リメイク版FF3・短編集
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よかった、君がいてくれて
前書き
ゴールドルの館で「クサリのカギ」を入手し、エンタープライズに戻る道中に日が暮れたので、野宿の際のイングズとルーネスの語り合い。
「 ────ルーネス、お前は自分の理想を私に重ねているだけだ。……お前が思っている程、私は強くない」
イングズはそう云って、落葉が自然に敷かれた地面に腰を下ろしたまま、パチパチと小さく音を立てる焚き火に目を移した。
………その瞳に、炎の灯りがゆらめいている。
野宿での見張り番交替のはずが小声で話し込んじまって、おれは素直に『イングズはいつだって"強い"よな~』とか云っただけなのに。
「お前から見て私が強いのだとすると……、まだまだお前の目に見えている範囲は狭いんだ。私より強き存在など、数多くいる。────少なくとも、浮遊大陸を出た今となっては特に、な」
イングズは自嘲するかのように微笑を浮かべた。
「所詮私1人の力では限度がある。………本当に強いのであれば、水の洞窟の最奥で真っ先に敵の気配に気付くべきだったろう」
その表情は、どこか哀しげに見えた。イングズは、あの時の自分を責めている────?
「あれは、おれが悪いんだ。エリアに庇われたおれが………」
「守るべき対象も守れずに、何が光の戦士なんだろうな………」
イングズはふと、瞳を閉じた。
────その瞳の奥で、何を視ているんだろう。
「おれ達って……、ダメダメ戦士なのかもな?」
「あぁ……、そうかもな」
「けど───それでもさ、まだやめらんないじゃん。おれ達……、デッシュにもエリアにも、"想い"託されてんだし。強く、なってこうぜ一緒に」
「ルーネス、お前──── 」
イングズが、おれに顔を向けて目を見張ってる……。変なこと、云ったか??
「 フ……、そうだな。少し気が楽になった、ありがとうルーネス」
うわ、そんな優しい顔しながらおれの頭撫でてくるなよ、恥ずいだろっ。
「ん~っと、この際ひとつ聞くけどさ……、イングズが "怖いもの"って、なんだ?」
つい照れ隠しで聞いちまったけど、イングズはちょっと首を傾げて焚き火に目を戻し、少し間を置いて答える。
「 怖いもの────恐れている事で云うなら、サラ姫様に見限られる事か」
「はぁ……?! そんなんあり得ないじゃん!」
「大きな声を上げるな……、レフィアとアルクゥを起こしてしまうだろう」
いや、だってあり得ないだろ。おれでも分かるくらいに、サラ姫はイングズを大事に想って─────
「あり得ないとも限らないだろう。急に、愛想を尽かされてしまったら………」
は~、恐れてる事ってそれかよっ。 顔背けちゃって……、変なとこ心配性なんだからさ。
「つーかサラ姫って……、弟を溺愛する姉さんって気もするよな?」
「む、どういう意味だ」
「いや、だから、溺愛されてる弟ってのはお前だって」
「わ、私がサラ姫様の、弟だと……!? 滅相もないッ!」
イングズが慌てた様子で首を横に振った。
────ほんっと、サラ姫の事となると分かり易いよなぁ。
「大きな声出すなよ……! 二人起こしちまうだろ? てかさ、イングズってサラ姫の事あくまで"姫さま"としか見てないのかよ」
「ひ、姫様は、姫様だろう。それ以上も、それ以下でも………」
「う~ん、自覚ないだけか、ただのむっつりスケベか………」
「 ────何だと 」
うおっ、冷たい視線……!? そんな表情しても、余計美形際立つから不思議だ。
「ま、まぁアレだ! 大丈夫だって、おれが保証してやるから。サラ姫はイングズのこと、見捨てたりしないってなっ。そーなったらなったで、おれが拾ってやるよ?」
「 ………お前に拾われてどうしろと」
「ん~、一生おれの付き人」
「 ────断る 」
「はっは~、だよなぁ」
「こうして気兼ねなく話せる仲間がいるというのは、いいものだな」
「へ? な、何だよ急に」
イングズの瞳に映る炎の灯りが、静かに輝きを増した気がした。
「 光の戦士としてだけでなく、共に闘う仲間がいてこそ、1人では出来ない事も可能となる。………間違ってしまっても、失ってもそこからまた、やり直せばいい。生きている限り────何度でも」
「 ………1人でカッコつけて納得してんじゃねーよ、このっ」
そこは、ふざけるべきじゃなかったかもしんないけど、真面目くさった展開はどーも
苦手で、イングズの片頬につい手を伸ばし、つまんでやった。
「 ────ひゃめろ、びゃかものッ(やめろ、馬鹿者ッ)」
「うひゃ~、美形台無し~っ」
「 ────── 」
「わっ、なに……?!」
つまみ返されると思ったら、両手を伸ばしてきたイングズの籠手を付けてないその生手は、おれの両頬をそっと包んだ。
────少し、ひんやりする。
こっちがつまんでいた手は、自然と放した。
「 ルーネス、お前が仲間で ────お前がいてくれて良かった」
惹き付けられてしまうその優しげな眼差しと微笑み………
おれも、よかったよ。
イングズが、いてくれて─────
………いつの間にか、抱擁を交わしていた。
今この時、互いを手離すまいとするかのように。
End
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