戦国異伝
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第百六十九話 三方ヶ原の戦いその八
「殿、ここはです」
「浜松までお退き下さい」
「最早勝敗は決しました」
「ですから」
「いや、ならぬ」
彼等の思った通りだ、家康は強張った顔でそれを断った。
「この度は負け戦じゃ」
「その負け戦の責をですか」
「わしは死を以て償う」
それが為にだというのだ。
「わしが御主達を死地に送ったのだからな」
「いえ、それは」
「何とか」
二人はその家康にさらに言う、家康がそう言うとわかっているからだ。
「お命あってです」
「これから責をお取り下さい」
「ですからどうか」
「ここは」
「生きよというのか」
家康は二人の言葉に昂ぶっていた心を収めだしていた。そのうえで確かな声になりそれで言うのだった。
「ここは」
「お命があれば」
「それでこそですから」
「左様か、では」
「ここは我等にお任せ下さい」
「まずは浜松まで」
逃げよというのだ、こう言ってだった。
そしてだ、家康はだった。
逃げることを決意した、浜松まで。ここで大久保が彼のところに来てそのうえでこう主に言ってきたのだった。
「殿、ではそれがしがお護りします」
「供に来てくれるか」
「武田の者には指一本触れさせませぬ」
確かな笑顔で言うのだった。
「ですから」
「そうか、では彦左衛門」
「共に浜松まで退きましょう」
「それではな。ではな」
ここでだ、家康は酒井と榊原を見て問うた。
「平八郎達は後詰じゃな」
「はい、そのうえで戦っております」
「我等も足止めしますので」
「そうか、では浜松で待っておるぞ」
つまりだ、死ぬなというのだ。
「城は開けておく、必ず戻るのじゃ」
「はい、それでは」
「浜松で」
「うむ、会おうぞ」
こう話してだ、そしてだった。
家康は大久保と共に逃げた、だがその家康を見てだった。
武田の者は一斉にだ、こう叫んだ。
「あれば」徳川家康ぞ!」
「敵将はあそこにいるぞ!」
「追え!捕らえよ!」
「捕らえられなければ首を取れ!」
「褒美は思いのままぞ!」
敵将である家康をどうにか出来ればだ、それでだ。
だからこそ彼等は意気上がり家康を追おうとしてきた、武田の精兵達は本多達が必死に食い止める中で家康に追いすがっていた。
大久保は槍を手に敵を退ける、家康も必死に自ら刀を抜き浜松まで向かう。だが武田の猛者達が迫ってきて。
追おうとする、だが。
ここでだ、家康と大久保の周りにだった。馬に乗った飛騨者達が来て言ってきた。
「徳川殿、お困りですな」
「ここは我等にお任せを」
「どうするのじゃ、ここは」
家康はその彼等に問うた。
「一体」
「まず服部さんも後詰で頑張ってるからな」
煉獄はまずこのことを家康に告げた。
「あの人はあの人で頑張ってるからな」
「ふむ、流石は半蔵じゃ」
「伊賀の人達もな、それでわし等がだよ」
「忍としてか」
「ああ、徳川殿を助けさせてもらうぜ」
こう家康に言うのだった。
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