ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
第二十九話
前書き
ついにッ!!六門神編前編も完結です!
「陰斗……なのか……?」
セモンは、思わずそう口に出してしまう。それほどまでに、白き宮殿の最奥部で待っていた少年は、かつての親友の一人、天宮陰斗にそっくりだった。『本物の陰斗』という言葉が、頭をよぎる。
そして即座に、いや、違う、と思い直す。だって、目の前の少年はあまりにも幼い。陰斗はセモン/清文と同い年なので、今年で19歳になるはずだ。目の前の少年はどう高く見積もっても15歳。そして、何より彼は『俺の世界』と言った。陰斗の一人称は『僕』一択だったはずだ。
いや――――もう一度、思い直す。確か出会ったばかりの頃の陰斗は、自らを『俺』と称していなかったか。15歳の、中学三年生の頃の陰斗は、丁度こんな感じの背格好ではなかったか。
決して高いとは言えない背丈。学年で一番小さいわけではないし、下の学年に見られるほど背が低いわけでもない。けれど、全体からみれば相当小さいであろう身長。癖の強い髪の毛は隔世遺伝なのだと言っていた。今の陰斗では少しなりを潜めてしまったくせ毛は、このころは全盛期だった。その眼と口元に浮かんだ笑みは、全てを馬鹿にしたような色と、世界と自分に対する絶望をいつでも含んでいたように思える。
そのころの陰斗に、目の前の少年は見間違えるほどそっくりだ。魔術師のローブの様なぼろぼろの白い外套と、やはり共通するデザインのとんがり帽子。真っ白いマフラーは、先端が紅蓮い。
くふふふ、と、少年は笑い、鷹揚に両手を広げる。
「そうだね。俺は、君から見れば天宮陰斗だろう。だけど、本当は少し違う、かな」
そう言って不敵に微笑む白ずくめの少年。
「俺は《主》。《白亜宮》の王……”レギオンマスター”の『座』に着く、俺の家族達の《お兄様》にして、この世界の創造主……まぁつまりは『神』とかそんなところだね。うん」
天宮陰斗と酷似した容姿の少年――――《主》は、そう言った。
「お前が……この世界を作ったんだな」
「そうだね。俺がこの世界を創った。あらゆるすべては俺の物。この世界では、誰も俺に逆らわない」
「……小波に《レプリカ》の破片を送りつけたのもお前か?」
「ああ、そうだよ。彼女も俺の掌の上さ。哀れだね」
その時、何かがセモンの中で弾けた。それは一体なんだったのか――――この強大な『神』への畏怖だったのか、親友と同じ容姿をした者への嫌悪だったのか、それとも嫌いだとは言え肉親を馬鹿にされたことに対する憤怒だったのか――――どちらにせよ、セモンの中で弾けたその感情は、怒気となって放出された。
「貴様ァァァァッ!!」
《神話剣》上位ソードスキル、《アラブル・ランブ》。二十七連撃を、激しいエフェクトライトと共に、『神』へと叩き付ける。
だが――――
「グリヴィネ」
「はい、お兄様」
間に割り込んできた何ものかによって、その一撃は大きく弾き飛ばされた。
「ぐぁぁっ……」
地面に叩き付けられたセモンが見たのは、ついさっき見た敵と酷似した容姿――――同時に、セモンの仲間とよく似た姿の少女だった。
年齢は二十歳ほどだろうか。純白の髪は、前髪に至るにつれて紅蓮色となっていく。両目も同じく紅蓮。真っ白なドレスと、《主》と同じデザインのマフラーの襟を押し上げる胸部は、他の二人とは異なる大きさであった。背中から延びるのは、白銀の方翼。手には鎌の刃の部分だけが小型の柄の両側についている、奇怪な形の武器を握っていた。
天宮刹那と酷似した、二人目の存在。そして何より――――《主》は、彼女を《グリヴィネ》と呼んだ。それは、ALOの世界で彼女が使っていたのと同じ名前ではないか?
「紹介しよう。このレギオンを実質統治する、《七眷王》の《眷王》、グリーヴィネスシャドウ・イクス・アギオンス・アンリマユだ。もう君はホロウにはあってるはずだし、天宮刹那とも顔を合わせているはずだから、これで同じ顔の存在を三人も見たことになるね」
「っ……」
「そういえば、そろそろホロウ達の方も決着がついたかな?まぁ、アクセルとリオがいる時点で、侵入者どもに勝ち目はないけどね」
***
「あ……う……」
どさっ、という音を立てて、カズが地に伏す。すでにハクガには、その名を呼ぶ余力すら残っていない。
圧倒的すぎる。《六王神》と戦った時は、それでもまだ相手は上智の範囲にいた。同じ六門神であるという最大原則は崩れていなかったから、耐え抜くことができた。
だが、こいつらは違う。強い。強すぎる。
まず、アクセルと名乗った白い髪の毛のダガー使い。彼女が圧倒的だ。異様なスピードで攻撃してくる。その速さは、移動開始の瞬間も移動中も、その影すら見ることができないほどだ。さらに、普通、高速で移動する存在は攻撃の瞬間だけ多少スピードが落ちるものだ。だが、彼女はコンマ一秒たりともスピードが落ちない。圧倒的な素早さをキープしたまま、こちらを切り刻んでくるのだ。すでにリーリュウはその剣に翻弄され、地面に倒れたまま動かない。
「なんだぁ、つまんないの」
本当につまらなそうな声でそう呟いたのは、リオと名乗った黒髪の少女。だが事実、彼女から見ればこちらはつまらなすぎて話にならないのだろう。彼女の筋力値とでもいうべきものは異様だった。こちらも含めた全員の中で最も小柄な彼女だが、その扱う武器は最大クラスの大きさの巨剣。肉切り包丁にも似たデザインのそれを、なんとぶん投げて使用するのだ。もちろん、自らの手に握って使うこともする。真っ向から立ち向かったカズは、一切の反撃ができないままにこうしてぼろぼろにされてしまった。
「うぅ……」
「…………」
倒れ伏すハクガをじっと見ているだけなのは、ディスティニーと名乗った少女だった。あのシスカープを一撃で沈めた時から薄々想像していたが、その剣閃とセンス、そして攻撃力はもはや人外のレベルを極めている。どれだけ遠距離からでも、刃を届かせる距離まで一瞬で間合いを詰めてくる。
それに―――彼女と戦っていると、自分の中で何かが二つに乖離していくような錯覚を受けるのだ。
「……あなたは……そうですか。なるほど……」
一人、何かに納得した様にハクガを見つめたディスティニーは、それっきり興味を失ったかのようにどこかを向いたままだった。
そして――――何よりも絶望的だったのが、ホロウの強さだった。
「はーっ、はーっ……ぐっ……」
「あらあら、もう終わりですかぁ?立て直すまで待っててあげますから、もっと来てくださいね」
純白の細身の長剣を、二刀流にしたホロウは、この人外少女たちの中で最も強かった。すでに戦闘開始の直後から、コクトが一度も彼女に攻撃を当てられていない。さらに彼女の恐ろしい所は、コクトが一撃で倒されない様に手加減をしているところだ。手加減をするのは、実は全力を出すことの何倍も難しい。それをあっさりと成し遂げてしまう彼女の実力は、明らかに『オカシイ』のレベルであった。
「あぁ……もう終わりなんですね。もうちょっと頑張ってもらってもよかったのになぁ……じゃぁ、長く苦しまない様に、すぐ殺してあげますね。
『十九八七六五四三二一〇
いと尊き我が兄に、この想い、伝えよう』」
そして紡がれる祝詞。それの完成はハクガ達の破滅を意味していた。だが、それを止めるべく動くことができる存在は、この場に誰一人として存在していない。
「『私の剣と意志はあなたの座を守護るべく在り
この心は私が愛しき者のために有らん。
されば私は彼のために、この剣で我が主を守らんと欲す。
ユニットID【ホロウ・イクス・アギオンス・スプンタマユ】より、《マスターズメモリア》にアクセス。
アビリティコード《パーフェクト・アリス》を経由し、アビリティコード《楽園の終末》を実装します』
――――さぁ、堕ちてください、弱き世界の皆さん」
ホロウが白光を纏った二刀を振り払う。発生した純白の光は、ハクガ達に終焉をもたらし―――――
その体を、《ジ・アリス・レプリカ》の世界から切り離した。
***
「さて、セモン。君はなぜここに来たのかな?」
「……決まってる。この世界の謎を解き明かして、さっさと《ジ・アリス・レプリカ》のテストを終わらせる。そして日本に帰るんだ」
突然の質問に、正直に答えるほかないセモン。その回答を聞いて、《主》は愉快そうに笑った。
「そうだね。その通りだね。じゃぁさ……その、『日本に帰る』意味がなくなっちゃったら、どうする?」
「――――何?」
その時だった。
「清文」
狂おしいほどの愛おしさがこみあげてくる。懐かしい、死ぬほど聞きたかった優しい声が聞こえてきた。幻聴なのか。それは、セモンが聞き間違えただけなのではないか――――
だが、その声の持ち主は、振り向いたセモンの視線の先に、確かに存在した。記憶にあるとおりのあの金色がかった茶髪と、オレンジ色の目で、セモンを見つめていた。唯一記憶にあるのと異なるのは、見覚えのない蒼いマフラーを巻いていることか。
「――――コハク……琥珀」
コハク―――杉浦琥珀が、たしかにそこにいた。
「清文……馬鹿っ!!探したのよ!」
「琥珀……琥珀なのか?本物?本物の?」
「当たり前じゃない!そうじゃなかったらなんだっていうのよ……」
「本当に本物か?俺の好物は?」
「メロンパン」
「俺の部屋にあるベッドの下には?」
「中学の時に図書室から借りっぱなしになったまま返せなくなった小説が二冊」
「お前の弟の名前は?」
「杉浦翔太。中学一年生。ゲーマー。SAOは対象年齢外だったから未プレイ」
「お前の3Sは?上から順番に」
「う……は、80/60/81よ!はずかしいこと言わせないで!」
ここまで確認すればほぼ完了といっていいだろう。琥珀のスリーサイズは知っているのは本人とセモンだけである。何でセモンが知っているのか?……身体測定の結果覗いたからだよ。その時は殴られた。
だが今は、いくら抱きしめてもコハクはセモンを殴らない。暖かく、その背を包むだけだ。
「本物の……本物の琥珀なんだな……」
「だから言ってるじゃないの」
もう離さない。絶対に。二度と離してなるものか。今度こそ、この約束はぜったに守る。
「清文――――ここに居よ。ずっと、二人で」
「それでも――――それでも、いいかもしれないな……」
いつしか、セモンの意識は、白い安寧の中に溶け込み始めていた。暖かい安寧の中から、動き出すのはとても心苦しかった。もうこのまま、溶けて消えてしまいたい――――
「……ああ。ここに、いるよ」
契約は、成った。
セモンの意識が掻き消える。白亜の宮殿の神王は、冷たく笑う。その場に倒れ込んだセモンと、蒼いマフラーを巻いた、白い髪の少女を見て。
「ようこそ、セモン。俺の――――否、僕の《白亜宮》へ。歓迎するよ」
かくして――――ここに、物語の第一幕は終了する。
後書き
ついにこの時が……キタ――――――――――――――ッ!!
刹「やっと終わりましたね前編。一体どれだけの時間がかかったことやら……」
後編はそこそこ構成がまとまってるから、文章をかけさえすればサクサク進むよ。つなぎで相変わらず死ぬんだけど。
刹「そこは気合いで乗り切りなさい。……ところで今回、いやにチートなキャラが多かったですね」
まぁ、《白亜宮》の面々は異様に強いからねぇ……こんなこいつらですらただの防衛機構でしかないというのが空恐ろしい……
刹「自作キャラなに自慢してるんですか」(べしっ
あうっ!
……まぁとにかく、『神話剣』六門神編前編は終了、と。次回からは後編が開始します!
刹「それではみなさん、お楽しみに」
……変わらずセリフはとられるのね。
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