永遠の空~失色の君~
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EPISODE2 クラス代表選抜戦~その1~
何度も言うようだがISという兵器は女性にしか動かすことはできない。それはこの世界での常識でありふつうなのだ。
でも普通じゃないのがこのIS学園に二人。僕と一夏だ。そしてその一夏は今僕の目の前で頭を抱えてうな垂れている。その隣には先ほど知り合った彼の幼馴染だという篠ノ之箒の姿もあるがこっちはそんな彼に呆れたようにため息をついている。
場所は食堂。時間は昼休みとだけあって生徒でにぎわってる。
「・・・・すまないライ。このバカが余計なことをした」
「いや気にしてないから大丈夫だ。それに、一夏は僕のことで怒ってくれたんだ、むしろ感謝したいくらいだ」
自国のこと、友人のことを侮辱されたら怒るというのは彼の性格や人となりを見ればうなずける。ここで僕が責めるのはお門違いというものだ。うな垂れていた一夏はテンションこそ低いものの少しは持ち直したようで「ありがとう」と言って昼食である日替わりランチを食す。
「それより、今問題にすべきは来週末に控えた彼女との決闘だ。代表候補性となれば当然専用機をもっているはずだからISの搭乗時間も僕らよりも断然長い。技量もね。僕らに課せられた課題は限られた期間でどこまでこの差を詰められるか、それが重要だ」
「・・・・ライ、おまえはすごいな」
「なにが?」
「いや、俺と違ってすごく冷静に考えてるからさ」
「こうなったからにはやるしかないからね」と茶そばを一口。そばに練りこまれた茶葉の香が口に広がりとても和の風味がしておいしい。
「だが、ISの訓練にはISがいる。申請してる時間はないと思うが?」
「ISの動きは本人の戦闘スタイルにも左右される。いろんなものを扱いなれていた方がいいんだけど・・・・一夏って、なにか武術とかの心得はある?」
「剣道を昔やってた。これでも箒よりは強かったんだぜ。昔は、だけどな」と一夏。「ラッキーだ」と僕が言う。
「なら篠ノ之さんに一夏の特訓をお願いしようかな」
「私が、か?」
「今の一夏の話だと、きみも同じように剣道をやっていたんどろ?それも今ではきみの方が断然強い。なら、今できることはただ一つ。ISでの戦闘とはいえ、少しでも剣道の感覚を取り戻していたほうがいい」
驚愕、まさにその言葉がぴったりといった表情を二人はしていた。
「・・・・ライ、おまえどうやってそこまで見抜いたんだ?」
「どうって・・・・篠ノ之さんはしぐさとか歩き方とか見て推測を建てただけだよ。人から声をかけられた時は一定の距離をとってるんだ。話しかけられた相手が他人であればあるほどにね。身体に刷り込まれた癖はそう簡単に消えるものじゃない。さらに一夏の話し方と内容からさらに推測すればある程度の結論まで出てくる・・・・てことなんだけど」
驚愕から唖然。今度は開いた口がふさがらないといった感じだ。僕はただ推理した結果と経緯を述べたたけなんだが・・・・なにかマズイことでも言ってしまったんだろうか?
「いや、そんなことはない。ただ、ちょっと・・・・いや、かなり驚いた」
「ああ。すごいなライは」
「買い被りすぎだ。これはあくまで僕の推理、実際は推理や理想のようにうまくいくとは限らないしね」
食べ終えた食器類をトレイにまとめて席を立つ。
「それじゃ、篠ノ之さん。一夏のこと鍛えてあげてね」
「ああ。任せろ」
「ライはどうするんだ?」
「僕は転校したてだからちょっと訓練には付き合えないんだ。余裕ができたらそっちに合流するから僕のことは気にしないで。こっちはこっちでできる限りのことをやるから」
「わかった。じゃ、お互いにな」
「うん。それじゃ」
◇
IS学園は全寮制である。だから必然的にこの環境におかれた時点である程度のことは覚悟しなくてはならない。
そう、たとえそれが女子と同室だったとしても、だ。
「・・・・山田先生」
「はい」
「・・・・これはいくらなんでも―――――」
「い、忙しくてお掃除する暇がなかっただけです!ふ、普段はちゃんと整理整頓されてるんですよ!?」
あきらかに面倒くさくてやってないだけだ。このあわてようならそうとも受け取れる。
現在僕はIS学園の宿寮にいる。副担任の山田真耶先生から言い渡されたのは「急なことだったので部屋が用意できませんでした。すみませんが、私と同じ部屋で我慢してくださいね」となぜか嬉しそうな顔で言われた。なぜそんな顔をするのかはわからないが、きっと疲れているのだろう。
・・・・そう考えないといけない気がする。すくなくともあの笑い方はアブナイ笑い方だったから。
なにはともあれ、これから過ごすことになる住まいだ。この惨状をどうにかしなくてはわ。
その日は部屋の掃除で一日を終えた。
「そういえば蒼月君は荷物すごく少ないですね?」
僕のバッグを見た山田先生が言った。
「ライでいいですよ。蒼月って言いづらいでしょうから」
「じゃあ・・・・ライ君は荷物それだけなんですか?」
「ええ。あまり持ってくるものもなかったので必要最低限の生活用品と電子機器くらいです。PCとか携帯電話とか」
人によっては生活環がないと言われるだろうが僕はつい最近までは棺桶の中で眠ってた身。なにがはやりかと聞かれてもIS関連のことしか出てこない。ゲームだとかもできるものといったらチェスか将棋くらいだ。
「・・・・山田先生はチェスできます?」
「こう見えても得意です」
胸をはる山田先生。それならと束さんからもらったチェス盤と駒を出して。
「少し付き合ってもらえませんか?」
こうして、夜は更けていった。
◇
そして、クラス代表決定戦当日。一夏は訓練機に予備がないとのことで専用機である“白式”を受け取り、現在はその最適化と設定に追われている。その間、彼女との一戦を交えることになった僕は第二アリーナの東側ピットにて待機していた。
戦場の、ピリピリとした空気が肌を刺す。この感覚が心地よく感じられたのは、おそらく記憶を失う前はこのような状況に何度も、もっと言えば日常的に立たされていたのかもしれない。
自分でも驚くほどに冷静で。でも程よい緊張がある。思わず笑みがこぼれた。
《蒼月。準備はいいか?》
管制室から織斑先生の声が聞こえてくる。
「はい。極めて良好です」
《そうか。ならばいってこい。束の秘蔵っ子の実力、確かめさせてもらうぞ》
「ご観覧あれ。ブリュンヒルデ」
《・・・・蒼月》
「すみませんでした」
どうやら彼女のまえでは冗談を言うということを控えた方がよさそうだ。
通信を終えてクラブを展開する。視界が高くなり、僕の全身を装甲が包む。光の粒子が消えそこにはクラブを纏った僕がいた。
脚部のランドスピナーを展開し。スタート体勢をとる。目の前のカウントが青に変わり、僕は空へとその身を打ち出す。フロートユニットが両翼を広げて先にいた彼女と同じ高さに並ぶ。
「全身装甲(フルスキン)とは、ずいぶんとだいそれたものですわね。しかも機体名まで」
「僕としてもそう思ってるよ。でも案外愛着がわいてきていてね、そこまで悪くはない」
「フン。その余裕の態度、いつまで続くかしら?」
「きみこそ。やるからには勝たせてもらう」
瞬間、互いの銃口が交錯した
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