普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
010 ヴェストリ広場での決闘 その1
SIDE 平賀 才人
一通り授業も終わり昼食の時間。まかないを貰うばかりの俺は、何だかおさまりが悪いので、対価として配膳の仕事を手伝いをする事にした。
ハルケギニアではあまり見ない黒髪の少女──シエスタと云う少女に仕事を教えてもらいながら配膳していく。
――コツッ
(ん? これは?)
配膳しながら歩いていると、何かを靴で蹴った様な感覚。何かと思い、その〝何か〟を拾ってみるとそれは中に某かの液体が入っている小壜で、目を凝らして見ると[モンモランシ]と記してあった。
(モンモランシ。モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシの事か?)
俺は脳裏にそばかすで金髪巻き毛の少女を思い浮かべ、仙術で知覚領域を拡げて覚えておいた彼女の気の居場所を探る。
(……見つけた)
モンモランシーの居場所を特定した俺はこの香水──らしきものを届けようとして歩を進めようとした時──
「ちょっと待ちたまえ、愛しのモンモランシーが僕に送ってくれた香水を持って、一体何処に行こうとしているんだい?」
歩を進めようとした時、横合いから胸元を開けさせてヒラヒラした服を着ている、シュヴルーズ先生の授業の時に4大系統魔法について説明していた生徒に声を掛けられた。
(ギーシュ・ド・グラモン……か)
「……失礼、ミスタ。この香水はこの辺りに落ちていて、ミス・モンモランシの名前が記してあったので、彼女に届けようとしていました」
「そうかい、彼女は僕のガールフレンドだ。だから、その香水は僕が預かっておこう」
「ギーシュ様……」
ギーシュ・ド・グラモンに香水を渡そうとした時、そこで茶髪の少女が声を掛けてきた。……少女の潤んだ目から察するに、どうやら修羅場に遭遇してしまったらしい。
「ギーシュ様はやっぱりモンモランシー様とお付き合いしていたのですね……っ! そして、あの遠乗りした日に私に囁いてくれた言葉も嘘だったんですねっ!」
「いや、これは違うんだケティ──」
「何が違うと云うのですか!? モンモランシー様から貰ったという、その香水が立派な証拠です!」
「ま、待ってくれ! ケティ!」
ギーシュの制止を聞きもせずにケティと呼ばれた茶髪の少女は食堂から走り去って行った。
「……へぇ、面白い事になっているじゃない。ギーシュ」
……セルシウス度にして、一気に10度ほど下がった気がした。〝それ〟はそう錯覚するほどに底冷えした声だった。
「モ、モンモランシー!?」
更に金髪で巻き髪の少女──モンモランシーが乱入してくると、彼女は徐に近くのテーブルに置いてあったワインが並々に入っているワイングラスを乱雑に手に取り──
――パシャッ
「あら、御免なさい。手が盛大に滑ってしまいましたわ」
ワインを乱雑に手に取り──モンモランシーはギーシュに三行半を叩き付けんばかりにワインを勢いよくぶっかけた。
「それではご機嫌よう。……〝ミスタ・グラモン〟」
モンモランシーはスカートの両端を摘まみ、ギーシュに向けて恭しく礼をしながら事実上の別れを叩き付けると、優雅に食堂から去って行った。
(さて、俺も配膳の続きを──)
「この≪薔薇のギーシュ≫にこんな屈辱を味あわせて、一体何処に行こうと云うんだい? ……君は確かルイズの使い魔だったね。……あれ? ははは! これは傑作だね! 主が主ならその使い魔も使い魔ときたモンだからね! はははははは!!」
俺は自らの仕事である昼食の配膳に戻ろうとした。……が、そうは問屋が卸さない様でギーシュは屈辱感にまみれた表情で、何処に向けていいのか判らなくなったその怒りの矛先をあろう事か俺に向けてきた。……それも、ルイズを引き合いに出してまでだ。
「……一体、ミスタ・グラモンは何が言いたいので?」
「君の所為でモンモランシーとケティの名誉に瑕が付いてしまった」
「いや、彼女達を傷付けたのは彼女達に対して軽薄な態度をとっていたのは、ミスタ・グラモン──いや、敢えて敬称は省かせて貰おう。……彼女達が傷付いたのはギーシュ・ド・グラモン、貴方の所為ではないのか?」
――「ルイズの使い魔の言うことにも一理あるかもしれないぜ? はっはっはっはっはっは! こりゃ一杯食わされたなギーシュ!」
――「はっはっはっはっはっは! 違いない!! ギーシュ、図星を指されたからってルイズの使い魔に当たるなよな!」
「~~~っ!? 決闘だ! こうなったら決闘でどちらの言い分が正しいか決めようじゃないか!」
俺とギーシュの言い合いを聞いていた聴衆が俺の意見に賛同する様に口を挟んできた。……そのガヤを聞いたギーシュは顔をゆでダコの様に真っ赤にしながら、引き際が見えなくなったのか、ついぞ〝決闘〟などと云う抜かずの宝刀を引っ張り出してきた。
(……おいおい、こいつは≪薔薇のギーシュ≫じゃなくて≪馬鹿なギーシュ≫になりたいのか?)
俺が知っている〝決闘〟のイメージは、〝命懸け〟で某かを賭けて争い合う事。少なくとも、俺のイメージではこんな痴情の縺れで引き合いに出す事では無い。
(こんなこと〝本来〟ならスルー安定何だが──)
ここは昼食時の食堂。人はこれでもかと集まっているし、視線を集め過ぎた。……勿論の事ながら、悪い意味で。
ここでギーシュの決闘を蹴れば、俺が臆病者の謗りを受けかねない。
(それはイヤだなぁ……)
「いいだろう。その決闘を承けよう」
「ふんっ! その首を洗う時間位はあげようじゃないか。時刻は今から30分後、場所はヴェストリ広場にきたまえ」
ギーシュは吐き捨てる様に場所と時刻を俺に伝え、肩を揺らしながら囲んでいる聴衆を退かして、このアルヴィーズ食堂から退場していった。
「ちょっと! これはどういう状況よ!」
ギーシュと入れ替わるようにギーシュとの決闘に向けて気組みを練っていると、ルイズが聴衆を掻き分けながら俺の元にやって来た。……どうやら、騒ぎを聞き付け急ぎ足で来た様だ。心なしかルイズの鼻息が荒い。
「ルイズか」
とりあえず、俺がモンモランシーの香水を拾った事、ギーシュが修羅場った事、何故か俺がギーシュに決闘を吹っ掛けられた事を掻い摘まんで説明した。
「またこの使い魔は勝手な事ばかりしてっ! ……はぁ、私が〝行くな〟って命令しても、どうせ行くんでしょう? ……サイトと出会ってまだ短いけどそれくらいは判るんだから」
「判ってるじゃないか。そろそろルイズに愛想を尽かされないように俺の価値を見せようか。……あ、それとルイズに頼みが有るんだが──」
俺はルイズに〝とある人物〟をヴェストリ広場に連れて来てもらえる様に頼み込んだ。
「……サイト、貴方って結構抜け目無いのね。……まぁ良いわ。貴方の頼みは聞いてあげる。言っておくけど、これで昨日の〝アレ〟は貸し借りゼロなんだから」
俺の頼みを聞いてくれたルイズは、目当ての人物が居るであろう場所へツカツカと向かって行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「諸君、決闘だ!」
――「おい、ギーシュがルイズの使い魔と決闘するらしいぜ」
――「あの平民と闘るのか!?」
ギーシュがノコノコと出てきた俺を確認すると、高らかに決闘の宣言をする。……すると、ギャラリー達もギーシュの宣言と同時に盛り上がりを見せる。
「さて、この決闘で賭ける物を決めて無かったね。……この決闘で僕が勝ったら、杖を折らせてもらう! メイジとは云え平民が杖を使っているのは貴族として許し難いのでね。……さて、腐っても君もメイジ。万が一とは云え君が勝った時の要求も聞こうじゃないか」
「……だったら、俺が勝った場合先ほどルイズに今まで≪ゼロのルイズ≫と馬鹿にしていた事を〝誠意〟を込めて謝罪してもらおうか」
「いいだろう! なら、このコインが地面に落ちたら始まりの合図だ!」
ギーシュは懐から合図の為の銀貨を取り出し、まるで自らの勝ちを確信しているかの様に指で真上へと弾いた。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
「何よ、あれ……?」
隣に居る、サイトに連れてくる様に頼まれた少女──モンモランシーが呟く。ボーイフレンド──だった男が、メイジとは云え平民になす術も無く圧倒されればそのセリフは自然的だ。……勿論私も十分に驚いている。
サイトはギャラリーのガヤでよく判らなかったが、何を呟くと何処からともなく鞘に納められた剣を取り出し、にべつも無くその鞘から片刃の大剣を抜き放った。……そこからは正にサイト独壇場で、ギーシュの創り出したゴーレム7体をあれよあれよの内に撫で斬りにした。
……サイトの舞うかの様な剣技に皆が皆──表情の薄いミス・タバサですらも見惚れていた。魅了されていた。勿論、私もその〝皆が皆〟の1人だ。
サイトには聞かなくてはいけない事が更に増えたし、サイトを他の女──特に、〝ツェルプストー〟の女には渡さないと云う決意を更に一層と強くした。
SIDE END
後書き
明日もう一話投稿します。
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