漫画無頼
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7部分:第七章
第七章
「しかしこれは誰がどう見てもな」
「そうですね。何か見ていると」
「見ていると?」
「元気が出ますよ、何か」
巴の顔がここで綻んできた。驚いた顔が綻びに変わった。
「読むだけで」
「そうだな、それがいいんだ」
峰崎はその言葉に我が意を得たといったように笑みを浮かべてきた。何か鬼の目にも涙といった感じであったが意外と笑みが似合う顔であった。
「この漫画は。じゃあいいな」
「俺は異存はありません」
巴は強い言葉で言う。
「これでいければ」
「よし、では午後の会議で出すぞ」
峰崎は満面に笑みを浮かべて言葉を返す。
「この漫画をな。これなんだ」
こうまで言った。
「漫画ってのはな。それを日本中に知ってもらうぞ」
「はい」
巴も明るい声で頷く。こうして午後の会議で一同に氏家の漫画が出されたのであった。
それを見て唸らない者はいなかった。誰もが同じであった。
「これは凄いなんてものじゃないな」
「そうだな」
伊達が矢吹の言葉に頷く。二人も氏家の漫画を読んだのだ。
「編集長、これ連載ですよね」
「まだ正式には決めていない」
そう左門に答える。
「今の会議はそれを決める為の会議だからな」
「結論は出ていますよ」
眉月が言ってきた。
「これいけますよ、絶対に」
「そうですね」
大河も言う。気取り屋の彼がその気取りを捨てている。
「これはいけますよ、絶対に」
「そう思うか」
「ええ」
「間違いなく」
皆それに頷く。誰もがその漫画を認めていた。
「そうか。実はもう彼にはまた描いてもらっているんだ」
峰崎は彼等の言葉を聞いたうえでこの話を出してきた。
「この読み切りの続きか別の話、どちらかをな」
「どちらかですか」
「ああ」
そう一同に述べる。確信を表に出した顔でだ。
「いける。絶対にそう思ったからな」
「ですね。俺でも同じことその彼に言っていましたよ」
矢吹が峰崎にそう述べてきた。
「この漫画は半端じゃありませんよ。載せたその途端に話題になりますよ」
「全くですよ」
大河がそれに続く。彼も感嘆の言葉しか出なかった。
「これだけですとね。はじめてでここまで描けるのは」
「俺は見たことがないです」
巴はまだ驚きを見せ続けていた。
「天才、ですね」
「そうだ、天才だ」
峰崎はこうまで言った。
「だから決めた。いいな」
「決めましたか」
といっても誰も反対しない。誰もが認められることだったからだ。左門もそれは同じ意見だ。何かと頑固な彼もである。
「それじゃあそれで」
「いいな」
「はい」
「この漫画は絶対にいけます」
誰もが太鼓判を押す。峰崎はそれを見て自分の考えが正しいのだとあらためてわかった。そして今最後の決断を下したのであった。
「よし、連載決定だ」
彼は言った。
「いいな、それで」
「わかりました」
皆それに頷く。こうして氏家の漫画は正式に連載が決定した。
担当は異例なことに峰崎自身が務めた。編集長でありながら彼は氏家の担当を自ら買って出たのである。これには会社の上層部も難色を示したが彼はそれでも自分がやると言ったのである。
「彼は何が何でもより完璧に育て上げます」
彼の原稿を見せたうえで言うのだった。上司のデスクの前に立って言う。それはまるで彼が実際に漫画に描かれている大魔神のようであった。
「だからこそ」
「やるというのだね」
「そうです」
強い声と顔で上司の問いに答える。彼は平の編集だった時の編集長で知った仲である。その彼に強い声で言うのであった。
「絶対に」
「引かないか」
「引きません」
またしてもはっきりと言い切った。
「何があっても」
「相変わらずだな」
上司はそんな彼を見てまずは苦笑いを浮かべた。
「頑固なものだよ、本当に」
「いけませんか?」
「いや、いい」
しかしそんな彼に対して言った。
「その頑固さが今まで支えてきたのだからな」
「それでは」
「ああ、いいぞ」
彼ははっきりと断言してきた。
「御前の進むままに行け。いいな」
「わかりました」
峰崎は会心の笑みになっていた。その笑みで上司に答える。これで全ては決まった。氏家を彼の手で育てることになったのであった。
「しかし。骨が折れる奴だよ御前は」
「すいません」
「謝るな、らしくない」
上司はこう彼に言い返した。
「昔の御前はもっと態度がでかかったろうが。肩で風を切ってな」
「じゃあ今も」
「そうだ。そのまま進め」
逆にハッパさえかけてきた。
「何があってもな。いいな」
「ええ。やります」
最早一抹の迷いすらなかった。彼はそのまま突き進むことにしたのであった。
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