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戦国異伝

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第百六十七話 信玄動くその十一

「林や森の中に伏兵等はおらぬな」
「罠一つありませんでした」
「何もかもが」
「わかった、では浜松城で我等を待ち受けているか」
「その城だけは物々しいです」
「黄色の旗がこれでもかと立っております」
 徳川の旗だ、それが幾つも立っているというのだ。
「その数一万二千」
「三河の言葉も聞こえます」
「左様か、ではじゃ」
「では?」
「それではといいますと」
「御主達にも御館様の御言葉を伝える」
 十勇士達にもだ、そうするというのだ。
「よいな」
「はい、では」
「お願いします」
 十勇士達も応える、そしてだった。
 幸村は彼等の言葉を聞いた、それで聞き終えてからそれぞれ驚いた顔で言った。
「何と、そうされますか」
「流石山本様ですな」
「その様な策をお考えとは」
「お見事です」
「全くじゃ、山本殿こそは天下一の軍師じゃ」
 幸村もこう言って山本への敬愛を述べる。
「これで徳川家康もな」
「はい、そうおいそれとはですな」
「思い通りに出来ませぬな」
「その通りじゃ、だからじゃ」
 それでだというのだ。
「ここはこのまま進むぞ」
「はい、わかりました」
「まずは駿河を出ますか」
「そうする、では昼になればな」
 その時はというと。
「飯じゃ」
「はい、ではその時になれば」
「共にですな」
「御主達と食わねばな」 
 飯をだとだ、幸村は笑って言う。
「美味くないわ」
「我等とですか」
「そうしなければですか」
「そうじゃ」
 そうだというのだ。
「だからじゃ、よいな」
「はい、では」
「昼は」
「心ゆくまで食おうぞ」
 是非にという幸村だった。
「よいな」
「はい、では」
「今は」
「飯は食わねばな」
 全員でというのだ、出来るだけ大勢で。
「戦が出来ぬわ」
「ですな、まさに」
「食ってこそですな」
「我等は必要とあらば何日かは食わずにいられますが」
「忍故」
「わしも同じじゃ」
 幸村も忍術を身に着けている、十勇士の主としてそちらも免許皆伝だ、まさに武芸十八般の男なのだ。それで何日かは食わずとも大丈夫だ。
 しかしだ、普段はなのだ。
「しかし食える時はな」
「はい、では」
「今は」
「うむ、食おうぞ」
 心おきなくだ、こう言ってだった。幸村は家臣であり友である彼等と共に今は飯を食った。戦を前にして彼等の心は一つだった。


第百六十七話   完


                               2014・1・13 
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