戦国異伝
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第百六十六話 利休の茶室にてその五
そのうえで述べていくのだった。
「わかるつもりです」
「左様でありますか」
「この茶室も」
三人が今いる茶室のこともだ、利休は語った。
「柱も壁も畳も」
「その全てがですか」
「小さいその中に様々なものを含めておられますか」
「ではその含めているものは」
「侘び、そして」
それに加えてだとだ、顕如は利休に語っていく。
「寂びでしょうか」
「何と、そこまでおわかりですか」
利休は表情にも声にも驚きを出さなかった。あくまでその世界に相応しい声で応えたのである。静かだが確かに。
「お見事です」
「いえ、お褒め頂くことは」
ないというのだ、顕如は。
「ありませぬ」
「そう仰いますか」
「そうです」
こう答えるだけだった。
「拙僧はそれだけの者ではありませぬ」
「ですか」
「お見事なのは顕如殿です」
これが顕如の言葉だった。
「そう思います」
「有り難きお言葉。ではそれがしの茶を」
「それでは」
「右大臣様も」
「うむ」
信長もだった、利休の茶を受け取り。
二人で共に飲んでいく、そうしてそこでも互いを見る両者だった。そのうえで飲み終え作法通りに収めてからだった。
顕如はだ、信長に今度はこう言ったのだった。
「作法も。それもまた」
「よいとか」
「お見事です」
そうだというのだ。
「天下人たるに相応しいかと」
「作法を守ることもまた必要であり」
「そして時としてこれまでの習わしを破ることも」
「全ては世に添っていくか、いけていくかじゃ」
信長が観ているのはそこだというのだ。
「わしはそう思う」
「何でも破らぬか」
「何もかも破っては世が成り立たぬではないか」
「確かに」
信長の笑っての言葉を受けてだ、顕如も微笑んで応えた。
「そのことは」
「だからじゃ」
「守るものは守ってか」
「守ることのないものは破る」
「では民は」
「言うまでもない」
またこう言う信長だった。
「違うか」
「それはわかったがな」
「武家ではか」
「そこは見せてもらう。そして貴殿は」
顕如は信長にさらに問うた。
「幕府を開くのか」
「幕府か」
「貴殿は平家だったな」
「うむ」
このことはその通りだ、信長は平家を称している。源平藤橘の四つの姓のうちの平家が織田家なのである。
その平家についてだ、顕如は言う。
「平家では幕府は開けぬ」
「源氏でなければな」
「源氏こそが武門の棟梁」
そう定められているのだ。
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