NARUTO 桃風伝小話集
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その19
前書き
里の異変(ryから一年後のとある一日です。
あんこの作り方は、 <a href="http:// lainacuisine.blog86.fc2.com" title="相互リンクについて">「プロレシピブログ 艸SOUの作り方」</a> を拝借しました。
あれから、1年経ちました。
いつ何が有ろうとも、変わらず日は沈み、日は昇り。
私達がそれに何を感じようと規則正しく繰り返し、今日という日を迎えてしまいました。
去年の今日は、楽しかった。
私はミコトさんに誘われて、ミコトさんと一緒に、うちはの家でごちそうを作りました。
それと、甘さ控えめの、その癖しっかりと味が付いた、絶妙な美味しさのおはぎを。
誕生日と言えば、白いクリームの上に苺が飾られた丸いケーキのイメージがあって、それにほんの少しだけ憧れめいた気持ちがなくもなかった私は、ミコトさんがうちはケーキじゃなくておはぎなのよと笑って言った時は、内心首を傾げて居たものです。
でもその戸惑いは、おはぎを目にしたサスケを見て、驚愕と共に深く納得したものです。
びっくりしました。
サスケは、嬉しそうに頬を染めて、自ら進んで箸をおはぎに運んでました。
甘いものは嫌いと公言していたのに、甘いものに箸を運ぶサスケというとても珍しい光景に、ついつい視線が釘付けになってしまったのも仕方無いと思います。
呆然と見詰める私にバツが悪くなったのか、不機嫌になったサスケに睨まれたのも、今となっては良い思い出です。
そして今。
私はミコトさんから貰ったとあるレシピを前に、難題に頭を抱えていました。
お米は、有ります。
小豆も、有ります。
ミコトさんが指定したお砂糖も手に入りましたし、隠し味のお塩も揃えてます。
レシピ貰って嬉しくて、ミコトさんに完璧と太鼓判押して貰えるまで作り続けた時期があったので、寸分違わずこの味を再現できる自信は有ります。
私が躊躇う理由はただ一つ。
サスケは。
祝われる事を望むでしょうか。
祝う事で、サスケの気持ちを逆撫でする事にはならないでしょうか。
今年は、去年とは違うから。
違うけど。
違うからこそ、変わらぬ物をサスケにあげたいと思うのはいけない事でしょうか。
それは、サスケを傷付ける事にはならないでしょうか。
迷って。
迷って。
迷って。
迷いながら。
私はそっと小豆を水に浸してから家を出ました。
去年と変わらず、今日も蒸し暑く良い天気の一日でした。
朝っぱらから頭を悩ませてくれた私の悩みは杞憂でした。
去年と同じく、アカデミーの授業を終えたサスケの周りには人垣が出来てます。
変わらない物は此処にも有りました。
「サスケく~ん!お誕生日おめでとう!はい、これプレゼント!」
「サスケ君!これっ、お誕生日のプレゼント!よければ使ってくれたらうれし」
「ちょっとどいて!サスケ君!それよりこれ!お誕生日プレゼントにケーキ焼いてきたの。お誕生日おめでとう!」
「ちょっと何すんのよ!私がサスケ君にプレゼントあげる所だったのに!」
「あら、そんな所に居る方が悪いんでしょ?私もケーキとプレゼントあげるんだもの。でも貴女、プレゼントだけなのね。ふ~ん?」
「何が言いたいのよ!」
「別に?気にしなくて良いわよ?対した事じゃあ!?」
「サスケ君!お誕生日おめでとう!これっ、プレゼント!!」
「サスケ君、これも!」
サスケ君サスケ君サスケ君。
入れ替わり立ち替わり、サスケの周りで時に小競り合いを交えながら、頭が痛くなるような黄色い声でサスケの名前が連呼されてます。
うん。
本当に、杞憂だったようです。
別に、私の気遣い、必要無かったみたいですね。
サスケは去年と同じく不機嫌そうに苛立っています。
去年と違う所と言えば、去年は纏付く女の子達と喧々囂々と元気に言い争いを繰り広げていた所でしょうか。
でも、今年は不機嫌そうにしながらもむっつりと押し黙っています。
これは成長、なのでしょうかね?
それとも少しは彼女達の気持ちを理解して嬉しいと思ったのでしょうか。
正直、私的には黄色い声が耳に痛いし煩いので鬱陶しいです。
誰か、黙らせてくれないですかね、あの色ボケ集団。
思わず半目でジト目になってました。
と、その時でした。
「煩い。黙れ」
酷く押し殺した怒りと憎悪を滲ませる低い声でサスケが唸りました。
「俺にまといつくな!関わって来るな!」
きっぱりと断言して周囲を睨み付け、サスケが彼女達を黙らせました。
良くやった、サスケ。
思わず感心して、内心拍手を捧げます。
その時、ばちり、と。
サスケを取り巻く集団の輪の外から、サスケとそれらを観察していた私とサスケの目が合いました。
サスケの瞳が不穏に煌めく。
「行くぞ、ナルト!」
私を見つけたサスケが、有無を言わせず断言して人垣を割って出てきました。
それをほけっと眺めていた私は、はっとなりました。
「う、うん」
咄嗟に同意して肩を怒らせたサスケの後ろに着きます。
恨みがましい視線が私の背中に刺さります。
ほんのちょっと良心が痛まない事もない。
だって彼女達は純粋に祝ってプレゼントをあげたかっただけでしょうし。
今日はサスケの誕生日だから。
気になる男の子に何かしてあげたくなるお年頃です。
浮かれ騒ぐ結果もむべなるかな。
ただし。
それが、サスケの気持ちを省みない非常に押し付けがましい物であるのも確かです。
周りの迷惑になっているのも事実です。
煩くて鬱陶しかったのも事実でした。
うん。
やっぱり罪悪感など、どこにも必要無いですね。
思い直した私は、彼女達をちらりと視界に入れて存在を意識から追い出しました。
恐らく、サスケはあそこから抜け出す口実に私を使ったのでしょう。
ならば、この後どうするかは決まって無いはずです。
アカデミーの廊下を連れ立って歩きながら、何となく、去年と今年の違いを再び考えてしまっていました。
去年はこのまま、サスケの家に行きました。
なんやかやとくだらない事で笑い合いながら。
でも。
むっつりと黙り込んだままのサスケに、ちょっと寂しくて切ない気持ちが湧いて来ました。
耐えきれなくなって、私はサスケに声をかける。
「ねえ、サスケ!」
ちらり、と視線を寄越すだけなのはいつもの事。
本当に不機嫌ならば、サスケは私の声にも反応しません。
その時は殺気混じりにクナイを投げつけてあげますが。
だからいつもどおりに続けます。
「これからどうする?」
いつもだったら、サスケは私を睨んで、ちょっと考えてから嫌そうに提案して来たり、ぶすくれながら私のしたい事を聞いて来たりします。
こんな風な無愛想な所もやっぱり去年とは違う。
正確には、去年のあの日から。
サスケは変わった。
変わったけれど、でも。
「そうだな……」
サスケは少し視線を下に落とし、ぼんやりと考え始めました。
その消沈した空気と横顔に何となく、胸が騒ぐ。
「修行、するか……」
顔を上げて、痛みを堪えて遠くを見るような眼差しで在らぬ場所を見詰めたサスケに、私は思わず足を止めました。
やっぱり。
私は私なりにサスケを祝いたいです。
サスケの、生まれて来てくれた日を。
こんな私と友達になって、そしていつも一緒に居てくれるサスケの誕生日を。
「ナルト?」
足を止めた私に、サスケは怪訝そうに振り返った。
何の感情も見せないようなサスケの黒い瞳に、素直に感情を起伏させて、そして無邪気に笑っていた去年の『サスケ君』の面影が重なる。
にこり、と私はサスケに重なった『サスケ君』に笑いかけた。
「ごめん、サスケ。今日、僕、修行に付き合えないや。する事が有るんだ!」
去年のようににっこりと笑いかけて、私はサスケの提案を断った。
そんな私に驚いたようにサスケは目を瞬かせた。
「ごめんね!じゃあね!」
そんなサスケをその場に残し、碌に挨拶もせずに私は家に急ぎました。
全速力で一直線に里を駆け抜け、梢の合間を縫って山を登って。
肩で息をしながら家に着いた私は、急いで水に浸けて置いた小豆を確認しました。
本当は昨日から用意するべきだったけど。
でも、私が手を出して良いか分からなくて。
だけどお祝いしてあげたくて。
でもやっぱり、私には迷いがあって。
どうしてもサスケに話を切り出す事ができなくて。
行動すら、今日の朝になるまで起こせなかったから、だからごちそうは用意できないけど。
でもせめて。
戻した小豆をザルにあけて水を切る。
土鍋に入れて、水を入れて弱火にかけた。
そうすると、さっき、アカデミーの教室でサスケに誕生日のケーキを差し出した子の行動と、ミコトさんの言葉が脳裏に甦ります。
家は、誕生日はケーキじゃなくておはぎなのよ、と笑っていたミコトさん。
そして、目を輝かせて頬を染めて嬉しそうにしていたサスケ君。
その光景は、ちょっと羨ましくて、胸が痛くて。
でも、とってもくすぐったくて、胸の中が熱くなって、そんな表情ができる二人に憧れました。
あんな気持ちは、うちはの人達と付き合うまで知りませんでした。
それに、ミコトさんは何でも無い風に私に約束してくれました。
私の誕生日にも、ミコトさんがおはぎを作ってくれると。
お母さんにも作ってあげたんだ、と笑って教えてくれました。
でも、ミコトさんの約束は果たして貰えませんでした。
これからも、果たして貰える事はありません。
胸が痛くて、苦しくて、何故か、独りで居るのが辛いです。
独りは慣れて居るのに。
だから。
煮上がった小豆を火から下ろして水に晒す。
上澄みを捨てて、お水を変えてもう一度。
最後にもう一回。
そしたら盥にザルを載せて、さらしを敷いて、小豆の水気を切る。
きっと、サスケはもっと辛い。
だって、独りに慣れてる私がこんなに辛いんだ。
ずっと、ミコトさん達と一緒に居て、ミコトさん達との思い出がいっぱいあるサスケのほうが、もっといっぱい辛くて苦しいに違いない。
それにだって、それにはイタチさんも絡んでる。
辛い時は。
悲しい時は。
幸せな気持ちになるのが一番ですよね?
それに、ミコトさんがどれだけサスケ達を大切に思ってたのか、こうしていると良く分かります。
約束は、果たしてくれなかったけど。
でも、私もそこに入れてくれようとミコトさんはしてくれました。
ぽつり、と涙が落ちる。
慌てて涙を拭って、作業を進める。
土鍋に氷砂糖と和三盆をザラメを入れて、煮小豆を入れて弱火にかける。
木べらで焦げないように底をかき混ぜる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
こんなに手間のかかる物を、ミコトさんは何気ない顔で作っていた。
私が知る限り、いつも笑顔で。
だから、きっと、苦じゃなかった。
嬉しかったんだ、こうして、作ってあげる事が。
そうじゃなかったのかもしれないけど、私にはそう思えた。
それに、だんだん私も楽しくなって来た。
サスケは、怒るだろうか。
喜んでくれるだろうか。
でも、どっちでもいい。
だって、私が作りたかっただけですから!
仕上げに塩をひとつまみ。
そうして、ちゃんとミコトさんの味になっているか味見する。
味を見ているうちにふと思い立ちました。
サスケへの誕生日プレゼントは、このおはぎのレシピにしよう、と。
私がこのレシピからミコトさんの気持ちに気付いたように、いつかサスケもこのレシピからミコトさん達の気持ちに気付けば良い。
そう思いました。
それは凄く素敵な事で、そして、私はミコトさんから貰った物を、サスケにちゃんと渡さなくっちゃいけない使命感にも駆られました。
だって、これはミコトさんの、『うちは』の味です。
『うちは』じゃない私が知っていて、『うちは』のサスケが知らないとか、絶対おかしいです!
いつかちゃんとサスケにも覚えさせようと思います。
サスケは『うちは』で、ミコトさんの子供だから。
味見する限り、きちんと記憶の中のミコトさんの味に仕上がっていて、私の機嫌も上がります。
本当は、これから餡を一晩寝かせるのだけど、今回は時間が無いので端折ります。
バットにラップを引いて、餡を薄く引いて粗熱を取る。
もち米と粳米を合わせて炊いて半殺しにして。
餡子でくるんだら完成です!
時間を見れば、まだ、ぎりぎり今日です。
あと一時間程有ります。
間に合って、良かったけど。
でも確実にサスケは寝ているでしょう。
そんなサスケの下にこのおはぎを手に押し掛ける私。
一瞬、迷惑かもしれないと脳裏に不安が過ぎりました。
でも、別にサスケとは知らない仲でもないし、修行した後、一緒にご飯食べたりする仲でもあります。
だったらそんなに気を使う必要なんて無いですよね。
寝てたら叩き起こしましょう。
あっさり決断した私は、出来たおはぎを重箱に入れて、里外れにあるサスケの家に急ぎました。
サスケは今、うちはの家に程近いアパートで独り暮らししています。
それは私の所為でもある。
私が考え無しにとある変態を頼ってしまった所為でした。
まあ、最終的に修行の一環という事でサスケに納得してもらいましたが。
うちはの家解放に向けて、ありとあらゆる協力を惜しまないと確約もしましたし。
だから、それは別に構いません。
だけど。
これはちょっと、予想外でした。
「サスケ?」
ぼんやりと、サスケは独りで月を見上げてました。
アパートの、外で、うちはの家が立ち並ぶ方を眺めながら。
闇に溶け込みそうなその姿に、全身の毛が逆立ちました。
思わずサスケに声をかけた。
「サスケっ!!」
サスケらしくもなく、緩慢な仕草で私を振り向く。
何も見てない瞳で私を見て、サスケは私を呼びました。
「ナルトか」
感情が抜け落ちた声に、苛立ちと怒りと、そしてサスケに対する申し訳無さが込み上げて来た。
変な風に迷わなければ良かった。
サスケが考え込む時間も無いくらい、一杯振り回して怒らせれば良かった。
独りになんて、しなければ良かったです。
だから、サスケに問われる前に捲くし立てました。
「はいこれ」
ずい、と重箱をサスケに押し付けます。
ぼんやりしていたサスケは、怪訝な表情で押し付けられた重箱を眺めました。
「何だ、これ?」
「だって、ミコトさん家はケーキじゃないんでしょう?」
「は?」
サスケらしくもなく、察しの悪いサスケにほくそ笑みながら、今日一日中ずっと言いたかった事をサスケに言いました。
「誕生日おめでとう、サスケ!」
その途端、限界まで目を開いて私をじっと凝視してくるサスケに、何か居心地の悪さを感じます。
それに何だか照れくさい。
だって、誰かの為だけに自分からこんな事するなんて、私、生まれて初めてです。
凄く恥ずかしくって、とっても照れくさい。
何か、落ち着きません。
気を紛らわす為にも全部全部捲くし立てます。
「遅くなってごめんね!僕、ミコトさん家はケーキじゃないって忘れててさ。慌てて作ったから美味しくないかも!それとコレ」
何故か無言を貫くサスケに、ミコトさんが私に書いてくれたレシピをサスケに差し出しました。
「……これは?」
月明かりの中、サスケはメモの切れ端を矯めつ眇めつし始めました。
「ミコトさんが書いてくれたレシピ」
私がそう言うと、サスケはピタリと動きを止めた。
「僕もう覚えちゃったし、サスケにあげるよ!それだけ。じゃあね!」
それだけ言い捨てて逃げ帰ろうとした時でした。
「待て!」
間髪入れずにきつい制止の声をかけられ、私はびくりとしました。
出来れば、このままサスケの前から立ち去りたかったのですけれど。
「何?サスケ」
何でも無い風を装いながら、サスケに向き直って問い掛ければ。
サスケは非常に不本意そうに眉を寄せて私を睨み付けて来ました。
「てめえ、味も保証できないモンを、オレ独りで食えってのか!?ふざけんな!重箱一杯作りやがった責任とって、お前もこれ食え!このウスラトンカチ!」
いつものサスケらしく罵倒されてちょっと面食らいましたが、それでもサスケが言いたい事は伝わりました。
そして、どうやら喜んで貰えたみたいです。
良かった。
じわじわと嬉しさが込み上げて、それにつられてにんまりと笑みが込み上げて来る。
「うん。分かった」
笑顔で素直に頷けば、照れたようにサスケが顎をしゃくりました。
「だったら着いて来い。茶位、居れてやる」
思わぬ言葉に再度びっくりです。
サスケが独り暮らしするようになってから、私はサスケのお家に招かれた事などありません。
私も、お祖父ちゃんやミコトさんから貰ったぬいぐるみや小物が沢山ある私の家にサスケを招くつもりなんかこれっぽっちもなかったので、敢えてそこはスルーしてたのですが、サスケ、今、何て言った!?
驚きに硬直して立ち尽くした私に、サスケが苛ついたらしく怒鳴ってきた。
「着いて来いって言ってんだろ!早く来い!このドベ!」
余りの衝撃と喜びに、再び固まっていた私は、再び罵られて正気に返りました。
罵られた不快感が込み上げる。
「ドベじゃないもん!ドベって言った方がドベだよサスケ!」
「じゃあウスラトンカチだな」
「ウスラトンカチでも無いってば!」
「罵られて否定もせず呆けたままでいる奴のどこがウスラトンカチじゃないって?」
「だから!!!!」
揚げ足を取って来るサスケにむきになって言い返していた私は、私の中で九喇嘛が安心したように息を吐いた事など、ちっとも気付いて居ませんでした。
後書き
♪はっぴばーすでいでぃあ(ry
ちょっと間に合わなかったorz
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