ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
プロローグ~ハジマリノオワリ~
前書き
新章突入です。ちなみに部名はドイツ語とラテン語の混ぜこぜ。まるで神聖語。『陽光の軍勢』みたいな意味です。
セモンこと栗原清文が姿を消してから、もうすぐ一か月が経とうとしている。彼が休学届を出して行方を眩ませたのは、六月のはじめの事。今はもう梅雨も明けた七月のはじめ。
世界は、相変わらずに、何も変わらず動き続けている。清文が一人欠けている日常に、もう誰もが慣れきってしまった。かつての《聖剣騎士団》のメンバーたちも、なんとなくだが立ち直り始めた気がする。それは、陰斗と秋也が特に、「清文は必ず帰ってくる」と信じていることにも起因する。
しかし、琥珀の中には、大きな穴が開いたままだった。家へと帰る道で、隣に清文がいない事に、何度も何度も涙が滲みそうになる。あの声を忘れられない。あの掌の感触を忘れられない。あの笑顔を、忘れられないのだ。
「清文……どこ行っちゃったのよぉ……」
ああ、駄目だ。また涙が滲みそうになる――――
「……杉浦琥珀さん、ですよね」
その時だった。その人物が、琥珀の前に姿を現したのは。
顔を上げると、そこに立っていたのは、少し年下と思われる少年だった。光の当たり具合で水色がかって見える綺麗な髪と、整った顔立ちはまるで女の子の様だったが、纏っている雰囲気は凛々しい。服はさすがに洋服だったが、どこか武士の様な雰囲気が漂う少年だった。
「はい、そうですけど……?」
「ああよかった。セモンさんの持ってた写真しか手がかりがなかったから、不安だったんです」
「……清文のこと知ってるの!?」
思わず少年の肩に掴みかかってしまう琥珀。少年がびっくりしたような表情を取ったことで、怖がらせてしまったかもしれない、と思い立ち、謝ってから手を離す。
「ごめんなさい……
「いいえ。……僕は鈴ヶ原ハクガと申します。セモンさんの……そうですね、一応は血縁者です」
「清文の、血縁者……」
清文には、両親がいない。彼の両親は清文が幼い時に離婚したと聞いた。彼の肉親は、イギリスに住む姉だけで、清文が彼女を毛嫌いしていることも。琥珀は勝手に清文には親戚がいないものだと思い込んでいたので、ハクガの存在には素直に驚いてしまった。
彼は沈痛そうな表情で話しを続ける。
「セモンさんは、小波さん……お姉さんの所にいます。それで、その……彼が現在置かれている状況を説明するために、あなたと、セモンさんのご友人の方たちを連れてこい、と……」
***
そして今、琥珀たちは、イギリスの地に降り立った。先頭を歩くのはハクガだ。その後ろを歩くのは、四条カズヤと名乗った赤みがかった髪の少年。普段は騒がしいタイプなのだろう(そんな感じの顔と雰囲気である)が、今は厳しく表情を引き締めたままだ。その後ろを琥珀、秋也、陰斗、そして刹那の順番で歩く。最後尾は里見良太郎となのった、女の子の様な長い髪の少年だった。
「すげぇ、リアルにグレートブリテン及び北アイルランド連合王国だ!一回来たかったんだよなぁ。うわすげぇよ、イメージ通りの街並みだよ。空めっちゃ曇ってんじゃん。おい見ろよ紳士がいるぞ紳士。大性欲界紳士道の意味での紳士ではなくジェントルマンという意味での紳士。うわ、時計塔だ。意外とたくさんあるんだなぁ、時計塔って」
「いい加減にしろ陰斗。俺達は遊びに来たんじゃないぞ」
「まぁ、そうなんだけどね……分かってるんだけど……ちょっとね」
陰斗がどこかさびしそうな表情をして、イギリスの空を見上げる。珍しい。彼がこんな表情をすることはほとんどない。だが、刹那がお兄様、と声をかけると、小さく笑って、すぐに、あのいつもの全てを馬鹿にしたような顔に戻る。
「こっちです」
ハクガの先導でやってきたのは、駅の前の駐車場だった。そこに、大きな黒塗りのリムジンと、全体的に黒っぽい服の男と、SPと執事を足して二で割ったような格好の男が待っていた。
「師匠!大門さん!」
カズヤが二人に声をかける。二人が気付いた。
「僕たちの仲間の一人、雪村黒覇さんと、セモンさんの実家の執事……執事?とりあえずは執事か……の大門さんです」
「よろしく。コクトと呼んでくれ。PNだ」
「はじめまして、皆様。大門でございます」
ぺこりと会釈をする、黒覇と大門。
「はじめまして。杉浦琥珀です」
「京崎秋也といいます」
「天宮陰斗です」
「妹の刹那です。よろしくお願いします」
こちらも自己紹介を済ませてしまう。
黒塗りのリムジンの中は、凄まじく豪勢だった。テーブルもあるし、テレビも備え付けられている。今更ながらに、清文の実家が『富豪』の域にあるという事を実感させられた。
「早速ですが、セモンさんから小波さんのことは……?」
「あんまり、というかほとんど」
「たしか世界的なハッカーなんだっけ?」
「はい。《ボルボロ》という超国家ハッカー集団の元リーダーです。今は時計塔の一つに引きこもって、仮想空間の研究をなさっていますが……セモンさんは、それに協力するためにイギリスに呼び出されました」
「極秘で進める研究であったがために、皆に何の知らせも残すな、という指令を小波が出していた。不安にさせたことを、彼女の代わりに俺が詫びよう」
コクトが頭を下げる。
「いえ……清文にも理由があったんだって分かっただけでも安心しました」
「そうか。そう言ってもらえるとありがたい」
「……話を戻します。小波さんが研究しているのは《ジ・アリス》……聞いたことがありますか?」
「あー、何か聞いたことあるかも」
「たしか、SAOが起動する前に社会問題になったゲームアプリですよね。ダウンロードしたユーザーがことごとく意識不明になって、そのまま何人も、今でも意識が戻らないままだと……」
刹那がむずかしい顔で解説をする。我が意を得たとばかりに頷くコクト。
「そうだ。偶然その残滓を手に入れた小波は、それを解き明かす実験の様なものをしていた。結果、あれが、言ってしまえば人の夢にアクセスする機能をもった、超常的な存在であったことが分かったんだ。小波はそれで、ずっと叶えたかった、『理想の異世界』へ行く夢がかなうのではないかと考え、セモンを始めとするテストプレイヤー達を呼び集めたんだ。自らの理想の成就のために」
「……研究自体はかなり進みました。データの作成は半ば《ジ・アリス》の残滓自体が行っていましたから、全体像を把握することは小波さんたちにも難しかったのです。もちろん、大まかな把握はしていましたし、簡単な操作もしていました。ですが、世界の中心になっていくにつれて、小波さんのコントロールは効かなくなっていったのです。僕たちは、《ジ・アリス》の残滓、《ジ・アリス・レプリカ》によって再現された《六門世界》の中心へと向かい――――そこを支配する、いわば《神》の様な存在に敗北しました」
「……その時に、セモンの陥った状況が複雑だったんだ。それで小波さんは、あなた達を呼んだ」
言葉をつなぐのは良太郎。清文に、いったい何があったというのだろうか。
「(……清文……)」
ほどなく、リムジンは大きな時計塔に着いた。地下におりていくリムジン。駐車後、一行はリムジンを降り、時計塔地下室へと歩を進める。SFチックなデザインの地下室に、陰斗が興奮し、刹那にいさめられる場面が目立つ。
しばらく歩くと、ディスプレイの取り付けられたドアが現れた。コクトがパスワードと思しきワードを入力すると、ドアが開き、中の様子があらわになった。
「うわぁ……」
感嘆の声を上げたのは、《聖剣騎士団》のうちの誰だったのだろう。琥珀自身だったかもしれない。
壁から天井に至るまでを、大量の画面が蓋い尽くしている。ホロウィンドウが開いている場所すらあるではないか。凄まじい科学技術である。研究者めいた服装の人物が、ところどころを行き来している。
その中に、長い茶色のくせ毛が見えた。清文によく似た髪質だ。
「小波」
「ん……ああ、来てくれたんだね。ようこそ、《聖剣騎士団》のみんな。俺が栗原小波だよ。清文の姉さ……もっとも、秋也とかーくんは知ってるだろうけどね」
振り向いて軽く笑う栗原小波は、弟の清文とうり二つの顔をしていた。清文が女だったなら、丁度こんな顔立ちをしていたであろうと容易に想像がつくほどそっくりだった。
「かーくんなんて呼ばれたのは久々だなオイ」
「お久しぶりです、小波さん」
どうやら二人はすでに小波と面識があったらしい。にこにこと小波はうなずく。
「はじめまして。杉浦琥珀です」
「おお、君が琥珀ちゃんかぁ。可愛いなぁ。清文が惚れるのも分かるよ、うん。…………早速だけど、琥珀ちゃん。君は清文の子供を産む覚悟はあるかい?」
「……へ?」
大真面目な顔で、何ともアホらしいことを聞いてくる小波。突然のことに気が動転し、いろいろこんがらがる。結局、本音がそのまま出て、琥珀はしっかりと頷いてしまった。狂喜乱舞する小波。
「ヒャッハ――――――――ッ!!」
「馬鹿か己は」
すると、彼女の後ろからごん、と握りこぶしが飛んできて、小波の頭をぶった。
「がふっ!?何すんだよ、千場」
「当たり前だ。何とも馬鹿らしい……」
「失礼な。俺は超人IQの天才だよ?」
「それを明らかに違うところに使っているから馬鹿だというのだ……すまなかったな。俺は千場明。千場、もしくはPNのラーヴェイで呼んでくれ」
背の高いその青年は、そう言ってほほ笑んだ。
「……まぁ、今の質問には意味がないわけじゃなかったんだけどね……それの八倍くらいの覚悟がないと、今の清文には会えないでしょ」
「……そんなに、清文は……?」
「うーん、八倍っていうのは大分嘘だけど、でも最低でも二倍は覚悟がいるよ。結構ショックだから」
どんどん琥珀の中で不安が増していく。
「大丈夫大丈夫。琥珀ちゃんが来てくれたんだから、きっと清文も何とかなるさ。おいで。清文も、きっと君に逢いたがってる」
そう言うと小波は、琥珀の手を握って、部屋の奥にある扉へといざなった。
「ハクナ、入るよ」
『あ、はい』
部屋の中から、鈴の音の様な声が聞こえる。小波がドアの側面にあるディスプレイに手をかざすと、かしゅっ、という小さい音と共にドアが開いた。
中は、まるで病室の様だった。SAOから帰還した直後にみた病室の風景と、どこか似通った雰囲気がある。
その部屋の中に、ハクガとそっくりな少女が座っていた。綺麗な少女だ。ずいぶんモテるだろうな、と思う。そんな少女がセモンの近くにいたことにちょっと嫉妬してしまう。おまけにハクナと呼ばれた彼女は随分胸が大きい。自分の肉付きが悪いと思っている琥珀は、ちょっとむっとしてしまった。
「紹介するよ。もう琥珀ちゃんはハクガと会ってるだろ?彼の妹のハクナだ」
「あの、鈴ヶ原ハクナです……よろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げるハクナ。礼儀正しい良い子だ。嫉妬の心なんかどっかに吹っ飛んでしまいそうである。というかもう吹っ飛んだ。
「よろしくね」
「は、はいっ」
「遊戯を結ぶのは後だよ。ハクナ、清文の様子は?」
「……」
ハクナの表情が暗くなる。それは、あまり良くない、という事を表しているのだろう。
「むこうだ」
小波は、琥珀たち一行を伴って、部屋の奥にある、もう一つの扉に向かった。それを先ほどと同じようにして開けた。
部屋の中には簡素なベッドが置かれ、そこには琥珀の見慣れた、茶髪の青年が寝ていた。見間違えようもない。清文だ。
「清文っ!」
ベッドのわきに駆け寄る琥珀。しかし清文は、目を開けるそぶりを見せない。身じろぎもしないまま、眠っている。
「……清文……?」
「一週間前にログアウトしてからこのままだ。全く目を覚まさない。意識すら取り戻さない事態だ。幸い、呼吸はしてるし、命に別状はないっぽい。唯ね……脳波が活性化したままだ。夢を見ている……と説明できれば簡単なんだけど……夢を見ているときに発せられる脳波じゃなくて、起きているときに発せられる脳波なんだよ。どうもね、彼の意識だけが起きて、どこかで活動してるっぽい――――俺達は、六門世界に取り残されたままなんじゃないか、と思っている」
「そんな……」
それはつまり、体はログアウトして来ても心はログアウトしていない、という事だ。
「それだけじゃない――――これをみて」
小波は清文に近づくと、その右の瞼をこじ開け、その中にある瞳を琥珀に見せた。
清文の瞳は、紅蓮色になっていた。もともとセモンの目は赤みがかった茶色だ。だが、こんな鮮やかな紅蓮色ではなかったはずだ。いったい、何が……。
その疑問を小波にぶつけようとしたその時だった。
「小波さん――――大変です!」
研究員の一人と思しき青年が、部屋の中に転がり込んできた。
「何の様だい。人が寝てるっていうのに……」
「そんなことを言っている場合では……とにかく来てくださいッ!!」
彼に言われるまま、一行は部屋を出る。その瞬間に、一瞬だけ清文の姿を見る。
「清文……絶対元に戻すからね」
そしてあのモニターだらけの部屋に戻った琥珀を待っていたのは、奔走する研究員たちと、粘質の闇色で覆い尽くされた、モニターの画面だった。
「これは……」
「分からん。突然全ての映像がこれに切り替わった。……見ろ」
いつの間にか小波の横にいた千場が、携帯端末を取り出して画面を見せる。そこも、同じ粘質の闇色に覆われていた。
そして次の瞬間。世界の改革を告げる一言が、全世界の住民に向かって、語り出される。
『――――――――この世界に住まう、ありとあらゆる生きとし生けるモノに、宣言しよう』
粘質の闇が消え去り、画面には一人の少女が映し出される。水底の様な綺麗な色の青い髪を持った少女だった。
「あいつは……」
カズヤが呟く。どうやら少女を知っているらしかった。
『我が名はノイゾ。レギオン《白亜宮》の一員である』
レギオン。レギオン――――軍勢。たしかラテン語だったはずだ。聖書に登場する、軍勢の悪魔。転じて、軍団や兵士たちを表す言語としても使われている。
『今日この時刻を持って、我がレギオンは、ありとあらゆる世界のVRワールドへ進軍を開始する。我らは全てのVR世界を支配し、やがて現実世界をも侵蝕するであろう。舞台は整った。さぁ――――『今宵の恐怖劇を始めよう』……だったかな?』
後書き
どうもみなさんこんにちは。Askaです~。
刹「久々に本編に私が出てきましたね」
そうだねぇ。本章からいよいよ刹那の正体とかも本格的に明らかになって来るしね。自分でもワクワク。
刹「あなた作者でしょう……」
そんなわけで
刹「次回もお楽しみに」
……もうそのセリフ君にあげるよ。
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