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消えていくもの

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第四章


第四章

「本当にばらばらになったな」
「そうよね。何か時代が変わって」
「そうなったわ」
 花子と里子もそれはよく実感していた。せずにはいられなかった。
「戦争が終わって」
「子供の頃はずっと一緒に暮らしていたのに」
 この家にである。村に。だがそれも終わってしまったのである。そして今があるのだ。
「それが今では」
「別れ別れね」
「それで親父もだ」
 彼等のその父親のことである。
「もうすぐ死ぬんだな」
「あの何かとよく動いたお父さんも」
「最後は呆気ないものね」
「これで最後だよ」
 母がここでまた子供達に告げてきた。
「皆で見送ってあげようじゃないか」
「ああ、そうだな」
「皆でね」
 子供達は母のその言葉に頷く。そうして父の臨終の場に向かう。彼は布団の中にその痩せた身体を横たえていた。そこから周りに集まっている子供達を目だけで見回し。まずはこう言ったのだった。
「何だ、誰も孫はいないんだな」
「悪いな」
「それはまだよ」
「全く。親不孝者共が」
 うっすらと笑ってみせて言葉を返してきた子供達に言うのだった。
「孫は早く作れ。おかげで寂しい見送りになるじゃないか」
「よく言うよ」
 次郎がその父に対して言った。
「五十を越えても子供を作った癖に」
「文子」
 次男のその言葉を受けて枕元に座るその末娘を見た。彼女は一言も話さすそこに小さく座っている。彼は彼女に優しい笑顔を向けて言うのであった。
「父ちゃんはこれでお別れだ。母ちゃんと仲良くやるんだぞ」
「・・・・・・うん」
 父の今の言葉に静かに頷いた。
「わかった、父ちゃん」
「ならいい。まあ孫がいなくても」
「子供が六人もいるからいいじゃない」
「そうよ」
 花子と里子が彼に言ってきた。
「私は結婚できてるし」
「次郎兄さんだってもうすぐだし」
「ならいいな」
 娘達の話を聞いて納得する父だった。実際に布団の中で頷きもする。
「考えてみればそれで」
「お義父さん」
 雪江も舅に声をかけてきた。
「私はずっとこの人と」
「こいつは昔から間抜けだった」
「よく言うよ」
 父に言われてむっとした顔を作る息子だった。
「その間抜けにこうして看取られてるんじゃないか」
「ふん、因果なものだ」
 苦笑いで返す父だった。
「出来の悪いのに看取られるわ」
「悪かったな」
「まあいいわ。二人でずっとな」
「はい」
「わかってるさ」
 最後は二人にも優しい言葉をかけた。そして次郎にも。
「予科練のことはな」
「ああ」
「ずっと忘れるなよ。海軍はなくなったがな」
「忘れる筈がないさ」
 次郎は父に応えながらかつてのことを思い出していた。その予科練のことをである。
「あんな素晴らしい頃のことはな」
「それならいい。御前は海にいろ」
「ああ、そうさせてもらうよ」
「三郎、御前はだ」
 今度は三郎にだった。
 
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