| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

I want BRAVERY

作者:清海深々
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

二十ニ話 出待



 二度目の影時間を体験した次の日。

 俺は昨日よりは早く起きることができた。

 といっても時刻は11:00。

 早起きではないが、昨日よりはマシな時刻だ。
 この時間に起きることすら俺にとっては苦痛だったのだが、流石にもうすぐ夏休みが終わるこの時期にあまり生活リズムを崩すわけにもいかない。

「ふぁ・・・」

 大きく欠伸をし、眠たい目をこする。

 昨日は結局先輩の震えが止まるまで一緒にいた。
 だいたい朝の、2時くらいまでだった。

 それを考えると昨日という表現はあまり適切ではないのかもしれないが、気分的には昨日だ。

 疲れた体を引きずって寮に戻ってきたときには3時前になっていた。

 寝た時間はだいたい8時間程度。

 普段の生活を考えると十分な睡眠時間のはずなのだが、あまり体力が回復した気がしないのは、やはり影時間のせいだろう。
 二回目の影時間なのだが、まだ全然慣れていないようだ。
 戦闘をしたわけでもないと言うのに、次の日まで疲れが残るとは。

(やっぱ原作の主人公は化物だな)

 実際、影時間にいるというだけで何故か知らないが体力、というよりも精神的にかなり疲れる。
 原作の主人公は初回こそ倒れたが、それ以降はすぐに慣れていた。
 倒れたと言っても、それは無茶してペルソナを出したためだろう。

 俺なんてペルソナを出していない、もはや戦ってすらいないというのに今日も『疲労』状態だ。
 なんと情けない。

 なんて思っていると、ふと空腹を感じる。

「あ・・・また飯食えないな・・・」

 昨日も朝飯を抜いたことを思い出す。

 昨日起きてきたのは昼だったので、昼と朝を兼用で食べたことになる。
 しかし、今日は違う。
 今日は朝飯が必要な時間帯なのだ。

「どっか食いに行くかな」

 そう決めると、重い体に鞭打ってベットから起き上がり服を着替える。

 

 




 20分程度かけて朝の支度を終え、俺は外へ出るために一階へと降りた。

「おっす」

 ロビーを通り過ぎようとすると、ソファーに座っていた伊織に話しかけられた。

「おはよー。髭、もうメシ食った?」

「・・・なんかお前の中で俺は完全に髭で定着したのを今確認したわ」

 そう言って伊織は若干の落ち込みを見せる。

「メシって朝食?」

「そうそう」

「もう食ったに決まってるだろ。もしかして彩今起きたとこか?」

「そーなんだよねー。どしよっかなー」

 まさか伊織がちゃんと朝飯を食べているとは思わなかった。

「俺が朝飯ここで食えなかったときは、ほら、こっから歩いて10分程度のとこにある定食屋あるじゃん?」

「んなもんあったっけ?」

「あるんだって。この前友近がその話してたじゃん」

 してたような、していなかったような。

「まぁとにかく、駅とは逆方面の方に10分程度歩いたら緑色の暖簾のかかったやつあるから、そこ行ってみ?結構おすすめ」

 駅とは逆ということは、昨日行った女子寮とは間逆ということだ。

「ふ〜ん。おいしかった?」

「まーそれなりだな。無難っちゃ無難てとこ」

「そっか、まぁサンキュー。そこ行ってみるわ」

「おーよ。いってらー」

 伊織にお礼を言って寮を出る。

 外に出た瞬間、太陽の光が目に入り、そのまぶしさから逃げるために手をかざす。
 そして、しばらくして外の明るさになれて今日はいい天気だな、なんて思いながら空を見上げる。

 そんな時、

「あ、彩君」

 ふと自分の名前が呼ばれたことに気が付いた。

「?・・・あれ?先輩?」

 空から視線を落とすと目の前に先輩がいた。

「うん。偶然だね」

(そうだね・・・俺の寮の前で会うとか超偶然だわ)

「どうしたんですか?寮に何か用でも?」

「ううん。別に、ただ散歩してただけ」

 嫌な予感がする。
 何故か背筋が寒くなってきた。

「そうなんですか・・・じゃ、俺はこれで」

 こんなにすぐ話を切り上げるのは知り合いとしてはどうかと思うのだが、この先輩にはこれくらいで良いと思うのだ。

「え・・・せっかく会ったんだし、暇だったらどっか行かない?」

 先輩はこちらに近づいてきながらそう言う。

「暇というか、俺これから朝飯なんで」

 流石に先輩はもう食べただろうと思い、俺はそう言う。

「あ、そうなんだ。私も一緒していい?なんか私もお腹少しすいちゃって」

「え・・・あ、まぁ構いませんけど」

 流石にそう言われると断れない。

「あがりと」

 先輩はニコリと笑うと俺の真横にぴったりとくっついてきた。

「食べに行くとこ決まってるの?」

「まぁ、一応は」

「そっか、じゃ行こう」

 そう言って先輩は俺を促す。

 ふと思う。
 偶然寮の前、しかも俺の寮の前で会うことはあるのだろうか。

 女子寮は男子寮よりも遥かに駅に近い。
 大抵食事や買い物をするときは駅前だったり、ポロニアンモールだったりする。

 男子寮の方向にくることはほとんどないはずだ。
 しかも散歩ときた。

 昨日影時間に入ったのに、外を好んで出かけようとするだろうか。
 何か怪しさを感じる。

(・・・この人、もしかしてずっと寮の前で待ってたとか言わないよな?)

 先輩との付き合い方を本格的に考えていかなければならないと思わずにはいられない。
 

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧