少年と女神の物語
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第九十四話
「民の知は我が知。我が知は我が知。我はこの知を用いて叡智を手にせん!」
これまでで一番早く言霊を唱え、息をする間も惜しくて次の言霊を唱える。
「我が姿は変幻自在。我が存在は千変万化!常に我が意思のみに従いて、自由自在に変幻する!」
準備がすべて整ったところで、俺は真っ先に家を飛び出した。
鳥になった状態で後ろを見ると、他のみんなも急いで家を出て、各々走っていく。
ナーシャがいない。
朝一番に起きた俺が、自分の部屋にナーシャの携帯があるのを発見し、おかしいと思って調べてみて分かったことだ。
そのまま全員で集まって、ナーシャの携帯から分かったこと。それは、どうにもグィネヴィアが関わっているらしいことと、その場にまつろわぬ神もいるらしいこと。
この間のウッコの戦い、あの後にもグィネヴィアはナーシャに接触してきたらしいし・・・
何にしても、グィネヴィアを捕まえてみないことには始まらない。
そういうわけで、話し合いの結果決まったことは、
『今日は全員学校を休んで、ナーシャを探す。父さんと母さんにも連絡して、念のために海外を探してもらう』
この二点だ。
だから、一番フットワークの軽い俺が空を飛び、とりあえず沖縄から探し回ることになった。
で、一日日本中を探し回っても見つからず、次の日に残りの家族は引き続き日本を、俺は海外まで探し回りながら人の頭の中を覗いても、全然見つからなかった。
ダグザの権能を使いすぎて頭が死にそうになったところで、仕方なく家に帰り、リズ姉に魔術をかけられ(抵抗しようとしても、寝ていなかったために無理だった)、効くのか分からないが医薬の酒を飲んでから、時間の進みを遅くした蚊帳吊り狸で落ちた異世界で寝た。
そして、表の方で一時間がたったころ・・・かなり寝てスッキリした俺の耳に、携帯の着信音が聞こえてきた。
着信音の設定は魔王・・・さて、だれだろうか?
護堂か、トトか、アーニーか、それとも・・・
「お・・・アレクか。珍しいな」
お互いに連絡先こそ交換しているが、アレクからかかってきたのはこれが初めてだな。そして、今連絡が取れてうれしい人第二位でもある。
ナーシャを探すうえで重要なことを知っている可能性が高い。
少しばかりの期待を抱きながら、俺は通話ボタンを押した。
「もしもし、アレク。何か用か?」
『いや、今から少しばかり動くがかかわるな、と伝えるだけだ。貴様の家族に被害は及ばない』
「そこについては、あの島からは遠いから問題ない。ただ、はいそうですかとはいかないかもしれないな」
『何が言いたい?』
「その用事、グィネヴィアとかいう神祖は関わってるのか?」
『それがどうした』
つまり、関わっているということだ。なら・・・
「悪いな。俺もそこに向かわせてもらう」
『何のために?』
「妹が一人浚われた。おそらく、犯人はグィネヴィア」
『・・・面倒なことを』
アレクが舌打ちをしたのを聞いて、俺はこういうやつの相手は楽だな、と再確認する。
アレクは、俺たち神代について中々に理解している。
それこそ、よほどのことでもない限り手を出しても損しかないと考え、これまで手を出してきたことがないほどには。うちには色んなものがあるにも関わらず、だ。
「今回、俺達はナーシャさえ連れ戻せればそれ以上の手出しはしない。それでどうだ?」
『・・・つまり、そのナーシャとかいうのさえ助けることができれば、それで手を引くということだな?』
「ああ。ついでに確認しとくが、俺がアレクに極力配慮してるのは分かるよな?」
『この話さえ呑めば、極力邪魔にはならない・・・ただし、呑まないのであればいくらでも邪魔をするということか。・・・極力避けたいところではあるな』
「だろうな。・・・今回に限っては、ナーシャを取り返せるのなら神との戦いすらできなくてもいい。それを我慢すれば家族を取り戻せるのなら、安いこと極まりない」
『貴様が神代である以上、その言葉に間違いはないだろう。・・・そういう意味合いでは、一番扱いやすい神殺しだよ、貴様は』
「こっちも、交渉が効く相手で助かる。・・・それで、どうだ?」
そう聞くと、小さく笑う声が聞こえてきた。
『一つ、条件に変更を求めるがな。・・・一柱、神の相手をしてもらおう』
そこで、アレクが少し黙った。
そういえば、ミノスの権能は使い魔も出せたな。現状を確認してるのか。
『どうにも、予想していたより相手の数が多いようだ。計画に支障がきたさないようにな』
「そうか・・・分かった。今から浮島の方に向かう」
俺はそう言ってから立ち上がり、蚊帳吊り狸の異世界から出て自分の部屋の窓から飛び降りる。
「おっと。いやはや、まさか上から登場なさるとは思ってもいませんでした」
すると、飛び降りた辺りによれたスーツ姿の男―――確か、甘粕とかいったか―――がいた。
いや、こいつだけじゃなくて・・・
「・・・なあ、恵那。お前は確か病院で拘束中じゃなかったか?」
「いや~、そう何だけどね。ちょっと上から声がかかって、一時的に出てきてるんだ」
「そうか。なら、体は大切にな」
「うん、じゃあね・・・ってそうではなく」
急いでいるので歩きだしたら、恵那につかまった。
「何だ?俺、かなり急いでるんだけど」
「いや、それは見れば分かるけど・・・おじいちゃまが、武双君を連れて来い、って・・・」
「・・・はぁ?何言って、」
と、次の瞬間俺は地面に吸い込まれていくのを感じた。
おいおい・・・何で草薙の剣もないのに、俺を引きずりこめるんだよ・・・
『主、その神はそちらの娘と、』
『オレたちを目印にしている。中々に器用なようだな』
そんなことまでできるのかよ・・・
そして、俺は幽界に落ちた。
◇◆◇◆◇
「はぁ・・・なあ、ブリューナク。お前の力で脱出したらどうなると思う?」
『間違いなく、再び引き込まれるであろうな。そのために労力を費やすつもりはない』
「だよなぁ・・・ゲイ・ボルグは何か案ない?」
『相手は最源流の鋼にしてトリックスター。主の権能で脱出するのは難しいかと』
さて、現在相談できる相手は誰も大した情報を持っていないわけだ。
となると・・・さっさと終わらせるのが一番か。
そう考えて見つけた家のようなところに向かい・・・入口を蹴り開ける。
「オイオイ・・・乱暴じゃねえか、神殺し」
「うるせえ。こっちは早いとこ妹を助けに行きたいところを邪魔されて腹が立ってるんだ。さっさと用件を終わらせろ」
両手にゲイ・ボルグとブリューナクを持ったまま、俺はそう言った。
「まあ、座れや。何、そんなに長くはならねえよ」
そう言いながら酒を飲んでいるスサノオの前に座り、さっさと話せと視線で言う。
「さて、どうにも急いでるみてえだし、手短にいくか。お前さん、今からまつろわぬ神と戦うんだろ?」
「ああ、そうだ。それが?」
「その神について、少しばかり話をな」
あー・・・ま、聞いといて損はないな。
「正体は教えられないが、アイツはオレ何かと同じ最源流の鋼だ。気をつけた方がいいぜ?」
「そんなことのために呼び出したのか。そうかそうか。よし、死ね」
「まあ待てよ。話があるんだ」
俺は再び座り、話を待つ。
「アイツは草薙の剣を持ってる。あれは放っておくともう一振りに影響しかねないからな。沈んだままならよかったんだが、わざわざ持ち出してきやがった」
「へぇ・・・つまり、相手は草薙の剣を使ってるのか」
「そういうこった。んで、こっちから頼みたいのはそれを壊してほしいってところだな」
まあ、それについてはなんとなく分かった。
それで終わりか?
「あー・・・まあ、それともう一つ」
「まだあるのか?」
「これで最後だ、安心しろよ。・・・オレの家族のこと、頼むぜ」
聞き返そうとした瞬間、俺は元の世界に投げ出された。
◇◆◇◆◇
さて、どうなることか・・・アイツは、オレより源流に近い、最源流の鋼。
楽に勝てる相手じゃないぜ?
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