まぶらほ ~ガスマスクの男~
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第八話
前書き
大分お待たせしました。今回はサラッといきます。
「な、なんだ?」
リーラの腕時計から突如、警報のような音が鳴り響いた。見れば時計の一部が赤く点滅を繰り返している。
リーラはその美貌を微かに歪めると、あきらめたように息を吐いた。時計に触れて音を止める。
「残念ながら呼び出しです。なにかあったようです」
「そ、そう。それは大変だ」
「司令室に行かねばなりません。今夜はお相手を勤めさせていただけそうにありません」
「まあ、人生そんなこともあるよ。うん」
自分でもなにを言っているのかよくわからないけど。
先ほどまでの変な空気は払拭されたためか、いそいそとリーラの上から退く。
彼女は不満げな表情ではあったものの、すぐに意識を切り替えてメイドの顔になった。
「式森様、今夜はゆっくりとお休みくださいませ。昼頃に再びうかがいます」
綺麗な一礼を見せて出て行くリーラを見送る。
残念なような助かったような、なんとも言えないしこりのようなものが残された俺であった。
† † †
走りながら服の乱れを手早く整えた私は、一呼吸して司令室の扉を開けた。
内部はいつにも増して騒がしかった。そこらかしこで怒声のような甲高い声と書類が飛び交っている。普段から冷静に振る舞うように訓練されたメイドたちがだ。これはやはり非常事態と見ていいだろう。
私の姿に気がついたメイドの一人が早口で状況を伝えてきた。
「なに? 失敗しただと?」
「はい。ゲルダ少尉からの報告です。井戸とポンプに仕掛けた爆薬の炸裂で破壊を試みましたが、破壊しきれなかったとのことです。現状では継続使用できる可能性があるとのことです」
「そうか……。しかし井戸の破壊ができなかったのは痛いな」
兵力の少ないメイドたちは防御側の常として、水銀旅団に利となる施設をすべて破壊するように言明してある。
戦力を維持するのに必要な要素は三つ。弾薬を初めとする武器、戦意、そして食料だ。偵察部隊の報告によると水銀旅団はこちらの約三倍の兵数だという。当然、消費する食料は相応の量になるだろう。
井戸は島内で唯一利用可能の設備だ。ここを破壊できれば相手に大きな痛手を負わせることが出来る。
「ゲルダ少尉は再度爆破を申請しておりますが」
「駄目だ。メイド工兵小隊には他にもやるべき任務がある。陣地構築すらろくに終わっていないのだ」
「では放置いたしますか?」
「馬鹿を言え、放置などできん。水銀旅団は紅茶の消費量が異常に多い。当然、真水の確保は重要だ。相手に利を与えるほど私は優しくない。……水銀旅団に動きは?」
「今のところありません。数だけは多いようですが、例によってトレーディングカードの交換会、臨時オフ会で忙しいようです」
「……相変わらず何がしたいのか分からんな」
「同感です」
「……一個分隊を派遣する。第一メイド猟兵小隊に連絡しろ」
指示を飛ばしていると、警報が鳴り響いた。
モニターにかじりついていた部下が振り返って叫ぶように報告する。
「水銀旅団と交戦! 第四防衛区域が突破されました!」
「第三機動小隊はどうした!」
「駄目です、応答ありませんっ」
敵は思っていたよりも強かのようだ。
現在確認出来ている水銀旅団の装備は動小銃と軽機関銃、RPG。戦車のような装甲戦闘車両はなく、軍備はこちらのほうが明らかに上。
にも拘らず、第四防衛区域が突破されたとなると、敵になんらかのアクションが起きたとみていいだろう。
「第一猟兵メイド小隊は第三機動小隊の安否の確認! 第二機動小隊は井戸の破壊! 第二、第三猟兵メイド小隊は戦闘準備! こちらから撃って出るぞ!」
「じゃあ、あたしも行くかな」
「そうしてくれ。式森様がいる手前、無様な姿はお見せできん」
「はいはい。お暑いことで」
肩を竦めたセレンは自分が率いる部下達の下へ向かった。
明日は誓約を控えているのだ。私たちメイドにとっても式森様にとっても大切な一日である。
何人たりとも邪魔はさせない。
さっさと頭痛の種を取り除いて一刻も早く、式森様の元へ駆けつけたい。
逸る気持ちを押さえ込みながら早足で司令室を後にした。
† † †
「進め進めー! 奴らの誓約日は明日。なんとしても阻止するのですっ!」
「ぐへへへ、メイドさんを激写するお!」
「ネリーた~ん!」
「え、エーファたん……」
前線は激戦区と化していた。
互いに銃器とカメラを構え、飛び交う弾丸とフラッシュの嵐。
素の戦闘力がカメラ小僧たち六人に匹敵するメイドたちは当初、圧倒的な火力で押していたが、水銀旅団が抱える虎の子、ピンクパジャマ中隊が参戦してからは雲行きが怪しくなってきた。
ピンクパジャマ中隊の少女たちはなにを隠そう、元MMMのメイドたちで構成されている。
嘗て己が所属していた組織を抜け出し、ピンクパジャマ中隊に志願した理由は様々だが、それでも元メイドだけあってその戦闘力は他の団員を遥かに凌駕する。
元同僚たちとともに切磋琢磨して磨き上げた技術が今の彼女たちを活かし、互いの背中を守り主人に使えてきた元仲間に牙を向く。
その胸中には複雑な思いがあったが、迷いが表に出ることはなかった。
銃口はしっかりとメイドたちへ狙いすませている。
「このっ……勝手に撮るな!」
「きゃぁ、ちょっと今パンツ撮った奴誰よ!」
メイドたちは身を捩りって、その禍々しい光沢を放つレンズから逃れようとする。
「くっ、これは厄介だな……!」
リーラが思わず悪態をついた。
カメラ小僧が焚かすフラッシュが目くらましとなり、一瞬の隙をピンクパジャマ中隊がつく。
しかも彼らの生理的に気持ち悪い声と目線も、メイドたちを精神的に追い詰めていた。
「後退だ!」
決断は一瞬だった。リーラが手を振るうと速やかに後退を始める。
――しかし何故、奴らは誓約日のことを知っている?
考えられるのは内部の裏切り。それか、捕虜による情報提供。
――どちらも考えたくないものだな……。
なんにせよ、今は後退して陣を作り直さなければならない。
隊列を作り後退射撃を行いながら、陣を引いていると。
不意に耳鳴りが襲った。
キーン、と風切り音が聞こえてくる。
最初にその存在に気がついたのは、部下のネリーだった。
「リーラ様、あれを!」
上空を見上げる。
青い空に黒点が一つ浮いていた。
それは次第に大きくなり、やがて――。
――ドォォォォォンッッ!!
轟音を響かせて水銀旅団とメイドたちの丁度ど真ん中に着地したソレを見て、整った眉を顰めるリーラ。
「……日本人の女の子?」
よくよく見れば、その少女が着ている制服は彼女たちが次期主人と崇める式森和樹が通う学園の制服だった。
なぜこんなところに? いや、そもそもどうやって此処に着た? なぜ空から?
疑問が尽きないリーラだったが、唐突に振り返った少女と視線が合った刹那――反射的に地面を蹴った。
少女から殺気を感じたからだ。
数多の戦場を経験した歴戦の猛者に匹敵するほどの殺気を双眸に込めた少女はサラマンダーを召還した。
「貴女から和樹さんの匂いがします! さては貴女が和樹さんを攫ったんですね! 許しませんっ」
少女の指示によって放たれた炎の精霊がリーラに襲い掛かる。一瞬早く飛び退っていたため難なく避けることが出来たが、彼女が立っていた場所に小さなクレーターが出来上がっていたことからどの程度の威力が込められていたかが窺えた。
「和樹さんをどこにやったんですか!」
次々とサラマンダーを召還して攻撃してくる少女。
「和樹様とは式森様のことですか? あなたは彼とどのような関係が?」
「和樹さんの妻です!」
断続的に放たれる炎の塊を避けながら、少女の言葉に眉をピクッと動かす。
――そういえば日本支部からの報告に、式森様に執拗的な執着を見せる女性がいるとの話が上がっていたな。彼女がそうか……。
「式森様はあなたを妻と認めていないようですが」
しかしながら、彼女の言葉を素直に肯定するわけにはいかない。当の式森様自身もその話は否定されているようだし。
なにより一人の女として許容できない。
「和樹様はシャイなので照れているだけです! というか、あなたたちは和樹さんのなんなんですか!?」
「式森様は私たちの次期主です。あなたにはこの島への招待状を送っていませんのでお引き取り願います」
「なんですかそれ!? 和樹さんにメイドなんて必要ありません!」
「それを決めるのはあなたではありません。引いて下さらないのであれば、相応の対応を取らせていただきます」
愛用の銃を構え発砲する。相手は仮にも式森様のご学友。戦意喪失を狙うため手足を狙った。
「しゃらくさいですっ!」
少女は人間離れした反射神経で身を反らし、驚くことに銃弾を避けた。ただの日本の女子高生がだ。
いやに野生的な動きで跳躍すると今度はウンディーネを召還した。
「くっ、この島は魔法禁止だというに……っ」
しかし、仮に知っていたとしても少女は気にせず魔法を乱用するだろう。邂逅して僅かな時間しか経っていないが、目の前の少女は常識が通用しない相手だということを理解していた。
「和樹さんに言い寄る女性はみんな敵です! 殲滅です!」
なにを思ったのか、少女はリーラたちメイドだけでなく水銀旅団の団員たちも攻撃し始めた。
彼女にしてみれば和樹の近くにいる女性は皆的なのだろう。むしろ女性というだけでターゲットにされそうだ。
「無差別攻撃……っ! 話には聞いていたがここまで滅茶苦茶な人だとは……っ、」
突然の少女の乱入にポカンとしていた水銀旅団はいきなり攻撃されて混乱状態にあった。
メイドたちも面食らった様子を見せていたが訓練の賜物か、慌てることなく冷静に対処する。
――しかし、自体はさらに思わぬ展開を迎える。
「また君か……」
リーラたちの後方から聞こえてきた変声器特有の機械的な声。
それはリーラたちが次期主と仰ぎ見る人であり、
水銀旅団のターゲットにされている人物であり、
少女が偏執的な想いを寄せる相手でもある。
「式森様……なぜここに?」
「和樹さんっ!」
式森和樹が、戦場にやってきた。
† † †
どうやら城の近辺のあちこちで戦闘が発生しているらしい。
城内の慌しい空気と微かに聞こえる銃撃音から、また水銀旅団とやらが攻めてきたのだろうと推測した俺は、うろうろと部屋の中を落ち着きなく動き回っていた。
初めて見る顔のメイドがすぐに鎮圧される旨を伝えにきてくれたが、それでも胸の内にあるどうしようもない感情は消えてくれない。
朧な形であり、どういった感情かしっかりと認識できてないが、強いて言うならば『焦燥』と『不安』に近いそれ。
今すぐ駆け出したい気持ちと、この場に留まっていたい気持ちが鬩ぎあい、歪みとなって俺自身を蝕む、そんな奇妙な感覚が襲う。
――リーラたちは大丈夫かな……。
窓から外を見下ろせば、慌しく動き回るメイドたちの姿が見えた。
重火器を用いた戦闘だ。一瞬の油断や判断が生死を分かつ。そんな場所にリーラたちがいる。
掠っただけでも一生残る傷をその身に刻むだろう。最悪の場合、命を落とす。
ここに着てからまだ三日しか経っていないのに、もう数ヶ月は滞在しているかのような居心地の良さを感じていた。
――優しく接してくれていたメイドさんたちが怪我をしたら、あまつさえ重症を負ったら……。
いつも身近にいてくれた銀髪のメイドさんが血塗れの姿で横たわる、不意に脳裏に過ぎったのはそんなビジョンだった。
「……は……ははっ……なんだ、答えは出てたんじゃないか……」
なぜこうも不安に感じるのか。どうでもいい人だったらここまで心乱されることもない。
言い換えれば、彼女たちにそこまで気を許している証拠であり、憎からず思っている証でもある。
解は得た。
体が――心が軽い。まるで雁字搦めにしていた鎖から解き放たれたような気分だ。
「じゃあ、行くかな……」
彼女たちを助けに。そう遠くない未来の主として、なによりも一人の男として、女に戦わせて自分はのうのうと後ろに控えているつもりなど毛頭ない。
「まあ、後でリーラに怒られるかもしれないけれどね」
冷静沈着な彼女が怒りを露わにするそんな姿を想像して、マスクの下でくすっと小さく笑んだ。
念のため置手紙の一つを残し、窓から跳び立つ。
落ちたら怪我では済まされない高さだが、問題ない。
魔力と気の高速循環による身体強化が生んだ脚力は俺を大空へと導いた。
リーラの気配を探すと――なんと一番気配の入れ替わりが激しい場所、恐らく激戦区に位置した。
幸いここからそう遠くない。全力で向かえば一分も掛からない距離だ。
軽功術で木々の葉を足場に疾走する。
段々近づいてくる気配に、一つ不純物が混ざっているのに気がついた。
「げっ、まさか……」
その不純物――気配には覚えがある。一番嫌いな人の気配だ。
この場にいるはずがないのに、なぜ――とは思わない。
相手は理不尽の権化だ。彼女の存在を嫌というほど知らされた俺からすれば、なぜと思う前にやはりと諦観の念が先に過ぎった。
一際大きく跳躍し、空いていた場所に着地する。
「また君か……」
同級の顔を認めた俺は反射的に眉を潜めた。
「式森様……なぜここへ?」
「和樹さんっ!」
喜色の笑みを浮かべている少女――宮間夕菜はとりあえず無視して、リーラに向き直る。
彼女の顔には驚愕が浮かんでいた。
「そんなの助けにきたからに決まってるじゃないか」
「いけません、ここは戦場です。式森様の身にもしもがあれば」
早足で駆け寄ったリーラが俺の手を引き、どこかへ連れて行こうとする。
恐らく安全な場所へ誘導しようとしているのだろう。
しかし俺は彼女の意に反してその場に留まった。
「式森様?」
「リーラ」
俺の目はまっすぐ戦場に向いている。
アニメキャラがプリントされた服を着てカメラを首からぶら下げている男たちと、なぜかピンクのパジャマに銃というミスマッチにもほどがある服装をした少女たち。
恐らくコイツらが……。
「水銀旅団か?」
「はい。水銀旅団でも中核を担うカメラ小僧隊とピンクパジャマ隊です」
「まんまかよ……ネーミングセンス悪っ」
周りを見渡せば、負傷したメイドさんたちの姿もちらほら見受けられる。
動き出そうとしない俺に業を煮やしたリーラが手を引っ張り急かす。
「式森様、ここは危険です」
「わかってるよそんなの。百も承知だ」
だが――。
「引けられないものもあるんだ」
リーラの手をそっと離した俺は一歩踏み出した。
「俺の名は式森和樹! 彼女たち第五装甲猟兵侍女中隊の次期主だ!!」
腹の底から発せられた声が轟き渡る。
水銀旅団たちに動揺が、メイドたちにざわめきが生まれた。
「彼女たちの敵は即ち俺の敵! 当方に慈悲の心あらず! 故に我らを害する意があるのなら、相応の覚悟を以って臨むがいいッ!!」
殺気とともに腕を一振り。
風圧によってカメラ小僧と呼ばれた男たちが転がっていく様に、水銀旅団の面々が震え上がる。
「来ないなら、こちらから行くぞッ!」
一歩踏み込む。
振脚を利かせた歩は重い音とともに大地に罅を入れた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
「こんな怪物に勝てっこねぇべさぁぁぁ~!」
一人、二人と逃げ出すと、まるで蜘蛛の子を散らすかのように後に続いた。
我先にと逃げ惑う男たち。指揮官と思われるやけに立派な髭の男が血相を変える。
「どこに行くというのです!? こらっ、待ちなさい! 敵前逃亡は重罪ですぞ!」
――間違いないな、こいつが指揮官か。
喚き散らす男に近寄りその顔を五指でがっちりと固定。ギリギリと力を込めていった。
「即刻、この島から出て行け。二度と俺たちに関わるな」
「ひ、ひひ……」
「これはお願いじゃない」
ピキッ、と嫌な音が耳に、小さな振動が手に伝わる。
徐々に赤くなっていく顔を覗き込んだ。
「――命令だ。それとも無残な屍を晒すか? 俺はどちらでもいいぞ?」
「はいぃぃぃぃぃ!! 即刻立ち去りますぅぅぅ!!」
言質は取った。ぺいっと投げ捨てると、悲鳴を上げて去っていく。
後に残ったのはパジャマを着た女の子たちだけだ。彼女たちは険しい表情を浮かべながらもその場に留まっていた。
――……力量差を知りながらも退かない、か。
その姿勢は己の責務を全うする者のソレであり、メイドさんたちに通じるモノを感じた。
「……君たちも行きな。追わないからさ」
怪訝な顔をする少女たち。俺は一部例外を除いて女子供には手を出さない趣味なんだ。
ヤル気はないと手をひらひらさせると、顔を見合わせて小さく目礼した。
撤退する少女たちを見送っていると背後からリーラの声が掛かる。
「よろしかったのですか? 彼らが式森様の言葉を聞き入れるとは思えませんが」
「その時はその時だ。まあこの島からは出て行くだろうね」
「そうですか……」
「和樹さんッ!」
第三者の声。ああ、そういえば居たんだっけ、と今になって思い出した。
振り返れば「私怒ってます!」とでも言いたげな宮間の姿が。
「その女はなんですか! ひどいですっ、わたしというものがありながら!」
「俺が誰と親しげでも君とは関係ない」
「それが妻に言うことですか!? 浮気者は嫌いです!」
「嫌って結構。むしろ嫌ってくれ。それと何度も言うようだが君を妻に迎えた覚えはない」
「なんでそんなこと言うんですか! ひどいです! それにまだそんな物をつけてるんですか! いい加減、顔を見せてくださいよ!」
ああ言えばこう言う……。回線が捻じ曲がってるのか、俺の言葉は通じていないようだ。
本当に疲れる……。
「……わかった。そんなに見たいというなら見せてやろう」
「本当ですか!?」
「式森様……?」
喜色の笑みを浮かべる宮間と怪訝な顔のリーラ。
リーラには黙っているように目配せをすると、一つ頷いて引き下がってくれた。
察しがよくて助かる。
「じゃあ後ろを向いていてくれるかな? ちょっと恥ずかしいんだ」
「もうっ、しょうがない和樹さんですね♪」
機嫌がいいのか素直に後ろを向く宮間。間髪いれず、彼女の首筋に手刀を入れた。
崩れ落ちる宮間を冷めた目で見下ろす。
――後で出荷しないと。
「……個性的な方ですね」
「だろう……? 個性的過ぎて困るくらいだ」
宮間がどんな女か少しだけ理解してくれた様子だった。
「ところで式森様……先ほどのお話ですが」
「ん?」
見れば、リーラは怖いくらい真剣な顔で俺を見返してきた。
他のメイドさんたちも同じく真剣な顔で俺たちを見守っている。
「式森様は、我々の次期主となって下さると……」
「――ああ。なるよ」
俺の顔になにを見出したのか、小さく息を呑むリーラを見つめ、大きく頷く。
「なる。リーラたちの主に」
それが、俺の行き着いた答え。
「リーラたちとともに生きるって決めたんだ」
それが、俺のたどり着いた望み。
「これが、俺の決意だ」
みんなをぐるっと見渡して、俺はそう微笑んだ。
――さあ、もう寝よう。
――明日は大切な日なんだから。
――一生に残る、大切な……。
後書き
次話は誓約日。
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