ロックマンX~朱の戦士~
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第七話 戦いの前の一時
前書き
戦いを前に緊張するエックスにルインは…。
ハンターベースの司令部ではエックスがモニターに映るエリアを睨んでいる。
ルインはエックスを見て、明らかに肩に力が入っていると思った。
人間が緊張することで能力が引き出せないように、レプリロイドも性能をフルに発揮出来ない。
だからこそ…。
ルイン「エックス…」
エックス「ルイン?どうしたんだ?」
ルイン「あのね…」
戦闘時にしか見せない真剣な表情でエックスを見つめるルインにエックスも表情を引き締めた。
しかし…。
ルイン「準備まで時間かかるし、ご飯にしようか♪」
エックス「は?」
一体どんな言葉が出るのかと思えば食事の誘いだった。
ルインはエックスの返事も待たずに自身の部屋に引きずっていく…。
ルインの自室に引きずられたエックスは初めて入る女性の部屋に緊張した面持ちで辺りを見回した。
話で聞いていたようなファンシーな部屋ではないことにエックスは胸中で安堵した。
きちんと部屋は整理されている殺風景な部屋だが、デスクの上には工具が(武器のチェックだろうか?)転がっていた。
棚には今では珍しい紙媒体の書物がある。
小説というものらしい。
ケイン博士から貰ったと教えてくれた。
ルイン「エックス~、お昼ご飯はレーションでいい?」
エックス「ル、ルイン…こんな時に食事なんて…」
ルイン「…こんな時だからだよ」
エックスが部屋に備え付けられているキッチンの棚からハンターベースのレーション(糧食)を取り出そうとするのをエックスは止めようとするが…。
ルインはレーションを取り出しながら言う。
ルイン「こういう緊急事態だからこそ、冷静でいなきゃいけないんだよ。戦いで冷静さを失ったら負けだよエックス?」
エックス「だけど…」
今、この瞬間にも傷ついている人々がいると思うと食事どころではないとエックスは思う。
あの時、自分がシグマを撃つことが出来ていたら…。
皆はあのシグマ相手によく破壊されなかったと言ったが、後悔は晴れなかった。
ルイン「エックス」
ルインの手がエックスの肩にポンッと置かれた。
自分よりも小さく細い手。
この手は自分が本気で握ってしまえばたやすく砕けてしまいそうに思える程小さい。
しかしエックスは知っている。
彼女はこの手で沢山のイレギュラーを屠り、人々を守ってきたことを。
エックス「ルイン…」
ルイン「シグマのことなら気にしないで…私も気づけなかったし…他のハンター達も気づけなかったんだから…エックスが責任を感じることはないよ」
エックス「でも…あの時……あの時俺がシグマを撃てていたら…」
ルイン「…………」
ふと、エックスの脳裏を過ぎるのは反乱軍の爆破テロのために下敷きになって機能停止してしまったレプリロイドがいた。
その瓦礫の近くで子供が泣いていた。
自分を助けてくれた彼のために、子供は泣いていた。
エックスは泣きじゃくる子供を背負って、彼の両親の元へと送った。
この子を生かした優しさがとても尊く、この子の流した涙がとても悲しいと思えたから。
ルイン「エックス、私達レプリロイドだって完全じゃないんだよ?何でも背負おうとしないで」
エックス「……でも」
ルイン「もしエックスがシグマを撃っていたらシグマと一緒にゼロも死んでいたよ」
エックス「…っ」
ルインの言葉にエックスは閉口してしまう。
ルイン「何が正しくて、何が間違っているのかは…私にも分からない…。けど私はシグマのしようとしていることは間違っていると思う。エックスは違うの?」
エックス「そんなわけないじゃないか!!」
シグマの言う通り犠牲の無い進化など確かに無いかもしれない。
種として生きるには、進化は確かに必要なのかもしれない。
だがエックスは流された血に触れて…。
流された涙を前にして…。
分かるのだ。
言葉には出来ないが分かるのだ。
こんなことは間違っていると。
心が叫んでいる。
ルイン「それが分かっているならいいんじゃないかな?」
エックス「え?」
ルイン「心が“違う”と、“間違っている”と言っている。それでいいんじゃない?」
エックス「…………」
ルイン「エックス、私達は戦わなきゃいけない…そして勝たなきゃいけないんだシグマに。それが、私達のミスで死んでしまった人々やレプリロイド達に出来る唯一の償いだと思うから」
エックス「…そう、だな……」
ルイン「エックス、あなたは一人じゃない。ゼロやケイン博士…私だっているんだから」
ルインが笑みをエックスに向ける。
エックスもルインに笑みを返した。
ルイン「よし、それじゃあご飯だね♪ハンターベースのレーションだけど食べよう。あんまり美味しくないけど」
エックス「そうだね、頂くよ」
ハンターベースでは賞味期限の切れる半年前に新品のレーションと交換する時、ルインを含めたハンターが食事代わりに少しいただいていくのだ。
ハンターベースのレーションは弁当のようなタイプだ。
付属の粉末飲料のオレンジを水で溶かしてテーブルに置き、過熱したレーションを置く。
中身はライスにチキンステーキ、ベジタブルミックス、ドライフルーツ入りの小さなケーキ。
ルイン「う~ん、やっばりハンターベースのレーションはあんまり美味しくないな…レプリフォースの方が美味しいよ」
エックス「レプリフォース?レプリフォースって最近創設された軍隊だったよな?そっちではどんな物なんだ?」
ルイン「向こうは缶詰だよ。こっちとは比べものにならないね」
“太古の保存食品”のために生産減少の缶詰だが、レプリフォースにいる友人に薦められて食べてみると味はちゃんとしていたし、鮮度も保たれていた。
レプリフォースは缶詰の保存性の高さを信用しているのだろう。
それに比べたら、ハンター機関のレーションはまずいの一言だ。
ルイン「そうだエックス。いい物が手に入ったんだ。今から淹れるね」
ルインは食べ終えたレーションの容器を片付けると、キッチンに向かう。
何かを取り出すような音と、それを置くような音が聞こえたかと思うと。
がりがりがり。
耳慣れない音が響く。
エックス「…?」
エックスは疑問符を浮かべるが、ルインが作るのだから問題はないだろうと待つ。
ルイン「お待たせ」
2つのカップを持ちながら、ルインはエックスにカップを一つ渡す。
エックスの目の前に重厚な琥珀色をした飲み物が、香ばしい香りを湯気と共に発していた。
エックス「え?こ、これはもしかしてコーヒー?」
ルイン「そうだよ?」
エックス「…凄いじゃないか、ルイン。このコーヒー、本物だろう?」
エックスの瞳が感嘆に見開かれる。
今の時代、こういう嗜好品は殆ど存在しない。
ある種の根を使った代用コーヒーですら入手は難しい。
年々深刻化する環境の悪化の影響だろう。
エックスは映像ではない実物のコーヒーに驚いた。
ルイン「えへへ、驚いたでしょ?実物のコーヒーなんて見るの初めてじゃない?」
エックス「ああ」
ルイン「にしても、随分手間が掛かっちゃった。待たせてごめんね?」
エックス「いや、構わないさ。コーヒーを挽いている音を聞くのも新鮮で良かったよ。それにしてもこんなにもいい香りがするなんて…だけど道具を揃えるのも大変だったんじゃないのかい?」
ルイン「えっと…コーヒーミルと、ドリップ用のフィルターはケイン博士から貰ったの」
エックス「ケイン博士から?コーヒー豆はどういう経路で?」
ルイン「レプリフォースにアイリスっていう知り合いがいるの。レプリフォースの研究所で作られた豆を分けてもらったんだ。」
エックス「君って結構友好範囲広いよね…」
ルイン「そう?ゼロだってレプリフォースに知り合いがいるし、普通じゃないかなあ?」
エックス「はは…それにしても凄いな…映像じゃない本物のコーヒーを見るだけじゃなく飲めるなんて…ありがとうルイン。」
ルイン「どういたしまして♪砂糖とミルクもあるから入れたくなったらどうぞ♪」
エックス「ありがとう…」
コーヒーを一口飲むと苦くて柔らかい風味が口の中に広がる。
ルイン「どう?」
エックス「美味しいよ。本当にありがとうルイン」
尋ねて来るルインにエックスは口元を綻ばせた。
彼女の思いやりに、身も心も温かくなったから。
ルイン「エックス」
エックス「ん?」
ルイン「一緒に頑張ろう」
エックス「ああ、必ずシグマを倒そう…それと、ルイン」
ルイン「何?」
エックス「平和になったら俺とゼロと君の3人で一緒にこれを飲もう」
ルイン「そうだね!!ゼロだけ仲間外れなんて可哀相だしね、コーヒーならゼロも飲めるだろうし、ハンターベースの屋上がいいかな?それとも…」
エックス「誰もいない静かな野原でするのもいいかもな」
ルイン「うん」
エックスの微笑にルインも満面の笑みで返した。
平和な世界で一緒に今度はゼロを含めた3人で一緒に贅沢なお茶をしようと約束した。
後書き
戦いの前の一時。
実際エックスの時代って農業が殆ど駄目になってるイメージがあります。
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