久遠の神話
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第百八話 最後の戦いその八
その一部始終を見届けてだ、彼はあらためて言った。
「ではな」
「貴方はこれで、ですね」
「去る」
戦いからもこの場からもというのだ。
「敗者は留まらないものだ」
「だからですね」
「俺はこの場を後にする」
こう声にも言う。
「もうこの戦いには関わらない」
「わかりました、では」
「これでもう消える」
こう言ってだ、実際にだった。
加藤は総合グラウンドの中から去った、振り返ることもなくそのまま。敗れはしてもその背中は曲がっておらず肩も落としてはいなかった。
その加藤をだ、上城はグラウンドに降り立って見ていた。そして彼の姿が戦場だった場所から完全に消えてから。
声の方に顔を向けてだ、こう言った。
「では」
「・・・・・・はい」
苦い色でだ、声は彼に応えた。
「今からですね」
「僕が最後まで残りましたね」
「確かに」
このことは認めた、声も。
「貴方が今回の戦いで最後に残った剣士です」
「そうですね」
「ならばです」
声は躊躇の色を見せながらも上城に述べていく。
「貴方に願いを言い」
「そして、ですね」
「私はその願いを適えることになります」
「では僕の願いを言います」
運命の時が来ることをだ、上城は感じながら言う。
「この戦いを終わらせます」
「剣士の戦いを」
「はい、永遠に」
まさにというのだ。
「これで終わらせます」
「左様ですか」
「もう二度とです」
この戦いでだ、というのだ。
「終わらせます」
「そうですか、それでは」
「聞き入れて下さいますね」
「そうするしかありません、ですが」
ここでだ、声はこれ以上ないまでに苦々しい声で言った。
「まだです」
「力が集まっていないのですか?」
「はい、まだです」
今もだというのだ。
「あと少し、あと一回だけで」
「この戦いを続けるつもりですか」
「そうです、あの人を神に出来る力が備わります」
それ故にというのだ。
「私はあと一回だけこの戦いを続けます」
「それじゃあ僕の言うことは」
「いえ、この戦いは終わりました」
言葉のロジックだ、声はこの詭弁がわかっていても言うのだった。彼女にとって詭弁でもそういうことにせざるを得ないが故に。
「貴方の勝利、そして願いで」
「しかし」
「終わりました」
あくまでそうしようという声だった。
「確かに」
「ですが戦いは」
「あと僅かなのです」
あくまでこう言う声だった。
「あの人が神になるだけの力が集まるのですから」
「神になれば、ですか」
「あの人は永遠の命を手に入れます」
神の力であるそれをというのだ。
「そして私達は永遠に共にいられるのですから」
「それじゃあおかしいです」
ここでこう言ったのは樹里だった、上城とは違い。
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