いかさまは知っていても
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第五章
「旦那さんの手術の金を稼いでたんだろ」
「ああ、馬鹿みたいに金がかかる手術でな」
「そうだよな、だからな」
「それでか、また回りくどいことしたな」
「博打打ちが素直に寄付するか?」
劉さんは笑ってだ、元締めにこう返した。
「そうした世界か?博打の世界は」
「そんな訳ないだろ、騙し騙されだよ」
まさにヤクザな世界だ、そう言う他ない世界だ。
「俺だって騙して儲けてるからな」
「そうだろ、だから俺も足長おじさんにはならなかったんだよ」
「博打打ちとしてか」
「貢いでたんだよ」
「大方こっちの懐に入ってもか」
「そのことも頭に入れてたさ」
ちゃんと、というのだ。
「もうな」
「そうか、流石だな」
「そうだよ、しかもな」
「花蓮のこともわかってたんだな」
それでもというのだ。
「人妻ってことも」
「ああ、俺も家庭があるしな」
「不倫ってのはな」
「そういうことは出来ないからな」
それで、というのだ。
「敵わない恋ってやつさ」
「それでもか」
「ああ、惚れたからな」
それ故にというのだ。
「貢いだんだよ」
「そうか」
「ああ、いいんだよ」
こう言うのだった。
「それでもな」
「かなり散財したよな」
「何、取り戻してるさ」
「他の場所で稼いでか」
「伊達に博打で屋敷建ててないさ」
笑ってだ、劉さんはこのことは大丈夫だと言った。
「プラスマイナスでプラスにしてるさ」
「それでか」
「ああ、全体として損はしてないさ」
「ならいいがな、けれどな」
「かなりの金を注ぎ込んだっていうんだな」
「相当だったのにやったな」
「惚れた相手だからな」
相手が既に結婚していてだ、自分も家庭がある。それでとても実る相手ではないことはわかっている。だがそれでもだというのだ。
「そうしたんだよ」
「そうか、漢だな」
「俺がかい、こんなしょぼくれた博打打ちが」
「ああ、漢だよ」
まさにというのだ。
「あんたは漢だよ」
「だといいがな」
「その漢気、見事だよ」
元締めは笑ってだ、彼にこうも言った。
「惚れたぜ、あんたに」
「おいおい、俺はそっちの趣味はないぜ」
「俺もだよ、そうした意味の惚れたじゃないさ」
元締めは笑って言う劉さんに自分も笑って返した。
「あんたって人間が好きになったんだよ」
「あはは、それか」
「よし、じゃあ今日は遠慮せずな」
酒を自分から注いで出しての言葉だ。
「遠慮せずに飲んでくれよ」
「奢ってくれるって言ったな、そういえば」
「ああ、その約束もあるからな」
「今日はか」
「遠慮せずどんな酒でも飲んでくれよ」
「そう言うんならな」
「ああ、じゃあな」
劉さんも元締めの言葉に笑顔で応える、そしてだった。
元締めの勧める酒を飲む、実際に自分が好きな酒も飲む。
そうしてだ、飲みつつ言うのだった。
「じゃあ飲んだらまた博打で自分と女房子供の為に稼ぐか」
「そうしろよ、惚れた相手の幸せを願いながらな」
「そうするさ」
「じゃああっし等も」
「一緒に」
元締めの手下達も一緒に飲む、劉さんは彼等とも酒を楽しんでだった。そうして花蓮のこれからの彼女の夫との幸せを祈りながら彼女のことを忘れるのだった。
いかさまは知っていても 完
2014・4・28
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