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I want BRAVERY

作者:清海深々
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二十四話 彼女



「あーいつ聞いてても長げぇよ」

 伊織が欠伸をしながら教室へ向かう廊下を歩く。

「いや、もうマジ勘弁」

 その横で友近も同じように愚痴を零す。

 今しがた始業式が終わったところだ。

「あの校長早く辞めないかな・・・」

 原作時でいるため、その確立は皆無なのだが、それでも呟かずにはいられない。
 ゲームの中では、キャラが「長いなぁ」とか言っていたが、実際は○ボタン押してたら勝手に終わるのでそこまでとは思っていなかったのだが。
 いやはや、本当に長い。
 そしてつまらない。
 最悪だ。

 何処の学校でも校長の話が長いのは一緒のようだ。








「あっという間に夏休み終わっちまったなぁ〜」

 ベチョ〜という感じで机にへばり付いている伊織。

「でもまぁ、もうすぐ文化祭があるだろ」

「おぉ!そうだったな!」

 俺がそう言うと伊織は急に元気になり始めた。

「メイド喫茶だ!メイド喫茶!もうこれしかねぇ!」

 そして立ち上がり、叫びだす。
 拳まで握っている。
 よほどメイドがすきなのだろう。

 原作の時は確かメイド喫茶だったが、台風でお流れだったような気がする。
 しかし、原作の主人公は文化祭の準備をしているようにみえなかったのだが・・・。

「メイド喫茶ってね、順平の趣味丸出しじゃない」

 横から岳羽さんが会話に加わってきた。

「ゆかりっちのメイド姿もいいと思うんだよなぁ、なぁ健二」

 岳羽さんのメイド姿を想像して若干鼻の下を伸ばした後、伊織は友近に同意を求めるかのように名前を呼ぶ。

「はぁ?俺はガキに興味ないっての」

(・・・あれ?)

「お前まだ・・・」

「はっ!俺はそんな簡単に諦めないぜ!」

「・・・私よりあんたの方がガキにに見えるわ」

 呆れた、と言いながら岳羽さんは自分の席へと戻る。

 それだけを言いに来るとは、原作のどこかのシーンを思い出させる。

「文化祭ねぇ・・・」

 前世ではバンドなどをやったり、舞台に出たりして楽しんだ。
 さてはて、今回は一体何をしようか。
 やっぱり文化祭を楽しまなければ、高校生活を楽しんだとは言えないだろう。

 他には、食べ歩きとか、クラスの出し物に全力を注ぐとか、か。

「とりあえずナンパだな」

「おい」

 思わず突っ込んでしまった。

「おいおい、こっちの主力は彩なんだぜ?お前が乗り気でなきゃ、落とせる女も落とせねぇよ」

 最近の伊織と友近は、どうにもそちらの話にしか興味がないように思えてくる。

「バンドとかどうよ?」

 一応言ってみる。

「え?練習とかダルいんだけど」

「そんなんしなくても、普通に舞台に出てればいいじゃん」

 なんとも冷たい反応である。
 皆で一致団結ってのがいいんじゃないか。

 それにしても、もうそんな時期だ。
 あと半年も経てば原作開始。

 昔は望んでいたが、今は全く嬉しくない原作。

 もし原作の内容をあらかじめ知っている人間がいたら、なんていう二次創作を前世で読んだことが数回ある。

 俺もそれと同じ状況にあるのだろう。
 しかし、それらのことに必須条件である、完璧なチート力を俺は持ち合わせていない。

 ペルソナすら召還出来ない今俺はむしろ弱者に分類されるだろう。
 仮に出来たとしてもそのペルソナが補助系ならチートはできない。

 あらかじめレベルを上げるという策もある。
 しかし、ソロでタルタロスを攻略するのは無理だろう。

 よくある、オンラインゲームでログアウトできなくなって、それがデスゲームになるのと同じ気分だ。

 遊びのような感覚でシャドウに挑む気にはならないし、ソロなら死んだらそこで終わりだ。
 助けてくれる人間はいない。

 そして、そもそも原作介入をする気がない以上、特段強くなる理由もない。

 しかし、原作の主人公は高校生活で最も楽しいと思われる高校2年生を、あんな多忙な日々で潰し、その上死んでしまうとは、なんとももったいないことだ。

 まぁ原作が始まったら、主人公には悪いが俺は『原作介入』以外の本来の目的である『人生をエンジョイする』ことにしよう。

「彩君〜」

 なんて色々と考えていたら教室の入り口から俺を呼ぶ声が聞こえた。

「ん?」

 隣のクラスの誰かか?なんて思いながらそちらに顔を向ける。

「一緒に帰ろ?」

(・・・まじか)

 いや、本当、この人はなんなんだろう。

「先輩・・・」

(くっそぉぉ!この人と仲良くしてると、周りの女子から彼女持ちだと勘違いされかねん!)

 そうなると、長谷川さんと一緒に帰れる機会が極端に減ってしまう。
 それだけは避けなければならない。

「今から帰るんでしょ?」

「彩・・・ついにお前・・・」

「違うから!この人はなんでもないから!」

 いつになく取り乱しながら俺はそう、伊織に対して言う。

「いや、わかってる。あの人の表情を見ればな」

「伊織・・・」

 わかってくれるか。
 あの人が勝手に妄想しているヤンデ

「お前の彼女だってな」

 キラーンと歯を光らせながら伊織が言う。

「お前・・・死ね」

「グフッ」

 思いっきり伊織の腹にパンチを決めて、伊織が崩れ落ちるのを確認してから先輩の方へと向かう。

「友達と一緒でもいいですか?」

 二人っきりはまずい。

「え・・・まぁ、いいよ」

 先輩は少し、いやかなり不満そうな顔をしながらも頷いてくれた。

「友近ぁ!!一緒に帰ろうぜ!!」

 俺がそう叫ぶと、『友近』と名前を呼ばれたことか、それともこの状況で呼ばれたことか、どちらにせよ友近はギョッとしながらこっちを向いた。

「え・・・あ・・・俺、今日用」

 事がある、と続けたかったのだろうがそんなことはさせない。

「友近?」

 呼びかけながら伊織を指差す。

「・・・一緒に帰らせていただきます」

 かなり引きつった笑みで友近は頷いた。

 友近には悪いが、

(持つべきものは友だな)

 そう思わずにはいられない。





 
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