I want BRAVERY
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29話
「ほら!ほら!だから私は言ったんだ!」
あの後、普通に先輩が俺と不思議な時間にいたことを証言、もといチクってくれやがりました。
「まったく、これでわかったか!私は断じてオカルトマニアなどではない!」
俺のことを盛大に睨みつけて、自分のキャラが崩壊していることにもイマイチ気付いてないようすで言う桐条先輩。
そもそも何故先輩がこの寮に居るのかというと、
先輩曰く、
『彩君と一緒に帰ろうと思って、彩君の教室に行ったらなんと、私の彩君が他の女と帰ったと聞いたのよ』
『私の彩君』?
なんか持病のヤンデレが悪化している気がする。
『それでね。誰と帰ったのかね、周りの子に聞いてたら後ろから真田君がね声を掛けてきたの』
他の男が嫌なのかわからないが、その時の先輩は真田先輩の顔を微妙に嫌そうな顔で見ていた。
後で聞くと、どうも熱血系は嫌いらしい。
真田先輩は一応学校ではクールで通っているはずなんだが。
『それにしても失礼な人なのよこの人。だって私のことを彩君の彼女か?なんて間違えるし』
おぉ、先輩。
正常だったのか!あなたはヤンデレなんかじゃなk
『だからね、ちゃんと言っといたよ。私は彩君の妻だって、ね』
ニコリと微笑んで先輩は話してくれたが、きっとその時の俺の顔は相当引きつっていただろう。
先輩はその後、真田先輩に俺の居場所がわかると言われ、そのまま寮に二人で向かうことになってしまったらしい。
それと、何故真田先輩が俺と桐条先輩が帰る時にいなかったかというと、普通に部活を休むために色々していたらしい。
それで二人で帰っている時に、どうも先輩が俺との二人だけの空間があるやらなんやら語ってしまったらしい。
その結果、それをどう解釈したのかは知らないが、この熱血プロテイン馬鹿はそれを影時間だと思ったらしい。
その影時間について色々説明を聞いたら、先輩のそれと合っていたということで俺が影時間にいることが証明されたようだ。
そして、そのまま寮について冒頭に至るというわけだ。
「聞いているのか!?」
必死だな。なんて言えはしないが、今の桐条先輩はかなり必死だった。
「そんなことよりも!私の彩君とどういう関係なの!?」
場がカオスになりそうな予感がするのは俺だけなのだろうか。
「まぁ落ち着け二人とも・・・早くタルタロスに行こうじゃないか」
おい、こら。
この熱血脳筋は何を言ってるんだ。
「先に私の誤解を解く方が先だ!君もいい加減認めたまえ!」
「彩君と私はね、夫婦なの!わかる!?夫婦よ!」
いや、違うからね。
「影時間までまだ時間はあるが、準備に時間がかかるだろう。早くこいつの分の装備を整える必要があると思うんだが」
こらこら、一人で勝手に進むな。
「ふっ、やっと誤解だと認めたか。つまりはだな、私は至って正常だということだ!」
なんも言ってないんですけど。
「全く、浮気は駄目だってあれほど言ったのに!」
だから浮気でもないし、そんなこと言われた覚えもない。
「お前の得意武器はなんだ?剣か?それとも槍とかか?」
もういい。
誰かこのカオスをどうにかしてくれ。
あれからしばらく、いや結構経ってようやく皆落ち着いたようだ。
もうそろそろ寮に帰るべき時間だ。
いや、本当、いつまで続くんだよと思っていたがここまでとは。
「と、取り乱してすまなかったな」
桐条先輩は咳払いをしながら言う。
まぁ、今更取り繕ったところでもう遅いのだけれど。
「いえ。面白いものが見れたので」
そう言ってニヤリと笑ってみる。
「・・・今日のことは忘れろ」
「はい。忘れます。じゃ、これで帰ります」
それだけ言って、俺は立ち上がる。
「待て、流峰」
ガシと後ろから真田先輩に肩を掴まれる。
「とりあえず今日、タルタロスに行かないか?」
何、学校帰りにカラオケにでも行かないか、的なノリで言ってんだよ。
先輩相手にそんなツッコミはしないが、そう思った俺は悪くない、
「タルタロス?それってなんなの?」
先輩が真田先輩にタルタロスについて聞く。
そういえば真田先輩、タルタロスの説明してないのにひたすら、行かないかと誘っていた。
「シャドウの巣みたいなところさ。場所は影時間中の学校」
真田先輩は何故かシャドーボクシングをしながら言う。
「巣?いっぱいあの化物がいるってこと?」
「あぁ!そうさ!腕が鳴るだろう!?」
鳴らねぇよ。
てか先輩いらんこと言うなよ。
「そうだな、確かにここまで人数が集まればタルタロスにも挑戦できるだろう」
桐条先輩は真田先輩ほどではないが、どこか嬉しそうに言う。
「ちょっと待ってください」
しかし、ここで流されるわけにはいかない。
「どうした?」
「初めては不安かもしれんが、すぐに慣れるぞ?」
桐条先輩と真田先輩が言う。
「いえ、そうではなくて、俺参加するなんて言ってませんし」
「・・・は?何言ってるんだ」
ハハハと笑いながら真田先輩が言う。
「ゲームで言うダンジョンだぞ?そこに行かなくてどうする?」
「いえ、そもそも自分はその『シャドウ』とかう化物と戦う気はないんで」
言った瞬間空気が凍った。
まさに凍った。
「君という人は!事の重大さがわかっていないのか!」
「わかってるから言ってるんじゃないですか」
「なんだと?」
おぉう。
桐条先輩めちゃくちゃキレてるよ。
まぁ、あれだけ醜態されしておいて収穫なし、ってのが嫌なのはわかるけど。
「ミスったら自分もその『影人間』とやらになる可能性もあるんでしょ?」
「っ!?・・・それはそうだが・・・それでもだ!我々にしか出来ないことならするしかないだろう!」
「桐条先輩。あなたが一体何故そこまでこのことに責任感を感じているのか自分にはわかりません」
お父様のためなんだよね。
ファザコン乙。
「しかし、自分にはあなたのように命を賭ける覚悟も理屈もないんですよ」
そう、俺にはそんな命の危険を冒す理由なんてない。
俺は楽しく生きる。
別に俺がいなくても原作通りに進めば問題ないはずだ。
もし俺がいたら多少は楽になるかもしれないが、そこは俺の平穏のために諦めてもらう。
「我々がシャドウを倒せばそれで救われる人間もいるんだぞ!」
「だからといって自分の命まで賭けなければいけないんですか?」
「君は!君は、自分さえ無事なら良いと言うのか!」
「当たり前です。痛いのとか嫌ですし、死ぬ可能性があるとか論外なんで」
悪いけど断らせてもらおう。
俺には自分の命の方が重い。
「彩君!」
横から先輩が俺の名前を叫ぶ。
さっきから空気になっていると思ったら、どうやら真田先輩と何か話していたようだ。
「戦おうよ!」
え”。
「ちょ、先輩何言ってるですか」
「正義のためだよ!私達がやるしかないよ!」
あれ?先輩ってこんなキャラだったか?
「それにね!・・・もし影時間も一緒にいれるならさ」
先輩は突然モジモジし始める。
「先輩トイレですか?トイレですね。トイレはむこうなんd
「一日に一緒にいれる時間が増えるんだよ!」
先輩は俺の言葉を無視して嬉しそうに言う。
心底嬉しそうに。
「・・・」
(もうこの人嫌ぁぁぁ)
内心、泣き叫ばずにはいられない。
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