戦国異伝
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第百六十七話 信玄動くその十
「それでは燃やすのではなく」
「温めるのか」
「そうです、民が飯を炊くにも風呂を沸かすにも炎は欠かせませぬ」
このことは言うまでもない、民も薪を燃やして火を点けなくてはどうしようもない。そして幸村が言う炎とは。
「それ故に」
「火になりか」
「民も天下も温めます」
「敵を燃やすだけではないか」
「左様です、それがし民の為の政も忘れません」
絶対にというのだ、ここでも熱い声だ。
「ですから」
「それでじゃな」
「はい、それがしは燃えまする」
こう言い切った幸村だった。
「これからも」
「左様か、では御主らしくな」
「この戦でもですな」
「燃えよ」
是非、と言う山県だった。
「逆に言えば静かな御主は御主には思えぬ」
「そうなりますか」
「そうじゃ、その熱さこそがな」
幸村だというのだ、山県も。
「御主をより大きくしていくな」
「どういった大きさでしょうか」
「御館様は天下の道を歩まれておられる」
山県だけでなく武田の者は全て確信している、信玄こそが天下人でありその道を歩んでいる者であるとだ。
「そして御主は侍の道をじゃ」
「歩んでいると」
「どの武芸も好きじゃな」
「はい」
この返事も熱い、幸村は槍と馬だけではない。忍術も含めた武芸十八般全てに日々励んでいる男なのだ。
そしてだ、それに加えてなのだ。
「そして学問じゃな」
「左様です」
「文武両道、しかも心の鍛錬も忘れぬ」
「それがですか」
「侍の道じゃ」
幸村はそれを歩んでいるというのだ。
「しかとな」
「だからですか」
「そうじゃ、御主はな」
それ故にというのだ。
「その侍の道を歩みじゃ」
「生きよと」
「そうせよ、御主はな」
「わかりました、ではそれがし武田の臣であると共に」
それに加えてだとだ、熱い声のまま言う。
「侍として道を歩みます」
「さて、幸村がどういった侍になるのか」
信玄もだ、期待している目で幸村を見ていた。
「見るのも楽しみじゃ」
「では御館様の期待に応えて」
「歩いていくな」
「そうしていきます」
「そうせよ、ではな」
「この戦でもですな」
「侍として戦をせよ、よいな」
「わかりました」
幸村は曇りのない目で信玄に応える、そのうえで山県と共に先陣に戻る。先陣に戻ると十勇士達が待っていた。
その十勇士達がだ、幸村の周りに来てこう言ってきた。
「幸村様、先を見てきました」
「そこから戻りました」
「ふむ、それでどうだったか」
幸村は確かな顔で彼等に物見の報を尋ねた。
「遠江の西は」
「敵は浜松の城に集まっております」
「他の城は全て空です」
こう報するのだった。
「まさに浜松城以外はです」
「もぬけの空です」
「これまで通りじゃな。あえてそうしておるな」
それを聞いてだ、幸村も頷いた。
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