赤い花白い花
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第一章
第一章
赤い花白い花
「ねえ久美ちゃん」
「うん」
岡橋久美子は津山翔一の言葉を受けていた。今二人は横に並んで小道を歩いて学校から家に帰っている。二人の背にはそれぞれ黒と赤のランドセルがある。
「お花が咲いてるよ」
「あっ、本当」
久美子は翔一が指差した土手の方を見た。そこには赤い花と白い花が咲き誇りまるで絨毯の様にその土手を飾っていた。
「奇麗ね」
「そうでしょ。奇麗でしょ?」
「うん」
久美子はにこりと笑って翔一の言葉に頷いた。そのうえでその赤い花と白い花の絨毯を見るのだった。
「凄く奇麗。あんなの見たことない」
「見たことないの?」
「うん」
翔一の言葉に頷くのだった。花々を見ながら。
「あんなのとても」
「僕は毎日見てるよ」
けれど翔一はこう久美子に言うのだった。
「あの赤いお花も白いお花もね」
「ずっとなの?」
「そう、ずっとだよ」
また久美子に答える翔一だった。
「ずっと。幼稚園の頃から今までね」
「私見たことない」
久美子はこう言って寂しそうな顔になるのだった。
「今まであんな奇麗なお花なんて全然」
「見たことないの?」
「だって私今年にこの街に来たばかりよ」
その寂しい顔で翔一に答えるのだった。
「それでどうして。あのお花を見られるの?」
「そういえばそうか」
久美子に言われてこのことに気付く翔一だった。
「あのお花の絨毯はここにしかないものね」
「ええ」
「だったら。他の街じゃ見られないか」
「けれど奇麗ね」
それでも久美子はそのお花の絨毯が奇麗なのは認めた。
「赤いお花の絨毯と白いお花の絨毯がはっきり別れて」
「そうだろう。だから僕毎日ここを通るのが楽しくて仕方ないんだよ」
久美子に笑顔で告げる。
「学校の行きと帰りにね。とてもね」
「じゃあ私も翔一君と同じ通学路だから」
久美子は今このことに気付いた。
「これからは毎日見られるのね。ここのお花」
「そうだよ。これから毎日」
翔一も彼女の言葉を認めて頷く。
「見られるよ。嬉しい?」
「うん」
久美子もまた頷く。彼女は翔一の言葉を受けて笑顔で。
「とても。毎日なのよね」
「晴れでも雨でもね」
天気に変わりなくと。翔一は言う。
「朝でも夕方でもそうだよ。何時でも見られるよ」
「嬉しい」
このことを素直に喜ぶ久美子だった。
「毎日何時でもどんな時でもお花がこんなに見られるなんて」
「そうでしょ?だから今度ね」
「今度?」
「お花摘みに行こう」
こう彼女に提案するのだった。
「お花を。どうかな」
「いいわね」
久美子も笑顔ですぐに翔一に対して答えた。
「奇麗なお花だしに」
「赤いお花と白いお花」
翔一はここで楽しそうに語る。
「どちらがいい?」
「そう言われても」
だが久美子はここでは困った顔になるのだった。それには理由があった。
「どちらがいいかなんて」
「わからないか」
「一概には言えないわ」
その困った顔で翔一に答える。
「だって。どちらも奇麗だから」
「そうか」
「そうよ。けれどお花摘みね」
「うん」
今度も笑顔で答える翔一だった。
「そうだよ。二人でね」
「わかったわ。じゃあ何時にするの?」
「今度の月曜日の帰りどうかな」
時間は翔一が提案してきた。
「その時で。どう?」
「明日とかは駄目なの」
「悪いけれど月曜日まで時間ないんだ」
困った顔になって久美子に語る。
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