| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦姫絶唱シンフォギア/K

作者:tubaki7
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

EPISODE15 射手


~PM 18:00 私立リディアン音楽院 小日向・立花寮室~


――――遅いなぁ・・・・。


テーブルにダレながらそんなことをため息と一緒に呟いてみる。時刻はもう夕方の18時。この季節だと陽の落ちる時間も早い為外は太陽の代わりに月と星が夜空を彩っている。同室の親友は依然帰ってこない、それどころか外は警報が鳴っていて探しに行くこともできない。学校は安全のために封鎖されそもそも外に出ることもできないのだが、響は外出中の為入って来れない可能性もある。極め付けは連絡がつかないこと。どこかのシェルターに避難しているのであればいいが、それも期待していいのかどうかも危うい。

携帯を開いて最後に交わしたメールの内容を開く。

――――ユウ兄と一緒に買い出しなう!どうだ羨ましいだろ~(^^♪

解せない。なにがって、それはまるであの人を自分が独占しているかのような感じが解せないのだ。別に羨ましいとかっていう感情は一切ないが、なぜかこう言われると対抗心が沸々とわいてくる。嫉妬――――と言うにはあまりにも曖昧だ。憧れのお兄さんを独り占め、そんなことがこの感情を引き出しているのだろうか。それともその矛先が逆なのか。

まあ、なにはともあれ。


「・・・・雄樹さんと一緒なら心配ない、か」


未来が響のことをあまり心配していない理由はここにある。

 だって、約束したから。

あの時つないだ小指を見てみる。なんだかちょっと照れくさくって自然と笑いがこぼれるのは絶対に見られたくない。見られたら最後、絶対ネタにされるからだ。

でも――――


「・・・・大丈夫。だって、雄樹さんクウガだもん・・・・」


なんの根拠のない言葉がこんなにも安心する。意味は分からなくても、あの人がきっとどこかで頑張ってくれてるからだ。だったら自分も頑張らないといけない。今は・・・・そうだ、この眠気と戦ってみよう。今日はいろいろと出かけて疲れた。きっと帰ってきた響もクタクタに疲れているに違いない。もし起きていられたら、「おかえり」って言って。そしたら響が「ただいま」って言うんだ。なんでもない私達の日常。響がたくさん頑張って、お腹を空かせて疲れたらここに帰ってくる。

そんな帰る場所を守る為に、自分も頑張ろう。とりあえず今はこの睡魔と闘うことに専念する未来であった。













~同時刻 某所~


ライトで照らされる区画一帯に敷かれた立ち入り禁止のテープと警備員の数は過去最大のものかもしれない。今回の作戦がそれほど大がかりで命がけであることを示している。


「現在、合成ノイズ、通称“キメラ”はこの位置で滞空中。銃もミサイルもやっぱり効果なし。そこで政府はもう一度俺達に現場対処を任せてきた。あちらさんも必死らしいな」


そこは大人の事情かと響は聞き流す。自分には考えたところでわかりはしない、真に覚えることはただ一つ。やるべきことだ。


「さて、キメラの位置、及び射程は二人も知っての通りかなり厄介だ。そこでコレを撃破するために翼には少しキツイポジションを担当してもらう」

「はい」

「天羽々斬を装着後直ぐにエネルギーの充填を開始。その際翼には一切のアクションも許されていない。つまり――――」

「無防備になってる翼さんの護衛が私の役目、ですよね“師匠”」

「うむ。わかっているな」


師匠――――いつのまにそんな風になったのかと首をかしげるが、つい最近響が自分の家に出入りし何かやっているのを思い出した。朝早くからどこかに出かけては夕方あたりにボロボロで帰ってくることが常だった。彼女も彼女なりに強くなろうといていることに内心感心する。


「それじゃ、早速やるぞ。配置に着け」


了解、と一言返してトレーラーから出て行く。その背中をみながら弦十郎はかつての友人に想いを馳せる。


「…結局俺達大人は無力だな。こんな姿を見たら、お前はどう思う・・・雄介・・・・?」


その呟きが、聞こえることはなかった。

 そして作戦は動き出す。静寂を保っていた現場が慌ただしさを増してにぎやかになる。キメラの射程ギリギリの場所に翼は大刀を構えて既にエネルギーのチャージに入る。そしてその傍らにはガングニールを纏った響の姿と。万が一と言うことに備え常人よりも戦闘能力の高い緒川が拳銃を手に待機している。二人に見守られながら剣を構える翼。据えた瞳の先に捉えるは・・・・ただ一店のみ。了子が苦労して指示したキメラの滞空ポイント。その一帯に蒼ノ一閃を撃ちこむ。限定解除の為使用回数はたったの二回。失敗は――――しない。いや、ありえない。これほどの人たちが頑張って、危険を冒して命がけの作戦。今自分にはここに居る全ての命がかかっている。全ては、翼の一振りに委ねられた。

手の震えがない。不思議なことにこの緊張感が心地いいとさえ感じる。頭でも狂ったのだろうか。

・・・・いや、本当に狂っているのかもしれない。こんなことで笑みがこぼれるなど不謹慎極まりない
。あとでメディカルチェックを受けよう。


《ターゲットにエネルギーの収束を確認!》


通信ごしに藤尭の報告が聞こえる。これは――――チャンス。

場所がわからない以上、一帯に放つ分エネルギーの消費も激しい。だが今は夜。何かが空中で光ればそこに奴がいると断定できる。空には星と月の明かりのみ。今はライトもその光を自重しているぶんそれはかなり目立つ。

よってこれは翼にとっては好機となる。


「待ち焦がれたぞ、この時を!!」

「イッケー!翼さん!」


響きの声に答えるかのように翼は手にした大刀を振るう。縦に放たれた斬撃はまっすぐぶれることなくキメラめがけて放たれ宙に青い軌跡を刻み込む。キメラから放たれた光もまた暗闇を貫いてまっすぐ放たれ蒼ノ一閃とぶつかる。直後、それはあっけなく四散した。エネルギーの充填は万全だった。太刀筋も狂いはない。

だが、目の前の結果がそれを示している。完璧だっただけに誰もが驚愕し、唖然と戦慄する。

――――作戦は、失敗に終わった。

すぐさまチャージに入るキメラを緒川他響を含めた援護スタッフが迎撃する。第二射の妨害には成功するもののキメラが猛威を振るいだしたことに変わりはない。眼前の事実にほうける翼の耳に、響の悲鳴にも似た声があがる。それにハッとなって顔をあげた時には既に回避不可能な距離まで針が迫っていた。

 殺られる・・・・!

死を覚悟した翼。そこへ――――緑色の影が過る。心臓を射抜くはずだったその一射が緑色の影により妨害され、事なきを得た。

いったいなにが起こったのか。事態の収拾に努める翼はその主をみる。クワガタのような角。腰のベルト、そして緑色の身体と複眼。姿に多少の変化はあれど見間違えるはずもないその姿。


「ユウ兄!」

『おまたせ!』


クウガ――――雄樹だった。


「雄樹・・・・さん・・・・?」

『うん。なんとか間に合ってよかった…怪我、ない?」

「・・・・・、はい!」


気が抜けたのか、フラッとしたことを気づかれぬよう足を踏ん張って答える。


『状況がアマダムが教えてくれたから大体わかるよ。翼ちゃん、まだいける・・・・?』

「もちろんです!」

『よし。緒川さん、ソレ貸してください!』


緒川の持っている銃を指差しそれを受け取る。構えるとそれがボウガンのような形状に変化し、翼と顔を見合わせて頷き、別れる。

 一点からの攻撃では、きっとまた防がれてしまう。ならば、二方向からの同時攻撃からならどうだろうか。

素早い動きで横を通り過ぎ、ポジションを取る翼と構える雄樹。わざと射程圏に入ることでこちらに気をひきつけることで翼の進路を確保した雄樹に、またあの針が襲う。が、それは直撃することなくあっさりと、まるで“見えていた”かのように二本の指できっちりキャッチされた。


『翼ちゃん!』


雄樹の声で翼が蒼ノ一閃を振るう。今度は相殺されることなくキメラに当たり、ステルス機能を停止させて羽を薙ぐ。しかし、それでもキメラが落ちることはない。そこへ雄樹がボウガンを発射。封印エネルギーを纏った一射は残った片翼を貫いて四散し、キメラが地面へと落下する。


『響ちゃん、翼ちゃんをお願い!』


響が素早く翼を回収し、それを見とった雄樹が緑から赤へと変わる。まだキメラに動きがある。

 数歩後退し、構える。足にエネルギーが伝わるのを感じて、走り出す。跳躍して回転、そして――――蹴りを打ち出す。


『オリャァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!』


キックが起き上がったキメラの巨体に直撃。当たった場所から封印エネルギーが身体全体へと伝わり、灰と化す。さながら砂山のように崩れ去るノイズを看取った後、少しして歓声が上がった。


「ユウ兄ィ~!」


感極まった響が雄樹に抱きつく。目に涙を浮かべながら笑う彼女からはやっぱりなんだかんだで目めちゃくちゃ心配してたんだなとその本心が窺える。


「よかったぁ、よかったよォ・・・・」

『アハハハ・・・・ごめん、でももう大丈夫!』


サムズアップする雄樹に響も返す。それでも泣きじゃぐる響の頭を撫でて慰めながら、雄樹は翼を見る。


「・・・・」


言葉をはっすることなく踵を返す翼の背中に雄樹はありがとうと意味を込めてサムズアップすると、翼もそれが伝わったのかそうでないのか、背中ごしにサムズアップする。


――――もう、こんな心配はかけさせないでください。

そんな心の声を聞きながら、


『・・・・ありがとう』


そう一言去りゆく背中に呟いた。  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧