少年と女神の物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第九十五話
「・・・何やってんだ、護堂?」
「ああ、武双も来たのか」
スサノオのせいで時間を食ったので急いできたら、なぜかアレクが敵対している中に護堂がいた。
護堂の側には、少女が一人と騎士が一人・・・騎士の方は、まつろわぬ神か。となると、考え付くのはあのまつろわぬ神の権能か。
「何、ちょっとそこのアレクサンドルと戦って、その後ランスロットと戦おうと思ってな」
「・・・なるほど、本能を引きださせる権能か。面倒なのにあったな、アレク。こいつが俺の相手か?」
「いや、そうじゃない。言っただろう、神の相手をしてもらう、と」
そう言えば、神の相手だって言ってたな。
だったら、俺の相手は・・・
「こうしてお話しするのは初めてですね、神代武双さま。グィネヴィアと申します」
「・・・話だけは、姉と妹から聞いてるよ。そうか、お前が・・・!」
蚩尤の権能でばねを作って一気にグィネヴィアの元まで跳ぶが、ゲイ・ボルグもブリューナクも左右に立つ二人に防がれる。
「邪魔をするな。何、妹について聞きだすだけだ」
「どうにも、そんな風には見えないけどな」
「草薙護堂の言うとおりだぞ、神殺しよ。話し合いならば武器は必要あるまい」
「何言ってるんだ、二人とも」
オオナマズの権能で空気を揺らし、強制的に二人をひきはがす。
そして、再び槍を突き付けて聞きだそうとしたところで・・・正体の分からない流動体が、俺がいたところを貫いた。しゃがんでなかったら危なかったな。
「今のは・・・」
「それについては、グィネヴィアが答えさせていただきます。あなたが知りたいことと一緒に」
何か話しだしたので、俺は一度槍をおろした。
それでも注意深くまわりを確認して・・・海から何かがこちらに向かってきているのが分かった。あれが、さっきのをやってきたのか?
「確かに、あなたの妹君・・・ナーシャをさらったのはグィネヴィアたちでございます」
「そうか・・・なら、今どこにいる。今回に限っては、それさえ話せばこれ以上手を出さないぞ」
「では・・・」
「オレの中だ、神殺しよ」
そして、ついに海から来ていた塊が声を発した。
それは、正体の読めない流動体だった。何でできているのかも分からない、金属のような色をしている流動体。
「・・・つまり、お前をぶっ殺せばいいんだな?」
「話が早いな。それでこそ神殺しだ!」
次の瞬間、俺は流動体に槍を突き立てていた。
が、そこに一切の手ごたえはなく、四方八方から流動体が俺に突き刺さろうとしてきたので慌てて後ろに跳ぶ。
船の側面に足をつけて、そのまま地面と水平に跳躍の術で飛び、船から一気に距離をとる。
神の真上を通って他のやつらから距離をとり、通りすがりに槍を投げてみたが全て弾かれた。
あれ、かなり柔らかそうなのに鋼の武具をはじけるのか・・・ってことは、
「お前は鋼の神なんだな」
「左様。そして、鋼の神としては貴様ら神殺しを殺さぬわけにはいかぬな!」
その瞬間に海の水も流動体とともに攻撃してきたので、全てよけながら近づこうとしてみる。が、どうにも近づけない。
相手は流動体を操っている。先ほどまでは海の上に薄く広がっているだけだったそれは、今や二つのドームを成している。
一つは、東京ドームさながらという出鱈目さ。
一つは、一軒家くらいの大きさ。
このうち、前者から流動体が発射され、さらには海に広がりながら驚かされるタイミングで不可視の攻撃が飛んでくる。
仕方ない、か・・・
「我は永続する太陽である。我が御霊は常に消え常に再臨する。わが身天に光臨せし時、我はこの地に息を吹き返さん!」
このままでは間違いなく死ぬので、沈まぬ太陽を使って安全を確保する。
再び走り出し、攻撃をしてきた流動体に対して、
「我は水を司る。全ての水よ、我に向かいし敵意を一掃せよ!」
海水を操ってぶつけあわせることで一瞬の時間を稼ぐ。
この流動体は、固さがないにもかかわらずこの神の持つ鋼の武具。ただの海水ではとても太刀打ちできないが・・・ほんの一瞬くらいは、稼いでくれる。
その隙を利用して走り、大本のドームに聖槍を突き立て、
「わが内にありしは天空の雷撃。社会を守る、秩序の一撃である!今ここに、我が身に宿れ!」
オマケだ!
「聖槍の孕みし狂気よ、狂気の女神の狂おしき呪詛よ!ここに汝の存在を表しめよ!」
ゼウスの雷とアテの狂気の合わせ技。
その威力は十分にあったようで、流動体のドームが二つとも、一瞬だけ形を崩した。
そして、俺はその中を見ようとして・・・
「っ、ナーシャ!」
小さいほうの中に、ナーシャがいるのを見つけた。
そのせいで大きいほうの中に何がいるのかを確認できなかったが・・・それでも、十分すぎる。
とはいえ、一瞬だったから中には入れなかったな・・・もう一度やっても通用するとは思えないし。
「・・・なんにしても、まずはお前を倒さないと、か」
「本当に理解が早いのだな。怒りのままに向かってくるかと思ったのだが」
「本当ならそうしたいところなんだけどな。最源流の鋼は、それで勝てる相手じゃない」
そう、最源流の鋼とはそういった存在だ。
ただやみくもに、心の赴くがままに力をふるって、それで勝てる相手ではない。
鋼でない神相手でも、持てる力の全てを使わなければ勝つことはできない。そして、鋼の神相手であれば知略まで使えば勝つことができるのだろう。
その上に存在する最源流の鋼。そんな相手に、今の怒りのままに向かって勝てるはずもないのだ。
「・・・まずは、ナーシャを助け出す算段を付けないとな」
そんなことを考えながら聖槍を持ち、普段とは違う一槍だけの構えをとる。
あのドームを切り開けるのは、おそらくこの槍の狂気だけ。だから、他の武器は構えない。
走り出した俺は、先ほどと同じように向かってくる流動体の上に乗り、また次のものに飛び乗る形で先へと進む。
このやり方を選択したことに、これといった意味はない。強いて言うなら、平面ではなく立体で動きたかった、と言ったところか。
そうして走り、片腕を飛ばされながらもでかいドームの真上にたどり着いたところで権能を使う。
「我は揺らす。我は全てを揺らす。地よ揺れろ。海よ揺れろ。天よ揺れろ。我が眼前に在りし全てよ、我がために揺れつくせ!」
あのドームの足場となっている海を揺らして、一瞬のすきを作る。
とはいえ、相手も鋼の軍神。本人に対して隙を作るのは困難を極めるし、現実として俺が何かする前に体勢を立て直してきた。
そして、その瞬間に海水を操って二度目のすきを作る。
その次は芝右衛門狸、大口真神の合わせ技を使ったあたりで攻撃の態勢は整ったので、槍を振りかぶり・・・その瞬間、強風に体勢を崩された。
「んな・・・!?」
「運が悪かったな、神殺しよ!」
運が悪かったなら、どれだけよかっただろうな・・・!
明らかに恐怖を纏っているドームを見ながら、心の中でそうつぶやいだ。
崩れた体制をどうにか修正しようとしたら、強風で飛んできた看板が側頭部にぶつかった。
・・・今のは、本当に運が悪い。
「とうとう運にも見放されたか、神殺しよ!」
「うるせえ・・・カハッ」
いらだたしげに看板を殴り飛ばしたら、今度は流動体が俺の腹を貫いた。
いってえ・・・が、これはチャンスだな。
「これで、」
「終わらねえんだな、これが・・・!」
芝右衛門狸の権能で翼をはやし、思いっきり羽ばたかせることで貫かれながら進む。
腹を貫かれたまま、一気にドームに近づいて・・・でかい方にぶつかる直前に、隣の方に跳ぶ。
「な・・・」
「まずは、ナーシャを返してもらうぞ!」
小さい方に向けて落ちながら片手で聖槍を構え、それを貫く。
そのまま、一瞬開いたところに転がり落ちることで、中への侵入を果たした。
ページ上へ戻る