NARUTO 桃風伝小話集
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その20
前書き
その16のその後。
火影邸にて。
ふ、と。
覚えのある温もりと香りを感じ、げんなりとした気持ちを感じながらサスケは覚醒した。
眉間に皺を寄せながら瞳を開ければ、闇の中でも見慣れた赤い色が映る。
同時に、至近距離から、安らかな寝息が微かに聞こえてきた。
訳もなく込み上げてくる苛立ちに、サスケは今日も今日とて怒鳴り声を上げた。
「ナルトっ!!てめえ、このウスラトンカチがっ!!俺の寝床に入ってくんなと言ってんだろーが!!!!」
夜も深い時間だろうが、そんな事はサスケの知った事ではない。
そもそも、ナルトを監督する保護者は火影だろう。
サスケが火影邸に拘束されてから、何故かナルトも火影邸に滞在しているのだが、それならそれでサスケの害にならぬよう、火影はナルトの手綱をしっかり握るべきだ。
大体、サスケを火影邸に拘束するのは、一族のあれこれが絡んでいるのだ。
サスケの精神安定に心砕き、気を配ろうとする努力があって然るべきだ。
憤りと共にそう感じたサスケだったが、次第にそう感じた事へ、ある苛立ちを覚え始める。
まさか、このウスラトンカチの存在が俺の慰めになると判断された訳じゃないよな?
そう思い付いてしまえば、知りたくも無かったナルト本来の姿も、生き物として慕わしく感じるような温もりも、全てが憎らしく思えた。
苛立ち紛れに即座に布団の中から勝手に潜り込んだナルトを蹴りだす。
そうして身を起こし、サスケは憤りに肩で息をした。
実は、サスケは自分が何に憤っているのか、実の所良く把握は出来ていない。
ただ、ナルトの存在を受け入れる事だけはしてはいけないと理解していた。
男として。
サスケの怒らせた肩が落ち、朱に染まった頬と呼吸が整った頃。
厚かましく睡眠を貪っていたナルトが覚醒の兆しを見せた。
「ん~。んん~?」
蹴られたからか、それとも心地良い寝床から追い出されたからか。
ナルトは不満そうに声を上げた。
そうしてむくり、と身を起こし、寝ぼけ眼でこしこしと目を擦る。
「さすけぇ?あさなの?」
ぽやぽやと寝ぼけた声で無防備にサスケに問いかけてくる幼い仕草に怒気が揺らぐ。
そして同時に殺意が沸く。
だが、その殺意は湧いた端から、サスケが知り得たナルトの存在そのものに中和されていく。
しかし、ここで、自分に負ける訳には、絶対いかない。
だが。
サスケが認めたくない事実を、ナルトは無意識に身体で突きつけてくる。
「さすけぇ?」
寝ぼけたナルトはサスケを探し求めて布団の端を叩き始めた。
その仕草に、ナルトの求める結果とその状態について、いやと言うほど優秀と称えられた頭ははじき出す。
その結果にサスケは思わず顔をひきつらせ、後退った。
だがしかし。
サスケの感覚ではのろのろと行動していた筈のナルトは、呆気なくあっさりとサスケに辿り着き、ぽふり、と軽い感触でサスケの胸に抱きついてきた。
そして、サスケの胸に顔を押し付けたまま、ずるずるとずり下がり、サスケの腰にしがみつく。
その上、サスケの股座に顔を埋めるようにうつ伏せになったまま、微動だにしなくなる。
どうやらそこでサスケを枕に寝ようという魂胆らしい。
「おい!」
溜まりかねて声を上げれば、いやいやをするようにサスケの股座に顔を擦り付け始めた。
微妙な場所での微妙な行動にサスケは焦り、混乱する。
「どこに顔埋めてんだ、てめぇは!変態か!離せ!!」
しっかりと寝間着の腰の部分を握り締められ、がっちりと掴まれていて、振り解けない。
足で蹴り飛ばそうにも、ナルトの重みでそれもなかなかに難しい。
何より厄介な事に、余り乱暴過ぎる手にでるのは、少々気が咎める相手になってしまったのだ、ナルトは。
目覚めた瞬間は動揺の余りに咄嗟に蹴り飛ばしてしまったが、同じ事を意識して繰り返すのは気が咎める。
こんな事なら知りたくも無かった、と。
サスケは情け無い気持ちを噛み締めながら天を仰いだ。
そもそも、サスケは、ナルトの事情を知りたくて知ってしまった訳じゃない。
ただ、ナルトの側の人間がうっかり口を滑らしたのを聞いてしまっただけだ。
そうして、ナルトの事情のあれこれを聞かされ、ナルトの監視を押し付けられたも同然だ。
まあ、見返りは将来的にきっちり取りたてるつもりでいる。
なにせ、取り引き相手は木の葉の三忍だ。
元は取れるに違いない。
それはともかく。
サスケに抱き付き、サスケの膝の上で眠る、健やかで安心しきったナルトの穏やかな寝息が辺りに響く。
その温かさと平穏さに、サスケの気も落ち着いていく。
サスケを枕にしようという図太さだけは許し難いが、でもまあ、今だけなら甘んじてやっても良いか、と、そんな風に絆される。
そうして、苛立ちと情けなさと、サスケにも整理しきれない複雑な感情がごちゃ混ぜになり、深い溜め息を吐いた。
そうして、ふと、思い出す。
今は厳重に封じられ、容易く足を踏み入れられなくなってしまった、サスケの家。
そこに通って来ていた猫も、時折こんな風にサスケの膝の上で丸くなっていた。
重さも大きさも大分違うが、温かさだけは、ナルトも同じだ。
デカ過ぎるが猫と思えば、この状態のナルトを許容出来なくもない。
「って、出来る訳無いだろう!!」
容易く絆されかけた思考になっていた事に気付き、思わず口にだす。
「良いから起きろ!オレはお前の枕じゃねー!!!!」
渾身の力を込めて悲鳴混じりの抗議の声を上げれば、どたばたと家人が起き出す気配がした。
いつもの事とはいえ、いい加減にしてほしい。
この後部屋に飛び込んで来た人間が、開口一番どんな事を口にするかを察したサスケは、苛立ちに舌打ちする。
何故だか知らないが、ナルトがサスケの所に潜り込むのは自分のせいにされて、痛くもない腹をネチネチと探られまくるのだ。
毎回毎回。
いい加減、サスケの我慢も限界だ。
そんなに大事なら、首に綱でも付けて、くくりつけておけ!と、本気で思う。
慌てた顔で駆けつけてきた寝起きの火影と、火影の気配で目を覚ましてぐずり始めたナルトの顔を、怒りと恨みを込めてきっと睨み付けてやったサスケだった。
後書き
子供と猫の可愛らしさは異常。
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