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久遠の神話

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第百四話 最後の戦いの前にその十六

「身体が悪いと満足に動けない」
「そうそう」
「だからな、食事は考えないとな」
「あんたもそうしてるんだね」
「そのつもりだ。そちらの勉強もしている」 
 これは本当にそうしている、加藤は食事のこともよく考えてそのうえで戦ってきているのだ。だから今もなのだ。
「ビールは飲まない様にしている。日本酒もな」
「具体的だね」
「そして朝は野菜を摂る様にしている」
「格闘家みたいだね、それも本当の」
「少なくとも清原とは違う」 
 己がどのスポーツをしているのかを忘れてしまう様な人間ではないというのだ。
「俺はこれからもそうする」
「いいことだよ、けれどうちの店には」
「これからも来ていいか」
「いいよ、当たり前だよ」
 親父はこのことは屈託のない笑顔で答えた。
「あんた綺麗に飲むしな」
「酔わない、か」
「飲む量は多いけれどね」
 見ればまた一杯空けていた、そして注文したそのもう一杯もどんどん飲んでいく。その勢いは確かにいいものだ。
「それでもな」
「飲み方がか」
「綺麗だよ」
 加藤に笑顔で言った。
「いい感じだからね」
「だからこれからもか」
「ああ、来てくれよ」
 親父は笑顔のまま加藤に話す。
「これからもな」
「そう言ってくれるのならな」
 加藤は焼き鳥を食べつつその親父の言葉に答えた。
「これからも来させてもらう」
「それじゃあな」
「この店の焼き鳥は美味い」
 加藤は焼き鳥の味についても述べた。
「酒もいい」
「そうだろ、どっちもうちの自慢だよ」
「酒がないとな」
 もっと言えば美味な料理もだ。
「やはりな」
「酒は人生の友達だからな」
「これも必要だ」
 戦いだけでなく、だ。もっとも戦いのことは親父には言わないがそれでも酒のことは彼に言ったのである。
「酒もな」
「そうそう、だからまた来てな」
「楽しませてもらう」
「そうしてくれよ」
「俺は酒も楽しみ」
 そしてだとだ、加藤は彼だけの言葉を出した。
「そしてな」
「そして?」
「永遠に楽しみたい」
 戦い、この言葉は言葉の中に含ませて出した。
「死ぬまでな」
「結婚もしてか」
「そうだな、それもな」
「あんたも身を固めないと」
「駄目か」
「人間ってあれなんだよ」
 親父はこのことについては彼のペースで話した。
「一人じゃなくてさ」
「二人か」
「その方がいいんだよ」
「夫婦揃ってか」
「そうそう、まさにね」 
 その通りだという返事だった。
「その通りなんだよ」
「俺はずっと一人だったか」
「ご両親はいるよな」
「二人共健在だ。ただ」
「ただ?」
「今一緒には住んでいない」
 焼酎を飲みつつだ、加藤は親父に自分の家庭環境も話した。
「大学に入ってからな」
「神戸に入ってか」
「家は和歌山だ」
「ああ、あそこかい」
「親父は和歌山市でサラリーマンをしていて。お袋はスーパーにパートに出ている」
「成程ね」
「いい場所だ。しかし最近帰っていない」
 飲みつつその静かな、決して荒くならない口調で述べた。
「ここ数年な」
「それもよくないな」
「実家には帰らないとか」
「せめて一年に一度はな」
 それ位の割合で、というのだ。
「帰って親御さんに無事な顔を見せないと駄目だよ」
「結婚してか」
「そうそう、親孝行はしないとな」
「親孝行か。考えたこともないな」
「それもよくないよ、兄ちゃんそうしたことはちゃんとしないと」
「駄目か」
「ああ、ちゃんとしなよ」
 加藤は親父のそうした世間の話も聞いた、彼もまた日常の中に生きていた。戦いの中に生きる彼だが日常も過ごしていた。


第百四話   完


                           2014・3・31 
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