とあるの世界で何をするのか
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十一話 初春さんと白井さんの仲
木山先生に会ってから二日が経った。昨日は佐天さんと初春さんから脱ぎ女について色々と聞かれまくったのだが、俺が言えたのは自分の格好に無頓着な研究者さんということぐらいである。そして今日、学校では普通に授業が行われ、ホームルームの時間になると数名の生徒が先生に呼び出された。その中には佐天さんの姿もある。
「よーし、お前ら。明日までにこの補習プリントやってくるように」
「……はい」
どうやら俺は補習プリントのメンバーから外れていたらしい。基本的な学力に関してはそこそこあるつもりなのだが、歴史や地理辺りは飛ばされた世界によって微妙に変わってきたりするので、それほど良い成績を残しているわけでもない。また、入学式直後の自己紹介で言ったように、人間の言語学は苦手なので特に英語ははっきり言って成績が悪いほうなのだ。国語も会話や読み書きには特に問題がなくても、なんたら詞だとか何段活用だとか文法だとかいった部分は全然覚えてないのである。
良いほうと悪いほうの差が酷いものの、俺の成績が全体的に見ればそれほど良くないということは、すでにクラス全員の知るところなので学業の方面で俺に助けを求めるやつはほぼ居ない。ほぼ、と言ったのは一人だけ例外が居るからだ。
「神代君、補習プリント手伝ってー」
ホームルームが終わると同時にその人物から声をかけられた。佐天さんである。
「俺に頼むなっ」
「だって、アケミでもむーちゃんでもマコちんでもそんなに変わんないしー」
佐天さんが助けを求めることの出来る人員で、学業成績が一番いいのは実は初春さんだったりする。しかし初春さんはゴールデンウィーク以降、ジャッジメントの仕事に忙しいようで勉強を見てもらうことが出来ない、というわけで頼れる人員があの三人と俺だけになるのだ。今回はたまたま佐天さんだけが補習の対象者になってしまったが、アケミさんもむーちゃんもマコちんも成績自体にたいした違いがないので、こうして俺に依頼が回ってくるのである。
俺にはチートとも言える様々な能力があるので、それを駆使すれば……いや、駆使しなくとも普通に使うだけでほぼ間違いなく満点のオンパレードにできるのだが、そんなことをしても自分の実力が付くわけではないので最近はしていない。それこそ最初の頃の世界……と言ってもスレイヤーズやらファイナルファンタジーなどの世界には学校なんてなかったので、学校に通うことになる世界へ最初に行った頃、その頃はテストの度に全て満点にしていたのだがすぐに面白くなくなったのである。
「そんなに変わらないんだったら、あの三人に頼んでもいいじゃん」
「いっつも頼りっぱなしだと悪いかなーって」
佐天さんはそう言っているが、佐天さんの補習プリントを見る限りでは数学なので俺に頼みに来たのだろう。俺の場合は悪いほうの国語や英語が本当に全然駄目でも、良いほうの数学や理科に関しては何もしてなくてもそこそこの点数が取れるからだ。というか、何もしないから、そこそこの点数しか取れていないとも言える。
「じゃー、初春さんはジャッジメント?」
「うん、そうなんだよねー。まー、最悪の場合、初春のところに遊びに行って手伝ってもらうつもりだけど」
「仕事の邪魔でしょ!」
初春さんに頼もうとする気配すらなかったので聞いてみると、思ったとおりにジャッジメントの仕事があるようなのだが、佐天さんの答えに思わずツッコミを入れてしまった。
「今までもたまに初春のところに遊びに行ってるから大丈夫」
「遊びに行ってる時点で駄目じゃん」
初春さんも苦労してるんだなぁ。
「こんにちはー、初春居ますかー?」
「こんにちはー。佐天さんに連れられて来ましたー」
結局、無理矢理佐天さんに連れられてジャッジメントの177支部にやってきてしまった。補習プリントに関してはしばらく教室で教えていたのだが、佐天さんの根気が続かなかったようで俺まで引っ張られてきたのである。
「あなた、また来たの? ここは遊びに来るところじゃないのよ。ところで、こちらは?」
「クラスメイトの神代君です。それから今日は遊びに来たんじゃなくて……ジャーン! 補習プリントー!!」
佐天さんの後ろから中を覗いてみると何と言うか学校の社会科準備室と似た感じのイメージで、奥のほうには恐らく中に色々な資料が入っていると思われるダンボール箱が棚に並べられていた。佐天さんの後ろから部屋に入ると手前側には机が並べられていて、そこに居た固法さんから声をかけられた佐天さんは、俺のことを紹介しつつどこぞの耳なし青猫ロボットが便利道具を取り出すかのような仕草で補習プリントを取り出していた。
「あ……あなたねぇ……」
「あー、なんかすみませんね」
呆れたようにつぶやく固法さんに俺が謝っておく。
「まあいいわ。ところで、あなたも補習プリント?」
「いえ、俺は単なる付き添いですよ。最初は学校で教えてたんですけど、難しいから気分転換がてら初春さんにも教えてもらうって事で連れてこられました」
固法さんから俺の事を聞かれたので、ある程度佐天さんの心証が悪くならないように答える。
「それで、初春は?」
「初春さんならそこに居るけど、機嫌が悪いから今はちょっと……」
佐天さんが尋ねると、固法さんが顔を向けて答えてくれたので、そっちを見てみると奥のほうで初春さんが地図を開いていた。
「初春さん、ちゃんと真面目にやってますね」
「だいたいそうね。まー、今日はちょっといつもとは違うんだけど」
機嫌が悪いという部分にはちょっと引っかかったものの、初春さんがちゃんと仕事をしているようなので、安心して独り言のようにつぶやくと固法さんが答えてくれた。しかし、その答えにも何か引っかかるものがある。
「うーいっはるぅっ!」
「なっ!?」
俺の考えとは関係なく、佐天さんはいつも通り初春さんにスカートめくりアタックを仕掛けて、それを見た固法さんがその瞬間に顔を赤くしていた。しかし、初春さんが全く反応しないのはどうしてなんだろうか。
「お、今日はクローバー? じゃー、幸せの四葉のクローバーはどこかなー? ……初春? どうしたのかな~、ほらほら、めくってるよ~、パンツみえちゃってるよ~、絶景だよ~」
佐天さんも初春さんの反応がないので調子に乗ってパンツの柄をネタにしていたのだが、初春さんの反応が全くないことを不思議に思ったのか色々やってみるものの、それでも初春さんは全く何の反応も示さずただひたすら地図を眺めていた。ここまで来て思い出したが、これは白井さんと不仲になってしまったのだろうか、一応白井さんには常盤台の寮でこのイベント回避のための話をしたはずなんだけど……。
「初春どうしちゃったんですかぁー?」
「まー、白井さんと色々あって、ちょっとね……」
困った様子で固法さんへ尋ねる佐天さんに、固法さんは頬を人差し指でかきながら答えていた。
「そんなことがあったんですかー」
「そういうこと。だから少し、そっとしておいてあげて」
固法さんから簡単に説明されて佐天さんも納得する。初春さんは白井さんと一緒に監視カメラ設置準備の下見をしていたのだが、その時に車上荒らしを発見。応援を待つように言った初春さんを無視して白井さんが一人で突っ込み、犯人に仲間が居たことに気付かず白井さんは倒されてしまう。その時逃げる犯人を止めようとした初春さんはスタンガンで気絶させられ、気がついた後で白井さんから無茶をするなという説教をされたのだが、元々無茶をしたのは白井さんなのでそこから口論になったということである。
「だったらもう、いっそのこと、ジャッジメントなんか辞めちゃえばいいのに」
「ぶっ……ちょっとちょっと、無責任な事言わないでよ。ジャッジメントはアンチスキルと並ぶ学園都市の治安維持機関なのよ、勝手に放り出していいような仕事じゃないの」
「まぁ、初春さんはジャッジメントになりたくてあれだけ頑張ってたんだから、自分から辞めるなんて言い出すことは絶対になさそうだけどね」
佐天さんの発言にコーヒーを飲んでいた固法さんが噴き出してしまい、周囲を確認しながら佐天さんに言い返した。それを聞いて俺も付け加えるが、佐天さんだって本気で初春さんに辞めて欲しいとは思ってないはずだ。
「じゃー、このまま放っとくしかないんですか?」
「そういうわけにはいかないんだけどね。まっ、大丈夫だと思うわよ」
不満そうに尋ねた佐天さんに固法さんが答える。
「え? あの二人、何かあるんですか?」
「聞きたい?」
今度は興味津々で尋ねた佐天さんに固法さんがもったいぶって答える。
「もちろん」
「あなたは?」
「あ、俺も聞きたいです」
佐天さんが即答すると固法さんは俺にも聞いてきたので、答えると固法さんは満足そうにうんうんと頷いてから話し始めた。
固法さんの話は、郵便局強盗のちょっと前に白井さんと見回りをしていた時から始まって、すぐに郵便局強盗の部分へと入ったのだが、その瞬間少し佐天さんが首を傾げる。そして、固法さんは警備ロボットの爆発に巻き込まれて大怪我をしたためその間の話は飛んで解決後の話になった。
「これってやっぱり、この前常盤台の寮で話してたやつじゃない?」
「うん、時期とか白井さんの行動とかから考えて、間違いないと思うよ」
恐らく途中で首を傾げたのはその時に気付いたであろう佐天さんに、何故か小声で聞かれたので一応俺も小声で答える。
「この前話してたって?」
小声ではあったものの、佐天さんも俺も固法さんに聞こえないよう話していたわけではないので固法さんから尋ねられた。
「ちょっと前にその時の話を白井さん達の部屋でしてたんですよ。その郵便局には俺も居たので」
「え!? あなた、あの郵便局に居たの?」
「はい。警備ロボットの爆発で俺にもアームか何かが当たりましたから」
俺の説明に固法さんが驚いた様子で確認してきたので、俺はその当時の状態も含めて答える。
「えっ……あの爆発で怪我をしたのって私だけじゃ……」
「あー、俺は怪我してませんから」
固法さんが不安そうに呟いたのを聞いて、安心させるように大きく体を動かしながら俺が怪我をしなかったことを伝えた。
「そうだったの。それじゃ、その後で初春さんと白井さんがしていた約束は知ってる?」
「いえ、そこまでは聞いてないです」
「約束とかは知らないです」
俺の言葉に不安が取り除かれたようで、その後の話を知っているのか聞かれたが、俺と佐天さんがほぼ同時に答える。俺は一瞬お笑い芸人オーストリッチCLUBのネタ「聞いてないよー!」をやろうかとも思ったのだが、雰囲気的にそんなことは出来そうになかったので止めておいた。
俺と佐天さんの答えを聞いて、またもうんうんと満足そうに頷きながら固法さんが説明してくれたが、その内容はアニメとほぼ遜色ないはずである。
「……まあ、それで、白井さんがその約束を忘れてるみたいで、初春さんはあんな状態なのよ」
「はぁ、そうだったんですか」
固法さんの説明が終わると佐天さんがため息をつく。
「ところで、当の白井さんは?」
「元々今日は非番だったから、今は多分寮に居るんじゃないかしら」
俺が少し気になっていたことを尋ねるとすぐに固法さんが答えてくれた。初春さんと不仲になっていなければ、多分白井さんが非番なのもいとわず率先して犯人探しをしているのだろうが、今は恐らく寮のベッドの上で唸ってて御坂さんから「うっさいわね!」とか「あーもう、鬱陶しい!」とか言われているのだろう。
「だったら、初春さんは今、車上荒らしの犯人探しで忙しいってことですか?」
「まあ、そんなところね」
一応確認で固法さんに聞いてみるが、初春さんは車上荒らしの犯人を捕まえるために頑張っているようだ。
「じゃー、ちょっと手伝ってきます」
「それなら私もー」
「あ、ちょっと!」
俺が手伝いを宣言すると佐天さんもそれに乗ったので、固法さんが止めに入る。
「ジャッジメントの仕事は遊びじゃないのよ」
「わかってますって。常盤台生徒連続襲撃事件の時だって、私も神代さんも協力してたんですから」
固法さんの言葉に佐天さんが常盤台狩りの眉毛女の事件を挙げて言い返す。
「常盤台のって、あの事件は学舎の園で起きたんだから神代さんは入れないでしょう」
「だから神代君じゃなくて神代さんって言ったんですよ」
学舎の園に男性は当然入れないので固法さんが訝しげに言ってくるが、佐天さんもそれに負けず更に反論している。しかし、固法さんのほうは頭の上にクエスチョンマークが浮いていそうな表情で固まっていた。ジャッジメントであれば知っていてもおかしくはないと思っていたのだが、神代という名前で気づかないということは知らないのだろう。
「あれ、知りませんか? 雌雄同体って」
「え? まさか、あの?」
研究者をはじめとして、常盤台や長点上機、そして霧ヶ丘辺りでは有名になっているはずの呼び名を出してみると、その情報は持っていたらしく固法さんも理解できたようだ。なお、柵川では雌雄同体などという呼び名は定着していない。
「ええ、実際には雌雄同体じゃなくて男女を使い分けられるっていう感じなんですけどね」
流石に俺のことを雌雄同体で覚えられるのは嫌なので、ここはちゃんと訂正も入れておく。
「それで学舎の園に居たの?」
「はい。当然ながら女のほうで」
「そうだったのね。どうりで神代って名前に聞き覚えがあったはずね。分かったわ、今回は特別よ」
「はい、ありがとうございます」
ようやくお許しが出たので初春さんの手伝いに向かう。とはいえ、佐天さんがスカートをめくっても気付かなかったのだから普通に声をかけたぐらいでは気付かないだろう。
「あれ? 神代君……それに佐天さんも。一体どうしたんですか?」
佐天さんがスカートめくりをするかどうかで迷っているような動きをしていたので、俺は普通に初春さんの肩をたたいてみたら簡単に気づいてくれた。
「う……初春ぅ~!」
「き……きゃぁー!! 何するんですか、佐天さん!」
やっと気がついた初春さんに佐天さんが抱きつく……と見せかけてスカートをめくったので、初春さんはいつも通りに盛大な悲鳴を上げた。
「いや、初春さん。さっきも佐天さんからされてたんだよ。全然気づいてなかったけど」
「えぇーっ! 神代君も居るのに何てことするんですかっ!」
初春さんがまだ気づいてなかったときの事を俺が説明すると、初春さんは佐天さんを非難する。
「親友に挨拶するのに他の人が居るかどうかなんて関係ないじゃん」
「普通、挨拶するのにスカートはめくりませんっ!」
何かおかしい佐天さんの言い訳に初春さんが猛抗議をしている。まぁ、これで普段の初春さんに戻ったようだ。
「取り敢えず、だいたいのところは固法さんから聞いたから、車上荒らしの居場所を特定するの、手伝うよ」
「私も手伝うからねー」
「あ……ありがとうございます。神代君、佐天さん」
佐天さんが初春さんのスカートをめくることについて、最近ではクラス内どころか学校内でも皆スルーする方向でまとまっているので、この程度なら俺も完全にスルーして本題を切り出す。佐天さんも当然のように続き、何か納得のいかない様子の初春さんからお礼を言われた。
初春さんから捜査の進捗状況を聞き、これからの方針を固める。基本的にはコンピュータを使った情報収集が初春さんで、俺と佐天さんは書類関係の情報収集をすることになる。そして、なぜか俺は情報収集とは別に情報のまとめ役にもなっていた。
「初春さん、車上荒らしに遭遇した場所から3km以内で過去1ヶ月に起こった同じようなケースって調べられる?」
「はい」
初春さんに近隣で起きた同様の事件を洗い出してもらい、その件に関する資料を俺と佐天さんで調べる。また、その付近を根城とするスキルアウトなどの資料も片っ端から調べていき、今回の犯人の逃走ルートをいくつかに絞り込む。そして、そのルート上に設置された監視カメラの当該時間帯の映像から初春さんが犯人を見つけ出し、ついに犯人達の潜伏先を特定したのである。
「それでは行ってきます!」
「いってらっしゃーい」
居場所を特定したことで初春さんが勢い良く飛び出していき、それを佐天さんが普通に見送っていたのだが、どうしても気になることがある。
「ところでさ、初春さんだけで捕まえられると思う?」
「あっ!」
俺の疑問に声を上げたのは固法さんだ。ってか、考えてなかったのか。
「じゃー、折角なんだし、白井さんにでも電話したらどうです?」
「そうね。それが良いわね」
佐天さんからの提案に固法さんが頷いて白井さんに電話をかけ始めた。
「あ、白井さん、ちょっといいかしら。初春さんと一緒に犯人の確保に協力してもらいたいんだけど……ええ、例の車上荒らしの居場所を特定したって、いきなり飛び出していったわ。あの子、あれからずっと探していたのよ。それで白井さん、あなたはどうするの?」
固法さんが話をしてしばらく白井さんも考えていたようで、しばらく無言が続く。確か、御坂さんが白井さんに何やら良いことを言って白井さんをその気にさせたはずである。そして、白井さんもようやく決心が付いたようで、固法さんは犯人の場所を教えると電話を切った。
「まあ、あれはあれで、青春なのかもねー」
「そうですねー」
固法さんがしみじみと言って、佐天さんは固法さんに入れてもらったコーヒーを飲みながら同意する。
「なんか、おばちゃんっぽいなー」
「なっ!」
「なぁっ!」
二人を見ながら呟いた俺の言葉に二人とも同じような反応を示していた。
結局、補習プリントをやってなかった佐天さんは翌日、先生から怒られる破目になったのである。
後書き
お読みいただいた皆様、ありがとうございます。
オーストリッチは駝鳥のことなので……分かりますよね?
ページ上へ戻る