場していない猫姉妹とどんどんヒロイン化し始めているリンディ
リンディをヒロインに入れるつもりは無いんだけど……なんでだろ……

余談ですが、実は反士郎派組もつくろうとも思ったのですが、物語が破綻しそうなのでやめました。

さて、三連休もあり更新の目処が「次回は」立ったので予告を久々にします。

……はやく安定更新に戻したい(泣

次回更新は三週間後の11/24か、25のどちらかに行います。

それではまたお会いしましょう。
ではでは 
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