少年と女神の物語
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第九十八話
派手さを求めて聖槍を使わずに脱出した結果、兄妹(姉弟)が全員集合していた。
「武双、それにナーシャも。大丈夫ですか?」
「ああ、二人とも無事だよ。ナーシャも方は記憶も戻ったしな」
「そうなの?よかったね、ナーシャちゃん!」
立夏がそう言いながら跳びつくと、それにつられて何人かもナーシャの方へ行こうとしたが・・・立夏と氷柱の飛翔の術で宙に浮いているため、自由に動けないようだ。
まあ、俺も俺で自由には動けないんだけど。ナーシャの飛翔の術で飛べてるわけだし。
そう考えながら舞台袖の大役者を使って羽をはやし、呪力を高めることで飛翔を断ち切ってから・・・全員を、海の上に立てるようにする。
「戻ったか、神殺しよ」
「ああ。ナーシャも返してもらったしな。後は・・・お前を殺すだけだ、堕ちた太陽神」
「ほう・・・オレの歴史を知ったか」
俺達の会話に対してナーシャ以外が驚いたような顔をするが、手で合図をしていつでも動き出せるように準備を始めてもらう。
ザババの双剣も、もう二人に渡してある。
後は・・・少し、準備する時間を稼がないとか。
「お前は名前からも推測できるように、元々は太陽神だった」
口を動かし、相手の来歴を語りながら・・・自分の奥へと意識を伸ばしていく。
「しかし、時代の流れとともに民の都合で神話は書き換えられ、一部の神はそのたびに没落していく。元は天にある太陽神だったお前は、その被害を最も受けた神だ」
「いかにも。オレがこの海で眠り、国生みの神具で起こされるまでの間に、オレと言う神は全く違うものへと変化していた」
なるほど、こいつが眼を覚ましたのはアレクのせいなのか。
それにしても、ここで眠っていた、か・・・まるで最後の王だな。
そう考えながらも奥へ奥へと意識の手を伸ばしながら、同時に精神の手を家族へと伸ばしていく。
何にしても、まだ時間が足りない。
この神相手なら、語りで時間が稼げそうだな。
「まずは、一般的なお前について語っていこうか。棄てられた神」
「ハッハッハ!まさか、我の最も嫌う姿を真っ先に語ってくるとはな!」
皆、俺の一言でもう分かっただろうな、この神の正体。
「お前と言う神の最も新しい姿は、ある一つの風習を民へと知らしめるための存在だ。それは・・・女性から先に声をかけること」
何を、はさすがに略させてもらった。
いや、さすがに分かってくれるだろ。
「それ故に不具の子が生まれ、続けて産んだ子も・・・イザナギ、イザナミの二神が生んだ子である淡嶋もまた、名の通り不具の子であった」
淡嶋。その意味は、泡のような島。さらには、吾恥じにも由来する、国土としては不適当な島だ。
だからこそ、あの二神はこの二つを捨てた。
第一子は船に乗せて流し、捨て去ることでその歴史を消し去ろうとした。
さらには、禍々しい動物の名を与えることでその存在を貶めた。読みはそのままに、ただ貶めることだけをした。
おかげでその正体を探るのは少し楽になってるんだけど。
「さらには、不見の名まで与えることで、必死に目を逸らさせることを追い求めた。・・・そこを新たな神話の。正しい神話の始まりであることを、民に知らしめるために!」
さあ、準備は整った。
意識の奥底へ手が届き、そこにあった物を掴みとる事が出来た。
新たに権能を掌握した感覚ではない。
元々持っていた権能の掌握が進んだ感覚。
ずっと一緒にいるのに全然掌握が進んでいなかった権能が、また掌握が進んだ。
おそらく、まだ完全ではないのだろう。この権能が、あいつから簒奪した権能がこの程度ではないはずだ。
そうだろう?・・・ゼウス。
「我は全ての王、全ての民の父である。今ここに我は我が友、我が民、我が親族へ我が加護を授ける」
ここまでは静かに唱え、同時に精神の手を家族に触れさせ、その中まで伸ばす。
一番奥底に触れて、直接通すための道を完成させて・・・
「さあ、皆の衆!開戦の時だ!」
俺の加護を、全員に流し込む。
ゼウスの雷の持つ属性は、破壊、鋼、恵みの三つ。
このうちの恵みの属性が、こうして現れたんだな。
「剣を持て、槍を構えよ、術を唱えよ!我らの共通の敵を、今こそ討ち取るぞ!」
最後まで唱えきった瞬間に、俺を中心に全員をつなぐ回路が一瞬見えるようになる。
全員に流れ込む、雷として。
そして、全員の衣装も変化した。
林姉は、脚を使うためか深くスリットの入ったチャイナドレスに。
崎姉は、部分的に鎧を纏ってケープを肩にかけ、サーベルを構える。
リズ姉は、白で統一された魔術師らしき衣装を。
アテは、前にアテナが着ていたような薄く、白い服を。
マリーは、まさに格闘家、という服装に両手に保護のためのアーマーらしきものをつけている。
立夏は、なぜか魔法少女と魔女を合わせて二で割ったような格好を。
切歌と調は、イガリマとシュルシャガナを纏い、少しデザインが変わっている。色も、剣の色がメインだったものが白メインになっている。
氷柱は、十二単を着て手に神楽鈴を持っている。
ナーシャは、古代インドの王族の衣装を着て、腕の一部に鱗が生え、王冠をかぶっている。
ビアンカは、白ゴス、だったか?幸運のビアンカには似合う恰好をしている。
桜は、呪術師の格好をして手に小さな壷・・・蟲壷をもっている。
狐鳥は、狐面をつけ白装束・・・生贄のような服を着ている。
さて、これで準備は整った。
「さあ、殺し合いを始めようか。・・・ヒルコ!」
開戦だ!
家族へ手を出したものを、ぶっ殺す!
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