絶対の正義
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第十三章
第十三章
「そして縛って掃除用具入れに閉じ込めたことは。机に接着剤を塗って動けなくしたことは。盗みの濡れ衣を着せたことは。全部知らないですか」
「それは・・・・・・」
「知ってますね」
ここで懐からあるものを出して来たのだった。それは。
「これはその時の一年二組の名簿です」
「何故そんなものを」
「私の手にたまたまあったものです」
何故入手したのかは最初から言うつもりのないことだった。しかしそれは言わなくとも聞くことは聞くのだった。それは決めていたことであった。
「それだけです」
「犯罪じゃないですか」
きっとした顔で岩清水を見据えての言葉だった。
「それは」
「犯罪ですか」
「そうしたものを入手するとなると」
そのことを責めるのだった。
「犯罪じゃないですか」
「それは貴方のしたことですね」
岩清水はそれを指摘されても平然と言い返すのだった。全く動じてはいない。その態度のままでさらに問い詰めるのであった。
「貴方の住所も抑えました」
「何っ!?」
「そして御家族も」
平然としているがこれ以上はない脅しだった。
「御両親はまだ働いておられるのですね」
「そこまで。どうして」
「御子息の不祥事が御両親に響かなければいいですが。会社の役員をされている御二人に。若しかして競争相手に付け込まれるかも知れませんね」
こう彼に対して言うのであった。そうしてさらに。
「御両親の老後を無惨なものに変えたくはないでしょう?妹さんも今年受験ですよね」
「それは・・・・・・」
「ここで何かあれば困ったことになりますね」
冷酷極まる言葉は続く。
「そうですね」
「うう・・・・・・」
「では教えて下さい」
彼は言い続ける。
「貴方のお友達は誰でしょうか」
ペンを差し出す。そして紙もだ。
「御両親と妹さんに何もなければいいですね」
「・・・・・・わかりました」
遂に古館も陥落した。そうしてそのペンで名簿欄にある名前のうち何人かのところにマルを描いて印をつけたのであった。そこには住所も書かれていた。
「これでいいんですね」
「はい、そしてですが」
「そして?まだあるんですか」
「宮崎先生でしたね」
彼のことも聞いてきたのである。
「教頭先生。その時の学年主任の先生ですね」
「まさかあの人にまで」
「はい、そうです」
やはり冷酷な笑みだった。死刑執行人の笑みである。
「あの方は体罰を行っていましたね」
「・・・・・・はい」
「貴方はそれを御存知だったのですか?」
「詳しくは見ていません」
見てはいないと答えた。
「ですが」
「行っていたのは事実ですね」
「そうです」
そのことははっきりと答える。それは今の古館にとっては答えるしかないものであった。
「それは間違いありません」
「わかりました」
古館の言葉に頷いてみせた岩清水だった。
「そのことは」
「ただ。何をしていたかまでは」
「それは貴方には関係のないことです」
そう言ってこのことにそれ以上彼に言わせなかった。
「ですから詮索は無用です」
「うう・・・・・・」
「それでは」
ここまで聞いてであった。彼は話を終えた。そうして冷たい目で古館を見つつそのうえで彼に対してこれまた実に冷たく告げたのであった。まさに氷であった。
「貴方はこれで」
「あの、家族には」
「さて」
はっきりとは答えない岩清水だった。
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